【イベントレポート】第25回NEDOピッチ~JEITA ベンチャー賞特集!有望ベンチャー5社が登壇!
民間事業者の「オープンイノベーション」の取組を推進し、国内産業のイノベーションの創出と競争力強化への寄与を目指し設立されたJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)。6月5日(火)、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)とJOICの共催で、イノベーション及び具体的な事業提携事例の創出を目指すイベント「第25回NEDOピッチ」が実施された。
今回の第25回NEDOピッチでは、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)と連携し、「第3回JEITA ベンチャー賞特集」 というテーマで、今年3月に上記ベンチャー賞を受賞されたベンチャーピッチに潜入。自社の研究開発の成果と事業提携ニーズについて、大企業やベンチャーキャピタル等の事業担当者に対し、創造性の高いプレゼンテーションを行った。
■JEITA ベンチャー賞特集とは?
電子情報技術産業協会(JEITA)では、IoTやビッグデータ、人工知能(AI)等の技術の進展により、産業構造や社会構造が大きく変わりつつある中、世界に先駆けた「超スマート社会」の実現(Society 5.0)に向けて、異業種、ベンチャー、海外等とも連携。IT・エレクトロニクス業界の更なる発展を目指し、新たなビジネスの創出に取組んでいる。
「JEITAベンチャー賞」は、CPS/IoT社会実装の鍵となるベンチャー企業を支援する取組みの一環として実施。電子情報技術産業発展への貢献が期待されるベンチャー企業のうち、成長性・先導性、波及性、社会性の3つの視点から電子情報技術産業の総合的な発展、経済発展に貢献しうるベンチャー企業を審査・選考し、表彰するもの。
株式会社アスター 代表取締役 本郷 武延氏
https://www.ast-aster.com/outline.html
▲株式会社アスター 代表取締役 本郷 武延氏
『モーターに技術革新を。横手から世界へ』を掲げる株式会社アスターは、秋田県横手市を拠点とした革新的な積層技術を用いたモーターコイルを製造しているベンチャーだ。限られたスペースの中でコイルをいかに高密度に収めるかが、モーターの性能向上の中で重要な要素として挙げられる。同社が開発した「アスターコイル」は、これまでにない自由度の高い形状設計を可能とした独自技術。放熱性の向上なども達成することでモーターコイルの大幅な高密度化を実現した(従来の1.5倍)。これによりモーターの高出力化・小型化に貢献。最小のもので幅3mm、長さ10mmものコイルも製造している。
自動車産業の用途が多いとされるモーターコイルであるが、今後、航空宇宙、家電、発電など様々な分野への適用により省エネルギー効果や産業競争力の強化が期待される。
代表の本郷氏は「今後工場を建設し、インからアウトまで一気通貫した製造ラインを確立させ、あらゆる分野へのアプローチをしていきたい」とアピールした。
株式会社ABEJA 藤本 敬介氏
▲株式会社ABEJA 藤本 敬介氏
株式会社ABEJAはAI(ディープラーニング)技術を活用したビッグデータ解析によって主に小売業に向けたをはじめ、製造、インフラストラクチャー業界等、横断的に様々な業界にソリューションを展開しているAIベンチャーだ。日本市場におけるAIのトップランナーとも言える同社ではAI活用に必要なサービスをEnd-to-End(課題の発見から事業性検証、モデルの開発、本番運用まで)で提供している。同社の強みは本番の運用まで実装が可能という点だ。これまでも100社以上の企業とプロジェクトを進めてきた実績がある。
ピッチでは、事例として武蔵精密工業社の導入ケースを紹介。武蔵精密工業社にて製造する自動車部品の画像データを解析し、完成品の自動検品を可能とし、通常、人に頼らざるを得なかった検品工程の自動化を実現。生産効率の大幅な向上を実現した。同社は実店舗、リアルの場におけるあらゆるデータの取得から、解析、効率化・自動化可視化を一手に行うAI運用プラットフォームクラウドサービス「ABEJA Platform」 を提供している。
藤本氏は、「全ての業務がAIに置き換わるとは言えない。AI技術が何に使えるかを把握することが必要だ」と述べ、最後に「AIの活用を検討している企業様がいれば是非ご相談ください!」と締めくくった。
Hmcomm株式会社 代表取締役CEO 三本 幸司氏
▲Hmcomm株式会社 代表取締役CEO 三本 幸司氏
Hmcomm株式会社は、『キーボードレスな社会創造』をミッションに掲げる産総研発ベンチャー。産総研独自の音声処理技術を用いた音声認識に特化したAIプラットフォームによるソリューション・サービスを展開している。同社は、音の宝庫であるコールセンターに着目。自然会話をモニタリングすることでコマンド的な音声認識ではなく業務上に活かせるソリューションを提供している。
今回のピッチではコールセンター向け『Vcontact2.0』を紹介。通販業務に特化したサービスを展開している。顧客との会話の中から注文するオーダーの名前・住所・電話番号・商品または支払方法をダイレクトに強化学習し、自動帳票する。これにより受電中にお客様の受注エビデンスを残し、次の受電に素早く対応できるため、大幅な時間短縮、機会損失を防ぐ。
次の『Vcontact』の目指す先は、大量に蓄積された「音声/テキストビックデータ」を活用し、自動学習によって音声の自動対話を実現したいと代表の三本氏は語る。「今後、多様なビジネスフィールドにおいて新たな音声処理サービスを展開していき、お客様の業務効率化をサポートしていきたい。更にこれらを共に開発・販売してくれるパートナーと組んでいきたい」とアピールした。
株式会社ZenmuTech 代表取締役社長/CEO 田口 善一氏
▲株式会社ZenmuTech 代表取締役社長/CEO 田口 善一氏
「データの無意味化で世界は変わります」。そう話す株式会社ZenmuTech代表の田口氏が手掛ける事業は、データを無意味化することで安全性を担保するセキュリティ事業である。同社は暗号化技術と、分散技術を組み合わせた「秘密分散処理」により、情報の漏洩防止を可能にするソリューションを提供している。
従来の鍵暗号などの暗号化手法は、原本が内包されているため、暗号解読技術の進歩により破られ、読み取られる可能性がある。一方で同社の持つ秘密分散技術をベースに開発された「ZENMU」では、データを意味のないデータに変換・分割保管することで全ての分散片がそろわないと復元は不可能であり、情報の漏洩を事実上不可能にしている。サイバー攻撃に対しても強い防御手段となる。データが発生した時点で無意味化すれば、データのハッキング・改ざん自体のリスクがなくなり、従来型のネットワークセキュリティは不要、コスト削減にも大きく寄与する。
田口氏は今後、IoT、ブロックチェーンなどあらゆる領域、そしてグローバルに「ZENMU」を浸透させ、セキュリティの概念を変えていきたいと話した。
PGV株式会社 最高データ責任者 吉本 秀輔氏
▲PGV株式会社 最高データ責任者 吉本 秀輔氏
「新たなデバイスで、 計測が困難なものを可能にする」をビジョンに掲げるPGV株式会社は、微小信号処理技術とフレキシブルエレクトロニクス技術をベースに、高性能パッチ式脳波センサーの製造・販売を行う大阪大学発ベンチャーである。同社開発の脳波センサー「パッチEEG」は生体に優しい伸縮自在な多チャンネル電極に、世界トップのノイズ除去技術を搭載した、手のひらサイズの高性能パッチ式脳波センサーである(厚さ6mm、重さ24g)。各家庭にあるような体重計・体温計・血圧計に続く「第4のセルフケア機」としての脳波計の実現を目指す。
従来の大型装置と同等レベルの計測精度を実現し、またワイヤレス式であるため、普通に日常生活を送りながら脳波を計測する事が可能となる。現在、メディアカル領域では精神疾患などの「検知・予知」に、ビジネス領域では感情・感性計測を利用した「ニューロマーケティング」に、そして睡眠のモニタリングによる「睡眠状態の管理・質の向上」に同技術を活用している。
吉本氏は今後も幅広い領域での発展が期待でき、脳内の状態をリアルタイムに分析することで、脳の活性化、そしてセルフケアを実現していきたいと話した。
取材後記
今回のピッチでは、5社ともに異なる領域・分野において革新的な技術を保有していた。受賞企業については、特に業種や分野に制限はなく、賞の裾野は非常に広い。ピッチ参加者の業界・業種も様々で、非常に熱気のあるイベントであった。そしてピッチ企業全社に共通しているのは、これまでの常識・概念を覆す技術を保有しているという点だ。今後、この技術をより多くの人々に届け、これまでの「当たり前」を壊し、次なる「当たり前」に変えていくためには外部・異業種との連携は欠かせない要素ではないだろうか。
「超スマート社会」の実現(Society 5.0)に確実に近づいていると予感させる今回のピッチ。この世界を変える技術の種を、多くの土地に植えて育てていくのは一体誰なのか。今後の展開に期待を膨らませるピッチであった。
(構成・取材・文:保美和子)