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北海道ガス×スタートアップによる3つの共創プロジェクト。その裏側に迫る。

北海道ガス×スタートアップによる3つの共創プロジェクト。その裏側に迫る。

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2018年から「KITAGAS SMART LIFE ACCELERATOR」という独自プログラムを展開する北海道ガス(以下、北ガス)。先日、eiiconでは同社とスタートアップ4社による以下の共創事例を披露したDEMO DAYの模様をお届けした。

【共創01】GREEN UTILITY株式会社×北海道ガス株式会社

「モバイルバッテリーシェアリング×北ガスの電気」

 

【共創02】カマルクジャパン株式会社×mui Lab,inc.×北海道ガス株式会社

「家具サブスクリプション×IoTインテリア KITA LIFE STYLE」

 

【共創03】株式会社STORY&Co.×北海道ガス株式会社

「AND STORY」×北海道ガス 体験シェアリング「アウタビ北海道」

今回、本記事ではDEMO DAYのレポートとは趣向を変え、北ガス担当者とスタートアップ各社の代表者に登場いただき、トークセッション形式でじっくりと話を伺った。共創に至るまでの経緯からプロジェクトを進める中で感じた壁や課題をどのように克服したのかなど、大企業×スタートアップによる、オープンイノベーションのリアルな舞台裏をお伝えしていきたい。

トークセッション① 【北海道ガス×GREEN UTILITY】

北ガスとGREEN UTILITYは、モバイルバッテリーシェアリング事業で共創し、実証実験を行っている。この共創プロジェクトでは「持ち運べる北ガスの電気」をキャッチコピーとし、GREEN UTILITYの提供するモバイルバッテリーシェアリングサービス「mocha」のステーションを空港・駅などを含む、札幌市内中心部約40ヶ所に設置。そして、利用情報をもとにお客さまにとってより使いやすいサービスにするため、ニーズ分析を実施した。

このプロジェクトをメインで推進したのが、北ガス・齊藤氏とGREEN UTILITYの社長・李氏。両氏に詳しく話を聞いた。

▲北海道ガス エネルギー企画部 エネルギー企画グループ 主任 齊藤圭司氏

▲GREEN UTILITY株式会社 取締役社長 李展飛氏

●エネルギーのその先へ。災害時でのバックアップにも

――今回、北ガスのプログラムに応募したキッカケを教えてください。

GREEN UTILITY・李氏 : eiiconでプログラムを知り、応募しました。北ガスさんはエネルギー業界において道内で非常に有名な企業ですし、大学の時からエネルギー工学を専攻していたことも理由の一つです。

――それでは北ガス・齊藤さんに伺います。GREEN UTILITYさんの採択にはどういった理由があったのでしょうか。

北ガス・齊藤氏 : 「エネルギーのその先のサービス」を探したいという思いがありました。お客さまにより良いサービスを提供したいと考えた時に挙がったのが、スマホのモバイルバッテリー。世界中誰しもが持っているスマートフォンですが、充電に悩んでいる人が少なからず居ると感じていたので、そこに刺さる良いサービスが展開できる思ったのが採択の理由です。また、昨年我々も地震によるブラックアウトでスマホの充電に困った経験があったので、災害時バックアップとしても非常に良いサービスになり得るのも理由の一つですね。

――去年の10月くらいから始まった本プログラムですが、2社間でどのように話を詰めて実証実験を進めていったのでしょうか。

北ガス・齊藤氏 : まずはステーションの用意や設定といったところをGREEN UTILITYさんにお願いしました。一方で設置場所が非常に大切になるので、その場所を我々が交渉していきました。GREEN UTILITYさんは昨年の8月にできたばかりのスタートアップなので、アプリ改修などを重点的にやってもらい、我々は営業を中心にやっていこうという組み合わせですね。それと並行して、どのようにサービスを周知させていくかのプロモーション部分、販促物の制作については2社で協力して進めました。

GREEN UTILITY・李氏 : 寒冷地に機器を届けるのが初めてで、我々も知識がなかったのですが、その辺りは北ガスさんからとても配慮していただきました。立ち上げたばかりの会社で、リソースも全然足りていなかったんですが、現地で一緒にステーションの組み立てやチラシの作成なども手伝っていただけたので、すごく助かりました。

――実証実験を進める中で、最大の課題となったのはどのような点でしょうか。

北ガス・齊藤氏 : 馴染みがあるサービスではないというところですね。まずどのようにサービスを知ってもらって、使用していただくかの部分が課題でしたが、テレビや新聞で大きく取り上げていただいて、多くの人に知ってもらうことができたので、有効なプレスリリースができたと思っています。

 

●データ活用という新たな展開や、協業の幅も広がった。

――2月上旬から実証実験をスタートされていますが、現状どのような反応がありますか?

北ガス・齊藤氏 : プレスを出した直後にアプリダウンロードが100倍近く急上昇しました(笑)。利用状況からどのステーションで借りてどこで返すのかという動線も見えてきたので、そのデータをどのように活用するか、さらなる展開も見えてきました。

――実際に利用された方からはどのような反響がありますか?

北ガス・齊藤氏 : 皆さんブラックアウトでスマホの充電に困った経験をされているので、設置場所である商業施設の方からは、お客さまにもモバイルバッテリーを提供することができて安心感があるという声をいただいています。飲食店にも置いていますが、アプリからステーションの設置場所一覧が確認できる仕様になっているため、それを見てお客さまが来てくれたら嬉しいという声もありますね。Twitterなどでも反響を見ていますが、前向きな意見ばかりです。

――社内の意見としては後押しの声やフィードバックがあったりしますか?

北ガス・齊藤氏 : 弊社は色々な飲食店さまと協業させてもらっています。例えば北ガスのポイントを飲食店で使えるグルメチケットと交換するなどの取り組みなのですが、新たな協業の取り組みの1つとしてモバイルバッテリーを設置することで相互にメリットのある形で拡大していけるのではないか、という期待の声はあがっています。

――今後、両社の共創プロジェクトの展開はどのようにお考えでしょうか。

北ガス・齊藤氏 : 3月末までが今回のプログラムの期間なので、まだ継続が決定しているわけではないんですけど、反響もあるので継続の方向で社内で検討しているところです。

GREEN UTILITY・李氏 : もっとステーションの数を増やして、利便性を高めて継続していければ嬉しく思います。

トークセッション②【北海道ガス×mui】

次に、トークセッション②〜③で登場するのは、「家具サブスクリプション×IoTインテリア KITA LIFE STYLE」という実証実験をスタートさせた北ガス 稲垣氏・安岡氏と、mui代表・大木氏、カマルクジャパン代表・町野氏だ。

木製IoTデバイスを提供するmui Labとカマルクジャパンが提供する家具サブスクリプション型サービス「subsclife」は、北海道のお客さまに対してモニターサービス「KITA LIFE STYLE」の提供をスタート。アンケート調査・モニター募集を実施後、モニター希望者に対してはサービス提供を開始予定となっている。――この共創プロジェクトの裏側について、ざっくばらんに語っていただいた。

<写真左> mui Lab, Inc. Co-Founder CEO 大木和典氏

<写真右> 北海道ガス エネルギー企画部 エネルギー企画グループ 課長 稲垣利陽氏

●情報デバイスの快適化で、本質的価値をもっと知ってもらいたい

――北ガスのプログラムに応募した動機を教えてください。

mui・大木氏 : eiiconさんからの案内で知り、応募しました。muiはスマートフォン向けのプロダクトサービスやユーザーインターフェースをやっているので、相性がいいかなと。インフラ企業とのコラボで販路も広がるかなと思いました。

――今回のプログラムでmuiを採択した理由はどういったものがあったのでしょうか。

北ガス・稲垣氏 : 我々の課題は「お客さまとの接点の持ち方」、特に情報の伝達手段に焦点を置いています。私たちは電気やガスといった本質的には目に見えなく、差別化が難しいものをお客さまに提供しています。目に見えないものをお客さまにきちんと伝えるには、目に見える形に変換しなければなりません。

ただ、これまでは検針票やwebを通じて使用量を発信するなど、バリエーションが多くありませんでした。少ないバリエーションだと均一化してしまい、お客さまに不快な思いをさせることもありえます。エネルギーを通してお客さまに快適性をお届けするなら、それを伝える情報デバイスも快適でなければならないという仮説を立てました。

muiさんのデバイスで情報伝達することで、我々が持っている本質的価値である快適性ををよりお客さまに知っていただくことができるのではないかと思い、採択に至りました。

――共創がスタートして準備を始めたのはいつくらいですか?

北ガス・稲垣氏 : 2018年10月くらいです。

――muiの方では北ガスさんと一緒に仕事をして行く中で、インフラ企業へのイメージが変わったなと思った出来事はありますか?

mui・大木氏 : 打ち合わせが東京のWeWorkだったんですけど、それがまず意外でしたね(笑)。最初からフットワークが軽いのも印象的でした。採択前なんですけど、原宿でイベントをしたことがあったんですよ。そこにWeWork経由で北ガスさんがフードスポンサーになってくれたりして。ビジネス以前に「人と人」として支援してもらえるっていうのは嬉しかったですね。本質を見て支援してくれているところが印象に残っています。

――去年の10月から「KITA LIFE STYLE」という取り組みを進めていますが、その中での課題や解決に至ったお話などありましたら教えてください。

北ガス・稲垣氏 : そもそも我々も人的リソースがそんなに多くないので、PoCを何社とどれくらい回していけるかを考えた時に、大体3社くらい、という結論に至ったんですね。muiさんのデバイスをカマルクジャパンさんのサブスクと組み合わせることで、スタートアップ同士の新しい可能性も発見できるんじゃないかというのもあって、「KITA LIFE STYLE」という取り組みの中に両社を入れ込みました。その後PoCを進めて行く中でユーザーアンケートやインタビューというプロセスを踏んでいきましたが、ある程度想定していた以上の件数は揃ったし、全体的にスムーズに進んだのではないかと思っています。

mui・大木氏 : これからローンチされるプロダクトにも関わらず、よくそれで採用するなと(笑)。普通だと採用されなかったりするので、チャレンジングなことを一緒にやってくれるというのは嬉しいですよね。データの状態も認識してくれた上で、それをどう実装していくかを一緒に作れたというのは大きいかなと思います。

――「KITA LIFE STYLE」をカマルクジャパンさんも交えて一緒にやっていくという座組みを聞いたときは、muiさんはどんな印象を持たれました?

mui・大木氏 : 言うのは簡単だけど難しいんじゃないかと思いましたね(笑)。今回のアクセラレータープログラムは期間が決まっているので、その中で必ずしも全ての取り組みはできないというのは他でも経験して感じていることなんですけど、他と違うのはチーム内で完結できていること。

他社さんだと上に判断を仰いで、みたいになりますけど、北ガスさんはチーム内に権限があるという感じなので、きちんと取り組みできるかなと思える印象でした。

●分散型電源やHEMS、BtoBの事業化。新たな価値を生み出す展開へ

――今後どのように取り組みを展開していこうと考えていますか?

北ガス・稲垣氏 : 今はBtoCのお客さまにモニターという形で提供させてもらっていますが、法人営業の部分にリソースを割いて、何社かお話もしています。例えばホテルにmuiさんのデバイスを介しておさまとコミュニケーションを取る仕組みを提案したり。興味を持たれている方も結構いらっしゃるので、BtoBの部分を進めていこうと考えています。

mui・大木氏 : ロングショットで見ると、分散型電源を作るというのが国策でありますし、分散型電源がネットに繋がるとも言われているので、そういうところにmuiのインターフェイスを繋いでけたらなと思っています。BtoBでもBtoCでもいいですし、もともと取り組みとして考えていたHEMSも2025年以降増えると思うので、継続していけると長い付き合いができるのではないかな、と思っています。

トークセッション③【北海道ガス×カマルクジャパン】

<写真左>カマルクジャパン株式会社 代表 町野健氏

<写真右>北海道ガス エネルギー企画部 エネルギー企画グループ 安岡弥生氏

●エネルギー会社は究極のサブスクサービス。人生のクロスポイントをさらに豊かに

――北ガスのプログラムへ応募したキッカケを教えてください。

カマルクジャパン・町野氏 : カマルクジャパンは家具のサブスクサービスを展開している会社で「月額いくらで手軽に使える」というサービスを提供しています。実は、北ガスさんは究極のサブスクサービスだと思っていて。1番すごい月額課金のビジネスモデルですよね。僕らの家具もそこにのせたいなと思ったのが理由です。

――カマルクジャパンさんの採択の理由を教えてください。

北ガス・安岡氏 : エネルギー会社なので、ガスの開栓契約作業などでお客さまの引っ越しのタイミングに立ち会う機会がとても多いんですね。新生活の始まりって分かりやすいクロスポイントで。カマルクジャパンさんから実際に家具のラインナップを見せてもい、これがあれば新生活がもっと楽しくなるなと感じました。家の中を快適にする新しいサービスとしてやっていきたいと思ったのが採択の理由です。

――カマルクジャパンさんは北海道地盤の企業を組むのは初めての取り組みですか?

カマルクジャパン・町野氏 : そうですね。

――色んな企業さんと共創していくことはこれまでもあったと思いますが、北ガスさんと組んで新しく見えてきたものや、他の企業と違う部分などありましたら教えてください。

カマルクジャパン・町野氏 : 僕らはいろんなメーカーさんから家具を仕入れているんですよ。もちろん自社家具もあるんですけど、北海道の地場の家具屋さんを僕らで仕入れてサブスク化して、北海道の人に納品して、みたいなのができたら面白いなと思いましたね。道内完結というか。エリアに強いところと組むと、そういうこともできて面白いなって思いました。

もともと北海道のユーザーさんもポツポツいらっしゃるんですけど、福岡のメーカーの家具もあれば首都圏のメーカーの家具もあるので、そこから送るとなると送料が高くなって大変なんですよ。お客さまに跳ね返ってしまうので。地産地消ってすごくいいなと思いました。

――2社で共創していく中でのハードルや、それを乗り越えたエピソードなどはありますか?

カマルクジャパン・町野氏 : 僕らは全然ストレス無くやれました。むしろ北ガスさんは大手企業なので、社内をどう突破して進めていくか、といったことの方が大変だったと思います(笑)。

北ガス・安岡氏 : 今回のプログラムの中では、実際にものをお渡しするなど、エンドユーザーに1番影響を与えるものなので、3ヶ月という期間の中でどうやって取り組みを進めるか、という話はありましたね。実際にお客さまに商品をお使いいただくところにこだわっていたんですけど、今回の期間内で取り組みをするなら、広く意見を取るということにも注力した方がいいということになり、個人のお客さま向けの様々な業界へのヒアリング調査などを行い、積極的に意見を頂きました。

――サブスクというビジネスモデルは、北海道の方々にとっても新しいビジネスモデルだと思いますが、調査の中でどのような意見が見られましたか?

北ガス・安岡氏 : 弊社の営業マンに紹介したり、自分でディベロッパーさんたちに赴いてお話を聞かせていただいたりしたんですけど、ほとんどの担当者から「いいサービスだね」という声を頂戴しています。

――今後どのようにビジネスを展開させていくのか、展望を教えてください。

カマルクジャパン・町野氏 : 現状、アンケートも実証実験もして、ニーズを捉えてやっているんですけど、家具の種類がかなり多いんですよ。25,000種類くらいあるので、ターゲットの人たちに向けて、商品を絞り込んでいくことをやっていきますね。次の引っ越しニーズに向けて、この半年くらいでプランニングをして夏からしっかり仕込んでいきたいと思っています。

北ガス・安岡氏 : 具体的な相談はこれからですけど、社内外含めて種まきをしてきたと思っているので、いい形でご提供できるようにしたいと考えています。

●北海道は支店経済都市。地域に合わせたサービスをリーチしていく

――カマルクジャパンさんとしては、北海道というフィールドに市場の可能性はありそうだなと思いましたか?

カマルクジャパン・町野氏 : ありますよ!(笑)北海道だけでマーケットを形成しているので、北海道という塊を捉えて何をやっていくか考えるのは面白いですよね。僕はマーケティング専門なので、日本でビジネスをすることを考えたら首都圏中心、東名阪どうするかと、とは考えるんですけど、北海道って首都圏みたいなものですよね。札幌に集中してたりもするので、よりターゲティングしやすい。

北ガス・安岡氏 : エリア特性でいうと、札幌市は支店経済なんですよ。アンケートでも見えてきたんですけど、単身赴任や大学進学で一定期間の1人暮らしのニーズが結構あって。単身の方向けのサービスの作り方もリーチしていきたいなと思っています。

トークセッション④【北海道ガス×株式会社STORY&Co.】

トークセッションの最後に登場するのは、北ガス・松森氏とSTORY&Co.の代表・細川氏だ。

STORY&Co.が運営する、伝えたい人とやってみたい人をつなぐ体験シェアリングサイト「AND STORY」と北海道ガスは、北海道を元気にするプロジェクト「アウタビ北海道」を立ち上げ、北海道の地域・人々に対し、共感で繋げる体験を提供する。

実証実験では①「食」・②「ものづくり」・③「人に会う旅」をテーマとしたキックオフイベント「旅するトーク」を3回開催し、またニーズ調査を実施し、地域活性化につなげるために、自治体や他企業との連携を模索した。――この共創プロジェクトについて、両氏に話を聞いた。

▲北海道ガス エネルギーサービス事業本部 スマートエネルギー推進室 主任 松森拓東氏<写真左>

▲株式会社STORY&Co. 代表取締役 細川拓氏

人の魅力で地域の課題解決を目指す

――今回のプログラムへの応募のきっかけを教えてください。

STORY&Co.・細川氏 : AND STORYというサービスを始めて1年くらいなんですけど、色んな体験をしてほしいということで「3時間で小さな旅」というのをテーマに事業を展開しています。距離の問題ではなくて、未知なる人との出会いや体験を「旅」と呼んでいます。

僕自身旅が好きなので、オンライン的な意味の旅もしたいなと思っていて。東京だけじゃなくて他のエリアもやっていきたいという思いがあり、四国電力さんとお仕事させてもらったこともあったので、北海道でもやりたいなと思ったのがきっかけです。

――色んな企業から応募があったと思うんですけど、その中でSTORY&Co.さんを採択された理由はなんだったのでしょうか。

北ガス・松森氏 : 北海道は人口減少や、過疎化という課題がありまして、それは他県よりも進んでいます。そして北海道ガスは、地場企業として北海道を元気にしたい、盛り上げていきたいという想いを持った企業です。ストーリーさんと組み、北海道の魅力的な人を道内外に発信することで、まずは道外から人を呼び込み、ゆくゆくは移住に繋げていけたらなと考え、採択しました。

●一点突破の強い思いが新たな展望を生み出す

――細川さんは北ガスさんのようなインフラ企業にどんなイメージをお持ちでしたか?

STORY&Co.・細川氏 : インフラ企業の方に共通している事って、安心安全にサービスを提供する仕事柄、しっかりした方が多い傾向にあると感じていて。でも北ガスさんの蓋を開けてみたら、いい意味で覆されましたね(笑)。

――いい意味で覆されたというのは、具体的にどのようなイメージから変わったのでしょうか。

STORY&Co.・細川氏 : これまでいくつかの企業と協業させていただことがありますが、スタートアップと大企業を並べると、体力的に足並みが揃わないこともありますし、スタートアップの技術が弱かったりすることもあります。――その中で「この1点突き抜けるんだ」という気持ちを持って取り組めるのって、一緒に組ませていただく方の「想いの力」がすごく大きく影響するんですね。

体験を通じて人と人とを繋げる、人の魅力をもってして、それが北海道の魅力だと言えるんだっていう想いが北ガスの皆さんにはあります。その想いの強さがあったからこそ、実証実験を成功させることができたんじゃないかなと考えています。

北ガス・松森氏 : 自分で言うのも何ですけど、業界の中では北ガスはスピード感がすごくあるほうと思います(笑)。

STORY&Co.・細川氏 : そうですね(笑)。あと、北ガスさんだけじゃなく、北海道の人たちの北海道への想いって、すごく強いんですよ。郷土愛というか。

北ガス・松森氏 : 郷土愛は道民の中でよく言われていることなんですけど、半信半疑だったものが確信に変わりましたね。今回の取り組みで細川さんと一緒にたくさんの道民の方々にお会いしたんですけど、みんな北海道のことが本当に好きで。

実は今回のプログラムの中で「なぜでこれをやるの?」と言われ続けたプログラムなんですけど、北海道が元気になるのはいいことだ、という直球だけを投げ続けて三振が取れたようなもので(笑)。いざスタートしてみると、本当にみんな北海道のことが好きなんだな、ということが改めて分かりましたし、それで見えてきた協業のメリットもあります。これからの展望も見えてきたので、1歩踏み出せたのはすごく大きかったなと。

――郷土愛という一点突破で貫くことができたのは、北ガスの中でも郷土愛があったからですか?

北ガス・松森氏 : それもあると思います。正直途中までは認めてもらえると思ってなかったので。それが実現したということは、きっと重役の人にもバックボーンというか、郷土愛が多少なりともあって、だからこそやってみるかと思ってくれたのかなと。

――昨年の10月に協業が決まって、実際に「アウタビ旅北海道」や「旅するトーク」の取り組みをされていますが、一緒に共創していく中で印象的だった話などあればお聞かせいただけますか?

北ガス・菊地氏 : 先ほどもお話しましたが、今回の案件の中でこのチームが1番「なぜこれをやるのか」と問いかけられていたんですよ。ただ「絶対に北海道の人たちのためになるから一度やらせてください」と伝え続けて。最終的に執行役員の前谷から「じゃあやってみろ」と許可がおりて、旅するトークの第1回目に来てくれたんです。

そしたら「すごくいいね」と言って、関わりがある会社さんにもご紹介してくれたんです。実務レベルの私たちが、強い気持ちを持って上の人を説得して、きちんと理解されることがあるんだっていうのを目の当たりにして感動しましたね。

▲北海道ガス エネルギー企画部 エネルギー企画グループ 菊地唯莉氏

――「旅するトーク」がイベント形式となったのはどういった経緯があったのでしょうか。

STORY&Co.・細川氏 : 色んな人に認知してもらうことから始めなきゃなと思ったんですよ。「こういうものがあるんだ、じゃあ体験してみよう」と思ってもらうには、認知させる手段が必要になってくるんですよね。僕が最初に作ったものが、北海道で暮らし、育った人たちからすると、ちょっとチャレンジングすぎるものだったので、チーム内より色んな意見をもらってかなりチューニングをして、友達の友達に訪れるような、そんなサービスにしようということを決めました。

そしてサービスの稼働にはホスト(体験提供者)を集めることが必要になってくるので、じゃあ説明会をしましょうということになりました。普通に説明会をしても面白くないので、じゃあイベントにしましょうと。個人が体験を提供するサービスってすでにいくつかあるんですけど、そういったスキルシェアの文脈でいうと、北海道ではまだ前例がなくて。「シェアリングの概念って東京では広まっているけど、北海道ではどうなんだろう」というのもあったので、丁寧に伝えるためにもイベントという形を取ろうということになりました。

結果的には150名の予約いただきました。「ホストをやりたい」と思って来てくださった方が10%くらいだったのに対し、イベントが終わって蓋を開けると70%くらいの方が「不安もあるけどやってみたい」と言ってくれました。

――旅するトークのイベント3回での集客が150人ということですか?

STORY&Co.・細川氏 : そうですね。会場のキャパ上の問題もありますが、3回全てが満席でした。 

――70%の方がホストとして伝える側に行きたいというフィードバックがあったとのことですが、手応えは予想以上でしたか?

北ガス・松森氏 : 予想以上ですね。北海道の人ってシャイなので、自分が手を挙げることが難しいという人が多い感覚があります。北海道でイベントをやって、ちゃんと集客できるのかという不安はすごくありました。周知方法もほぼFacebookでの告知しかやっていなくて。でも事前予約で全部埋まったので、ニーズは潜在しているということが分かったし、結果的にホストになってみたいという人が7割にまで増えたので、一定の成果は収められたかなと思っています。

――2社の共創をどういった方向に向けてこれから展開していくか、具体的な目標があれば教えてください。

STORY&Co.・細川氏 : もっと外部を巻き込みましょうということで、イベントの合間を縫って企業や自治体を回っています。ありがたいことに既にこの活動を知ってもらっていることが多くて。今後はもっと開いた活動にして、皆で北海道に暮らす個人を照らしていくことをやっていきたいなというのが一つ。

もう一つが、ホストをやりたいと言ってくださる方達に、どういう体験を提供してやっていくかを丁寧に教えて、自立自走して集客できるまでフォローしていきたいと思っています。最後に、今まで札幌で3回イベントをやったんですけど、北海道は広いので、ほかの地域にも広げていきたいなと考えています。

北ガス・松森氏 : そもそも僕達エネルギー会社ってブランディングが苦手だと感じています。でも、イベント終わりに「北ガスって面白いことやってるね」と声をかけてもらえました。イベントにはSNSをやっている人たちが多くいらっしゃっているので面白かったことが、費用ゼロでどんどん拡散されていって、それってすごいことだなと。「アウタビ北海道」や「旅するトーク」は北ガスとして、新たなブランディングのツールになると思っています。

また営業ツールにもなると思っていて、分かりやすいところでいうと飲食店さん。飲食店さんってイベントをやりたいと思っている人がすごく多いと思うんですよ。つまりお店のファンやリピーターをもっと増やしたいけど、どうしていいか分からない人が多いと思うんですね。そういった課題を僕達がガスや電気だけじゃなく、イベントやサービス含めて全部お手伝いしますと。そういうことができれば、とてもいい営業ツールになると思います。

取材後記

トークセッションに参加したスタートアップ企業すべてが、北海道ガスの想いの強さや協力的な姿勢について言及していたことがとても印象的な取材となった。オープンイノベーションという言葉が一般的になった昨今、アクセラレータプログラムに取り組む企業も増えてはいるが、全てが成功事例になるとは限らない。その中でも前向きな結果を出している北海道ガスの取り組みには、参考になることが多くあるのではないだろうか。スタートアップの新たな可能性を生み出すキッカケにもなる同プログラム。今後の展開にも注目だ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:阿部仁美、撮影:加藤武俊)


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