【イベントレポート】10社が協業検討の成果を発表、富士通アクセラレータプログラム第4期デモデイが開催
これまでも多くのスタートアップとの共創を次々と発表している富士通。2017年9月20日(水)、同社が展開する「富士通アクセラレータプログラム第4期」のデモデイが行われた。
同イベントは、今年2月に開始された第4期ベンチャープログラムの最終発表の場として、協業検討の成果をプレゼンするもの。スタートアップ各社と富士通の各事業部門が6月から3ヶ月間にわたって協業を検討。スタートアップ10社が登壇をした。なかでもFusicとアジラは、eiicon経由で富士通との出会いを果たしており、特にアジラは、東京・町田市でサービスの実証実験を実施することを発表するに至っている。 http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/09/21-1.html
さて、4期目となる今回は、どのような成果を目にすることができるのか。
▲会場には多くの関係者が集まり、活気のある雰囲気の中、各社が成果を発表した。
デモデイは、富士通の執行役員常務兼CMO の阪井 洋之氏の挨拶からスタート。今年5月に開催された富士通フォーラムを取り上げ、同フォーラムのテーマである「Digital Co-creation」を紹介。ICTと共創によってイノベーションに取り組むという、富士通社内の本気度の高さを示した。続いて、スタートアップ10社と富士通の各事業部担当者によるプレゼンテーションが実施された。
人間の目を超えた、ものづくり支援(4Dセンサー株式会社)
1社目の登壇企業は4Dセンサー株式会社(http://4d-sensor.com/)。ミクロン単位での3Dスキャン技術を持つ、和歌山大学発のベンチャー企業だ。自動車など、きわめて高い品質管理が求められる製造現場においては、いまだに機械は人間の目に勝てないと言われている。
同社のセンサーは富士通との協業を通じて、不良品のリアルタイム検知ソリューションの実現を目指している。今後の展望として、富士通の工場における実践や富士通グループの開発ロボットへの適用などが語られた。
IoTシステム開発を次のステージへ(株式会社Fusic)
次の登壇企業は、IoTの開発支援サービス「mockmock」を手がける株式会社Fusic(https://fusic.co.jp/)。「mockmock」は、IoTシステムのテスト用仮想デバイスを提供することにより、テスト工程を大幅に削減することができる。
一方、同社が協業検討を進めている富士通九州システムサービスは、IoT開発プラットフォームの提供に取り組んでおり、テスト工程を削減するFusicとのタッグによって、IoT開発のデファクトスタンダードをめざすと語った。
また、プレゼンにおいては、トイレの使用状況をリアルタイムで可視化するIoTシステムのシミュレーションが行われた。このシステム自体、構築のハードルが高いものではないが、会場を驚かせたのは、設定に要した時間が1時間程度だということ。工数の大幅な削減を実演してみせた。
※eiiconページ : https://eiicon.net/companies/198
セルフネイル市場をともに開拓する(株式会社BIT)
自動ネイルプリンター「INAIL」を販売する株式会社BIT(http://i-nail.jp/)は、「日本の女性は3割しかネイルをしていない」とネイル市場について紹介し、セルフネイル市場の可能性に注目。同社のプリンターを使えば、ネイリストの技術を正確に再現できるのみならず、施術時間を従来の5分の1にできる。
同社は富士通のソフトウェア構築に期待しており、対する富士通としては新ビジネスの構築に意欲を見せる。共同のサービス企画やプロトタイプのテストマーケティングの計画が発表された。
高齢社会に「優しいAI」を(株式会社アジラ)
AI、ディープラーニング、画像処理などのクラウドサービスを低価格で提供する株式会社アジラ(https://www.asilla.jp/)。同社が協業検討している富士通のネットワークサービス事業本部では、高齢社会に向けた新ビジネスの創出に取り組んでいる。一方、アジラは「優しいAI」を志向しており、富士通がめざす「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」に共感し、ともに社会課題の解決に踏み出したとのこと。双方の事業特性もさることながら、ビジョンが一致した点が協業の決め手になった。
当日、デモとして発表されたのは、AI画像認識を活用して、認知症で徘徊する高齢者の発見を迅速に行うサービスだ。同サービスの開発はアジラと富士通が共同して行っており、市民参加型の見守りサービスとして、町田市の協力のもとで実証実験も予定されていることが説明された。(http://pr.fujitsu.com/jp/news/2017/09/21-1.html)
※eiiconページ : https://eiicon.net/companies/43
人手不足をサービスロボットで解消(株式会社アプトポッド)
続けて、リアルタイムでの超高速双方向データストリーミングを実現する株式会社アプトポッド(https://www.aptpod.co.jp/)が登壇。同社のデータ取得・遠隔制御技術を、富士通グループで展開している各種IoTサービスにアドオンし、新しい付加価値の創出をめざす。具体的には、人手不足が叫ばれる小売業におけるサービスロボット分野における協業が見込まれている。
特筆すべきはデータの遅延がきわめて小さく、ほぼリアルタイムで制御できる点。既に無人環境にて運用デモを実施しており、将来的には自動発注なども見込んでいるという。
行政保有データを利活用(株式会社Payke)
株式会社Payke(https://payke.co.jp/)は、商品のバーコードを読み取り、利用者の母国語で商品情報を取得できるスマホアプリの提供を行っている。インバウンド向けビジネスの需要が増加するなか、ダウンロード数を着実に伸ばしつつある。
一方、行政から保有データを利活用したいと依頼を受けている富士通にとって、Paykeのサービスは大いに可能性を感じさせるものだ。プレゼンにおいては、自治体との連携が決まり、実証実験も実施される予定であることが報告された。
声を媒介した新しい集客モデルを(株式会社アイコトバ)
「声を使ったコミュニケーションを促進したい」と、音声認識を活用した広告・マーケティングサービス「アイコトバ」を提供するスタートアップ、株式会社アイコトバ(http://icotoba.co.jp/)。ある合言葉を企業とユーザーが共有することで、クーポンを取得できるユニークなサービスだ。
富士通とともに、「アイコトバ」を活用した新たな集客ソリューションを構築しようと試みている。富士通が近日立ち上げるブロックチェーン活用プラットフォームと組み合わせ、新たな集客モデルの構築に挑む。
エンタメを進化させる「EoT」とは(Yume Cloud)
Yume Cloud(http://www.yume-cloud.com/)は、エンタメ用のIoT=EoT(Entertainment of Things)という概念を掲げ、センサー内蔵のキューブ型IoTソリューションガジェット「GLOW」を提供している企業。
スポーツ観戦におけるコレオグラフィ(人文字)などでの活用を想定し、富士通と共同で新しい参加型エンターテイメントソリューションの実現を検討している。大規模なメッシュネット、自動席認識システム、インタラクティブ演出など、富士通の持つ技術的優位性が生かせそうだ。
色の遷移という情報伝達の可能性(株式会社スターワン)
色の遷移に文字を割り当てて情報を伝達する技術「ColorSignal」を開発する株式会社スターワン(https://www.star1.jp/)は、富士通との協業で製造業向けソリューションの開発を検討中。工場ではノイズや電波障害で無線が使えない場面もあり、可視光通信ならでは価値がある。
適用可能性を探るべく、富士通のお客様への共同ヒアリングや富士通グループでの実証実験を検討しているとのこと。工場のみならず、水中、地下、化学工場など、従来の無線通信が困難な場所でのニーズが見込まれる。
窓口でのサポート業務をチャットで効率化(モビルス株式会社)
業界トップシェアを誇る顧客対応型チャットツール「モビエージェント」を提供するモビルス株式会社(http://mobilus.co.jp/)。同社は福岡市で市民向けの情報配信サービスも手がけている。
富士通社内における、自治体の業務システムを手がける部門との連携により、自治体向けアプリへのチャットボット機能の組み込みや、アプリのサポート窓口でのチャットボット活用を見据えている。現在は、富士通の介護ソリューションのサポート窓口での実践・検証を行っている段階だ。
【特別トークセッション】Sansan日比谷氏が語るリレーションマネジメントの重要性
10社による協業報告の後は、特別トークセッションとしてSansanのコネクタ兼Eightエヴァンジェリストの日比谷尚武氏が登壇。日比谷氏は、社外の人々と広く交流を持つ「コネクタ」というポジションの役割と、スタートアップ企業におけるリレーションマネジメントの重要性について語った。
イノベーションは、異なるバックグラウンドを持つ「知と知の組み合わせ」によって生まれるという。今回のデモデイの場においても、ぜひ各社の課題と強みを交換しあうべきと説いた。
第5期ベンチャープログラムのエントリー受付がスタート!
今回デモデイが実施された第4期に続き、早くも第5期ベンチャープログラムの開催が決定!応募の締め切りは10月27日となっており、書類選考を経て12月6日にはピッチコンテストを開催する。第5期のデモデイは2018年4月下旬の予定だ。富士通と共創し、社会課題の解決を実現したいスタートアップは、是非このチャンスを活かしてほしい。
※プログラムの概要やエントリーフォームは、下記URLから。
http://www.fujitsu.com/jp/innovation/venture/fap/entry05/index.html
取材後記
富士通との協業検討が進行している10社の状況が報告された今回のデモデイ。それぞれまったく異なるビジネスモデルや技術を持ちながら、すべての企業において富士通と協業する「必然性」が共通して見受けられた点が興味深かった。なかでも、実証実験が進んでいるサービスが出てきているなど、実用性の高さも印象に残った。
今回発表されたオープンイノベーションの萌芽は、今後どのような展開を見せるのだろうか。eiicon labでは、富士通とスタートアップ企業との協業に引き続き注目していきたい。
(構成:眞田幸剛、取材・文:玉田光史郎、撮影:加藤武俊)