【イベントレポート/CHANGE THE RULES】 「eiicon」のマンスリーミートアップイベント第14回~金融業界の雄はどう変わるか?トップランナーの変革とスタートアップの進出~
オープンイノベーションのプラットフォーム「eiicon」の月一ピッチイベント「eiicon meet up!! vol.14」が4月24日、東京ミッドタウン日比谷のビジネス連携拠点「BASE Q」で開催されました。
イベント開始から1年が経過した前回より、スタートアップのピッチに加え、イノベーションに積極的な大企業の講演を追加。大企業のノウハウとスタートアップのアイデア、双方をキャッチアップしながら新たな出会いを創出できる場へと全面リニューアルしています。
「金融業界の雄はどう変わるか?トップランナーの変革とスタートアップの進出」と題された今回のイベントでは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)でスタートアップとの連携を手掛ける藤井達人氏と金融系スタートアップ2社が登壇。会場である「BASE Q」を運営する三井不動産において、新規事業/オープンイノベーション推進事業を担当する光村圭一郎氏(下写真)のモデレーションのもと、金融業界の変革にフォーカスした熱いピッチが繰り広げられました。
会場には、銀行・生命保険など金融系の大企業やベンチャー・スタートアップなど60名を超えるビジネスパーソンが集まりました。講演とピッチの内容は以下の通りです。
グループ内で反対意見が生まれるようなアイデアにこそチャンスがある
【登壇者】 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタル企画部 プリンシパルアナリスト 藤井達人氏
三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)は、テクノロジーの研究開発に莫大な投資をしている欧米のテック・ジャイアント(巨大IT企業)が将来的なコンペティターとなる可能性を想定し、彼らとのギャップを埋める手段として幅広いオープンイノベーション活動を推進していると説明しました。その中でも2015年からスタートした「MUFG Digitalアクセラレータ」は、邦銀初のスタートアップアクセラレータ・プログラムであり、現在は3期目が進行中。同プログラムの経験を通じてスタートアップと共に本気で事業を進めていくため、以下のようなさまざまなノウハウが得られたと言います。
<スタートアップと共創を進める上での基本的なポイント>
●採択企業の決定前に事業部門側とのマッチングを必ず行う
●成功できるチームを形成する
●スタートアップに提供できるものを明確にする
●4カ月のプログラムの前半はチームアップ、ビジネスプランに集中するなど緩急をつける
●形だけのメンタリングセッションを避け、有意義な議論にするためにファシリテーターを付ける
さらに藤井氏は上記に加え、
●本業とのカニバリゼーションが懸念され、グループ内で反対意見が生まれるようなアイデアにこそチャンスがある
●外部メンター、MUFGのメンター双方に成果を義務付けず、肩の力を抜いて取り組んでもらう
●成果の出やすいアイデアよりも、意外性があってストレッチできるアイデアを優先する など、3年間のプログラム運営経験、多くのスタートアップとの共創経験から得られた意外性のあるノウハウも披露しました。
また、「sli.do」で会場の参加者から寄せられた「社内でオープンイノベーションに向いている人、そうでない人をどのように見分けているのか」という質問に対しては、「当該部署に長い期間在籍している人よりも、別部門から異動して日が浅い人の方が新しいことにチャレンジする気持ちが強い。そうした人に参加してもらった方がプログラムも上手く進行しやすいと感じている」と答えました。
さらにモデレーター光村氏の「世界のテック・ジャイアント、ビッグ・プレイヤーにマーケットとデータを握られた中で、どのような軸で対抗していくつもりなのか」という質問に対しては、「取捨選択が必要になる。MUFGだけが持っているデータ、まだビッグ・プレイヤーに取られていないデータ、さらには外部データの有効活用やパートナーシップも視野に入れ、新しい価値を生むための試行錯誤が必要だと考えている」と持論を展開しました。
スタートアップピッチ(1)/ZEROBILLBANK JAPAN株式会社
【登壇者】 ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役CEO 堀口純一氏
「MUFG Digitalアクセラレータ」の第1期採択企業でもあるZEROBILLBANK JAPANは、経営に必要なヒト・モノ・カネ・コトのインターネットへの接続が完了する「すべてがデジタルアセット化される時代」を見据え、ブロックチェーンとスマートコントラクトのテクノロジーによって、さまざまなデジタルデータを分散システム環境で有効活用できるプラットフォーム「ZBB-CORE」を提供しています。
データ改ざんのリスクが低いブロックチェーンをバックグラウンドに据えることで、さまざまなデジタルアセットを企業間、個人間を超えて共有・交換することができるため、金融や保険はもとより、複数企業で共有できる企業コイン(企業トークン)の付与や働き方の可視化をベースとした働き方改革への活用も期待されています。
代表の堀口氏は「副業をしている社員がいる場合、本業と副業の勤務時間割合を正確に把握することで、双方の企業で報酬を的確に按分する」、「ドローンの飛んだ場所・飛ばし方・時間などを正確に検出することで動的に保険料を変えるドローン保険」といった金融の範疇にとどまらないユースケースも想定していると語ったほか、「プラットフォーム、テクノロジーの提供だけにとどまらず、既存のビジネスモデルの改革や新規ビジネスと絡めた提案も得意としている」とアピールしました。
スタートアップピッチ(2)/株式会社スマートプラス
【登壇者】 株式会社スマートプラス コミュニティマネージャー 古川晶子氏
株式会社スマートプラスがリリースする「STREAM」は、SNSを使って株取引ができるコミュニティ型株取引アプリです。タイムライン型のインターフェースが実装されており、個人投資家の意見やニュース、注目株の情報が一目で分かるため、銘柄も選びやすく、カジュアルに株取引を行うことが可能です(2018年4月24日時点では、取引機能が制限されたパイロット版のみをリリース)。
古川氏は「多くの人が株取引をしない理由は、知識がない、勉強のハードルが高い、すべて一人でやらなければならないと思っていることが大きい。これらの理由の大半はSTREAMを使うことで解決することができる」と説明しました。
また「STREAM」は、従来型株式委託手数料ゼロを実現しているほか、東証取引と比べて約定単価や約定率の点で有利になることが期待できる東証立会外取引の仕組を活用したSMART取引を採用。SMART取引によってユーザーに差額利益が出たときにのみ、差額利益の半額相当を手数料として徴収するビジネスモデルとなっています。
さらに古川氏は、今後の同社の展開として「画一的なネット証券インフラサービスの執行システムをアンバンドル化して証券ビジネスプラットフォームを自社で構築し、多くの企業と連携することで新たな証券サービスを広げていきたい」と語り、ピッチを締めくくりました。
次回のeiicon meet up!!は、「食」に注目
5月31日(木)19:30~の開催を予定している次回のeiicon meet up!!は、「100年後の食卓はどうなる? 先駆者が考える未来と挑戦を続けるスタートアップ」がテーマ。スタートアップとの連携を手掛けるクックパッド 住氏のイノベーション秘話を聞き、その後、「食の変革」に挑戦をしているスタートアップに登壇いただきます。イベントの詳細や参加申し込みは以下URLからお願い致します。
https://techplay.jp/event/669632
取材後記
日本を代表するメガバンクグループであるMUFGの藤井氏が「デジタルの世界のスピードについていくためには、1年かけずにミニマムな価値を出し続けていかなければならない」と語っていたように、他業界以上に圧倒的なスピードで変わりつつある金融業界の「今」をリアルに感じられるイベントでした。
また、フィンテックや仮想通貨というバズワードだけでは捉えきれない激しい変化が起こっている業界だからこそ、大きなイノベーションのチャンスがあり、ピッチに立ったスタートアップ2社のように、人々の生活や価値観に大きな変化をもたらす革新的なサービスを生み出せる土壌があると言えそうです。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:古林洋平)