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【インタビュー】上場後の3年で8社をM&Aした事業家集団「じげん」が目指す、“協創”によるグループ成長とは?

【インタビュー】上場後の3年で8社をM&Aした事業家集団「じげん」が目指す、“協創”によるグループ成長とは?

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2006年の設立以来、独自の事業戦略で急成長を続ける株式会社じげん。2013年11月に東証マザーズへの上場を果たした以降は、M&Aによるグループ拡大を積極的に行っている。グループ入りした企業は、人材業界の基幹システム開発企業や理美容業界の求人メディア企業、不動産業界でウェブサービスを展開する企業など非常に多彩だ。

さらに今年1月には新聞折込チラシ約300万部を発行する、東海エリアにおける求人広告企業のトップクラス企業・三光アドの100%株式を取得。同社が、業種や事業エリアに縛られることなく、”協創”するパートナーを模索し、オープンイノベーションを企業成長の推進力へと変えられる理由とは何か?代表取締役社長の平尾丈氏に伺った。

▲株式会社じげん 代表取締役社長 平尾丈氏

概念が広まる前から、「協創」を重視。

――じげんでは2014年以降、M&Aを積極的に行われていますね。オープンイノベーションによって事業成長を加速している印象があります。

おっしゃる通り、オープンイノベーションは、近年じげんが取り組むベクトルのひとつと言えるでしょう。ただ、そもそもじげん自体がオープンイノベーションという言葉が広まる以前から、「プラットフォームの作り方」というテーマの中で大企業の皆さんと協創してきた歴史があります。

――プラットフォームといいますと、大手求人メディアの情報を網羅した転職・求人情報サイト「転職EX」などでしょうか?

そうです。いわゆる“Web2.0”というムーブメントが2006年頃にありましたよね。そこで企業独自のデータベースやプログラムを、外部に出していこうという文化が少しずつ生まれてきました。それ以前は、業界各社がかなり閉鎖的な中で、同質化したサービスの中でも、クロースドにすることが優位性を生むと考えられていたのです。その一方で、ユーザーからすると、すでに同一業界に同じようなサービスがあれば、両方使ってみるといった商品・サービスを複合的に使う時代に突入していました。

そうした状況を考えた時に、大手サイトを展開する大企業の皆さんから、エコシステムやAPIを外部に出していただき、それを束ね“プラットフォーム・オン・プラットフォーム”という独自の仕組み作りを行えば、業界全体を一緒にイノベーションできるのではないか……。というのが、「転職EX」などをはじめとした弊社のライフメディアプラットフォーム事業の考え方です。

――その当時にデータベースやAPIの提供を受けるためには、かなり苦労もされたのではないでしょうか?

大企業の皆さんからすれば、データは「命」ですよね。営業の方が一社一社訪問されて、そこで得た求人の情報などを編集の方が加工されて編み込まれ、それをシステムに落とし込む。そうやって蓄積してきたデータを「御社に渡して大丈夫か?」というのは、事業提案の際に必ず聞かれました。

ですから、それに対して我々もサービス開発を外注することなく、制作コストはすべて自社で持ち、責任を持ってメディア業としてやらしていただく。さらに求人であれば、応募数=コンバージョン数という形で、効果が出るまではお金はいただかないという筋肉質なサービス運営を行いました。そうした体制の上で、我々に開放していただければ、リスクをミニマムにして、リターンを最大化できると啓蒙していったのが、現在に至る「パラダイムシフト」の実現に繋がっていると思います。

業界・地域の枠を超えた、オープンイノベーションに挑戦。

▲NTTドコモ商品発表会にて共同で企画・制作する「dジョブ」が発表された。2017年秋頃より提供開始予定。

 ――中核事業である「ライフメディアプラットフォーム事業」も、その根幹にはオープンイノベーションの発想があるわけですね。

まさにその通りです。私は以前から企業活動を、「共層」「協創」「競争」の3レイヤーで捉えていました。たとえば、年度やクオーターごとの決算業務など、どの企業も同じような業務を同じように行っていますよね。こうした業務上の“共通の層”に関しては、どこかが一括管理したり外部委託などを行い、できるだけ時間や工数を削減すべきだと考えています。もうひとつが、協調してクリエイションしていく「協創」。かつ、その中で「競争」するべきものがある。そう考えているのです。

――平尾さんが考える「協創」の施策の一つが、M&Aであると。

実際、当社の場合はまず「貴社の事業をこういう形で伸ばすので、ぜひやらせてください」と事業提案をお持ちするんですね。“売った買った”という関係性のエクスチェンジではなく、そこからの継続的な成長を目指すクリエイションを土台にデューデリジェンスに入っていくというのは、じげんの特徴的なスタイルだと思います。

――今年1月にM&Aを行った愛知県の三光アドは、主力サービスがネットビジネスではなく、さらに事業エリアも東海地区が中心。組織文化の違いなど、乗り越えるべきポイントも多そうです。

たしかに、三光アドは、ネット事業ではなく新聞折込チラシの求人広告の会社でして。じげんにとって初めての事例であり、過去最大のディールでもありますので、私自身がプロジェクトの代表として参画しています。会社買収前のデューデリジェンスで見えていた課題と、私たちが入り込ませていただく中で分かった非対称の部分もありますので、現在は改めて事業計画を作り直し、そこに向けて毎日スクラップアンドビルドをしている感じですね。

――領域の異なる企業と協創を行うことで、どんなメリットが生まれるのでしょうか?

現在、業種特化型の事業が成功していますので、今度はエリア特化型にも取り組んでいこうというのがひとつあります。三光アドが築いてきた「求人ビズ」は、私たちのバリューチェーンとは顧客基盤なども大きく異なりますので、これを統合することでその基盤をより拡充し、集客力強化を図っていきます。

それに、三光アドの創業者の方も、社員の皆さんも、ずっと変革を求めてらっしゃったんです。求人というと、東京ではあまたあるネット媒体が主役ですが、名古屋ではいまだにチラシやフリーペーパーが強い。ただ、それが今後も盤石に行くとは彼らも思っていないんですね。東京との差異や格差は脅威であり、逆にチャンスでもあるという考えを内包されていた。実際、当社のエンジニアが足を運び技術提案をすると、まるで魔法使いを見るように「こういうことがやりたかったんだ」と喜んでもらっています。これこそまさに「協創」のシーンだなと思いましたね。

――直近ではNTTドコモさんとの共同でのサービス開発の発表もありましたが、こういったM&Aとは違った形での「協創」にも今後取り組まれていくんでしょうか。

おっしゃるように、企業の枠組みを超えた「協創」とは、M&Aだけではなく、こういったアライアンスも含まれると考えています。今回の「dジョブ」(NTTドコモ提供)もその一つで、様々なご提案をさせていただく中で、弊社が最良の意思決定を支援することを目指して築いてきた圧倒的なデータベースを持つプラットフォーム、さらには成長を支えてきた事業開発力とマーケティングナレッジをご評価いただき、コラボレーションが実現しました。今後も弊社の積み重ねてきた実績を礎に、世界中をリソースに問題解決に取り組んでいくことでイノベーションは加速させていきたいと思います。

 

空間づくり・制度作りで、協創をさらに加速する。

——今年1月にはオフィス移転も行ったそうですが、“場づくり”に関しても、何か協創のためのアイデアやクリエイティブマインドを高めるような施策を行われているのでしょうか?

これに関しては、空間設計などのハードイシューと、制度面のソフトイシューに分けて管理をしています。まず買収先が増えグループが拡大していますから、ビジネスの起点となる“場”は必要不可欠でした。それが今回のオフィス移転のきっかけでもありました。そこで広さや構造などの部分だけでなく、デザイン面も大幅に変更しようと、当社のCLO(Chief Lifestyle Officer)である水嶋ヒロさんに企画・デザイン監修・コンセプターをお願いしました。

――空間づくりのコンセプトなどを伺えますか?

 “事業家集団”というところは発信しつつ、「日本のインターネット企業として、世界を席巻するベンチャーを目指す」という気概を今回お見せしたいなと。そこで“和”にこだわり、会社の顔となる受付スペースに武田双雲さんに書いていただいた書(※本ページトップ画像参照)を配置するなど、視覚的に印象に残るようにしました。さらに、梅の花をベースとしたオリジナルの香りをさせたり鹿威しを設置して音でも記憶に残るようにしたりと、「一期一会」と「五感の拡張」というところを意識して設計・デザインしています。

▲CLO・水嶋ヒロ氏が監修した“和”を感じされるオフィス。

――業務スペースにも何か工夫が?

今回はビル一棟をすべて借りていますので、たとえば社員のライフステージを考慮した働き方改革を目指して、お子さんを連れて来られるお部屋をつくったり、女性向けのパウダールームを設けたり、屋上を活かした設計なども行っています。また、階の違いが社内に垣根を生まないように、階段などにもコミュニケーションボードや掲示板をつくり、いわゆる大企業病になりづらい作りを考えています。

▲勉強会や研修にも使用できる交流スペース。パウダールームやTVゲームができる部屋も用意されており、社員同士が気兼ねなくコミュニケーションが取れる場として活用されている。

――組織の成長と変化を見据えた空間づくりをされているわけですね。

ただし、そこにソフトイシューも活きていかないと、絵に描いたモチになってしまいますからね。社内では「じげんZOO」と言っていますが、100の事業を支える200個の人事制度を創り、じげん流のダイバーシティを支えていく計画が進んでいます。まだ200個はありませんが、「イノベーションを興すためには、多様性が必要である」と考えていますので、「アントレプレナーシップ」というブレないコアは持ちつつも、グループの中でお互いがそれぞれの力を掛け合わせてイノベーションを興していければと思っています。

取材後記

平尾氏が目指す「協創」による企業成長。大企業とのパートナーシップを深めつつ、戦略的M&Aを多角的に展開するしなやかさとスピード感、そして行動力には目を見張るものがある。一方で、大手が納得できるだけの事業体制を整え、買収先を成長に導く人材を育て、ハード・ソフトの両面で環境づくりを推し進めるなど、協創を下支えするリソースの強化にも余念がない。パートナーが納得できるだけの材料を揃え、将来を見据えた提案を行う姿勢は、オープンイノベーションを目指す大企業・ベンチャーどちらも見習うべき点と言えるだろう。

(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:加藤武俊)

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