【イベントレポート】第21回NEDOピッチ~「アグリ・フード」分野の有望ベンチャー5社が登壇!
民間事業者の「オープンイノベーション」の取組を推進し、国内産業のイノベーションの創出と競争力強化への寄与を目指し設立されたJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)。
11月28日(火)、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とJOICの共催で、イノベーション及び具体的な事業提携事例の創出を目指すイベント「第21回NEDOピッチ」が実施された。今回は『アグリ・フード』をテーマにし、同分野において有望技術を有するベンチャー企業5社の代表者が登壇。自社の研究開発の成果と事業提携ニーズについて、大企業やベンチャーキャピタル等の事業担当者に対し、創造性の高いプレゼンテーションを行った。以下に各社のピッチ内容を記載していく。
株式会社ナイルワークス
代表取締役社長 柳下 洋氏 https://www.nileworks.co.jp
同社は「テクノロジーが農業を変える」をコンセプトに、農業用に特化したドローンを開発し、生育診断クラウドサービスとあわせ「空からの精密農業」を展開している。2015年に自社開発のドローンとドローン制御ソフトを用いた、世界初のセンチメートル精度の完全自動飛行を実現。最大の特徴は、作物の生育状態を1株ずつリアルタイムで診断できることである。その診断結果から、正確な位置に農薬・肥料を株単位で散布することが可能であり、農薬の使用量や肥料のコストを劇的に減少させ、食の安全にも寄与している。
さらに、稲の光の反射率を計算し、リアルタイムで光合成スピードを算出するカメラもカメラメーカーと共同開発している。これにより、穂の数、もみの数、厚みまでも測定し、収量が予測できるアプリケーションを農家に提供していく。2017年10月には、産業革新機構、住友化学、クミアイ化学、住友商事、JA全農、農林中央金庫から、総額8億円の資金を調達。代表の柳下氏は「今後も共同開発など連携を積極的に行い、ドローンを使う事で安くて良質な米の大量生産に貢献したい」と語った。
株式会社 恵葉&菜 健康野菜
代表取締役 池 祐史久氏 http://k87vege.jp
同社は、高機能野菜栽培プラントの設計、製造・販売を手がけている。栽培される野菜は、美味しさと高栄養を同時に実現した機能性野菜だ。ビタミン等の抗酸化物質・ミネラル分が豊富で、ORAC値(抗酸化能)は、他社植物工場野菜と比較して約10倍にもなる。栽培技術に関しては京都府立大学とライセンス契約を結んだ栽培技術を採用して、ビタミンやミネラルなど栄養素を多く含むうま味のある野菜の生産を可能にする。
現在、事業会社へ小規模植物プラントの導入を実施中。「野菜離れ」が著しい昨今、高齢化社会が進む中でミネラル・ビタミンを豊富に含まれ且つ美味しい野菜を栽培する同社の事業は今後さらに期待される分野だ。代表・池氏は「高機能健康野菜を活かした新しい商品、加工食品の開発が可能な食品メーカーとの協業、あるいは、教育業界・介護など他業界との連携で新しいサービスを創出したい」と語り、ピッチを締めくくった。
PLANT DATA株式会社
代表取締役CEO 北川 寛人氏 https://www.plantdata.net/
「植物の声を聴く愛媛大学初ベンチャーです」と話し出す北川氏率いるPLANT DATAは、植物の生体情報の計測と、そのデータを栽培管理に活用するサービスを提供している。具体的には植物の生体情報・バイタルデータを計測することによって栄養成長と生殖成長のバランスを管理する生育スケルトン、それらを活用したコンサルティングなどを提供する。同社はクロロフィル蛍光を画像計測することで植物のストレス状態を数値評価する技術を開発し、日本・米国・オランダで特許を取得。さらに植物工場での自動計測システムとしては井関農機に特許をライセンスし、世界初の植物診断専用農機として市販されている。
今後、計測装置の移動や自動化・計測制御・IoTシステムの開発・病害虫診断法の開発・教育コンテンツの開発など、自動車・流通・農業・教育業界の幅広い事業展開が可能であり、連携を大いに期待している。
株式会社リーゾ
代表取締役 門奈理佐氏 http://rizo.co.jp
「食べられる」巨大田んぼアートの実現に走る同社は、イネゲノム解析分野の女性研究者が平成21年に自己資本で立ち上げ、子育て中の主婦のみで運営する異色の小規模ベンチャーだ。日本の水田は年々減り続けている中で、同社は美しい日本の水田風景を後世に残すというビジョンのもと、水田に新たな付加価値をつける田んぼアート用カラーコシヒカリを開発中だ。
近年、観光事業の一環として「田んぼアート」に取り組む地域がある。異色の米の集合体が見せる景色は圧巻ではあるが、実は、この色のついた米は食べられない品種がほとんどである。同社はこの問題点に注目。ゲノム育種法を用いた美味しく食べられるカラー米を開発している。さらに古代米の遺伝子コシヒカリに「交配」で導入し、「美味しく食べられる、黒米の玄米ご飯」『美食同玄米』の生産・販売に取り組んでいる。
代表・門奈氏は今後、大規模田んぼアートを実現させるために社外連携は不可欠であるという。細密なアートが可能なGPS利用プリンター田植え機の開発ができる農業機械メーカー、工作機械メーカーとの連携、田んぼのアレンジ、プロモーションを手がける広告代理店との連携を強く求めている。
エディットフォース株式会社
代表取締役社長 中村崇裕氏 https://www.editforce.jp/
同社は、世界で初めてDNAとRNAの両方を操作させる独自技術を持ち、事業化する九州大学発ベンチャーだ。ゲノム編集により、穀物・花卉類の収量向上や機能性原料の作出を可能にした。ゲノム編集とは、ゲノム中の狙った1つの遺伝子を破壊(ノックアウト)、もしくは外来遺伝子を狙った位置に導入(ノックイン)する技術である。
このゲノム編集により、遺伝子組み換え技術を含むこれまでの技術の制限を乗り越え、迅速かつ効率よい遺伝子の改変が可能となる。その中で同社のコア技術は、DNA・RNAの両方を操作する第四世代ゲノム編集技術「PPR」である。
PPR技術を用いることで種苗や植物の生産性向上や、耐病害性向上などが期待できる。また、RNA操作による微生物類の改変、タンパク・ケミカルズ・オイル類の生産プロセス向上などで、グローバル展開パートナーとの協業を目指している。代表・中村氏は「DNA/RNA操作技術を使い、遺伝子発現、RNA代謝のブラックボックス化を極小化し、投資効果の明確な新たな産業モデルを創出したい」とアピールした。
取材後記
高齢化による離農が進んでいることに加え、これからの農業を支える「新規就農者数」も伸び悩んでいるアグリ業界。5社それぞれがアグリ業界に対して課題を持ち、これまで「勘」や「経験」に頼る部分が多いと思われていた農業を独自の視点と技術で解決に導いている。「効率化」と「可視化」が進むアグリテック業界。テクノロジーの力で農業をどう変え、この難局に立ち向かっていくのか。引き続き、変化の兆候を見たいと思う。
(構成:眞田幸剛、取材・文:保美和子)