エアロネクスト | 我々は発明で産業を創る。重心制御技術「4D Gravity®」×知財戦略で起こす次世代ドローン革命
国内外のスタートアップ企業、インターネット業界の最前線で活躍する経営者や関係者が集結するイベント、B Dash Camp 2018 Fall in Fukuoka 「PITCH ARENA」で見事優勝に輝いた、株式会社エアロネクスト。同社は、UAV(無人航空機)やマルチコプターの機体フレームのあるべき姿を実現する、ドローン・アーキテクチャ研究所だ。
特に、ドローン機体を安定させる重心制御技術に強みを持っており、現在さまざまな領域の企業とともに実証実験を進めている。同社の強みは、ドローン機体の研究・開発と試作、知財創出をサイクル化すること。特許を流通させることで、ドローン産業全体の発展に寄与する考えだ。――同社の戦略や今後注力していきたい領域についてなど、代表・田路氏とCFO・広瀬氏に話を伺った。
■株式会社エアロネクスト 代表取締役CEO 田路圭輔(トウジケイスケ)氏
大阪大学工学部建築工学科卒。1991年、株式会社電通入社。1999年、テレビ放送のデジタル化を契機に電子番組表(EPG)に着目し、電通と米国ジェムスター社の合弁で株式会社インタラクティブ・プログラム・ガイド(IPG)を共同設立。代表取締役社長として「Gガイド」の普及・市場化を実現。2017年、株式会社DRONE iPLAB(DiPL)を共同創業し、取締役副社長に就任。DiPLとの資本業務提携を機に同年11月より株式会社エアロネクストに代表取締役CEOとして参画。
■株式会社エアロネクスト 取締役CFO 広瀬純也(ヒロセジュンヤ)氏
一橋大学商学部経営学科卒。新卒で大手ベンチャーキャピタル、SBIインベストメント株式会社に入社。ベンチャー企業投資およびIPO支援の経験を積む。その後、地元である山梨でコンサルティング会社起業。2017年、山梨でドローンの研究開発を行っていた取締役CTOの鈴木と共にエアロネクストを創業。取締役CFOとして経営に携わる。
圧倒的な機体の信頼性を生む新技術「4D Gravity®」
――まずはじめに、エアロネクストさんの事業の強みについてお聞かせください。
田路氏 : もともとエアロネクストは、バルーン空撮の第一人者である鈴木陽一(現・エアロネクスト 取締役CTO)が立ち上げた会社です。鈴木は、都内に林立するタワーマンションの空撮を多く手がけており、早期からドローンに着手し、その性能・技術を熟知しています。さらに鈴木は、独自の空撮技術を自ら構築した優れた技術者でもあります。鈴木という才能溢れる技術者の存在と、ドローンという発展性の高い産業の可能性に惹かれ、経営者としてエアロネクストにジョインしました。
業界の外側からドローンの世界には足を踏み入れ、実感しているのは「まだまだマーケットが確立されていない」ということです。というのも、従来のドローンの機体は耐風性・安全性・飛行時間・飛行速度といった弱点を克服できておらず、産業利用がなかなか進んでいないのです。そうしたドローン特有の弱点を克服する技術として新たに開発し、当社の大きな強みとなっているのが「4D Gravity®」です。
――「4D Gravity®」とは、どういった技術なのでしょうか?
田路氏 : 「4D Gravity®」は、ドローンの重心制御技術のことで、圧倒的な機体の信頼性を生み出します。こちらの下の画像をご覧ください。「飛行部」と「搭載部」――もっと分かりやすく言えば「プロペラ」と「本体」を分離させ、それをジンバルで結合することで独立変位させています。この貫通ジンバル構造が、機体の安定を支えているのです。
ドローンを産業利用する際は、AED・カメラ・貨物など、多岐にわたる物が搭載される可能性があります。このような搭載物を安全に運ぶためには、本体の軸がぶれないのが絶対条件です。それを、私たちの技術である「4D Gravity®」は実現しました。現在、当社では、撮影・警備・宅配・点検など用途に特化したオリジナルドローンを3種類開発・発表しています。(360°VR撮影ドローン「Next VR™」/宅配専用ドローン「Next DELIVERY™」/産業用ドローン「Next INDUSTRY™」)
不安なモノはマーケットにならない。技術を流通させ、ドローン産業全体を発展させていく。
田路氏 : 実は、ハードウェアとしてのドローンは頭打ちだったと言えます。飛行機も車も、何十年もかけて機体の検討をされ、イノベーションが起こってきました。しかしドローンは誕生して30年もハードウェアに関しての議論がされてこなかったのです。私たちは、そこに風穴を開けようとしています。
――なるほど。
田路氏 : 航空機はもちろんのこと空を飛ぶモノは当然、安全性・信頼性が問われます。ただ、今の一般的なドローンはとても不安定で、見ていて「落ちそうだな…」と感じることが多いでしょう。技術以前に、人が不安を感じているモノは、なかなかマーケットにはなりません。一方、当社の「4D Gravity®」という技術を用いたドローンは、軸が安定しているので安心して見ることができます。その信頼性の高い機体が産業用ドローンのマーケットをより大きなものにしていくと考えています。
――エアロネクストさんは、コア技術である「4D Gravity®」はもちろん多くの特許申請をされていますね。
田路氏 : 特許は次々と出願しています。特許は先願なので、1日の遅れが命取りになります。朝にでたアイデアを夕方には出願しているくらいのスピード感で出願していますね。
広瀬氏 : CTO鈴木は、アイデアの泉です。スピード感を生み出すために、田路と私、CTO・鈴木、弁理士でもあるCIPO・中畑の役員4人が頻繁にコミュニケーションを取り、迅速な意思決定をしています。
田路氏 : 特許には、「自分たちの技術を守る」という側面と、「技術を流通させる」という側面の2つがあります。私たちは、後者の技術を流通させる知財戦略をとっています。これにより、ドローン産業にイノベーションをおこし、産業全体を発展させていこうと考えています。
橋梁点検の分野で、共創が進む。
――今後注力していきたいと考えている領域を教えてください。
田路氏 : 少子高齢化・労働力減少という、日本が抱える大きな社会課題があります。その課題解決のために、さまざまな領域で無人化や自動化、効率化をしていかなければなりません。そうした中で、農業・測量・点検・警備という領域においてドローンが必要とされており、まずはここに注力していきたいと考えています。そのためにも各領域で課題やニーズをお持ちの企業と、私たちとの技術を用いた共創を実現していきたいと考えています。
――国内だけではなく、海外からのニーズもありますか?
広瀬氏 : そうですね。海外からの引き合いも多くあります。海外では特にドローンによる物流や配送に関してのニーズが高いですね。
――現在、エアロネクストさんのドローン技術を活用した共創事例を教えていただけますでしょうか?
広瀬氏 : 現在、共創が進んでいる例を1つあげると、橋梁点検の領域になります。
田路氏 : 橋梁点検は、ドローン活用の中でも特に難しい領域です。というのも、橋梁は乱流が起きやすく、風の動きが非常に複雑。さらに、GPSも使えないため、ドローンを使う難易度が非常に高いのです。当社の「4D Gravity®」は、機体の安定性が高く、風にも強い。その信頼性が認められて、導入に向けて実証実験が進んでいます。
広瀬氏 : さらに、橋梁点検だけではなく、消防用途にも応用できますし、エンタテイメント領域にも導入することができると考えています。安全性の高いドローン飛行は、スポーツ中継などにも活かせるでしょう。また、屋根にドローンポートを設置して、ドローンによる物流・宅配を実現させる計画もあります。
田路氏 : 今までのドローンの機体に「4D Gravity®」を加えれば、基本性能は格段に向上し、用途も格段に広がります。私たちの保持している特許を流通させることで、産業用のドローンの全てに「4D Gravity®」を搭載し、産業ドローンの革命を起こしていきたいと思います。
「人が空を飛ぶ」――この”ワクワク”を実現させたい。
――それでは最後に、これからエアロネクストさんが目指す姿についてお聞かせください。
田路氏 : 「4D Gravity®」や数々の特許を流通させて、産業用ドローンの価値を高めていくことが当面の目標ですが、その先には「ドローンを使って人間が空を飛ぶこと」、エアモビリティの領域を実現させたいと考えています。ただ、それは重心制御がとても難しい。それを当社の技術で乗り越えていきたいと思います。
――とても壮大で、夢のあるビジョンですね。
田路氏 : そうですね。私は「Something New」という言葉が好きなんです。これまで成し遂げられなかった新しいこと、これを提供できなればスタートアップである意味はないと思います。我々が発明を続け、用途を開発できマーケットを持っている大企業と連携をしていく。期待の高まるドローン業界には、優秀なビジネスマンやエンジニアたちが続々と集まってきて、業界の成長とリンクしています。これからも、次々と驚くような技術や機体を生み出し、ビジネスにつなげていきます。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)