救急医療データプラットフォームの「TXP Medical」 | 伊藤忠商事・UTECより約15億円の資金を調達、伊藤忠グループとは連携強化
救急医療データプラットフォーム NEXT Stage ERを提供するTXP Medical株式会社は、伊藤忠商事株式会社および、既存投資家である株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズを引受先とする第三者割当増資を実施。シリーズBラウンドとなる約15億円の資金調達を2022年4月に完了したと発表した。
「TXP Medical」の事業領域
TXP Medicalは、救急医療現場における医療情報の分断を解決する企業だ。救急現場と病院間における情報のバケツリレー(紙・電話)をデジタル化し、病院の電子カルテ内の文章などの非構造化データを医学研究やその他業務に利用しやすい構造化データへ容易に変換するプロダクトNEXT Stage ERを病院向けに提供。救急医療のデジタル化とデータに基づく医療の質改善の実現を目指す。
本プロダクトにより主訴や既往歴、臨床診断名、重症度スコアなどカルテテキスト内には存在するものの、文章の一部であるため利活用が困難であった詳細な医療データが活用可能となり、従来困難であった急性期領域における医療の質の可視化が実現される。本プロダクトは救急搬送の受入数が多く、地域救急医療の要となる各地の救命救急センタークラスの大病院を対象としており、大学病院の救命救急センターセグメントではシェア20%を超え、蓄積される救急患者の情報は年間50万件を超える。
さらに、これらの病院と救急隊の即時情報連携を実現する入力支援AI機能を搭載したモバイルアプリNSER mobileを自治体向けに提供し、鎌倉市・豊田市など、全国での実利用を通じて適切な救急搬送先選定と救急搬送時間の短縮も実現している。自治体や病院などのセグメントを横断したデータプラットフォーマーとして急性期医療の最適化を進めていく考えだ。
病院や自治体向けにプロダクト提供を行う一方、TXP Medicalはこれらのプロダクトにより創出される医師とのタッチポイントや、プロダクトから得られる医療データを活用した製薬企業向けの治験支援サービスを2021年より開始している。高精度な治験の施設選定や治験対象患者のリアルタイム特定など、急性期疾患の医薬品の治験リクルーティング期間を短縮するサービスとして営業強化をしているという。
【TXP Medicalのソリューションイメージ】
調達資金の使用用途
この度調達した資金は、既存事業の拡大に充て成長のスピードを上げると共に、医療情報の分断の解決を更に広い領域に対して行うべく、複数の新規事業の立ち上げおよびこれに関連する各事業を牽引していく人材採用の強化に充当し、各事業の推進を一層強化する。なお、伊藤忠商事とは、事業面での協業も視野に入れている。伊藤忠グループであるCRO(医薬品開発業務受託機関)大手のエイツーヘルスケア株式会社をはじめ、多くの医療・ヘルスケア関連企業との事業シナジーが期待できるという。
新規事業
■がん領域への参入
救急領域で培われたカルテテキスト構造化技術と医療機関ネットワークを応用し、がん領域におけるカルテテキストや放射線/病理レポートを構造化データに変換する病院向けプロダクトNEXT Stage Oncologyを提供開始する。構造化データの整備により医学研究の質向上と業務の効率化を目指す。
■製薬企業向けサービスの強化
前述の治験支援サービスのほか、同社プロダクトにより構造化された医療データの分析サービスを開始予定だ。TXP Medicalは次世代医療基盤法における匿名加工医療情報作成事業者の認定取得準備を進めており、国公立病院を含む大規模施設の医療データの匿名加工の実施とビジネス創出を目指す。
■救急医療DXプロダクトの海外展開
ASEAN諸国を主対象に同社主要プロダクトであるNEXT Stage ERシリーズを展開する。救急搬送のオペレーション、患者アウトカム、医療費の観点において世界をリードするハイレベルな日本の救急医療を、世界に輸出する取り組みと位置付けている。まずはインドネシアの大病院を中心とした試験導入を進めているという。
新規投資家のコメント
■伊藤忠商事株式会社 情報・金融カンパニー 情報・通信部門 フロンティアビジネス部長 浅野哲也氏
『医療現場で医師・医療従事者が直面するリアルな課題を解決するために、ソリューションを開発・提供するというTXP Medical社の事業ポリシーは、まさに当社が重視する地に足のついた「マーケットイン」の発想そのものです。今回の出資を機に、伊藤忠商事および伊藤忠グループの医療・ヘルスケア関連企業との連携を加速し、医療現場の効率化や医療データの活用などを進めることで、TXP Medical社とともに医療・ヘルスケアの業界変革に貢献したいと思います。』
既存投資家のコメント
■株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ プリンシパル 小林宏彰氏
『2020年7月のシリーズA以降の目を見張るような成長を経て、今回シリーズBでもUTECからもしっかり追加投資をさせて頂きました。プロダクトの先進性・独自性とユーザの高い満足度を背景に、特に大学病院が運営する救命救急センターにおける圧倒的な知名度向上を実現ができている点、救急隊向けの救急医療情報システムであるNSER mobileを急速に各地の自治体へ展開できている点が大変素晴らしいと思います。』
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