仮想空間がひきこもり支援の扉を開く 北大病院×Mediative×クラスターが「メタバース診察システム」の共同研究を開始
社会的ひきこもり状態にある人や精神疾患患者が、心理的負担を抑えながら医療につながれる環境づくりを目指し、Mediative株式会社、北海道大学病院、クラスター株式会社の3者は、2026年6月11日より「ひきこもり支援のためのメタバース診察システム」に関する共同研究を開始した。アバターを介したコミュニケーションと空間データ分析を活用し、精神科領域における新たな支援手法の確立を目指す。
医療アクセスの壁となる「ひきこもり」と対人不安
現在、ひきこもり状態にある人々にとって、医療機関を受診すること自体が大きなハードルとなっている。外出への不安や対面コミュニケーションへの緊張感から、必要な医療や支援につながらないケースは少なくない。
こうした状況は、うつ病や不安症、不眠、自傷念慮など精神症状の長期化・重症化につながるだけでなく、身体疾患の発見や治療の遅れを招く可能性もある。長期的な社会的孤立は心身の健康リスクを高めることが指摘されており、医療アクセスの改善は重要な社会課題となっている。
一方で、オンライン診療の普及が進むなかでも、没入感や空間共有を特徴とするメタバース技術の医療現場への活用は発展途上の段階にある。精神科診療は身体的接触を必要とせず、「対話」と「観察」が中心となるため、メタバースとの親和性が高い分野として期待されている。
アバターを介した「メタバース診察室」を構築
今回の研究では、日本最大級のメタバースプラットフォーム「cluster」を基盤とした仮想空間上に「メタバース診察室」を構築。北海道大学病院精神科神経科および共同研究機関を受診する患者や研究協力者を対象に、2028年3月31日まで研究を進める。
メタバース診察室では、医師や看護師、心理士、精神保健福祉士などの医療従事者と患者がアバターを介して交流する。標準的な診察室を再現した空間に加え、患者がリラックスして受診できるようカウチベッドや伴走者席も設置。利用者の心理状態や希望に応じて環境を選択できる設計となっている。
さらに、医療者と患者双方が自由にアバターを選択できるほか、BGMの変更機能も搭載。必要に応じて医療者の表情を実写映像で表示し、対面診療に近い環境を再現することも可能だ。
視線や動作データを分析し、臨床的有効性を検証
研究では、ヘッドマウントディスプレイを装着した状態で10〜15分程度の模擬診察を実施。その際の視線や身体動作などのデータを記録・分析し、メタバース空間におけるコミュニケーションの有効性を検証する。
アバターを介した対話は、対面診療や顔出しによるビデオ通話と比較して対人緊張を軽減できる可能性がある。特に、他者の視線や表情に強い不安を感じるひきこもり当事者にとって、心理的・物理的負担を抑えながら医療者とコミュニケーションを取れる環境として期待されている。
産学連携で目指す「温かみのある医療空間」
本プロジェクトでMediativeは、企画推進とアバターコミュニケーションに関する知見提供を担う。同社には医療メタバースエバンジェリストとして活動するVTuber・星野うぇあが所属しており、理学療法士やメンタル心理カウンセラー、VRスペシャリストとしての知見を生かしながら研究に参画する。
Mediativeの代表取締役社長 畑拓磨氏は、「医療は患者がそこにたどり着けて初めて力を発揮する。メタバースという新たな空間を活用し、医療につながるまでの距離を縮めたい」とコメント。単なる技術実証ではなく、安心して支援に出会える“温かい医療空間”の実現を目指す考えを示した。
北海道から全国へ、新たな精神医療モデルの構築へ
研究責任者の一人である加藤隆弘氏は、2013年に世界初の「ひきこもり研究外来」を立ち上げたことで知られる。現在は北海道を拠点に包括的なひきこもり支援体制の構築を進めており、「精神医療につながるまでの距離を縮める導線整備を進めたい」と期待を寄せる。
また、クラスターの代表取締役CEOの加藤直人氏自身も大学院時代に3年間のひきこもり経験を持つ。「アバターは対人不安を抱える人が次の一歩を踏み出すための架け橋になり得る」と語り、メタバースが医療アクセスの新たな選択肢となる可能性に期待を示した。
メタバースはゲームやコミュニティの場として発展してきたが、今後は医療の入り口としても新たな役割を担うかもしれない。北海道から始まったこの挑戦は、精神医療における支援のあり方を大きく変える可能性を秘めている。
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(TOMORUBA編集部)