最優秀賞は「建機×eスポーツ」!? | 建設業界を“COOLに変える”コマツアイデアソン開催!
建設機械をグローバルに展開するコマツが、国内では初となるアイデアソンを4月19日に開催した。アイデアソンのテーマは、“働き方、建設現場をCOOLに変える”新しいアイデアの創出だ。
建設業界は、今、深刻な労働不足に悩んでいる。若手の流入が少なく、高齢化が進む中で、担い手の健康維持や安全性の確保、ベテランの技能をどう伝承していくかなど、さまざまな課題を抱えている。それらの問題に対して、ソリューションを提供すべく動き出しているのが建機メーカーのコマツだ。コマツの特徴は、“現場を大切にしていること”。同社の視点は、決して建機の供給だけにとどまることはない。建設現場全体を見渡し、いかにテクノロジーを駆使して建設現場をユーザ視点で変革していくかにまで広がっている。
今回、コマツ主催で開催されたアイデアソンでは、 「働き方、建設現場をCOOLに変える。」をテーマとして、社内外からメンバーが集まり、丸1日かけてアイデアを創出した。この記事では、各チームから出たアイデアの内容を中心に、イベントの中身を紹介していく。
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社外メンバーとコマツ社員がタッグを組んで、アイデアを創出
会場となったインキュベーション施設「CO☆PIT」(東京・品川)には、朝からアイデアソンに参加するメンバーたちが続々と集まった。今回開催するアイデアソンの特徴は、建設業界とはまったく異なる業界からもメンバーを募り、コマツの社員とチームを組んで新たなアイデア創出を目指す点だ。
社外からは、大手メーカー、AI・音声処理・ブロックチェーン系のベンチャー、ゲームやヘルスケア業界など、多種多様なバックグラウンドを持つメンバーが参加した。社外から参加した3~4名に加え、コマツ社員が2名入る形でひとつのチームが構成され、合計A〜Fの6つのチームが結成された。
また、メンター・審査員は以下の6名が務めた。
【メンター・審査員 (6名)】
■内閣府 政策統括官付 イノベーション創出環境担当 企画官 石井 芳明氏
■DNX Ventures Managing Director 中垣 徹二郎氏
■東京急行電鉄株式会社 東急アクセラレートプログラム運営統括 加藤 由将氏
■コマツ 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家 千佳史氏
■コマツ 開発本部 ビジネスイノベーション推進部長 浅田 寿士氏
■コマツ CTO室 PM 冨樫 良一氏
6チームから生まれたアイデアの中身とは?
個人およびグループでのブレスト、アイデアの抽出、中間発表、メンターからのレビューをへて、A〜Fの各チームはアイデアを練り上げた。その後、各チーム5分の持ち時間でプレゼンテーションを行った。ここからは、最終発表会でお披露目されたアイデアの中身についてご紹介する。
(1) コマツ×『 宇宙開発 』 (by チームE)
トップバッターであるチームEから生まれたアイデアは、コマツの建機が将来、地球を飛び出して、宇宙で活躍するためのロードマップ案を示したものだ。宇宙で建機を動かす前提として、「宇宙空間でどう動かすか」「建機をどう運ぶか」の課題に着目し、「ソフトウェアの再構築」と「ハードウェアのリデザイン」の2つの側面でアイデアを深めた。
「ソフトウェアの再構築」では、完全にリモートで宇宙にある建機を動かすために、オープンプラットフォーム化し、技術革新を促進。建機の無人化・自動化・協業化を実現し、宇宙での完全リモート操作を目指すと説明。また、「ハードウェアのリデザイン」では、3Dプリントメーカーなどと共創し、宇宙に送り込むための軽量かつ無人操作可能な建設機械の開発を目指すという。
100年後には、月や火星といった宇宙空間で、コマツの建機が活躍し、人の住める街をつくるという、壮大なロマンの溢れる未来を描いた。
(2) コマツ×『 子供が遊べる現場 』 (by チームC)
次に続くチームCのプレゼンは、そもそも「現場について知られていないから理解がない」という課題感を起点に、「地球(建設現場)を子どもたちの遊び場にしよう」というアイデアを展開した。具体的には、実際の建設現場で、本物の建機を使って子供たちに遊んでもらう、という内容だ。
「建機操作で子供たちを引き付け」、「ランクアップにより乗れる建機を増やしていき」、「操作した建機に“いいね”が付く」という流れを描く。乗れる建機を確認できる一覧をつくり、そこを見れば「建機のスペック情報」や「建機でできること」「プロの超絶技法」も知ることができる仕組みにすると説明した。
外部への露出を増やすことで、将来的には、車や鉄道と同じように、建機マニアをつくっていくことを目指すと締めくくった。
(3) コマツ×『 KaaS 』 (by チームD)
続いてDチームのプレゼンでは、労働力不足をテレオペレーションで解決するアイデアが提案された。Dチームは、建設業界が抱える深刻な人材不足に注目し、“工事現場”と“人材”の間にある需給バランスの乱れを改善するための、プラットフォームづくりを構想した。その名も「KaaS(Kenchiku as a Service)」だ。
「KaaS」は、AIを活用しながら、現場情報・人材技術情報・居住地情報などを軸に、工事現場と人材をマッチングするという仕組みをとる。現状をふまえ解決すべき問題が、「勤務地ギャップをなくすこと」と「登録者を増やすこと」だと考え、まず勤務地ギャップへの打開策として、5G通信の活用により「遠隔オペフリーランスの育成」を提案した。さらに、手の動きや脳波だけで建機を動かせる仕組みも解説した。
また、登録者を増やすための施策としては、eSportsを取り入れた「ゲーミフィケーションの活用」を構想する。仮想通貨を活用した報酬なども用意し、登録者がメリットを感じる工夫も提案。最終的に、災害時など高度な技術が必要な際には、「世界のTOPオペレーターがテレオペで作業し、問題を解決する」という未来を描いて、プレゼンを終えた。
(4) コマツ×『 健機食堂 』 (by チームA)
デジタルテクノロジーから一変し、心温まるプレゼンを展開したのがチームAだ。チームAが提案するアイデアは、建設現場と地域をつなぐコミュニティとして機能する「健機食堂」をつくるというもの。
「健機食堂」は、建設現場の閉鎖的なイメージをオープンにし、ワクワク感を共有できるスペースを目指す。具体的には、「KOJI CHA」や「建設カレー」といった健康増進・集中力向上をコンセプトとしたメニューを提供。また、プロジェクト工程をエンタメ化したり、プロジェクトに合わせた体験なども提供したりすることで、建設現場における住民参画・地域共存も実現していくという。同時に、労働者の健康増進や意欲増進にもつなげていく狙いだ。
ネガティブに捉えられがちな建設現場のイメージを、「健機食堂」という食を通じたコミュニティにより、COOLに変えていくビジョンを描いた。
(5) コマツ×『 K-SPORTS 』 (by チームB)
続くプレゼンはチームB。チームBのアイデアは、「建設=3K」というイメージを、eSportsならぬ「K-SPORTS」を通じて、刷新することを目指す。具体的には、建機を活用した競技を、「リアル」と「バーチャル」の両軸で仕掛けていくという内容だ。
まず「リアル競技」では、砂山をブルドーザーで削る、ダンプカーに積み込む、砂をならして成形する、といった工事現場で実際に行われていることを競技化、あるいは油圧ショベルでジェンガ対決するといった新しい競技を想定する。
また「バーチャル競技」では、バーチャル空間で建機を操作する「パイロット部門」、河川拡張工事などの仮想ミッションを遂行して報酬を得る「ストラテジー部門」、人に見立てた建機をつくる「人型建機部門」、さらに建機デザインコンペ開催といった提案が盛り込まれた。
「K-SPORTS」を入り口として、将来的には建機開発者や建機のトップオペレーター、オリジナルメカデザイナーなどを育成していくロードマップも提示。さまざまなカテゴリで登りつめたドリームチームが、3Kの意味を「3K=Komatsu・Kenki・Kakkoii(コマツ・建機・カッコイイ)」に変えていくとアピールした。
(6) コマツ×『 コマツニア 』 (by チームF)
最後のプレゼンはチームFから。チームFは、「コマツニア」という職業体験のできるテーマパークを提案した。「コマツニア」は、未来の建設業界を担う子供をメインターゲットとして展開する構想だ。具体的なコンテンツとしては、実機・VR・コスプレによる「建機オペレーション体験」、過去から現在に至る「技術進歩の体験」、さらに「未来の建機を自分たちで作る体験」などを企画する。
これにより、建設業界のイメージがよくなり、建設業界に興味を持つ子供が増加。さらに若手建機オペレーターの増加へとつなげていく考えだ。将来的には、「コマツニア」出身の子どもたちが、世界で活躍する未来を描いて、最後のプレゼンは終了した。
栄えある受賞に輝いたチームは?
さまざまな切り口から提案された6つのアイデアに対して、厳正な審査が行われ、「コマツ賞」と「最優秀賞」の2チームが選出された。「コマツ賞」は事前公表されていなかったが、今回特別賞としてサプライズで準備されていたもの。
ドラムロールが鳴り響く中、受賞に輝いたチームは……
コマツ賞…チームAによる 『 健機食堂 』
最優秀賞…チームBによる 『 K-SPORTS 』
に決定!
コマツ賞は、コマツ・開発本部 浅田氏より発表された。浅田氏は、「コマツとは全く考え方の違う“意外性”が評価のポイントだった」とし、「建設現場でコミュニティを形成するというアイデアに破壊力があり、現場感を大事にしているコマツとも合致する内容だった」と、選出の理由を述べた。
▲チームAの4名は、同じ会社の同期入社メンバー。チーム代表者からは「みんなで祝杯をあげたい」との感想が寄せられた。
最優秀賞は、コマツ・執行役員 四家氏より発表。四家氏からは、「実機での競技から入り、デジタルの世界へ入っていく。さらに、スポーツとしてだけではなく、スポーツを通して技能が磨かれ、今までになかった施工方法も生まれる。最終的にはドリームチームが生まれるという、とても筋のよい内容だった。スマートコンストラクションの先にある、すぐにでも活かせそうなアイデアだと感じた」とのコメントが語られた。
▲チームBのメンバーからは、「建設機械の未来を、本当に実現したいとの熱い想いとともに発表した。最優秀賞受賞という結果となって、とてもうれしい」との感想が述べられた。
なお、受賞チームには賞金として、コマツ賞18万円、最優秀賞30万円が贈呈されたほか、参加者全員にコマツオリジナル「建機のミニチュア」がプレゼントされた。
メンター・審査員からの全体講評
DNX Ventures 中垣氏は、「アイデアソンのよさは、考えもしなかったアイデアが出てくること。メンタリングをしながら、各チームのアイデアを見ていると、自分からもアイデアが湧き上がってきた。普段考えているテーマに、別の考え方を足すことで、次なる発想の機会をもらえる。そういう意味で、とてもおもしろかった」と語った。
▲DNX Ventures Managing Director 中垣 徹二郎氏
コマツ・CTO室 冨樫氏は、「コマツとしては3回目のアイデアソンだが、日本では初めての開催ということで、楽しみであり不安もあった。1日を終えて、とても実り多かったし、今後の期待も持てそうだという感触を得ている。アイデアの広がりもあったし、柔軟性も残っている。もう少し時間を延ばせば、さらにすごいアイデアが生まれるのではないかとも感じた」と講評を述べた。
▲コマツ CTO室 PM 冨樫 良一氏
内閣府・石井氏は、「オープンイノベーションは、日本の国力向上を考える際にとても重要だが、なかなか進まない。特に大企業では難しいと常々感じていた。今回はコマツさんのアイデアソンということで、楽しみにしていたし、実際とてもおもしろかった」と感想を述べたうえで、「コマツさん社内で開催したアイデアソンより、いいアイデアが出てきたと聞いている。今回の事例をもとにオペレーションを広げていくと、日本のオープンイノベーションは、さらに活性化するのではないか」と期待を込めて語った。
▲内閣府 政策統括官付 イノベーション創出環境担当 企画官 石井 芳明氏
また、東京急行電鉄・加藤氏は、自身の経験をふまえ、「アイデアソンやハッカソンで勝ち残るポイントとして、主催する会社の戦略を徹底的に分析するといい」とアドバイスしたうえで、「今回は2チームが選ばれたが、決して優劣をつけるものではない。この経験を活かし、こういったプログラムにどんどん参加し、トライアルを繰り返してほしい」とエールを送った。
▲東京急行電鉄株式会社 東急アクセラレートプログラム運営統括 加藤 由将氏
最後にコマツ・CTO室の田畑氏より、「社外の方々が、こんなにも真剣に私たちが抱える課題について考えてくれたことに、とても感動している。今回、社外の方々とコマツ社内のメンバーとが共創することにこだわって企画したが、見事に化学反応を見ることができた」と、閉会の挨拶を行った。こうして、コマツ アイデアソンは盛況のうちに幕を閉じた。
▲コマツ CTO室 技術イノベーション企画部長 田畑 亜紀氏
▲アイデアソン後には、懇親会も開催。会社やチームの垣根を超えて交流が深まった。
取材後記
多様なバックグラウンドを持ったメンバーが同じ場に集まり、日本が抱える深刻な課題に対してアイデアを出し合った本アイデアソン。「宇宙ビジネス」「プラットフォーム」「5G」「eSports」「仮想通貨」など、ビジネスシーンでのバズワードと、旧来の建設業界が組み合わされ、アイデアが生まれていく様子が印象的だった。社内だけだと凝り固まりがちなアイデアも、外部から新しい風が吹き込むことで活性化すると実感できるイベントになったと言えるだろう。今回のアイデアがどのように実用化されていくのか。今後の動向にも注目していきたい。
(構成:眞田幸剛、取材・文:林綾、撮影:加藤武俊)