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テクノロジーで創薬の未来を変えるプログラム――バイエル薬品「G4A Tokyo」から生まれた共創の舞台裏

テクノロジーで創薬の未来を変えるプログラム――バイエル薬品「G4A Tokyo」から生まれた共創の舞台裏

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対抗するため、治療薬やワクチンの開発競争が熾烈化する昨今。安全かつ有効な新薬を、一刻も早く社会実装するかに注目が集まっている。こうした状況のもと、新薬開発のプロセスに新たなテクノロジーを活用する動きも盛んになりつつある。

今、オープンイノベーションにより、製薬業界へのテクノロジーの取り込みを加速させている企業がある。ドイツに本社を構えるグローバル製薬メーカー、バイエル薬品株式会社だ。同社は2014年、業界に先駆けてオープンイノベーションを推進する新組織「オープンイノベーションセンター (Open Innovation Center Japan, ICJ)」を立ち上げ、大学などの研究機関やベンチャー企業との共創に取り組んできた。

2016年には、オープンイノベーションプログラム「G4A Tokyo」を開始し、革新的なテクノロジーやアイデアを持つベンチャー企業との共創を本格化している。プログラムの特徴は、「課題提示型」であることだ。同社や市場が抱える具体的な課題(チャレンジ)を提示し、それを解決できる企業の応募を募っている。

先日6月1日から、今年度で第7回となるプログラム「G4A Tokyo Dealmaker 2020の募集が始まった。今回のテーマは、『患者さんの「満たされない願い」をかなえる、日本発のデジタルヘルスを実践すること』で、それに沿った課題(チャレンジ)が4つ提示されている。

 本記事では、プログラムの開始にあたり、2018年度のプログラムで採択された株式会社Buzzreachとの共創事例について紐解きながら、本プログラムの魅力についてお伝えする。取材に応じていただいたのは、バイエル薬品株式会社 山中雅仁氏と株式会社Buzzreach 猪川崇輝氏だ。 (※取材はオンラインで実施した)

<オンライン取材の様子>

【写真左】バイエル薬品株式会社 研究開発本部 クリニカルオペレーション部長 山中雅仁氏

1994年に新卒入社。主に研究開発を担当。研究開発過程の後期にあたる臨床試験のクリニカルオペレーションのほか、化合物単位でプロジェクトを管理するプロジェクトマネージャーに従事。「G4A Tokyo Dealmaker 2018」では、株式会社Buzzreachとの共創をリードする。

【写真右】株式会社Buzzreach 代表取締役 猪川崇輝氏

2005年、治験被験者募集専門のベンチャー企業に立ち上げ期より参画、取締役を務める。2009年からは、製薬企業向け治験広告を専門とするベンチャー企業に取締役として参画。2017年6月に、株式会社Buzzreachを設立。「G4A Tokyo Dealmaker 2018」に参加し、バイエル薬品株式会社との共創に取り組む。

患者さんに「1日でも早く」、新しい治療法を提供したい

――まず、世界的に有名な製薬メーカーであるバイエル薬品さんが、オープンイノベーションプログラムに取り組む背景からお伺いしたいです。

バイエル薬品・山中氏: プログラムの根底にあるのは、「1日でも早く、患者さんに革新的な治療法をお届けしたい」という想いです。オープンイノベーションのスコープには、「リサーチ」と「オペレーション」の大きく2つの側面があります。「リサーチ」の側面では、シーズや新しい治療法を見つけることを目的とします。一方、「オペレーション」の側面では、臨床開発のプロセスにおいて承認取得までのスピードを短縮化し、プロダクティビティ(生産性)を高めていくことが目的となります。

私はクリニカルオペレーションを担当しているので、後者の「オペレーション」にフォーカスしています。「オペレーション」の効率化だけがゴールではなく、バイエルが重要だと考えているのはペイシェント・セントリック(患者中心の医療)を実現することです。

――「ペイシェント・セントリック」ですか?

バイエル薬品・山中氏: はい。かつては、薬品開発は「インダストリー・セントリック(産業中心の医療)」、あるいは「レギュラトリー・セントリック(規制中心の医療)」で行われていました。

しかし、今日では、この2つだけではなく、「ペイシェント・セントリック(患者中心の医療)」が特に重視されるようになっています。残念ながら、現状では日本は「ペイシェント・セントリック」において、後進国にあたります。ですので、この状況を変えていきたいと考えています。

臨床開発における生産性の向上は、会社やレギュレーションだけを改善しても達成できず、実際に薬を飲んでいただく患者さんの理解と協力があって初めて、医薬品開発の生産性は向上します。ですから、「ペイシェント・セントリック」を促進していくことは、結果的に創薬産業を発展させることにつながるのです。そのためのアイデア出しが必要だと考え、2018年度の「G4A」では次のような課題を提示させていただきました。

▼「G4A Tokyo Dealmaker 2018」で実際に提示されたチャレンジ課題の一例。「ペイシェント・セントリック」を重視した課題が設定されている。

「ペイシェント・セントリックの実現」へ、バイエル薬品とBuzzreach共通の想い

――次に、猪川さんにお伺いします。まず、猪川さんのご経歴について教えてください。

Buzzreach・猪川氏: 時系列でお話しさせていただきます。私が初めて製薬にかかわりを持ったのは2005年で、臨床試験の被験者募集に特化したベンチャー企業の経営サイドにジョインした時です。その事業を通じて、日本に「創薬における被験者募集の重要性」を訴え、スムーズに被験者を集めるご支援をしていました。

事業に取り組み、多くのステークホルダーとかかわる中で、新薬の開発から承認、そして患者さんに届けるまでのプロセスを見ていると、被験者募集だけが課題ではないことが分かってきました。他にも製薬会社の抱えるペインが数多くあることに気づいたのです。

そこで2017年6月に、Buzzreach(バズリーチ)を立ちあげました。治験プロセスにあるさまざまなペインを、テクノロジーを用いて解決していくことが設立の目的です。これにより、治験に要する期間を短縮し、患者さんによりよい治療法を届ける支援をしていきたいと考えています。日本にはテクノロジーを用いて、製薬会社とコラボレーションし、課題解決を行うサービスはほとんどありません。「ないなら、つくろう」と考えてスタートしたのが、Buzzreachです。

▲2020年2月には約2億円の資金調達を実施するなど、成長を続けるBuzzreach。

――治験の持つ課題に対し、より広範囲に取り組むベンチャー企業ということですね。

Buzzreach・猪川氏: はい。将来的には患者さんが治療法を選べる世界を実現したいと考えています。「ペイシェント・セントリック」という言葉は一般的になりましたが、残念ながら実現までは程遠いと個人的には感じています。

「ペイシェント・セントリック」を実践する上で、最も重要なのは担当医師と患者さんが、複数の治療法の様々なデータを比較し、個々人にとって最適な治療を選択できる状況を作ることです。現状だと、一番近くの医療機関に行き、そこで先生から提案された治療法を受ける患者さんが大半だと思います。もちろん、それが間違っているわけではありませんが、人口構成上、医療が大きな課題になるであろう日本において患者中心主義を実践することが重要だと感じています。そんな想いもあり、本プログラムへの参加を決めました。

――では、「ペイシェント・セントリックを促進する」という意味で、山中さんと想いが一致したということですね。ビジョンの一致以外で、本プログラムに応募しようと思った理由はありましたか。

Buzzreach・猪川氏: もうひとつあります。製薬会社には「外資系」と「内資系」がありますが、やはり、新しいサービスを国内で進めていくなら、「外資系」の方がチャレンジングで進めやすいだろうと思いました。

理由は、欧米では日本より進んだサービスが先行して存在しており、グローバル企業はその経験知をお持ちだからです。経験を踏まえて、「日本というカルチャーの中では、こういう扱い方で進めていきましょう」という話ができます。バイエル薬品さんはグローバルを代表する企業なので、進めやすいだろうと思いましたね。

――なるほど。山中さんがBuzzreachさんを採択された理由は?

バイエル薬品・山中氏: まず、目指している方向性が一致していたこと。それに、「一緒に新しいものをつくりましょう」というカルチャー、マインドセットが大きなポイントでした。

加えて、Buzzreachさんは、患者さん視点で豊富なインサイトや経験値をお持ちです。新しいソリューションの中身を検討していくにあたり、それらが役立つだろうと思いました。主にこの3点が、選ばせていただいた理由です。

プロジェクトチーム一丸となり、「治験管理アプリ」を開発から実装までをスピーディーに

――プログラム期間中は、どのような共創を?

Buzzreach・猪川氏: 「Study Concierge(スタディ・コンシェルジュ)」という新しいアプリを共同開発しました。製薬会社が治験を実施するにあたって、「治験参加者を確保できたらOK」というわけにはいきません。治験参加者に服用ルールに従ってお薬を飲んでいただき、有効なデータを出すことが新薬承認への一番の近道ですが、実際に治験参加者に協力してもらうのは難しいことなのです。例えば、当初規定していた期間を待たずに離脱してしまう、お薬の量や回数を誤って服用してしまう、などの場合は治験に有効なデータは得られません。

そこで、患者さんがよりよい環境で治験に参加し続けられるよう、被験者向けの治験管理アプリを共同で開発しました。

▲「Study Concierge」は、通院日や服薬時間をプッシュ通知で知らせる「カレンダー」、治験の進捗を視覚化した「進捗確認」、日々の服薬を簡単に記録できる「服薬記録」、検査データをカメラで読み取れる「検査結果管理」、治験依頼者とコミュニケーションができる「掲示板」などの機能を搭載している。

――アプリの共同開発は、どのようなプロセスで進めて来られたのでしょうか。進めるうえで直面した「壁」なども含めてお伺いしたいです。

バイエル薬品・山中氏: 最初にゴールを共有し、そこから、「どんなことができるか」をお互いにテーブルの上に全部出して、ブレインストーミングを行いました。これがファーストフェーズでしたね。その後、セカンドフェーズでは、お互いの経験知をもとに「患者さんの真のニーズ」を探りました。大規模なインタビューを実施できるわけではないので、この部分が難しかったですね。

サードフェーズでは、「ここに患者さんのニーズがあるだろう」と仮説を置いて、搭載する機能について議論を行いました。たくさんのアイデアが出ましたが、レギュレーション上、現時点では諦めなければならないものもありました。機能の取捨選択を行い、最後にテクニカルサイドのディスカッションをして、形にしたという流れです。

――今回、諦めた機能というのは、どんなものですか。何がハードルだったのでしょうか。

バイエル薬品・山中氏: 一つ目は、患者さん同士で、ノウハウや経験をシェアできる機能です。たとえば、基礎疾患をお持ちの方の家庭内での乗りこえ方には、それぞれのノウハウや経験知があります。それらをお互いに共有しあえる場をつくりたかったのですが、情報の正確性の担保や個人情報を管理する上での課題があり、今回は断念しました。

二つ目に、治験薬を服用する際に起こりうるリスクをシェアできる機能です。先に治験に参加された方からのレビューなどを確認できるようにすることで、日常生活にどんな影響を与えるのか、より具体的にお伝えできる機能を構想していました。レギュレーションの壁があり、現時点では諦めました。ただ、ディスカッションを通じて、次につながる気づきや確信を得られたことは、大きな成果です。

Buzzreach・猪川氏: 諦めたものの中には、優先度高く搭載したい機能もありましたが、現実的に可能な範囲から進めて、実証実験を行いながら次の開発へとつなげるステップをつくれたことは、結果的によかったと思います。

もうひとつ、当社が感じた壁ですが、想定していたよりも臨床試験のプロジェクト毎に、患者さんに伝えたい内容が異なっていたことです。この経験を通して、単純に統一したアプリを開発すればいいわけではないという気づきを得ることができました。

――猪川さんから見て、「自社単独」ではなくバイエル薬品さんとの「共同開発」だからこそのメリットは、どういう点にありましたか。

Buzzreach・猪川氏: プロトタイプが完成した後、実際にバイエル薬品さんで進行している2つの臨床試験プロジェクトにトライアルで導入していただきました。ユーザーボイスを聞きながら開発することができたので、次のβ版、公式版へと仕上げていくうえで、大きなメリットがありました。

近年、こういったアクセラレーションプログラムが活発化していますが、スタートアップの立場からすると、とてもありがたい環境だと感じています。見込みで開発するのではなく、将来的にお客さまになってくれるかもしれない企業とともに、共同開発という形で、知恵を出し合ってつくれるからです。

――プログラム全体の感想についてもお聞きしたいのですが、サポート体制などでよかった点は?

Buzzreach・猪川氏: お世辞抜きで、すべてのセクションにおいて協力的に取り組んでいただいたことでいただけたからこそ、早期にサービスをリリースすることにつながりました。本当に感謝しています。プログラムの窓口となっていただいたオープンイノベーションセンターのご担当者さん、プロジェクトチームを牽引していただいた山中さん、さらにプロジェクトメンバーの皆さんにまで『想い』が浸透していたので、プロトタイプを作るまでがとてもスムーズでした。こうした体制が整っていたからこそ、プロダクトの実装にまでつなげられたのだと思います。

規制が厳しく、参入障壁が高い医療・製薬業界において、実装までを支援してもらえる共創プログラムは稀だと感じています。『患者さんの「満たされない願い」をかなえる』というバイエル薬品さんのビジョンに共感できるベンチャー企業さんには、挑戦してもらいたいプログラムです。

▲2019年10月に開催されたプログラム成果発表会「G4A Tokyo Dealmaker 2019 Signing Day」に登壇したBuzzreach・猪川氏。

「G4A Tokyo」をきっかけに、続いてゆく2社の共創

――最後に、これからどういう方向性で進めていくのか。今後の展望についてお聞かせください。

Buzzreach・猪川氏: 「Study Concierge」は、スタンダードバージョンをリリースし、拡販を開始しています。幸いにも、いくつかの企業さまで導入が進んでいて、バイエル薬品さんとの共創で得た経験知が役立っています。より多くの企業にこのアプリを広げていくことが、今後の展望のひとつです。

また、今回搭載できなかった機能をいかに実装していくかも検討しています。現状の「Study Concierge」は治験期間中だけ使用するアプリですが、将来的には治験に入る前後、つまり通常の治療の過程においても、継続的に使っていただくアプリへと進化させていく予定です。そうすることで、患者さん同士の交流プラットフォームも実現できるのではないかと考えています。

――「通常の治療」と「治験」がシームレスにつながるイメージですね。山中さんはいかがでしょうか。

バイエル薬品・山中氏: ユーザーから集めた生の声をもとに、真の患者さんのニーズに合致したアプリへとバージョンアップしていくことが当面の目標です。それと、猪川さんがおっしゃったように、今回断念した機能を実装したいですね。「一緒に、また新たなドアを開けていきたい」というのが、私たちの想いです。

会社全体のお話をすると、私たちは「One of Countries」で終わりたいとは考えていません。日本からグローバルに影響を与えるような発信をしていきたいのです。それでこそ、私たち日本の組織の価値は最大化されると思うからです。

こうした想いのもと、当社は「デジタル化」や「イノベーション創出」に力を入れています。Buzzreachさんと取り組んでいる「患者中心医療の促進」以外にも「プロセスの効率化」など、さまざまな方向性で検討を進めています。革新的なテクノロジーやアイデアを持つ企業とともに、色んな変化を日本から起こしていきたいですね。G4A TOKYO Dealmaker 2020でも多くの企業様と出会えることを期待しています。

取材後記

両社のお話から、同じゴールを目指して非常にスムーズに開発が進んだ様子が窺えた。今年度も、バイエル薬品による「課題提示型」のオープンイノベーションプログラム「G4A Tokyo Dealmaker 2020」が始まる。求めているのは、製薬・医療業界に限らず、さまざまなテクノロジーを持つ企業だという。「製薬×テクノロジー」で、新しい未来を切り拓きたい企業は、ぜひ今年度の課題(チャレンジ)をチェックしてみてほしい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

▼G4A Tokyo Dealmaker 2020 詳細はこちら (応募締切:8/31)

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