【イベントレポート/CHANGE THE RULES】 「eiicon」のマンスリーミートアップイベント第17回〜暮らしのイノベーション。10年後の当たり前を創る〜
オープンイノベーションのプラットフォーム「eiicon」の月一ピッチイベント「eiicon meet up!! vol.17」が7月31日、東京ミッドタウン日比谷のビジネス連携拠点「BASE Q」で開催されました。
「暮らしのイノベーション。10年後の当たり前を創る」というテーマを掲げた今回のイベントでは、アスクル株式会社の高城梨理世氏が登壇し、BtoCのEコマースサービス「LOHACO」を支えるマーケティングプラットフォーム「LOHACO ECマーケティングラボ」における具体的な取り組みを伝えたほか、スタートアップ2社が熱いピッチを展開しました。
モデレーターを務めたのは、「BASE Q」を運営する三井不動産で新規事業/オープンイノベーション推進事業を担当する光村圭一郎氏。会場には、大企業の新規事業担当者やベンチャー・スタートアップ関係者など70名を超えるビジネスパーソンが集まりました。講演とピッチの内容は以下の通りです。
約130社にもおよぶ参画企業とのオープンイノベーションを推進
【登壇者】 アスクル株式会社 BtoCカンパニー 事業企画本部 ビジネスマネジメント&アナリティクス部長 高城梨理世氏
2010年にヤフー株式会社に新卒入社。2014年に動画クラウドソーシングのベンチャー企業に入社し、新規サービス立ち上げや業績拡大に貢献。2016年ヤフー株式会社再入社と同時にアスクル株式会社に出向し、「LOHACO ECマーケティングラボ」の運営に携わる。
高城氏は、アスクルとヤフー株式会社との業務・資本提携から始まったBtoCのEコマースサービス「LOHACO」について紹介しました。事業者向け通販事業「ASKUL」でのノウハウや物流・配送に関する強みを持っていたアスクルがメディアによる圧倒的な集客力を有するヤフーと組むことで2012年10月にスタートした「LOHACO」は、30代〜40代の子育てをしながら働く女性がコアユーザーとなっている日用品中心の総合ECサイト。同社内で約3000億円を売り上げる事業者向け通販には及んでいないものの、18年5月期で500億円超、今期は約700億円の売上を見込んでおり、着実に成長を続けているとアピールしました。
こうした「LOHACO」の順調な成長を支えているのが、マーケティングプラットフォーム「LOHACO ECマーケティングラボ」であると高城氏は語ります。「LOHACO ECマーケティングラボ」では、参画メーカーやパートナー企業に対し、製品の売上シェアや併売率、購入者属性、購入間隔、顧客の訪問回数、訪問経路、検索クリエといったあらゆるデータをオープン化。さらにはデータをオープンにするだけでなく、事例共有会や分析勉強会、テストマーケティング、ゼミ形式のディスカッションといった参画企業同士による共創の場を設けることでオープンイノベーションを実践しています。
「LOHACO ECマーケティングラボ」が特徴的なのは参加企業が自社のデータのみならず、競合企業のデータも閲覧できることであり、競合企業同士が手を取り合って販促活動やテストマーケティングを行うケースも珍しくないと言います。
現在、「LOHACO ECマーケティングラボ」には食品、飲料、製薬、消費財といった国内外の大手メーカー約130社のほか、GoogleやFacebookといったプラットフォーマーも参画し、データ活用やスマートデバイスとの連携、新たな広告メニューの作成といった面で協業を進めていると解説。続けて高城氏は、最適なオファーのパーソナライズ、ECの特性を活かした梱包単位の製品開発、店頭でのPRを前提にしない暮らしに馴染むオリジナルデザイン商品の開発、スモールマス市場の顕在化といった、多くの企業との共創から生まれた数々の事例を紹介しました。
参画企業全体でデータを徹底活用し、生活者視点のサービスを増強していく
最後に高城氏はオープンイノベーションに基づくEコマースである「LOHACO」をさらに発展させていきたいと意気込みを語り、以下の点を強調しました。
◆「LOHACO ECマーケティングラボ」を、生活者・メーカー・流通の三者に価値を生み出す究極のマーケティングプラットフォームに育てる
◆今後も参画企業全体で得られたデータを徹底活用する
◆あくまでもユーザーである生活者起点のサービスを増強し続ける
また、モデレーター光村氏との対話において高城氏は「プラットフォームビジネスと言ってもECの基本は小売なので手間はかかっている」と語りました。光村氏は「プラットフォームビジネスは“割りがいい”と思われがちだが、そうした考えを持つ人たちに対して示唆を与える話になりそうだ」と応えるとともに、「競合同士で互いにデータを活用しあうなど、日本のメーカーも変わりつつあると感じた。今後も孤立ではなく共創を選ぶ企業が増えるだろう」と感想を述べました。
【スタートアップピッチ(1)】 KAMARQ HOLDINGS PTE.LTD
【登壇者】 KAMARQ HOLDINGS PTE. LTD. 取締役/Co-Founder カマルクジャパン株式会社 代表取締役社長 町野健氏
2012年にキュレーションマガジンantenna立ち上げのため、グライダーアソシエイツを創業。3年で500万ユーザー獲得かつ黒字化まで育て上げる。2015年にKAMARQのCo-Founderに就任。事業立ち上げ、メディア、マーケティングが専門。
家具やスマートプロダクトに関する様々な事業を展開するKAMARQが今年5月からスタートしたのは、家具のサブスクリプション型販売サービス。同社代表の町野氏は「価格が高く、入れ替えにも手間がかかるため、長く使うことが前提であった家具の固定概念を変えるべく、所有からの解放、価格からの解放、劣化からの解放を目指す」と語りました。
同社のサービスでは、家具1台につき月額500円からのレンタルが可能であり、レンタルから6〜12カ月経った家具はいつでも新品と交換できると言います。家具は年間50万台の生産が可能であるインドネシアの自社工場で受注生産を行うほか、デザインは外部の有名デザイナーに委託するというシステム。
すでにレディー・ガガのクリエイティブ・ディレクターやUNIQLO、DIESELのディレクターも務めるニコラ・フォルミケッティ氏などの有名デザイナーの参画も決定していると言います。また、回収した家具に関してはインドネシアの工場でリビルドを行うことにより、木材などの材料を無駄にしないエコループも構築しているとのことです。
現在は法人向けの販売が好調とのことですが、今後は個人に対しても「家具のサブスク」によるメリットを伝え続けていくことでtoCビジネスも軌道に乗せ、最終的には「部屋の中のモノすべてをサブスク化していきたい」と意欲を語りました。
【スタートアップピッチ(2)】 Qrio株式会社
【登壇者】 Qrio株式会社 Lock事業部 事業部長 兼 マーケティング部 部長 高橋諒氏
大学在学中の2012年に株式会社U-NOTEを設立し、取締役副社長に就任。 2015年3月よりQrioに参加。事業開発部シニアマネージャー、スマートロック部門の事業責任者として企画・マーケティングを中心とした領域を担当。
昨年よりソニーネットワークコミュニケーションズのグループ会社となったQrioの高橋氏は、スマートロック製品「Qrio Lock」を紹介するとともに、今後推進していきたい“サービス化”について説明しました。
「Qrio Lock」はスマートフォンで自宅の鍵の開閉ができ、別売りの「Qrio Hub」と連携することで外出先での鍵の操作が可能になるほか、操作通知をスマートフォンで受け取ることもできる製品。今年7月にリリースした新バージョンも発売1週間で出荷台数5000台を突破している人気製品ですが、今後は宅配サービスや家事代行、不動産管理といったイエナカサービスを提供している事業者、オフィスやコワーキングスペースなど法人スペースに関わるサービスを提供している事業者、さらには「Google Home」や「Amazon Echo(Alexa)」などのスマートホームサービスとの連携なども進めていくことで、多角的なサービス化を目指していきたいと語りました。
競合が増えてきたスマートロック製品ですが、高橋氏は「toC向けマーケットに注力している当社製品の強みはユーザーの数である」とアピールしました。出荷台数ベースで考えれば国内シェアの8割以上は同社が確保していると話し、実際に「Qrio Lock」を設置している多くの家庭に対してサービスを提供したい企業と連携することでイノベーションを生み出していきたいと、共創を呼びかけました。
取材後記
「LOHACO」で毎日の生活に欠かせない日用品を提供するアスクル、家具の固定概念を変えようとしているKAMARQ、鍵に関する新たなサービスを生み出そうとしているQrio。今回ピッチに立った大企業とスタートアップは、いずれも暮らしの根幹を支える製品・サービスにフォーカスしたイノベーションを生み出そうとしており、これからの私たちの暮らしを“より便利に楽しく”アップデートしてくれるのではないかという期待感に胸が躍りました。
また、アスクル高城氏のピッチは、大企業であっても手を取り合わなければ、新しいものを生み出せない時代が到来していることを予感させるものでした。「LOHACO ECマーケティングラボ」のようなプラットフォームや、企業の規模を問わず互いの強みを活かした共創を実現できる「場」を作ることが、今後ますます重要になりそうだと感じました。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)