【知財のプロ・深澤氏の視点(4)】iPhoneにみるオープンイノベーションの技
弁理士・技術士、そしてイノベーションパートナーとして、10年以上にわたり300社以上を「知的財産」の観点から支援してきた明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏。コラムの第4回目は、”iPhoneにみるオープンイノベーションの技”について寄稿してもらった。
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先日、iPhone8、Xが米Apple社から同時に発表されました。それぞれ従来のiPhone7にはない機能が搭載されています。発表前からネット上で新製品について様々な情報が飛び交い、相変わらずの人気を見せていました。iPhoneの強さの秘密はどこにあるのでしょうか。今回のコラムでは、iPhoneの強さを知財やオープンイノベーションの視点から見ていきたいと思います。
1.iPhoneの仕組み
今回、iPhone8ではチップがパワフルになったことはもちろん、ワイヤレス充電に対応したモデルになりました。iPhoneXでは、さらに有機ELの全面ディスプレイとなり、指紋認証から顔認証へと変化しています。
スマートフォンは、今では米Apple社だけでなく多くのメーカーが様々な商品を送り出しており、iPhoneが市場でトップを維持している国もほとんどないようです。それでも、わが国では依然トップですし、多くのiPhoneユーザーは新しいモデルを入手できる日を心待ちにしています。
ところで今回のiPhone8、Xですが、採用された技術は決して目新しいものばかりではなく、個別にみるとすでに他のスマートフォンで採用された技術もあるようです。それでもこれらの技術をiPhoneの魅力であるデザインや操作性を維持しつつモデルとしてまとめあげる力はすごいものがあります。
デザインと操作性は米Apple社がMacの頃から一貫してこだわってきたものです。それゆえ他にも様々なスマートフォンがありますが、一度iPhoneに慣れてしまうと他のスマートフォンに替えられないという話をよく聞きます。
このようなiPhoneですが、ビジネスモデルからみるとまた違った景色が見えます。米Apple社が基幹商品であるiPhoneから収益を得るためビジネスモデルをしっかりと作りこんでいるのがわかります。
まず、iPhoneのハードウェアは米Apple社だけで製造されているのではなく、多くの部品が世界中のベンダーから集められ組立られます。米Apple社は、製品全体のデザインや仕様を自社で作り込み、外部の部品メーカーから最適な部品を調達しています。iPhoneのデザインと操作性以外はオープンイノベーションによって製造されています。
このように製造されたiPhoneを各国で販売する際、米Apple社はその国の通信会社とiPhone販売の契約を交わしています。その一方で自社のAppleストアでもiPhone販売を行っています。販売に際しては、Apple社は画面サイズやストレージ容量に応じたラインナップを用意し、その大きさに応じて販売価格を加算していく仕組みにしています。カメラ機能の性能UPとともにiPhoneも進化しており、またコンテンツも写真や動画が増えてきているため、ストレージ容量も大きなものがだんだん必要になってきます。ヘビーユーザーほどより価格の高いものへと移行していくことになります。
また、米Apple社は、iPhoneという機器販売だけでなく、iTunesやApp Storeといったプラットフォームビジネスを展開してそこで提供されるアプリ等のソフト面からも収益を得ています。アプリの課金システムを採用することによって、アプリ製作者がApp Storeから収益を得られるのですが、この際の利用手数料が米Apple社に収益をもたらします。
このApp Storeは、収益化だけではなくコンテンツの充実を図るためにも優れたシステムになっています。iPhoneのコンテンツを米Apple社だけで用意するのには限界があります。App Storeで外部のクリエーターの力を借りてコンテンツを充実させています。つまりオープンイノベーションによってコンテンツを開発します。App Storeに参加する人が増えるほどiPhoneのコンテンツの魅力が高まり、さらに参加者を呼び込むという循環を生み出しています。
米Apple社は、iPhoneのハード面とソフト面の両方にオープンイノベーションを展開しています。
2.iPhone型商品を生み出すには?
我々が新しい商品を生み出すためにはiPhoneのどんなところをお手本とすればいいのでしょうか。
米Apple社のApp Storeや米Amazon社が展開するビジネスはプラットフォームビジネスといわれています。様々な情報が集まってくる土台となるのがプラットフォームです。集まった情報を使ってさらに新商品・サービスを生み出すことが可能となります。
米Apple社の場合は、iPhoneがハード面の、App Storeがソフト面のプラットフォームとなっています。両方でプラットフォームを構築したことが米Apple社の強さとなっています。
このようなプラットフォームはそれ自体が商品やサービスとして機能しますが、時間や資本が必要になるので構築するのは大変です。ただ、その大変さが参入障壁になるので、魅力的なビジネスモデルです。
似たようなビジネスモデルとして自社の商品・サービスへ繋げやすい仕組みを構築するものがあります。
例えば、QRコードです。
このQRコードには様々な情報を詰め込むことができます。
このQRコードは日本発の発明です。株式会社デンソーの開発部門が開発しました。このQRコードを普及させる際にとった手法も秀逸なビジネスモデルです。まず、QRコードを規格化して世界標準にしました。これによって、粗悪品や模倣品の出現を抑えて、QRコードを広めることができます。その上で規格に則ったものであれば、このQRコードを誰でも使用できるようにオープンにしました。
一方、収益を得るために、株式会社デンソーはこのリーダー機器を事業として成立するようにビジネスモデルを組み立てました。
何れのビジネスモデルにも、次の2つの特徴があります。
(1)市場形成を他社に協力してもらった。
近年では、たとえ大企業でも、新しい商品・サービス市場を自社のみで広げていくには体力が必要になります。そこで、他社が参加して市場を形成しやすいオープンな領域を構築しています。いいものは、みんなが使用したいと思います。オープンにすることによって普及を図ることができます。
(2)収益をあげる部分は自社に残す。
一方、iPhone の操作性やデザイン、QRコードリーダーといったコアとなる部分は、オープンにせずに自社に残して展開しています。どちらも必要に応じて特許権などの知的財産権で保護して参入障壁を築いています。
コアな部分で参入障壁を構築したからこそ、オープンにしたり独占したりする自由を手に入れることができます。その上で、誰に何をどのようにどういう順番で提供するのか、収益を上げるにはどのような仕組みがあればいいのか、どこをクローズにしてどこをオープンにすればいいのか、といったことを考えて、ビジネスモデルを構築していくことがiPhoneのような商品につながる道になるのではないでしょうか。
【コラム執筆】 明立特許事務所 所長弁理士 深澤潔氏 http://www.meiritsu-patent.com/
<深澤氏プロフィール>
京都大学工学部卒業後、石川島播磨重工業(現:IHI)入社し、小型ロケットや宇宙ステーションなど、宇宙環境を利用する機器の研究・技術開発・設計に携わり、技術士を取得。その後、国内最大手国際特許事務所へと転職し、弁理士資格を取得。独立し、明立特許事務所を立ち上げる。