
光触媒技術で高病原性鳥インフルエンザを不活化 カルテック、東京大学・宮崎大学と共同で実証
光触媒技術を用いた社会課題の解決に挑む大阪発のベンチャー企業・カルテック株式会社は、東京大学大学院農学生命科学研究科、宮崎大学と共同で、高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAI)の不活化を実証したと発表した。
養鶏場における大規模な殺処分を防ぎ、家禽肉や卵製品の安定供給に資する新たな感染症対策として期待される。
頻発する大量殺処分への挑戦
背景には、近年猛威をふるう高病原性鳥インフルエンザの影響がある。感染拡大防止策として日本では“スタンピングアウト政策”と呼ばれる、感染個体の速やかな殺処分を原則としており、これにより養鶏業界は毎年多大な経済的損失を被ってきた。
カルテックは創業以来、空気清浄機など光触媒除菌脱臭装置を開発してきたが、畜産分野でも除菌技術を活かすべく、養鶏場に適した光触媒装置の研究を推進してきた。
実証実験で90%以上の不活化を確認
今回の実証では、光触媒の抗ウイルス効果を検証するため、JISR1702:2020を改変した手法を用いた。
「光触媒をコーティングしたガラスシートにウイルス液を滴下し、励起光を当てた試験群」と、「光触媒なしのガラスシートを暗所で静置した対照群」でウイルスの感染力価を比較した結果、試験群では1時間後にウイルス感染力価が2933PFU/500μlから273PFU/500μlに減少。不活化率は90.7%に達し、光触媒による強力な除菌効果が裏付けられた。
世界的課題に光触媒が一石を投じる
研究代表の間陽子特任教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)は、「HPAIは世界中で甚大な経済被害をもたらし、食の安全を脅かす存在です。近年ではウシからヒトへの感染事例も報告され、対策は急務となっています。日本はワクチンを使用しない政策のため、感染を発生させないことが極めて重要です。今回の成果が光触媒技術を活用した新たな感染症対策の一助になることを期待しています」とコメントしている。
安定供給と持続可能な畜産へ
今回の技術は、従来の殺処分依存型対策から一歩進めて、養鶏場などの飼育環境そのものを“ウイルスが繁殖しにくい空間”にすることを可能にする。
カルテックは今後、実証結果を踏まえ、光触媒除菌脱臭機の製品化を加速。畜産農家の負担を軽減するとともに、安心して消費者に家禽肉や卵製品を届けられる仕組みの実現を目指すという。
社会課題の解決と産業の持続可能性の両立を目指すカルテックの挑戦は、今後の日本の畜産業のあり方に大きな影響を与えそうだ。
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(TOMORUBA編集部)