富士フイルムビジネスイノベーションの挑戦。大きく変化する働き方に新たな提案を。
コロナの影響によって私たちの働き方は大きく変わったが、その変化は以前から徐々に起き始めていたもの。在宅勤務だけでなく、カフェなどで働くノマドワーカーの登場など「仕事はオフィスでするもの」という既成概念が薄れ始めていた。
その変化にいち早く気付き、新しい価値を提供していたのが富士フイルムビジネスイノベーション。家でも職場でもない第三の場所「サードプレイス」の創出に取り組んできた。しかし、本格的な活動を始めたタイミングで起きたのがコロナショック。自粛生活を強いられたことにより、第三の場所は思うように使われない状態に。
「仕事だけでなく、サードプレイスの新たな活用方法を生み出したい」
そう語るのはハードウェアエンジニアとして、サードプレイス創出の取り組みに携わる北川喜浩氏。今回は北川氏にオープンイノベーションにかける想いと、神奈川県のアクセラレータープログラムBAKへの意気込みを聞いた。
※BAK NEW NORMAL PROJECT 2021…コロナ禍で顕在化した様々な課題を、神奈川県の企業とベンチャー企業との共創で解決を目指すプロジェクト。
「個室型ワークスペース」の新しい活用法の創出に取り組む
ーー まずは今回オープンイノベーションに取り組もうと思った背景を教えてください。
北川:私たちが取り組んでいる「サードプレイス」の創出に、新たな視点を取り入れたいと思ったからです。2020年2月には個室型ワークスペース「CocoDesk」サービスをスタートしたものの、私たちはこれまで法人相手にビジネスを展開してきた会社。
今後、より多くの方にサードプレイスを提供していくために、個人向けビジネスの会社を含め、様々な視点を持つ会社と共創したいと思っています。
▲研究技術開発本部 システム技術研究所 チーム長 北川喜浩氏
ーー なぜサードプレイス作りに取り組み始めたのでしょうか。
北川:もともとオフィス関連の事業を展開してきた私たちは、ここ数年のワークスタイルの変化に合わせて、新しい働き方に注目していました。コロナの影響でその変化は加速し、オフィス以外の場所で働く人が急激に増えています。
その傾向は多くのメリットを生んでいる一方で、家では集中できなかったり、仕事と生活の境目がなくなるなどのデメリットも生み出しました。そのような背景から、安心・安全かつ自由度高く働ける空間が求められるようになったのです。
その需要の高まりに応えるため、「CocoDesk」を始めたとした新しいサードプレイスの創出に取り組んできました。
▲プライベートオフィス「CocoDesk」の外観
ーー 現在抱えている課題を教えてください。
北川:「CocoDesk」の設置場所や時間によって、利用状況の偏りがあることです。「CocoDesk」はビジネスシーンでの利用を想定していましたが、一般的にビジネスパーソンが本格的に外出するのは午後から。時間によっては満室に近い状態になるものの、午前中や夕方以降の利用率は低いままです。
また、オフィスが集中する渋谷や池袋のような主要駅での利用率は高いものの、それ以外の駅での利用率が低いのも課題です。空室の多い時間、もしくは場所での利用率を上げるため、新しい活用方法を生み出さなければいけないと思っています。
ーー ビジネスシーン以外で使われるケースはないのでしょうか。
北川:私たちも予想していなかったのですが、YouTubeのアフレコに利用する方も多いようです。防音設備の高い構造になっているため、アフレコをするのに都合がいいのでしょう。
また、コロナ禍での変化によって新しい使い方も生まれました。英語教室などがオンラインにシフトしたため、仕事帰りに「CocoDesk」でレッスンを受けて帰るようです。仕事終わりの時間に使ってもらえる好事例ですね。
しかし、いずれの利用者も、コロナによって減った利用者数を補うほどではありません。より多くの人に活用してもらうために、新しい活用方法を生み出していかなければいけないと思っています。
ーー 利用者を増やすために工夫してきたことがあれば教えてください。
北川:例えば安心・安全に利用して頂くために、抗菌コートをしたり、利用時間の間に換気時間を設けたりするようにしました。また、認知度を高めるためにPR活動も行っています。
いずれも多少の効果はあったものの、事業を拡大させるほどの成果には至っていません。私たちはこれまでコピー機をはじめ法人向けのビジネスを作ってきた会社。今回のようなC向けの取り組みは社内でもチャレンジングな活動です。
そのため、C向けにビジネスを展開している企業や、私たちにはない顧客層を持っている企業との共創に期待しています。
大きな学びを得た東京メトロとのオープンイノベーション
ーー 過去にオープンイノベーションの実績があれば教えてください。
北川:「CocoDesk」の実証実験として、2018年6月に東京地下鉄株式会社(東京メトロ)と組んで、駅構内に「CocoDesk」のブースを設置しました。より多くの人が集まる場所として駅での実証実験を検討していたところ、東京メトロさんに縁をもらって実証実験を始められました。
その成果として、本格的に「CocoDesk」の事業もスタートさせています。
ーー 実証実験で大変だったことはありますか。
北川:そもそも駅に「CocoDesk」を設置するだけでも大変でした。PoCを開始した2018年当初は法律(道路法)上、都道の下にブースを設置することが認められていなかったためです。東京メトロを通じて東京都に掛け合い、実証実験の結果の報告やテレワーク推進センターへの展示など、様々なアプローチを通じて認めてもらいました。
実際にブースを設置するまでにかかった期間は2年です。時間はかかったものの産業労働局や都知事から、非常に注目している試行であるとコメントをいただき、事業化につなげることができました。
ーー 一見単純に見えますが、様々なステークホルダーが絡む取り組みだったのですね。
北川:おかげで実証実験から大きな学びを得られました。民間企業のアイディアや得意領域から攻めるだけでなく、時に様々なアプローチも必要ということですね。今回のBAKのような取り組みも、オープンイノベーションによって多面的なアプローチができることを期待しています。
他社にはない「快適さ」が最大の特徴
ーー 今回はスタートアップからの提案を期待していると思いますが、利用事例として構想しているものがあれば教えてください。
北川:例えば遠隔医療の拠点としての使い方を構想しています。医療が必要な方の中には移動が難しい方も少なくありません。例えば公民館など、多くの人が集まる場所にブースを設置すれば、遠くに行かずとも遠隔医療を受けられるのではないかと思っています。
しかし、私たちは医療業界の知見もなければ顧客接点もありません。私たちだけで医療サービスを展開するには限界があるので、例えば医療業界との接点のあるスタートアップと組めれば、お互いの強みを活かしたサービスを展開できるのではないでしょうか。
また、Web会議においても、単純にZoomを使った会議だけでなく、より臨場感のあるコミュニケーションがとれるようになれれば面白いと思っています。5GやMRの技術を使って、目の前にいる相手と会議をしているような感覚が得られる場所になればいいですね。
ーー スタートアップに提供できるリソースはどのようなものがありますか。
北川:一つは人的リソースです。基本は私を含めた3名が対応しますが、必要に応じて社内の様々な人的リソースが提供できます。3名のうちの1人はCocoDeskのデザイナーですし、私もハードウェアエンジニアなので、「CocoDesk」の仕様に関しては柔軟に対応できると思いますね。
また、みなとみらいや海老名、東京に拠点があるので、それらの場所を使って実験もできますし、都内には既に設置されている60の「CocoDesk」もあるので、それらも活用できます。
ーー 「CocoDesk」の開発に携わった北川さんから見て、ハードウェアとしてのこだわりがあれば教えてください。
北川:他社の個人ブースに比べて、私たちのブースの最大の特徴は快適さです。他社のものに比べてスペースが1.5倍ほど広く、他社が椅子を回転するだけなのに対して、私たちは椅子を多少動かすこともできます。
▲「CocoDesk」の中。広くて快適な空間にこだわった
また、防音設備や他社にはないエアコンも完備しています。夏は涼しく、冬は温かいので、長時間の作業も快適にすごせるはずです。ドアもスライドドアにこだわったので、人通りの多い駅構内でも通行人にぶつかる心配がありません。
もしも協業を進めていく上で、物理的な改造や追加したいギミックがあれば私がアドバイス可能なので、ぜひ相談してください。
ーー 最後に今回のプログラムへの意気込みをお聞かせください。
北川:今回のような取り組みは私たちにとっても初めてなので、スタートアップに負けないよう誠心誠意をもって取り組んでいきたいと思います。ご縁のある会社は、一緒に頑張って新しい価値を作り出していきましょう。
特に今回は神奈川県が関わっているということで、とても期待しています。東京メトロさんとの時も、東京都との繋がりがあったので大きなプロジェクトを進められました。オープンイノベーションには行政の力がとても重要だと思っているので、今回も行政を巻き込んで大きなことが実現できればと思います。
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