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「紙を貼って飛ばすだけ」――Spiralの屋内用ドローンは、建設現場の課題を払拭する起爆剤となる。

「紙を貼って飛ばすだけ」――Spiralの屋内用ドローンは、建設現場の課題を払拭する起爆剤となる。

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近年、産業用として日常的に利用されるようになったドローン。農業、防災、映像などの分野では、もはや無くてはならない技術として定着したといっていいだろう。

しかし、ドローンがその力を発揮するのは、先に挙げた産業分野だけではない。たとえばドローンスタートアップ「株式会社Spiral」(以下、スパイラル)が提供するのは、建設業界へのソリューションだ。

スパイラルは設立4年目、社員10名に満たない小規模な企業だが、大手ゼネコン・竹中工務店をはじめとした様々な企業と共創を行い、現場技術者向けに「屋内用ドローンソリューション」を磨き上げてきた。

今回、スパイラルの代表を務める石川氏に、建設業界で現場プロジェクトの進行経験もあるeiiconのメンバーである入福(イリフク)がインタビューを実施。その独自のソリューションが生まれた背景などについて伺った。さらに後半ではスパイラルと共創に取り組む各社のキーマンと座談会を行い、その「屋内用ドローンソリューション」の可能性について語り合ってもらった。

株式会社Spiral 代表取締役CEO 石川知寛氏

大学在学中の2007年に飛行ロボットベンチャー創業に参画。VTOL(現在のドローン)開発のシステム設計、超小型衛星、小型ロケット開発などの飛行ロボットプロジェクトを複数経験。その後、医療機器メーカーにて開発、生産技術、ロボットベンチャーにて産業用ロボット導入支援を経て、2016年10月、非GPS環境下(屋内)に特化したドローンの普及を目指し、Spiral Inc.(本社:DMM.make AKIBA)を共同創業し、代表取締役に就任。

宇宙技術者から転進することを決めた、あの「ひと言」

――石川さんはもともと小型人工衛星や小型ロケットの研究開発をされていたと伺っています。宇宙技術の開発者から、スパイラルを設立し、スタートアップの起業家に転身した経緯を教えてください。

Spiral・石川氏 : ちょうど自分が人工衛星の開発に携わっていた2010年に、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰ってきました。当時は宇宙技術者のひとりとして、「はやぶさ」の技術力に心酔していたので、地球に帰還する様子を上映する試写会に参加したんですね。その会場で最前列に座っていた中年女性が、試写会が終わった後に「こういうのもいいけどさ…私は明日の天気を100%当ててほしいんだよね」と言っているのを耳にしたんです。

この言葉は衝撃でした。それまでの自分は50年後や100年後のことばかり考えて宇宙技術に携わっていたんですが、多くの人は「明日役に立つ技術」を欲しているんだと気付かされました。

それがきっかけで、もっと人々の暮らしに密着した開発をしたいと思うようになり、実社会に関わるビジネスの領域に興味を持ちました。その後、医療機器メーカーにて医療機器の開発をしたり、生産技術として現場改善にあたったり、ロボットベンチャーにて中小企業の産業用ロボット導入支援をしたりした後、2016年にスパイラルを設立しました。

私たちは、ドローンの機体は作っていません。GPSがなくても屋内自律飛行できる制御モジュールと自律飛行の仕組み(MarkFlex®︎Air:MFA)を開発しています。現在は共同開発をしているシンガポールの会社の機体をベースにMFAの製品化を進めていますが、最終的にはどんなドローンにもワンタッチで取り付けられる簡易モジュールにできる見込みです。

――すごく印象的なエピソードですね。その経験はスパイラルの事業にも影響を与えているのでしょうか。

Spiral・石川氏 : はい。スパイラルの経営理念は「目の前で困っている人のためのものづくり」です。10年後や20年後ではなくて、「今、目の前のあなたを助けます!」という事業しかしないと決めています。

たとえば、ドローンを開発するにしても「現場目線」を徹底しています。現場の人たちにヒアリングを重ねて、いままさに彼らが求めているものを開発して、提供する。技術を突き詰めることだけに囚われないモノづくりを手がけています。

実際、世の中には技術は優れていても、使われないロボットや機械がザラにあるんですよ。工場にロボットを導入する仕事をしていた時、ロボットが「置物」になっている場面に何度も遭遇しました。開発者は満足していても、現場の人たちに使ってもらえなければ意味がないんです。

現在、スパイラルが事業の軸にしている屋内用ドローンも、そうした経験から生まれています。一般的な屋内用ドローンに比べると簡素な制御システムなんですけど、そのほうが誰にでも使いやすいんだからそう開発するべきだと思いました。

建設業だからこそドローンの強みを発揮できる

ーーでは次に、スパイラルのメインプロダクトである屋内用ドローンの特徴を教えてください。

Spiral・石川氏 : スパイラルの屋内用ドローンの特徴は、「マーカー」というQRコードが印刷された紙を貼り、ドローンを飛ばすところです。マーカーには移動の方向や高さ、速度などの飛行指示情報が入っていて、それをドローンに搭載されたカメラが読み取ることで自律飛行が可能になります。

この技術が優れているのは、紙を貼るだけなので知識がなくても簡単に現場の人がオペレーティングできるところですね。一般的な屋内用ドローンには、ロボット掃除機などに用いられているSLAMという技術が搭載されています。

SLAMは3Dマッピングや機械学習などを応用した高度な技術なんですが、その分飛行させる際の設定が複雑です。その点、スパイラルの屋内用ドローンなら、飛行させたい経路にマーカーを貼っていくだけなので、誰でも使用することができます。また、機体とマーカーだけで完結する仕組みなので、無線による飛行制御をしていません。なので、無線通信不良及び干渉による墜落を防止でき、より安全に使用いただけます。

最終的には、「貼る(マーカーを)、置く(ドローンを)、飛ばす」くらい簡単に現場の方にドローンを使っていただけるようなプロダクトに仕上げたいですね。

――なるほど。まさにスパイラルの経営理念を具現化したようなプロダクトですね。そうした技術を現在、建設現場で活用する取り組みを進めていらっしゃいますが、なぜ建設業界に狙いを絞ったのでしょうか。

Spiral・石川氏 : 出展したイベントで竹中工務店の松岡さんに声を掛けていただいたのがキッカケだったんですが、お話をお伺いしていくなかで、建設業界にはスパイラルが取り組むべき課題があると確信しました。

まずは人手不足の問題です。それに加えて、建設業界に携わる人たちも高齢化しています。でも、建設現場には体力仕事や危険が伴う仕事もありますから、年々現場の負担が増しています。似たような課題を抱えている業界は多いんですが、建設業界は特にその傾向が強いので、スパイラルの技術で何か役に立てないだろうかと思いました。

あとは、実際に行ってみると分かるんですが、建設現場ってすごく広いし、地面にも工具やたくさんの資材が積んであるので、地を這うタイプのロボットよりも、飛行するドローンのほうが仕事をするのに適しています。

スパイラルはドローン屋ではなくロボット屋なので、ソリューションを構築するときに「本当に飛ぶ必要があるのか」という点を慎重に検討しているのですが、建設業界にはドローンを使う必然性が間違いなくあると思いますね。

▲海外のエンジニア人材を活用して開発しており、シンガポール、インドの会社とも共同開発を進めている。さらに経済産業省国際化促進インターンシップ事業を通し、ルワンダとパキスタンからエンジニアを獲得したり、この春にはイギリスとインドからも新たにエンジニアの採用も決まっている。

【座談会】屋内用ドローンを活用した共創で、どのような価値が生まれるのか

石川氏のインタビューに続いて、スパイラルとの共創に取り組む3社と座談会を行った。各社はどのような課題からスパイラルと結び付き、共創をスタートさせるに至ったのか。実際の共創事例や今後の展望についても聞いた。

<写真左→右>

株式会社Spiral 代表取締役CEO 石川知寛氏

株式会社竹中工務店 技術本部 技術プロデュース部 GRITグループ 課長 松岡康友氏

■TIS株式会社 インキュベーションセンター ビジネスプロデューサー 福田紘也氏

株式会社FMシステム 代表取締役社長 柴田英昭氏

――みなさんがスパイラルと共創に至るまでの経緯を教えてください。

竹中工務店・松岡氏 : いま建設業界は人手不足と業界全体の高齢化という課題を抱えていて、その解決策としてロボットやAIといったテクノロジーに注目が集まっています。そのなかで竹中工務店は、現場の業務効率化や、元請け業務の自動化をドローンで実現できないかと模索しています。

たとえば我々のような元請けの社員は、検査のために現場を回って、写真を撮影し、記録を残して、それをレポートにまとめて報告するという業務を行うのですが、これらの仕事をカメラ搭載のドローンで代替できないかと。そうした課題の解決を探るなかで、スパイラルさんと展示会で出会い、共創の取り組みを始めることになりました。

▲株式会社竹中工務店 松岡康友氏(写真右)

TIS・福田氏 : 私が所属するTISでは、アプリ・システム開発や実証フィールドの提供などスタートアップ支援を目的とした「U-Studio」というプログラムを運営しています。TISはSIerとして金融機関などのさまざまなシステムの受託開発を主力事業としますが、次世代を見据えた挑戦として、先鋭的なスタートアップとの事業共創を推進すべく「U-Studio」を立ち上げました。

スパイラルさんには「U-Studio」のプログラム第1期企業としてご参画いただきました。

▲TIS株式会社 福田紘也氏

Spiral・石川氏 : 竹中工務店さんとの共創を進めるなかで、どうしてもドローン飛行の実証実験がしたいと思ったんですが、いかんせんリソースが足りなくて(笑)。そんなときにTISさんの「U-Studio」を知って、ぜひお願いします!と飛びつきました。

TIS・福田氏 : スパイラルさんは事業の成長性や新規性といった点はもちろんですが、建設業界への問題意識に惹かれたのが、共創をスタートさせたキッカケですね。

FMシステム・柴田氏 : 私が代表を務めるFMシステムは、建物のファシリティマネジメント(以下、FM)のソフトウェアを開発する会社です。FMとは建物の資産価値を落とさないために施設を管理していくことで、その中では定期的な点検業務が必要とされます。

しかし、この点検業務は専門スタッフによるアナログな要素が多く、かなりの費用がかかってしまうことが課題でした。そのため、デジタル化/ICT化のニーズは高く、以前から点検業務をどうにか自動化できないものかと考えていました。そんなときに知人の紹介を通して、スパイラルさんと出会いました。

▲株式会社FMシステム 柴田英昭氏

――みなさん共に、異なる課題からスパイラルと結びついたんですね。これまで具体的にどのような共創を行なったのでしょうか。

竹中工務店・松岡氏 : 展示会で出会って以来、竹中工務店としての業務効率化・自動化という課題やニーズをお伝えしながら、ディスカッションを重ねてきました。実は、スパイラルさんを含めて国内外のドローンスタートアップ3社にお声がけし、各社ごとの技術的な強みを活かしたアプローチで共創プロジェクトを進めています。ちょうどそうしたタイミングで、当社の技術研究所がリニューアルされて、オープンイノベーションの促進を目的とした共創ゾーンができ、スパイラルさんにご入居いただきました。現在は、より近い距離でコミュニケーションを取りながら、技術研究所内のスペースを活用し、「マーカー」を設置してドローン試験を進めようとしています。

TIS・福田氏 : スパイラルさんには「U-Studio」のプログラムを通して実証実験フィールドや実証実験で価値訴求できるプロトタイプをご提供し、大阪の商業施設で屋内用ドローンの実証実験を行っていただきました。手応えも感じられる結果になり、また屋内用ドローンの市場性を確認できたことで、「U-Studio」への期待が社内で高まったのが嬉しかったですね。

FMシステム・柴田氏 : FMシステムでは、スパイラルさんの屋内用ドローンを使って、建物の点検業務の実験を行いました。ドローンを用いることで施設管理に関するデータを効率的に取得することができ、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)との連携もスムーズになる感触を得ています。スパイラルさんとの共創によって、ファシリティマネジメント業界全体のデジタル化が進む可能性を感じていますね。

Spiral・石川氏 : FMシステムさんとの取り組みでは、課題も見つかりました。具体的には、ドローンの機体の大きさですね。スパイラルの屋内用ドローンは対角の寸法が65センチほどあるんですが、それだとビルのような建物のなかや天井裏のような狭い場所を動き回るには大きすぎます。なので今年の7月くらいまでを目処にして、まずは35センチ前後まで小型化しようと試みています。

――最後に、みなさんは共創のなかでどのようなイノベーションを起こしたいとお考えでしょうか。今後の展望をお聞かせください。

竹中工務店・松岡氏 : 私が最終的に構想しているのは、WEBを通して建設現場のなかが一覧できる「ストリートビュー」のようなものです。「いま、あの現場はどうなっているんだろう」と思ったとき、すぐにPCでその様子が確認できて、関係者とその情報を共有できる。そうしたシステムがあれば設計者が頻繁に現場に出向く必要がなくなりますし、工事の意思決定が遅滞したりすることを削減できます。

さらに建設の過程も撮影してアーカイブすれば、建物が完成した後でも内部や構造を確認できるデータベースになります。これが可能になれば、FMでも大いに活用することができるでしょう。

そして、私はそれを実現できるのはロボットやレーザースキャナーではなく、カメラ搭載の屋内用ドローンではないかと予想しています。スパイラルさんとはそれぐらい大きな目標に共に向かっていきたいですね。

TIS・福田氏 : 実証実験で事業の可能性は確認できましたので、スパイラルさんとは今後もさらなる共創を続けていきたいですね。TISはもともとSIerということもあり、システム開発や、最近では画像解析系のアプリケーション開発に強みを持っているので、そうした分野での共創の可能性も探っています。

Spiral・石川氏 : やっぱり「屋内用」という特徴を考慮すると、創業当初から見据えていたのですが、日本だけではなく、世界のマーケットも視野に入っています。たとえばシンガポールだとかルクセンブルクだとか、そういう地域での展開を目指していきたいですね。

さらに、ドローンの小型化が実現すれば倉庫・物流業界への参入も狙うことができます。そのためにも、まずはみなさんとの共創をさらに推し進めて、「成功」と胸を張って言える地点まで到達したいと思っています。

取材後記

取材した竹中工務店・松岡氏は、スパイラルの強みについてこう話した。

「スパイラルさんの良いところは『シンプルなコンセプト』ですね。建設現場にいる方はどうしてもITに弱い傾向があるので、PCを使った設定はできない可能性もある。しかし、スパイラルさんのソリューションなら、マーカーを印刷した紙を現場に貼るだけですから、とにかく導入のハードルが低いです」

たしかに「紙を貼るだけ」というのは、疑いたくなるほどシンプルな使用方法だ。

しかし、そうしたつくりは生産技術出身の、スパイラル・石川氏の徹底した現場目線に裏打ちされている。常に「現場」に向き合い、そこで働く人々のニーズを具現化しようとする石川氏だからこそ実現できた、テクノロジーの形なのだ。今後の共創の行方に注目したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)

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