大和ライフネクスト×シードで挑む、遊休資産を活用した新規事業とは?
約36万戸にも及ぶ分譲マンションのほか、約3500棟ものオフィスや店舗を管理する大和ライフネクスト。大和ハウスグループの一員として、主に不動産の管理を手がけている企業だ。同社は今、オープンイノベーション活動を通じて、新たな事業を創出することに力を入れている。中でも、駐車場シェアリング「スマートパーキング」を展開する株式会社シードとは、マンションの空き駐車場を活用した新たなビジネス創出に向けて、実証実験を行っているという。
今回eiiconでは、大和ライフネクストでオープンイノベーションを推進している新規事業担当者3名と、株式会社シードの若き2代目社長である吉川幸孝氏からお話を聞く機会を得た。両社がどのように出会い、どのように共創プロジェクトを進めてきたのか?進める中で直面した壁や、それを乗りこえるために実践したこととは?大和ライフネクストの本社にお伺いし、お話を聞いた。
<写真左→右>
■大和ライフネクスト株式会社 経営企画室 兼 新規事業担当 マネージャー 鯨井輝一氏
■株式会社シード 代表取締役 吉川幸孝氏
■大和ライフネクスト株式会社 経営企画室 兼 新規事業担当 小泉香氏
■大和ライフネクスト株式会社 経営企画室 兼 新規事業担当 福田篤氏
「駐車場問題を解決したい」という共通の想い
――まず、どのように両社が出会い、共創がスタートしたのか。その背景からお聞きしたいです。
大和ライフネクスト・鯨井氏 : シードの吉川さんとは、デロイトトーマツ ベンチャーサポート社が開催するアクセラレーションプログラムを通して初めてお会いしました。大企業5社とベンチャー企業数十社が一緒に事業を共創するという内容のプログラムだったのですが、私たちは大企業側として参加しました。そこに、応募してくれた企業の中の1社が、名古屋を中心に「スマートパーキング」という駐車場シェアリング事業を展開していらっしゃるシードさんでした。
――吉川さんは、なぜアクセラレーションプログラムに応募しようと?
シード・吉川氏 : プログラムの担当者から、「大和ライフネクストさんは協力的ですよ」と勧められたのが直接的なきっかけです。それまで、分譲マンションの事業会社さん何社かと交渉をしてきましたが、なかなか前に進まなかったという経験をありました。ですから、「これでうまくいかなかったら、分譲マンションを攻めるのはやめよう……」と思っての応募でした。
――分譲マンション撤退直前での応募だった、と。大和ライフネクストさんはどういった点から、シードさんと組む意思決定をされたのでしょう。
大和ライフネクスト・鯨井氏 : プログラムには、約60社から応募がありました。その中で、シードさんが提供するサービスは、私たちの抱える課題のひとつでもある、マンションの空き駐車場問題を解決できる非常に有効な手立てになると感じました。シードさん以外からも、類似したサービスをご提案いただきましたが、最終的にもっとも私たちの会社や事業にフィットしたのがシードさんだったのです。
大和ライフネクスト・福田氏 : 選ばせていただいた大きな理由のひとつが、当社向けにカスタマイズしてご提案していただけたことです。空き駐車場を活用するという内容のご提案は、他社さんでもありました。ですが、シードさんは既存サービスにアドオンして、私たちのニーズによりマッチする形で、ご提案してくれたのです。
具体的には「駐車している間に洗車もできますよ」という付帯サービスなのですが、社内で「これは、確かにニーズがありそうだね」という話になりました。カスタマイズしていただいたことで吉川さんからの熱意を感じましたし、他社との差別化となりました。また、手軽に始められる点も決め手のひとつでしたね。
▲シードが提供している「スマートパーキング」。このサービスを導入すれば、初期費用・設備投資・ランニングコストゼロで簡単に駐車場運営ができる。IoT端末の入ったカラーコーンを設置するだけで、1台から駐車場運営が可能。現在、約2000カ所で導入されている。SmartParkingの説明動画
――「スマートパーキング」は専用のカラーコーンを置けば始められる手軽さは大きいですね。
大和ライフネクスト・鯨井氏 : そうですね。それに加えてお話ししておきたいのは、私たちの目的は「ベンチャーさんと組むこと」ではありません。「私たちが抱える駐車場問題を解決すること」です。個別にお話をしていく中で、シードさんなら私たちと同じ目線にたって、柔軟に対応していただけそうだと感じられた点も大きかったです。吉川さんは、こちらからの提案に対し、なんでも「やりましょう」と言ってくださいました。そこは、他社に突出していましたね。
――なるほど。吉川さんは、大和ライフネクストさんのどういった点(リソース・アセット)に可能性をお感じになったのですか?
シード・吉川氏 : 一番大きかったのは、大和ライフネクストさんが所有する物件の「立地」です。駐車場シェアリングサービスは、「予約制の前払い」と「リアルタイム性の後払い」の大きく2つに分類できます。「予約制の前払い」が得意なエリアはイベント会場周辺です。
一方、僕らのサービスは「リアルタイム性の後払い」。通常のコインパーキングのように、空いている駐車場を先着順でとり、そこから時間課金が始まるという方法です。この方法の場合、都市部の住宅地に比較的ニーズが多い。ですから、都市部の住宅地に管理物件をお持ちの大和さんとは、相性がよく組むことで事業を伸ばせる可能性も大きいと考えました。
第一の壁は社内説得⇒現場を巻き込みPJ化を推進
――アクセラレーションプログラムを通じて共創が始まったとのことですが、現在どのように進捗しているのでしょうか?
大和ライフネクスト・鯨井氏 : 現在、私たちが管理する都内の社宅で実証実験を始めています。社宅の敷地内にある駐車場2台分にシードさんの「スマートパーキング」を導入し、お客さまにご利用いただくというサービスです。ただ、滑り出しは好調というわけではありませんでした。――もともと、3カ月で3カ所以上の導入を予定していたのですが、実際に進めることができたのは1カ所となってしまったからです。
――予定を下回ったのはなぜでしょう。
大和ライフネクスト・小泉氏 : 私たちの現場サイドへの説明が難航したのが大きな理由です。机上の空論段階では「いいね」と言っていただけるのですが、現場のフローに当てはめると、「やっぱり、今はやめておいた方がいいんじゃない?」と踵を返されてしまったり……。
一番、懸念点として多く上がったのが、「駐車スペース周辺でネガティブな影響が出るのでは?」という意見でした。オーナーさんは、どちらかというと「守ろう」という意識が強いです。住民の方に不利益やご迷惑がかかるようなことがあってはいけない、ということで反発は大きかったですね。社内の担当も「顧客を守る」という意識が強いため、理解を得ることに難航しました。
――実証実験に進めることができた1カ所は、反発のある中、どのように説得を?
大和ライフネクスト・小泉氏 : リスクのないことを繰り返し説明して、協力してもらえるようお願いをしました。経営陣のゴーサインも出ている中で進めているプロジェクトだということも伝えながら、理解してもらったという感じです。
シードさんではなく別のベンチャーさんと進めているプロジェクトでは、社内の協力を取り付ける過程でお互いのスピード感の相違により、ベンチャーさんをガッカリさせてしまうようなこともあり、落ち込む日が続くこともありました。なぜ、こうもうまくいかないのか、課題に対して解決する術を模索しようとしているだけなのに…と。
大和ライフネクスト・鯨井氏 : 実は、社内からの理解を得るのに時間を要してしまうという経験から、私たちも学ぶところがあって、今年6月に部署横断型のプロジェクトを立ちあげました。現場の人たちにも参加してもらいながら、広くモビリティと不動産をテーマに、新しい事業創出に挑戦するプロジェクトです。現在は、そのプロジェクトの中のひとつの取り組みとして、シードさんと共創に取り組んでいます。
大和ライフネクスト・福田氏 : 先ほどもお話した通りですが、導入する際に「現場との温度差が生じてしまう」ということが大きな課題でした。お客さまの説得をすることも難しいのに、その前段階である社内の説得すらままならない。この状態では、将来この事業をスケールさせるときに必ず足枷となる。社内が“一枚岩”になるような組織づくりが必要だと感じました。今年の3月末頃に経営陣に部署横断型のプロジェクトの立ち上げを提案し、承認をもらいました。
――プロジェクトにはどんなメンバーが集結しているのですか?
大和ライフネクスト・福田氏 : 分譲マンションを管理する部門、寮・社宅や賃貸マンションを管理する部門、さらには工事部門、保険部門からもメンバーが参加しています。社内公募によりメンバーを募り、70名程度応募があった中から参画メンバーを決定しました。
新しいことに挑戦したいメンバー、現場で課題感を持つメンバーが集まっているため、とても士気は高いですね。当初は5、6名を想定していたのですが、最終的には十数名でスタートすることになりました。現場からたくさん応募があったことに対して、社長も喜んでいましたね。
▲部署横断プロジェクトメンバーと、シード・吉川氏。
――社内が“一枚岩”となり、お客さまに意志ある提案をする体制が整ったのですね。吉川さんもプロジェクトメンバーと接点をお持ちなのでしょうか?印象などがあれば教えてください。
シード・吉川氏 : 月1回か2回の頻度で打ち合わせを行っているのですが、その際に顔を合わせています。印象としては、僕の抱いていたイメージを、いい意味で裏切ってくれました。
というのも、大企業に所属して、分譲マンションを管理している人たちというのは、「大きく変化は望まない」というイメージがあったんです。どちらかというと保守的で、リスクをとらない――そんなイメージでした。ですから、お会いして議論をするまでは、「サービスのダメ出しばかりをされるのでは?」「関係者が増えることで、リスクをとらない方に進んでしまうのでは?」といった懸念がありました。
しかし、プロジェクトメンバーの皆さんは、非常に前向きな方ばかり。正直、驚きましたね(笑)。前向きな提案もたくさんいただけるので、本当に進めやすいです。
実証実験で見え始めた、事業化への兆し
――現在、実施されている実証実験での手ごたえはいかがですか?
シード・吉川氏 : 都内にある社宅の駐車場2台分で実証実験を行っています。成果としては、ゴールデンウィーク中は順調に売上が伸び、その後やや停滞して、最近になってまた盛り返しているところですね。社宅にお住まいの方のご友人などが遊びに来られた際に停めていらっしゃるようです。金曜から土曜にかけて、あるいは土曜から日曜にかけてのご利用が多い印象です。平日もちらほら、終日停めてくださる方が増えてきています。
大和ライフネクスト・鯨井氏 : 実証実験としてスタートはしていますが、収益も出始めているので、今のところは継続していくつもりです。この実証実験で得た実績をもとに、提案活動を強化していきたい。進める中で、また新たな課題もたくさん出てくるのだとは思いますが、プロジェクトメンバーとともに乗りこえていきたいですね。
――今後、この実証実験からどのように事業として進めていくご予定ですか?
大和ライフネクスト・福田氏 : 重要なのは「業界の課題を解決すること」と「事業として収益をあげること」を両軸で進めることだと思っています。もちろん慈善事業ではないので、収益のあがるビジネスモデルを構築する必要があります。実証実験を進めながら、そこの粒度を高めていき、できるだけ付加価値の高いサービスにしていきたいですね。なおかつ、私たちの既存事業とも接合できるような展開を考えています。
大和ライフネクスト・鯨井氏 : 兆しは見え始めているので、これからが楽しみです。
――吉川さんはいかがですか?今後、大和ライフネクストさんとともにどういう攻め方をしようとお考えですか?
シード・吉川氏 : 大和ライフネクストさんとお話をする中で、「こんな素晴らしい立地で、これだけもの台数が空いているんだ」と驚くことが多かったんですね。僕らのような駐車場屋からすると、非常にもどかしい。「スマートパーキング」を導入すれば、絶対に収益化することができるのに…。そんな率直な感想を持っています。ですから、そこを愚直に収益化していくことを目指しています。
また、大和ライフネクストさんと管理組合さんと弊社の3社が”HAPPY”にならなければ、この事業は継続しないと思っています。ですから、3社が”HAPPY”になる座組を組んで、しっかり事業として成長させていきたいです。そのためには、ひとつひとつの現場を大切にすることが重要だと思っています。
――「洗車サービス」をアドオンで付帯していくというお話もありましたね。
大和ライフネクスト・福田氏 : はい、吉川さんがおっしゃった通り、3社がWin-Winになるためには、収益ポイントを増やして、利幅を大きくしていかねばなりません。そういう意味でも、付加価値をつけていくようなサービスは増やしていきたいです。今後、シードさんと一緒に、サービスをどんどんブラッシュアップしていきたいですね。
当面の目標は、当社の管理物件に「スマートパーキング」をどんどん導入していくこと。さらには、大和ハウスグループ全体にも拡大していき、その先も何か仕掛けていきたい。私たちは、不動産や駐車場を持っています。モビリティの解決策を持っていらっしゃるベンチャーさんと組むことで、化学反応を起こし、世の中に新しいものを生み出していきたいです。
大和ライフネクスト・小泉氏 : 大和ハウスグループへの展開という点では、当社のグループ会社である大和ハウスパーキングにもシードさんをご紹介しました。大和ハウスパーキングとも共創が進みつつあるということですので、当社としても応援していきたいです。
また、私は吉川さんから非常に刺激を受けています。吉川さんは20代でお父さまから駐車場経営を引継ぎ、IoT機器を活用しながら、地道に営業活動を続け、2000カ所に導入されるまで事業を育ててこられました。まだ27歳という若さで、です。そういった方と一緒に事業をつくれること自体が、自分の経験値を高めるよい機会になっていると思います。
取材後記
終始、和やかな雰囲気で進んだ今回の取材。両社が同じ目線に立って、空き駐車場を活用したビジネスの創出に注力している様子が伝わってきた。約36万戸ものマンションを管理する大和ライフネクスト。まだまだ新たなビジネスを生み出せる可能性は存分にあるはずだ。同社は引き続き、期間を定めず、共創パートナーを求めているという。生活の場で活用できるサービス・プロダクトをお持ちの方は、ぜひコンタクトをとってみてはどうだろうか。
※大和ライフネクストのオープンイノベーション活動についての詳細はコチラから。
(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)