【スタートアップ×eiicon座談会<前編>】 大企業との共創で感じる様々な障壁――スタートアップサイドのリアルな声とは?
オープンイノベーションを推進する上で大きな障壁となる一つの要素が、企業文化や慣習と言えるだろう。特に、商習慣の歴史が古く、業務が社内で細分化されている大企業はこの障壁が厚い。実際に、大企業とのオープンイノベーションに取り組むスタートアップは、このような障壁をどのように捉えているのか。そして、その障壁を越え、オープンイノベーションを推進するために、どのような努力を続けているのかーー。
今回はeiiconの田中みどりが聞き手となって、ZEROBILLBANK JAPAN、Payke、ハタプロという3社のスタートアップの経営者に集まっていただき、現場で感じたリアルな声を前編〜後編に渡り、伺った。
<写真左→右>
■ZEROBILLBANK JAPAN 株式会社 代表取締役社長 堀口純一氏
IBM勤務を経て、2015年2月にイスラエル・テルアビブでZEROBILLBANKを創業。あらゆるデータをブロックチェーン上でアセットとして管理する仕組みを考え、企業トークンを発行するプラットフォーム「ZBB CORE API」を開発。金融や保険はもとより、複数企業で共有できる企業コイン(企業トークン)の付与や働き方の可視化をベースとした働き方改革へも活用されている。
■株式会社 Payke 代表取締役 古田奎輔氏
東京都生まれ。沖縄に移住し、琉球大学に入学後、19歳で貿易業やEC事業を立ち上げる。県内貿易商社と協業し、沖縄県産品の貿易業や海外プロモーションに携わる。その後独立し、2014年に株式会社Paykeを創立。バーコードから商品情報を多言語で引き出せるスマホアプリ「Payke」を提供している。
■株式会社ハタプロ 代表取締役 伊澤諒太氏
2010年に株式会社ハタプロを創業。14年に事業売却を経てハードウェアベンチャー支援に従事。16年よりNTTドコモと共同でIoT製品開発・製造に特化したメーカー支援事業を開始、国内外の複数の町工場と協業。17年にAIロボット事業子会社のハタプロ・ロボティクス株式会社を設立。AI/IoT/ロボット技術を組み合わせた次世代型の街づくりに関心があり、今秋に地方自治体と共同で半官半民の合弁会社も設立予定。
■eiicon company 共同創業者 田中みどり
株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)に新卒入社。正社員の転職支援領域における法人営業部門にて、IT・インターネット業界の採用支援に従事。 その後、eiiconの立ち上げに参画。アライアンス・セールス・プロモーションなどビジネスサイドを担う。
大企業の常識は、スタートアップの非常識であることも。
eiicon・田中 : 本日はお集まりただき、ありがとうございます。今回は大企業との共創を大きくテーマとし、スタートアップの経営者であるみなさんから、ざっくばらんにお話を伺えればと思い、この座談会をセッティングしました。早速ですが、オープンイノベーションを推進する上で、大企業特有のカルチャーによって困ったことや違和感を感じたことはありましたか?ストレートに教えてください!
Payke・古田氏 : 「コスト感」ですかね。会議ごとにPowerPointで資料を作ってきてくれるんですけど、その場で話せばいい内容もありますよね。でも、その資料って1時間くらい掛けて、誰かが作成している…。その辺のコスト感覚が気になることがあります。
ZBB・堀口氏 : 確かに。コスト感でいえば、会議に大勢が出席されるケースもあります。会議だけでも、人件費というコストが掛かっていますからね。
ハタプロ・伊澤氏 : あとは、担当者の部署異動で、先方の引き継ぎでプロジェクトが遅れてしまうケースもありました。引き継ぎにもコストはかかりますし、慣れている方のほうが理解が早いのですし、これからというときにメンバーが変わるのは、あまりベンチャーではないと思います。
eiicon・田中 : なるほど…。ではみなさん、プロジェクトが遅延しないように、気を付けていることがあれば教えてください。
ZBB・堀口氏 : 聞きにくい部分はあらかじめクリアにしておくようにしています。そうしないと、案件の明確なゴールが見えなくなりますよね。例えば、このチームに予算がどれだけありますか?とか、みなさんのKPIで何が評価に繋がりますか?とか。そのあたりをきちんと聞いた上でプロジェクトを設計するようにしています。
ハタプロ・伊澤氏 : 事前に業界地図やリリースなどで相手のことを把握したりもします。調べればわかることや、見積もりを何度も出し直したりするのは非効率なので、事前にちゃんと把握しておくようにしていますね。
ZBB・堀口氏 : ストレートに予算を聞くのが難しそうな場合は、「ガイドラインはありますか?」と聞いてみて、全体感を把握するのもありですね(笑)。
うまくいくのは、「自分事」化できる担当者
eiicon・田中 : それでは次に、プロジェクトがスムーズに進む大企業側の担当者についてお伺いしたいと思います。
ZBB・堀口氏 : きちんと期日や納期を設定してくれる担当者は助かりますね。ここまでに欲しいとか。明確だとこっちも進むことができますから。
Payke・古田氏 : 僕の関わったプロジェクトで上手くいった例を振り返ると、担当者が「自分事」として動いてくれたというのが大きいですね。休日も出てくれたり、自費で出張に行ってくれたりと。反対に、サラリーマン的な仕事としてこなしてしまうと、オープンイノベーションはやっぱり厳しいと感じてしまいます…。あと、素晴らしい担当者は、ある程度上の人間と握れているんですよね。上司に信頼されているとか、横の部署の情報もキャッチアップできているとか。そういった担当者は、社内調整もとても上手です。
eiicon・田中 : なるほど。
Payke・古田氏 : しかし実際は彼らも苦しいんですよね。以前、オープンイノベーションの担当者に、「今やっていることはKPIに入っていますか?」と聞くと、「入っていない」と言うんです。これは、大企業の人事評価制度に問題があって、オープンイノベーションやスタートアップとの共創を奨励していても、評価制度にそれが組み込まれていないことが多いんです。
ZBB・堀口氏 : 企業という箱の中だけで物事を考えるのではなく、大企業でも事業の利益に対して何%かを社員の給与に反映させたり、柔軟に考えを広げていってほしいですね。
まさにリアルな意見が飛び交った対談の前編。明日(8/31)公開する後編では、特に大企業とスタートアップによるオープンイノベーションを成功させるための具体的なアクションやノウハウについて伺った。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)