『DXレポート』に見る、コロナ禍が明らかにしたDXの本質と「2025年の崖」問題の行方
近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性がメディアなどで語られることが多くなりました。そこに拍車をかけるように、2020年初頭からの新型コロナウィルスが流行し、企業はワークフローの見直しやテレワークといったDXへの対応を求められています。
2020年12月28日、経済産業省は『DXレポート2(中間取りまとめ)』を公開し企業のDX推進の進捗を報告書にまとめました。しかし、話題の分野であるはずのDXの進捗は、決して見通しの良いものではありませんでした。
本記事では、DXレポートの要点を解説し、今後のDX推進にどのような課題が残っているのかを読み解いていきます。
DX推進して目指す社会と、「2025年の崖」問題
そもそも、DXとはなぜ推進されるべきなのでしょうか。『DXレポート2』では「目指すデジタル社会の姿」として以下のような状態を定義しています。
●社会課題の解決や新たな価値、体験の提供が迅速になされ、安心・安全な社会が実現
●デジタルを活用してグローバルで活躍する競争力の高い企業や、カーボンニュートラルをはじめとした世界の持続的発展に貢献する産業が生まれる
このように、変化に強く、グローバルに持続可能な社会を作る手段としてDXが有効であるとしています。これはDXを推進することで社会がより良くなる“最高のシナリオ”の話です。
▲2020年12月にリリースされた『DXレポート2』のサマリーより。右上部に「目指すデジタル社会の姿」が記載されている。
一方で、DXの推進が滞ることで考えられる“最悪のシナリオ”として「2025年の崖」と呼ばれる問題があります。
2018年9月に経産省から公開された最初の『DXレポート』では、DX推進にはいくつかの観点からデッドラインがあると指摘しています。
デッドラインを産んでしまっている問題の根幹は、企業の基幹系システムにあります。現在、基幹系システムを21年以上利用している企業が約2割とされており、システムのレガシー化が進んでいます。
システムがレガシー化すると、技術面ではOSのサポート終了や過剰なカスタマイズによる複雑化などがネックとなり、システムの保守運用が難しくなります。人材面では、レガシー化したシステムを保守運用してきた人材が高齢化することで、次世代にシステムの担い手がいない問題が発生します。結果的に、システムのレガシー化はIT予算の水ぶくれを起こし、サイバーセキュリティの観点からもリスクが高まるなど、経営面にも悪影響がでます。
こうした問題をDXで解消できなければ、2025年以降、最大年間12兆円(現在の3倍)の経済損失が生じる可能性があるのです。これを「2025年の崖」と呼んで経産省は警鐘を鳴らしています。
▲2018年9月にリリースされた『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』より抜粋
コロナ禍で浮き彫りになったDXの本質
最初のレポート『DXレポート』から2年後に公開された『DXレポート2』では、コロナ禍でDXが加速するシナリオが描かれています。
コロナ禍において事業環境が変化したために、押印、客先常駐、対面販売などといったこれまでは疑問視されなかった企業文化が露見しました。このことは、ITシステムのみならず企業文化を変革することが重要であることを明らかにしました。
そして、DXおよび企業文化の変革には、システム構築を担ってきたベンダー企業にも変革が必要であるとレポートでは言及しています。2018年のレポートでは、レガシー化したシステムを刷新することに重きをおいていましたが、最新のレポートでは「システム刷新=DX」ではなく、企業文化を改革するまでベンダーが伴走するべきだと論調を変化させています。
企業が直ちにとるべきアクションと中長期で求められる変革
『DXレポート2』は企業がとるべきアクションと、それを実現させるための政策を明記して締め括られています。
直ちに(超短期)行うべきアクションとしては、事業継続を可能にするための市販サービスの導入と、製品導入を成功体験として受容する経営トップの姿勢が求められています。また、導入するために必要な認知・理解の促進が挙げられています。
短期的には、DX推進体制の整備(ガバナンスを含む)、戦略の策定、そしてDXの推進状況を把握するといった、実践フェーズに入ることを求めています。
そして中長期では、アジャイル開発体制の整備やベンダーとのパートナーシップ構築と基盤とした変革の加速、またDXが生み出した投資余力を競争力強化につなげる循環の確立、そして社内外含めたDX人材の確保を、それぞれ企業のとるべきアクションとして挙げています。
【編集後記】正しい指標と、リーダーシップの重要性
2018年のレポートと最新のレポートを読み比べると、後者の方がより「本質的なDXとは何か?」という課題に真摯に向き合っている印象があります。最初のレポートはレガシー化したシステムの刷新を進めることで経済的損失を最小限に食い止めることが目的になっていましたが、最新のレポートでは論調がガラッと変わって、「企業文化を改革する手段としてのDX」にフォーカスを当てているようにみて取れます。
コロナ禍の影響で本質が浮き彫りになった側面もありますが、最初から正しい指標を掲げていればこのようなミスリードが起こらなかった可能性もあります。
一方で、多くの経営者がDXに関心を寄せているものの、「未着手」や「散発的実施」などの企業が9割を占めているというデータもあります。
前述したように、技術面、人材面での高いハードルがありますが、企業の5年後10年後を考えた時に、早めにDXに舵を切るのが持続可能性を高めるのもまた事実です。システム刷新などは現場からの不満が出るのは必至ですが、それまでレガシー化の問題を放置したのも経営の責任といえます。
2025年の崖を越えるためにも、政府が正しく導き、企業の経営層はリーダーシップを発揮する事が求められます。
関連ページ:デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました