「think 2030」 vol.7 | デライト・ベンチャーズ 渡辺大氏 “優先すべきはスタートアップの成功。価値観のアップデートこそが、日本の競争力向上のカギ”
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まってから、2年が経過した。未だ断続的な感染拡大の波が訪れる中、世界的なサプライチェーンの混乱など、経済に大きな影を落としている。それでもなお、日本国内ではオープンイノベーションの取り組みは止まることなく、大企業とスタートアップの共創による新規事業が生まれている。
シリーズ企画「think 2030」では、「2030年に向けた新規事業やオープンイノベーションの未来」という観点から、日本の企業・ビジネスパーソンの進むべき道を考えていく。
今回は、新卒で足を踏み入れた金融業界から、2000年に創業1年ほどのDeNAに転職し、海外事業を牽引した後、2019年にデライト・ベンチャーズを立ち上げた渡辺大氏にインタビュー。シリコンバレーで目の当たりにしたスタートアップエコシステムの進化を日本でも起こすべく、起業家の世界での活躍を全力で支援する渡辺氏に、日本のスタートアップエコシステムの課題や、日本経済再生に向けたヒントや心構えを伺った。
デライト・ベンチャーズ マネージングパートナー 渡辺大氏
1999年京都大学文学部卒業、大手銀行を経て2000年ディー・エヌ・エー入社。国内での新規事業開発や営業・提携業務の後、2005年から海外事業責任者を担当。2006年DeNA北京総経理。2008年に渡米し、DeNA Global, President、DeNA Corp., VP of Strategy and Corp Devなど。日本発テック企業による海外進出の厳しさを思い知る。2019年にDeNAグループを退社し、デライト・ベンチャーズを立ち上げ。シリコンバレーと日本を行き来して日本発スタートアップの成長と海外進出をサポートしている。
DeNAでの海外事業の失敗が、大きな原体験に
――今回は、2030年に向けた新規事業の創り方とオープンイノベーションについてお伺いしたいと思います。その前に、まずは渡辺さんのご経歴とデライト・ベンチャーズについて伺いたいです。新卒では銀行に就職し、1年ほどでDeNAに転職されたのですよね。
渡辺氏 : 実は僕、大学の時に考古学を専攻していて、将来は学者になろうと思っていたんですよ。そこから気が変わってビジネスの世界に行こうと思った時、一番つぶしが効くのが銀行だと思って、当時のさくら銀行に入行しました。それが2000年前後、ドットコムバブルが弾けるかという頃ですね。第一次スタートアップブームみたいになっていて、私と同年代の起業家が注目を浴びていました。それをみて、インターネットの会社に転職しないとまずいと思い、色んな説明会に参加していたところ、タイミングが合ったのがDeNAでした。まだ創業間もない、本当にスタートアップという時期でしたね。
――銀行からベンチャーへの転職というのも、当時は珍しかったですよね。
渡辺氏 : そうですね。銀行では1年かけて座学研修を受けて、やっとビジネスのことがわかり始めた頃です。そのタイミングでDeNAに入社して、最初に任されたのが新規事業の立ち上げ。当時は、ビッダーズという事業が大赤字を出して、生き残れるかどうかの瀬戸際だったんです。そのなかで企画から何から全部自分でやらないといけなかったので、本当に衝撃的な経験でしたね。
その後、「モバオク」や「モバゲー」といったヒットビジネスが出て、上場後にそのビジネスを世界に広げるべく2005年に海外事業部を立ち上げ、韓国、中国、そしてシリコンバレーと攻めていきました。そうこうしているうちに、DeNAの国内のモバイルビジネスが世界で見ても圧倒的ナンバーワンの規模になり、世界進出を一気に加速すべく2011年にサンフランシスコのゲーム会社を買収しました。しかし我々も当時気付いていなかったのですが、モバイルインターネットの世界は、iOSとandroidによってディスラプトされていたんです。世界最大のモバイルインターネットサービスを持つイノベーターだと自分たちは思っていたのだけど、それは長くは続きませんでした。
そこで、これはもうプラットフォームではなく、ゲームコンテンツをつくらないといけないということで、2012年くらいからゲーム開発に集中しはじめたんです。ただ、やはりモバゲーの成功体験から抜け出せず、iOS上でのゲームのつくり方にも適応できなくて四苦八苦していました。そして本体の売上・利益もピークを越えてきて、海外事業の黒字化プレッシャーも高まりました。2014年頃には北米・南米で300人くらいいたスタッフを徐々に縮小して、2016年には同エリアでの事業展開をクローズさせたんです。
その時点で私はシリコンバレーに8年くらい在住していたのですが、責任を取るべく首を洗って辞職を申し出るつもりで東京に行ったところ、DeNA新規事業の米国でのBiz Dev、CorpDevを任されることになりました。
日本全体のスタートアップエコシステムの課題に切り込む、デライト・ベンチャーズ
――大きな変化を最前線で経験されたのですね。そこから、2019年のデライト・ベンチャーズ立ち上げに至る経緯も聞かせてください。
渡辺氏 : 2017年からBizDev、CorpDevを担当するなかで、シリコンバレーのスタートアップエコシステムとの関わりが増え、これまで見えなかった景色が見えてきました。そして世界中の起業家が集まるシリコンバレーにおける、日本の存在感のなさも実感したんです。日本はそもそも起業しにくく、起業家の対人口比も少ない。そして日本で成功したテック企業が、海外、とくにソフトウエアの領域でことごとく失敗・苦戦しています。そこで、なぜ日本のスタートアップエコシステムが遅れているのかを考えました。
DeNAは世界のスタートアップとしては特殊で、規模が小さいころから色んな事業をインキュベーションすることで成長してきたので、多彩なビジネスがひとつの会社のなかに存在していました。そして上場のタイミングで大きく黒字化はしていたものの、ビジネスとしては海外の大手テック企業の上場時に比べると未成熟。そのなかで、四半期の売上・利益目標を達成すべく、未上場会社に比べると長い目での投資がしにくい、という落とし穴にはまっていました。これは、上場した日本のテック企業が次から次へと海外展開に苦戦した大きな理由の一つだと思っています。
一方で、DeNAは自社内でのインキュベーションを通じて、新規事業が次々と生まれては新陳代謝を繰り返し、人材も社内で循環し、会社の中にシリコンバレーのエコシステムがあるような状態でした。そのためのノウハウや文化も醸成されていました。事実、多くのDeNA元社員は、優秀な起業家として活躍しています。このアセットをDeNAのなかで閉じるのではなく、積極的に開放して日本全体のスタートアップエコシステムの課題に活かせないかと南場さん(※)や経営陣と議論を重ね、デライト・ベンチャーズのかたちができました。
※DeNAの代表取締役会長、南場智子氏。渡辺氏と共にデライト・ベンチャーズのマネージングパートナーも務めている。
――渡辺さんご自身はDeNAグループから離れて、デライト・ベンチャーズを立ち上げたということですが、それはなぜでしょうか。
渡辺氏 : 日本の企業が絡んだオープンイノベーションの大きな問題は、やはり企業とスタートアップのアジェンダや動き方が根源から違うのに、その違いに合った組み方がされていないことです。これにより企業側にもスタートアップ側にもストレスがかかり、成功確率が犠牲になります。シリコンバレーでも企業とスタートアップの付き合い方は、過去10年で失敗やつまずきを経て進化してきました。本当にシリコンバレーのエコシステムの学びを取り入れてスタートアップの成功確率を最大化するのなら、それに合った仕組みのVCをつくる必要があります。
そのひとつが、デライト・ベンチャーズを完全にDeNAから独立した組織にすることでした。僕もDeNAグループを退社して、個人としても出資して、デライト・ベンチャーズの共同代表(ジェネラル・パートナー)になりました。
これは、VCが取引する企業(この場合はLPとしてのDeNA)の立場に関わらず、投資家はいかなる場合もスタートアップ側の立場でサポートする必要があるからです。デライト・ベンチャーズのウェブサイトに「Code of Conduct」というページがありますが、そこでは「我々はDeNAのCVCではなく、独立系VCとしてスタートアップ側に立って交渉を進める」ことや、「買収の際も、DeNAに限らずスタートアップにとって最もいい相手を探します」と、スタンスを明記しています。
こうしてスタートアップの成功確率を最大化することを通じて、最終的にはDeNAにとってもよい結果をもたらすことに繋がります。ここの根源的な考え方は、「成功したときのメリットを最大化する」ことよりも「成功の確率を最大化する」ことを明確に優先していることです。
優秀な人材が起業に踏み切るためのスキームを開発
――デライト・ベンチャーズさんの特徴についても伺いたいです。特に社会人の起業を支援するベンチャー・ビルダー事業はユニークですね。
渡辺氏 : これまでのいわゆるオープンイノベーションは死屍累々で、このやり方自体をイノベートする必要があると思っています。オープンイノベーションがうまく行っていないのは、人材、マーケットの働き方、コーポレートの中のダイナミズムといったところに原因があります。まず人材でいうと、オーナーシップのない新規事業はスタートアップと比較すると明らかに不利ですが、日本の終身雇用のシステムでは、なかなかオーナーシップを持ちにくい。人事制度の一貫性が崩れるからです。
次に、スタートアップエコシステムの肝は、母数です。とにかくたくさんスタートアップをつくり、自然淘汰されるなかでほとんどが失敗するのですが、社内インキュベーションではその仕組みを作りにくい。もともと懐疑的な見方をされているところで、「10のうち8は失敗しました」となると、社内の支持を維持しにくい。そしてコーポレートのダイナミズムでは、投資に対する考え方がそもそも違います。上場企業の場合、半分以上の新規事業が失敗するとなると、なかなか投資を継続しにくくなります。
もうひとつ、日本のイノベーションエコシステムの課題は、優秀な人が大企業に囲われてしまっていることです。その人たちが起業するにはハードルが非常に高いため、なかなか踏み出すことができません。
そこでデライト・ベンチャーズでは、企業に勤務している社会人が、辞める前から起業準備を開始できる仕組みを作りました。本業につきながら、自身の事業アイデアの検証やプロトタイプ開発をサポートし、その事業の進捗に応じて本業を退職するタイミングを柔軟に決められます。身銭を切る必要もありませんし、市場のニーズが確認できたり、プロダクトが完成するまでは、社会人起業家のリスクを最小限に押さえられます。
その一方で、うまくいった場合、つまり外部VCからの資金調達の見込みがたった場合は、新会社のエクイティの75%をお渡しして、創業者としてスピンアウト、独立していただきます。これが優秀な人材を大企業から解放する、ベンチャー・ビルダーの仕組みです。
――これまで、デライト・ベンチャーズが出資したスタートアップや、注目している領域について教えてください。
渡辺氏 : これまで、デライト・ベンチャーズが支援したのは36社、そのうちデライト・ベンチャーズ経由でスピンアウトしたスタートアップは5社あります。テーマでいうと、生産性の劇的改善や、情報の非対称性解消に注力しています。日本の労働生産性が低いことは周知のことですし、情報の非対称性解消は、ITの得意分野です。
具体例をあげると、日本のエンジニアの給与は情報の非対称性の典型的な犠牲者で、世界的にみて非常に低いですし、エンジニア自身もどのくらいの市場価値があるのか分かっていません。その課題を解決するというスタートアップのPROJECT COMPが、ベンチャー・ビルダーからスピンアウトしています。
もうひとつ注目しているのは、サステナビリティです。これも数年前まではバズワード扱いでしたが、現在は事業テーマとして長期的なメインストリームとみなされていて、海外では次々とユニコーンが生み出されています。多くの人が思っている以上に経済的なチャンスが身近にあり、我々としても注力しています。
2030年、起業がより当たり前になる中、ビジネスパーソンに伝えたいこと
――日本のスタートアップエコシステムの課題や、スタートアップとして注目している市場について、大変興味深いお話しをいただきましたが、2030年に向けて新規事業担当者はどのような目線をもつべきでしょうか。
渡辺氏 : まず2030年には終身雇用という概念が古いものになっていることは確実です。今はまだ大企業は対応できていませんが、特に優秀な人やイノベーションに興味を持つ人の間では、もう当たり前になってくるでしょう。
なぜここまで確信しているのかというと、僕がDeNAに転職した2000年頃、大手銀行を辞めて名もないベンチャーに転職したというだけで、「キャリアの価値観が変わりつつある」というテーマで日経新聞に名前を載せていただくほどでした。しかし10年経った2010年頃、そういう転職はもはやテック系では当たり前になっていましたよね。ただ、起業となるとかなり突き抜けた人しかしていませんでした。それからさらに10年経った2020年頃、伝統的大企業でも転職が当たり前になって、起業する人もアーリーアダプターとして普通のことになりつつあります。
この感覚で2030年を考えると、もはや起業はありふれたことになっていると思います。海外を見ても、フランスはつい10年前までは超保守的な社会だったのに、いまや大学生の7割が起業したいといっています。日本を見ても、DeNA出身者で起業して億万長者になった人は何人もいるし、テック系で働いている人なら周囲にそういう人がいるはずです。起業して失敗しても不幸になった人の話はほとんど聞かず、むしろ成功失敗に関わらず起業経験者はテック系企業から引く手あまたです。日本でも、起業に失敗しても実質的にセイフティネットが働きはじめ、逆にアップサイドが身近な形で実感できるようになって来ました。
だからこそ、TOMORUBAの読者の方には、今この変化にアダプトしないと手遅れになるというメッセージを送りたいです。
――非常に説得力があります。
渡辺氏 : そのひとつの解を、デライト・ベンチャーズで用意できると思っています。たとえばDeNAの社員は基本的にキャリアのアーリーアダプターばかりで、やがて辞めていきます。そこにデライト・ベンチャーズがあることで、辞めて起業した人もゆるくつながっていけるわけです。そしてエコシステムが健全にワークすれば、多くの起業家は失敗するでしょう。すると経験を積んだ優秀な人材が、たくさん生まれるわけです。その時に、ちゃんとつながっていることで、その人をまたDeNAの幹部として召喚できるかもしれません。もちろん、成功した会社をDeNAが買収できる可能性もあります。さらに、そうした起業のキャリアパスを会社が用意しているということは採用にも役立ちますから、いいことばかりなんですよね。
デライト・ベンチャーズの仕組みが唯一の解では決してありません。ただし、イノベーションを起こすことと、企業の人材を解放することは、セットです。人の雇用に対する考え方は確実に変わっていきますので、企業側の雇用制度、人事制度も手遅れになる前に変えていくべきだということをお伝えしたいです。
企業は足元の利益よりも、産業全体の発展に目線を転じるべき
――2030年に起業がより当たり前になっていくということは、大企業とスタートアップが互いにアセットやリソースをオープンイノベーションで掛け合わせ、新しい価値を生み出す事例もより増えていくと考えられますか?
渡辺氏 : そうですね。スタートアップのエコシステムがしっかりと育てば、企業とスタートアップの協業がイノベーションをドライブすることも当たり前になっていくと思います。
世界的に大企業の中から大きなイノベーションが起こらなくなって、しばらく経ちました。日本でスタートアップエコシステムが立ち上がらなければ、オープンイノベーションもワークせず、大企業に依存した経済のままとどまります。そこを外国出身のイノベーションが蹂躙してくるでしょう。これは日本の国力に関わる問題だと思います。
伝統的大企業にとっても、日本のスタートアップエコシステムが他の先進国と同様に急成長することが非常に重要です。それは経済成長のインフラ、経済の牽引力になっていくので、産業全体のためにもスタートアップエコシステムの発展にリソースを割いていただきたいのです。日本の経済政策は、まだ大企業が主語になっています。オープンイノベーションで重要なのは、大企業がスタートアップとどう付き合うか、ではなくスタートアップの成功のために大企業に何ができるか、だと思います。スタートアップが成功して初めて、大企業もイノベーションの果実を得ることができるのです。
――現状、日本ではアクセラレータプログラムやCVCを立ち上げるというトレンドもありますが、2030年に向けてどのようになっていくと思いますか?
渡辺氏 : 大企業もイノベーションを起こそうと必死で、アクセラレーターやCVCを通じて種を探しています。大企業がスタートアップになんらかのアセットを提供する見返りに、スタートアップが成功した暁に商業契約やキャピタルゲインなどを通じて、大企業に利益を還元するのが、だいたいのパートナーシップの建て付けだと思います。それ自体は歓迎すべきことですが、スタートアップと大企業は、全く異なる原理と時間軸で動きますので、それを仕組みに充分反映させる必要があると思います。
アーリーステージのスタートアップにとって大企業のアセットは今すぐほしいものでしょう。しかし大企業への見返りはスタートアップが「成功」したときにだけもたらされます。この立場の違いで、投資契約や提携契約は、大企業が交渉上強い立場をとりがちです。その結果、スタートアップの肝心な成功確率を少しでも下げてしまっていないか、よく検討する必要があります。
例えば、独占契約や、過剰な報告義務、スタートアップが思い切ってリスクを取りにくくなるようなコンプライアンス上の縛り、コールオプションなどスタートアップのアップサイドを制限する条項、大企業の同業他社と組みにくくなるような資本構成、または単にスタートアップとの度重なるミーティングなど、全てスタートアップの成功確率に想像以上の悪影響をもたらします。つまり大企業にとっても、このパートナシップの目的達成を遠ざけるのです。
ですので、大企業がスタートアップとパートナーシップを組む場合は、先にもお話したようにスタートアップが「成功したときのメリットを最大化する」ことよりも「成功の確率を最大化する」ことを、長期的な視点をもって優先しなければいけないと思います。大企業がスタートアップとのディールで勝っても、そのスタートアップが成功しなければすべて時間の無駄遣いです。
難しいのは日本の大企業は2~3年ごとに担当者が変わること。そうすると、スタートアップが5年後10年後に成功する可能性を最大化することが、業績として見えにくくなるんです。エクスクルーシビティを取ったとか、レベニューシェアを15%から25%に上げられましたということに目がいってしまいがちです。こういうことが起こらないように、オープンイノベーションの原理原則や目標設定、評価制度を正しく設定することが肝だと思います。それが、大企業にとっても長期的に経済合理性が高く、スタートアップエコシステムの発展にも繋がります。
――目線が足元にあると、スタートアップとの付き合いも短いままで終わってしまいます。その発想を転換する必要がありますね。
渡辺氏 : そうしなければ、生き残れないと思います。欧米の大企業は、大小のスタートアップを日本企業とは桁違いの勢いで買収しています。アクハイヤといって人材を吸収する目的で小さいスタートアップも買収し、スタートアップエコシステムを深く理解したタレントを幹部に迎えます。そして自社内のR&Dでは生み出せなかったテクノロジーやビジネスを取り込むためにも、大胆な買収を次々に行います。
エアバスはSpaceXを自ら生み出せませんでしたが、OneWebを取り込みました。GMもテスラを生み出せませんでしたが、Cruiseを買収して挽回を目指しています。日本の大企業は新卒採用・終身雇用で人材を育てているので、スタートアップのエコシステムを経験している人が極端に少ない。それではスタートアップの買収も提携もままなりません。これも長期視点で、人材の流動化含めて、体質を変えていく必要があるでしょう。
世界のイノベーションは、大企業ではなくスタートアップが牽引していっていることは既に証明されたと思います。それを前提として、世界の大企業の、スタートアップとの付き合い方も進化してきました。「オープンイノベーション」は、そもそも大企業が主語の言葉です。大企業が日本の経済牽引の主体となり続ける選択肢は、ないと思います。スタートアップを主語にして、経済成長の発想を転換していくべきだと強く伝えたいですね。
取材後記
DeNAの海外事業を長きにわたり牽引し、栄枯盛衰を経験した渡辺氏だからこそ、日本のスタートアップエコシステムに対するリアルな危機感がひしひしと伝わってくるインタビューだった。
米調査会社のスタートアップ・ゲノムが昨年9月に公開した「Global Startup Ecosystem Ranking」では、東京は過去最高の9位にランクインしている。日本のスタートアップエコシステムは着実に発展しているものの、渡辺氏が指摘するように人材や母数の少なさ、企業のスタンスなど、解決すべき課題はまだ多いといえる。まずは協業する企業が、スタートアップエコシステムの発展を自分ごととして捉えていくことが必要だろう。
(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵)