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【NTT東日本×ウェザーニューズ】予兆保全、国防、災害対策、人流解析、株価予測、農業……「宇宙・気象データビジネス」の最前線を語る

【NTT東日本×ウェザーニューズ】予兆保全、国防、災害対策、人流解析、株価予測、農業……「宇宙・気象データビジネス」の最前線を語る

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「電話・インターネットに続く、新たな事業の柱の構築」を目指す、東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)のデジタルデザイン部は、これまでAI・IoT・クラウドなどを活用した数々の事業開発に取り組んでいる。

その一つが衛星データの活用だ。JAXA(宇宙航空研究開発機構)が管理する次期光学衛星(ALOS-3)のデータを、災害対策や観光産業、一次産業などの支援に活用するべく、複数の実証実験を実施している。2019年には、林業分野における松くい虫対策に衛星データを活用する実証実験を長野県内で行った。これらの取り組みをデジタルデザイン部は「宇宙IoT」と呼び、さらなるユースケースの開発を推進していくという。

そこで、TOMORUBAでは、NTT東日本デジタルデザイン部の下條裕之氏と阪本奈津美氏をお招きし、衛星データのビジネス活用の可能性について掘り下げる対談企画を実施。対談相手は、国内における民間気象情報会社の先駆け的存在であり、数々の気象情報サービスを提供する株式会社ウェザーニューズ(以下、ウェザーニューズ)の根来(ねごろ)武志氏だ。

宇宙、衛星、気象――。一見、私たちの生活とは縁遠いと思われがちな事象が、どのようにビジネスに結びつき、新たな価値を生むのだろうか。両社には、現在のデータ活用のトレンドや実際の事例など、衛星や気象に関するビジネスの最前線について語り合っていただいた。


【写真右】 東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 担当課長 下條裕之氏

【写真中】 東日本電信電話株式会社 デジタル革新本部 デジタルデザイン部 阪本奈津美氏

【写真左】 株式会社ウェザーニューズ モバイル・インターネット事業部 サービス開発&セールス チームリーダー 根来武志氏

国防、災害対策、人流解析、株価予測、農業…――「オープン&フリー化」で加速する衛星データ活用ビジネス

――NTT東日本のデジタルデザイン部は「宇宙IoT」などを通じて、衛星データのビジネス活用に積極的に取り組んでいらっしゃいます。まずは、衛星データのビジネス活用について、現在のトレンドや市場の状況についてお聞かせください。

NTT東日本・下條氏 : 衛星データについては、現在、新たなトレンドを迎えているというよりも、近年になってやっとビジネス活用が始まったというのが正しいと思います。従来、衛星データは、国防などごく一部の領域にしか活用されていませんでした。しかし、2019年に、政府衛星のデータプラットフォームが公開され、企業が無償で衛星データを解析できる「オープン&フリー化」が行われたことで、一気にビジネス活用が進みました。

特に、衛星データが活用されている領域としては、災害対策です。2019年の台風15号では、千葉県を中心に大きな被害が出ましたが、その際にフリーの衛星データを解析して、河川の氾濫情報などを公開する企業が数多く現れました。そうしたトレンドが、ここ数年でかなり拡大し、現在に至るという形です。

また、コロナ禍によって、衛星データの活用がさらに注目を集めていると、私は感じています。例えば、一部では、光学衛星のデータやCO2の排出量データなどを組み合わせて、人流の変化などを解析する企業も現れていて、衛星データが様々なビジネスに活用できるという認識がさらに広まっていると思います。

――具体的には、どのような事例が生まれてきているのでしょうか?

NTT東日本・下條氏 : 海外における衛星データの活用事例を2つご紹介します。まずは、米国のファミリーレストランの事例です。衛星で駐車場を撮影することで、どのようなタイミングでどのくらいのお客様が来店されたのかを分析することができます。駐車台数からおおよその売り上げがわかるため、株価の予測に活用されています。

また、もうひとつは石油タンクの事例です。衛星画像を撮影すると、影の長さから石油タンクのフタが下がっていることが確認できます。その画像を解析することで、各エリアの石油貯蔵量を算出し、経済分析を行う事業を展開している企業が登場しています。

一方、国内においては、宇宙ベンチャーが衛星データを農業に活用し、「宇宙ビックデータ米」を栽培するといった事例も出てきましたね。

――下條さんに説明いただいたような衛星データ活用のトレンドや事例があるなかで、NTT東日本さんはJAXAと連携して、長野県における松くい虫対策の実証実験を実施し、一次産業への衛星データ活用を進めてらっしゃいます。この実証実験の内容についてお聞かせください。

NTT東日本・阪本氏 : この実証実験は、衛星データと飛行機で収集する航空レーザーデータを組み合わせて、松林の木を観測し、松くい虫被害を解析・予防するためのものです。実験の結果としては、一定のエリア単位であれば、松くい虫被害を観測できることが分かり、今後の林業分野への活用に十分な手応えを感じています。


――実際に衛星データを活用した取り組みを進めるなかで、現在、課題に感じていることはありますか。

NTT東日本・下條氏 : 大まかには二つあるのですが、そのどちらも研究や技術開発における課題ではないですね。どちらかといえば、データの「使い方」や「伝え方」における課題といったところです。

例えば、松くい虫対策の実証実験などで用いた、衛星写真の解析技術などは、近年、注目を集めているAIの画像解析と基本的には似た技術です。そのため、データの解析自体にはそれほど苦慮することはありません。ただ、衛星データをどのように収集するかや、どのような環境で解析をするかといった部分には、まだまだ改善の余地があり、NTT東日本としても最善策を模索しているところです。

そのため、今後は、いわゆる「ニュースペース」と呼ばれる、宇宙事業を展開するベンチャー企業などとの連携をして、より幅広い衛星データの活用を可能にしたいです。NTT東日本は、もともと地域の皆様を主要なお客様とする企業ですから、衛星データについても、社会のより広い範囲への活用を目指しています。そうした広がりのある技術を生み出すためにも、宇宙系のベンチャー企業などとの連携は必要だと感じています。


――もう一つの課題についていかがでしょうか。

NTT東日本・下條氏 : 私の造語なのですが「宇宙アレルギー」の問題です。先ほども申し上げたのですが、NTT東日本のお客様の多くは、地域に根ざして暮らしている方々です。そうした地域の生活と「宇宙」や「衛星」といった事象は、なかなか結び付きづらい。話題を持ち出しただけで、どこか身の回りの生活とは無関係だと思われてしまうきらいがあります。

しかし、実際には、どなたでも天気予報は見られるわけで、衛星や宇宙の技術は生活に縁遠いものではないはずです。衛星データの活用に関する事業開発を進めるなかで、アレルギーにも似たお客様の忌避感は、乗り越えるべき課題だと感じています。

ウェザーニューズ・根来氏 : 宇宙アレルギーのような反応は、たしかにありますね。ただ、ビジネスという観点で捉えるからアレルギー的な反応が生まれるのであって、実は、多くの方は宇宙に対して強い関心を持っているのだと思います。

例えば、月食、日食、流星群など、珍しい天体イベントは多くの話題を呼びますよね。ウェザーニューズでも皆既月食などの中継放送をすると、普段よりも視聴数が大幅に伸びます。そうした「コンテンツとしての宇宙」をお届けすることで、宇宙アレルギーを払拭するのが、ウェザーニューズの役割の一つなのかもしれません。

気象技術の進化により、DXにおける気象データの活用が加速

――根来さんにお伺いします。衛星データのビジネス活用が広がりを見せる一方で、気象データの活用はどのようなトレンドにあるのでしょうか。

ウェザーニューズ・根来氏 : まずは、気象技術の著しい発展があります。例えば、かつては天気予報も20Km四方単位でしか予測できませんでしたが、現在では気象技術の進化により、ウェザーニューズでは1Km四方単位での天気予報が可能になっています。また、時間単位の予測の細かさも向上していて、お天気アプリ「ウェザーニュース」では27時間先までの天気を10分単位で予報しています。

そうしたなかで、現在、特に注目を集めているのが、気象データを活用したDXです。高精度の気象データと位置情報、交通情報などを組み合わせて解析し、それをビジネスに活かそうというわけですね。

ウェザーニューズでは、BtoB向けのサービスを展開しており、2500社に及ぶお客様の気象リスクの軽減や最適化をサポートしています。例えば海運会社には、気象現象のリスクを考慮した、安全で経済的な航路をご提案しています。近年では、そうした気象データの活用ニーズがますます増していると感じています。このような流れを受けて、ウェザーニューズでは、2020年6月から企業向けの気象データ提供サービス「WxTech(R)(ウェザーテック)」を開始しました。


――WxTech(R)は、2021年7月現在、約100社以上に導入がされています。具体的に、どのようなニーズで活用されることが多いのでしょうか。

ウェザーニューズ・根来氏 : 例えば、天気と連動させた商品の販促です。自社でお持ちの売り上げや来店者数などのデータを、気象データと合わせて分析することで、自社の商品がどのような気象条件でよく売れるのかがわかります。そういった分析結果をもとに販売店への販促提案や、クーポン配信など行うことで、販促効果を高められます。

また、スマート農業では、気象IoTセンサー「ソラテナ」もご利用いただいています。気象データに基づいた農作業の管理を行うことで、生産性や品質の向上に役立てていただいています。

ウェザーニューズにおける「サポーター」の役割が、NTT東日本×ウェザーニューズの共創のカギになる?

――NTT東日本さんとウェザーニューズさんは、現在、共創に向けた議論をされています。どのようなきっかけだったのでしょうか。

NTT東日本・下條氏 : 宇宙IoTに取り組むなかで、NTT東日本としても、衛星データの活用範囲をさらに広げたいと考えていました。一口に「衛星」といっても、松くい虫対策の実証実験に用いた次期光学衛星と、気象予報衛星では、観測するデータが大きく異なるんですね。

そこで、気象データとNTT東日本が所有するビックデータを組み合わせれば、何か新たなデータ活用ができるのではないかなと思ったのが、きっかけです。「気象といえばウェザーニューズさん」と考え、アプローチしようと思ったのですが、以前からのお付き合いがあったわけではなかったので、連絡先も分かりません。そこで、ウェザーニューズさんのコーポレートサイトの問い合わせフォームにご連絡したのが、最初のコンタクトでした(笑)。

ウェザーニューズ・根来氏 : はじめて、問い合わせを見たときは、正直、驚きましたね(笑)。それに当初、下條さんや阪本さんはウェザーニューズがリリースしている「天気痛予報」という健康系コンテンツにご興味を持たれていて、「『衛星データと健康』というテーマで何か共創できないか」というご提案でした。

気象状況の変化から頭痛や関節痛が出やすいタイミングを予想する「天気痛予報」というのは、気象病の権威である佐藤純先生と共に開発した独自性の高いコンテンツです。その問い合わせ内容も珍しくて、強く印象に残っていますね。

NTT東日本・阪本氏 : コロナ禍ということもあり、昨今、世間的にも健康に対する意識が高まっていますよね。NTT東日本はヘルスケアのサービスも展開していますし、そこにプラスアルファでご提案できる、衛星データを活用した健康サービスを開発できないかというのが、当初の狙いでした。


――今後、両社でどのような共創を進めていくのでしょうか。お話されている、健康に関するサービスでしょうか。

NTT東日本・下條氏 : いえ、それは最初の出会いのきっかけで、現在は別の取り組みをウェザーニューズさんと議論している段階ですね。特に今、非常に興味を寄せているのが、ウェザーニューズさんにおける「サポーター」という仕組みです。

ウェザーニューズ・根来氏 : ウェザーニューズではサービスの会員のことをサポーターと呼んでいて、サービスやコンテンツをサポーターとともに作り上げるという姿勢を、非常に重視しています。

その理由の一つは、天気予報の精度を向上させる最も効率的な方法は「サポーターから情報をもらうこと」だからなんですね。実際に、ウェザーニューズでは、カメラ付き携帯電話の普及以降、ユーザーから天気の状況を画像付きで送っていただくことで、各地における天気の微妙なバラ付きを把握し、天気予報などの精度を上げてきました。先ほどご説明した「天気痛予報」も、サポーターからの情報提供がコンテンツ開発の肝になっています。

そのため、サポーターとのコミュニケーションや連携、共にコンテンツを作るといった取り組みには強いこだわりを持っています。


▲千葉県の幕張に本社を構えるウェザーニューズ。国内外の気象データがリアルタイムで届けられ、専門家による分析や予報が行われている。

NTT東日本・下條氏 : 共創について議論するなか、そのお話を根来さんから伺って、「NTT東日本がウェザーニューズさんのサポーターになることもできる」と考えています。例えば、NTT東日本は山間部など人があまり立ち入らない場所やスキー場などにも施設を所有しています。

そうした施設を何らかのデータをセンシングして、ウェザーニューズさんにご提供し、その後のデータの解析や活用も共に行うことができれば、何か新たな事業開発につながるのではないかと期待しています。例えば、登山や山間部の観光、スキーなどのレジャーに対して貢献できるような事業です。

ウェザーニューズ・根来氏 : NTT東日本さんは、インフラを担う企業ですので、データを収集する環境や設備に関しては、飛び抜けた強みを持っていらっしゃいます。

ですので、そうしたNTTさんの強みと、ウェザーニューズの気象の専門家としての強み、さらに他のパートナー企業も巻き込みながら、強力なデータ分析サービスを構築し、サービス化ができると嬉しいなと個人的には思っています。


取材後記

「雲の上の存在」という慣用句があるように、私たちは宇宙、衛星、気象など、文字通り雲の上の出来事を、どこか自分とは関係のないものと捉えがちだ。

しかし、私たちの生活を改めて見直してみると、多くの物事が天気や季節などの気象現象に影響を受けていることが分かるはずだ。それは裏を返せば、衛星データや気象データのビジネス活用には、大きな可能性が秘められているということでもあるだろう。

NTT東日本とウェザーニューズの共創検討は、まだ始まったばかりだという。しかし、国内における民間気象情報会社の草分けであるウェザーニューズと、東日本の通信網を支えるNTT東日本の共創には、大きな期待を抱かざるを得ない。これから、どのようなサービスが生み出され、私たちの生活を変えていくのだろうか。今後に注目したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:山﨑悠次)

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