【イベントレポート】第29回NEDOピッチ『アグリ・フードテック特集』!〜農・畜産業の進化を担う新進気鋭のスタートアップ6社が登壇〜
民間事業者の「オープンイノベーション」の取組を推進し、国内産業のイノベーションの創出と競争力強化への寄与を目指し設立されたJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)。2月26日(火)、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とJOICの共催で、イノベーション及び具体的な事業提携事例の創出を目指すイベント「第29回NEDOピッチ」が実施された。
今回の第29回NEDOピッチは、グローバルマーケットでの関心も高まる「アグリ・フードテック」 をテーマに開催された。国内スタートアップの中でも有望な6社による自社の研究開発成果や事業提携ニーズについて、大企業やベンチャーキャピタルなどの事業担当者に対し、創造性の高いプレゼンテーションを行った。
株式会社プリベンテック
代表取締役社長/関川 賢二 氏
株式会社プリベンテックは、旧農業生物資源研究所(現農研機構)発のベンチャー企業だ。組換えイネの開発に取り組んでいる。農業分野ではこれまでにも、組換え技術により除草剤や害虫への耐性を持つとうもろこしや大豆、ビタミンAを豊富に含むコメなど、さまざまな製品開発が進んできた。こうした中、同社が着目したのが、組換えイネの種子で発現する「タンパク質」の生産だ。
タンパク質は、細胞増殖因子、抗体やワクチンなどの原料として重宝されるもの。再生医療の現場では、幹細胞の培養液にも用いられている。市場では主に、大腸菌や動物細胞を用いて生産されたタンパク質が流通しているが、人の病原体や発熱成分のエンドトキシン、動物成分などの混入リスクも併せ持つ。一方、同社では組換えイネの種子でタンパク質を発現させ、温室栽培でおこめを生産することで、安全性が大きく向上。エンドトキシンフリーを実現している。
今後同社は、世界を舞台にこうしたメリットを積極的にアピールする計画。特に中東の産油国へのプロモーションを強化することで、ビジネスの拡大に加えて、組換えバイオロジックスにおける新たなパラダイムの実現を目指す。
株式会社UniBio
代表取締役社長/結城 洋司 氏
株式会社UniBioは、「夢の再生医療原料を、超安全、超安く、超迅速に植物から作る」という事業に挑戦するバイオベンチャー。医療の世界では、再生医療の技術革新が進み注目度も年々高まっており、今後の市場予測として2030年に17兆円、2050年には50兆円規模と算出する専門家もいる。
その一方、再生医療の大きな課題となっているのが、再生医療原料を患者に移植する際の安全性の確保。再生医療の原料が動物由来、人由来、大腸菌由来の場合、ウィルス、マイコプラズマ、細菌およびエンドトキシンが混入するリスクが否定できない。さらに、過去に発生してしまった非加熱製剤使用によるエイズウイルスとC型肝炎ウィルスの世界的蔓延の大事故は何としても、再生医療に実用化には防がなくてはならない。
そこで同社は、「植物培養技術こそが根本的な解決策となる」と考え、“一過性遺伝子発現法”というバイオ技術を用い、工場栽培の植物内で有用タンパク質を生産。この有用タンパク質をベースに、IPS細胞や間葉系幹細胞の分化増殖に不可欠な「細胞増殖因子」という原料を100種ほど製品化する構想だ。
また、動物由来などの既存製品と比較して、安全性の高さに加え、生産時間・生産量・安定供給の面でも強みを持ち、従来製品の1/5~1/10の価格で製造可能だと強調する。今後は研究開発に対する投資や開発品数の拡大に向けた事業パートナーを募り、「日本の農業から再生医療へ」の実現を目指す。
ファイトケム・プロダクツ株式会社
http://www.phytochem-products.co.jp/
CTO/東北大学教授/北川 尚美 氏
2018年6月、東北大学発のスタートアップとして誕生したのがファイトケム・プロダクツ株式会社だ。同社が目指すのは、日本の基幹作物である「米」と東北大発の最先端技術を組み合わせる事で、無限大の価値を創造すること。高齢化の進む日本では、国民の健康維持が社会課題となっている。こうした中、強い抗酸化作用を持つビタミンEなど、植物由来の機能性成分が脚光を浴びる一方、これまで成分のみを効率的に抽出する技術は確立されていなかった。
そこで同社では、イオン交換樹脂というプラスチックビーズを活用した抽出法を確立し、食用こめ油の製造過程で副生する食用にならない未利用油からビタミンEやスクアレン、ステロールなどの機能性成分を高純度で分離・抽出することに成功した。原料となる未利用油は、これまで廃棄処分されてきたため低コストで仕入れられ、イオン交換樹脂も一般流通している汎用品。さらに抽出プロセスも簡略化できるため、低価格での大量生産も可能だ。
また従来のビタミンEは合成品が主流だが、同社の抽出成分は天然品であり、環境負荷も大幅に軽減できる。今後は大量生産を実現すべく、仙台に工場建設を予定しており投資を募っている。また、無価値とされていた未利用油などから高付加価値の製品を生み出すことで、農家への利益還元も果たせるエコシステムの確立を目指す。
株式会社BugMo
CEO/松居佑典 氏
株式会社BugMoは、世界中のあらゆる途上国・先進国で「動物性タンパク質」を地産地消できるエコシステムの確立と普及を目指している。その実現に向けて、同社が着目したのが昆虫食の中でも「コオロギ」だ。畜産肉の場合、1kgの肉を作るために約10kgの飼料と1500Lもの水を必要とする。その結果、途上国では環境破壊や資源の大量消費が進むなど、大きな問題となっている。
その点、昆虫由来の肉1kgを生み出す場合は、飼料1.7kg、水1.3L、1平米ほどのスペースで事足りてしまう。特にコオロギは雑食で養殖しやすく、食物繊維・オメガ3・鉄分・ビタミンなどを豊富に含むなどメリット豊富だ。ただし、昆虫食の普及に向けた課題は途上国と先進国では大きく異なる。途上国ではすでに昆虫食が浸透している地域もあるが、自然採集が中心で年間を通して安定供給が難しい。また畜産肉への憧れも年々高まっている。一方、先進国では見た目・味・値段が大きな障壁だ。
この両面での課題解決に向けて、同社ではまずモジューラー型の誰でも安定・低価格でコオロギを養殖できる生産システムを開発中。先進国向けにコオロギをベースとしたプロテインバーを商品化、すでに販売を開始している。今後は機能性の強化や、風味の改良など、国地域の趣向、舌、用途に合ったコオロギ由来のタンパク質のデザイン研究も進める。また、コオロギを原料とする疑似肉の開発、省人性に優れた養殖システムの販売・供給も目指していく。
インテグリカルチャー株式会社
CTO/川島 一公 氏
インテグリカルチャー株式会社が取り組むのは、「培養肉」の研究開発。再生医療の技術を取り入れた独自手法により、理論上では細胞の培養コストを従来の1万分の1にすることが可能だ。世界的な健康志向の高まりを受け、畜産肉や魚類などのタンパク源の市場規模は、2020年には200兆円を超えると言われている。
しかし、畜産業や漁業の産業拡大は環境負荷を著しく高める危険性もはらんでいる。そこで、代替案として同社が考えたのが培養肉だ。こうした発想は世界的なものとなっており、「細胞農業」という領域が生まれようとしている。
一方で大きな課題となっているのが、高コストという点。既存技術ではアミノ酸や糖分を含む培養液に加え、成長因子や血清成分が必要となり、ハンバーガーのパティ1個分の培養肉に約3000万円がかかったという研究結果もある。この解決に向けて、同社では人体が体内でタンパク質を生成する仕組みを研究し、それをもとに「カルネットシステム」という装置化を実現した。このカルネットシステムでは細胞肉とエキス成分の生成が可能で、エキス成分をコスメ分野に用いる研究開発も進めている。今後は細胞農業の大規模なプラント化を目指しており、2026年には約300トン程度の細胞成分を製造できるプラント建設を計画。また、将来的な野望として宇宙空間での細胞農業の実現や火星でのプラント建設も掲げている。
アイ・イート株式会社
代表取締役/高橋 庸平 氏
宇都宮大学発のベンチャー企業であるアイ・イート株式会社は、農業の現場が抱える課題を柔軟性に富んだ農業用ロボット開発で解決したいと考えている。国内の農業では農家の高齢化や人手不足、環境変化による負担増などさまざまな問題が渦巻いている。中でも小中規模農家では、収穫作業や薬品散布による防除作業など基本的な作業が大きな負担となっている。
たとえば白菜農家の場合、出荷間近の白菜は1玉4kgにもなり、収穫・運搬には重機が必要となる。そのため、多くの人手を要し作業効率も上がりにくい。そこで同社が開発したのが、縦1m横幅80cmほどの小型ロボットだ。作業者の後を自動走行で追従し、屋外・ハウスのどちらにも対応する。現在、農家の協力を得て実証実験が進んでいるという。
ただし、小中規模の農家の場合、地域・作付けする品物・作業者によって、作業の進め方・工程は無数に存在する。これにフレキシブルに対応すべく、同社では「モジュール分散協働型農業支援ロボットシステム」という独自仕様を開発。移動ロボットをベースに、求める機能に合わせてモジュールの追加・交換ができる仕組みにすることで、ロボットの段階的な導入や幅広いニーズへの対応を可能にする。また、モジュールごとに分散開発ができるため、現在は共同研究・受託開発の協業パートナーを募り、将来的には数多くの企業と連携して、農業用ロボットの産業化を目指す。
取材後記
NEDOピッチではこれまで、ディープテック系やデジタルコンテンツなどがテーマに上がってきたが、第29回の「アグリ・フードテック」特集は、従来と大きく毛色の異なるイベントとなった。日本は食料自給率に大きな課題を抱えるだけでなく、農業・畜産業の担い手も年々減少している。また世界に目を向ければ、第一次産業が環境破壊の要因になるケースもあり、様々な面で社会課題と密接につながっている。こうした問題の解決は、次世代に向けて必要不可欠のもの。また、「農業から医療へ」を実現するバイオベンチャーをはじめ、この分野には新たなビジネスの潮流を生み出す可能性も大いに秘めている。こうした流れを巻き起こすためには、オープンイノベーションが果たす役割は大きいと言えるだろう。
(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾)