【コラム】社内新規事業プログラムの実践“中”事例(2)〜パーソルグループ「0to1」/社内起業プログラムの担当者悩みポイント
【コラム執筆者 プロフィール】 長島威年(ながしま たけとし)
2006年、株式会社パーソルキャリア(旧インテリジェンス)に新卒入社。営業、転職サイトDODAの求人広告ライター/ディレクター、編集、CRMマーケティングを経験。2014年に組織開発/人材開発へ。2016年にパーソルホールディングス(旧テンプホールディングス)に出向・転籍。2017年より新規事業プログラム「0to1(ゼロトゥワン)」を担当。
本記事の位置づけ
新規事業担当者としては経験が少ないですが、以下2点を願い全5回の記事を書きます。(本記事は第2回目)
・新規事業担当者のみなさまに少しでも役立つ情報を伝えたい
・アントレプレナー、イントラプレナー、投資家のみなさまと新規事業創出について様々な仕組みをより良くするための議論・意見交換をしたい
今や書籍やWebでは「社内新規事業の成功・失敗ノウハウ」のようなものは溢れているので、一般的なフレームワークというよりは、まさに現在進行形で実践中の内容をメインに生の情報をお伝えしていきたいと思います。新規事業の成功率が1000分の3(センミツ)と言われる中、正解がない取り組みですので、議論・意見交換の材料になれば嬉しいです。(執筆者とコンタクトを取りたい方は、Facebookを通じてご連絡ください)
<過去記事紹介/第1回記事> 社内新規事業プログラムの実践“中”事例 https://eiicon.net/articles/297
3つのリアルな悩みを公開
今回は絶賛悩み中の3つのリアルな悩みを記載します。「①そもそも新規事業の“新規”とは?」「②新規事業、風土醸成、人材育成をどう考えるか?」「③最終審査通過後のフォローをどうするか?」の3つです。
まさに今現在、悩み中なので明快な解決策はまだありません。これから社内新規事業を考えるご担当者にとっては事前に考えるキッカケに、同じ悩みを持っている方には少しでも解決策を考える上での切り口の提供を、すでに良い方法で運営している担当者の方は…ぜひアドバイス頂けますと嬉しいです。また、アントレプレナーや投資家の方には一歩引いた目線からご意見などいただけると有難いです。
悩みポイント① そもそも新規事業の”新規”とは?
まず1つ目。「新規事業」と簡単に言うけれど、「新規」という言葉の解釈はさまざまです。この解釈を起案者、審査員、事務局内で統一したいが、なかなかできない…という悩みです。これまで新規事業プログラムを進める中で仮説ではありますが少し「新規事業」を生み出すプロセスを整理してみました(下記、図をご参照ください)。
まず最初の分岐は「世の中的or社内的な新規性」。「世の中的」はいわゆるスタートアップの得意領域となります。「社内的」は国内外にはビジネスモデル・製品・サービスとしてあるが社内ではまだない、という新規性。次は、「内製or外注(M&A)orオープンイノベーション」という進め方の分岐。弊グループは一度、「オープンイノベーション」をトライアルで実施しましたが、今は「内製」で自社社員だけでチームをつくって進めています。最後は、アプローチの分岐。「潜在ニーズor顕在ニーズ」となります。「潜在ニーズ(新規の課題)」へのアプローチであれば、解決策は自ずと新規性を帯びます。ただ、これはユーザーすら気づいていないケースが多いので難易度は高い印象です。「顕在ニーズ(既存の課題)」へのアプローチは、ニーズ把握までは比較的容易ですが、それだけでは新規性が弱いので解決策に新規性を見出す必要があります。ポイントは「ニーズはあるがビジネスとして出ていない構造的背景」をしっかりと考えること。
と、書きましたが、それぞれのボックス内にはさらに細かい分岐があり、正直に言うとなかなか明確に「新規事業とは?」を定義できていません。加えて、起案通過後の事業計画策定プロセスにおいては既存事業の事業ポートフォリオと比較した時に「売上」「営業利益」「利益率」など、何をKPIとしてベンチマークし、継続・撤退の判断をいつするのかといった“新規事業戦略”を練るかも大きな論点となります(成熟したビジネスモデルを持つ既存事業と新規事業では、成長曲線も異なるケースがあるのでなかなか悩ましいところです)。
悩みポイント② 新規事業、風土醸成、人材育成をどう考えるか?
2つ目の悩みポイントは、ずばり「新規事業、風土醸成、人材育成」のバランスをどうとるのかという点です。全て網羅する!というのが理想ですが事務局としてのリソース(実施期間、予算、人員など)は限られています。
基本的には「新規事業」の創出に注力したいところですが、企業内において、「風土醸成」「人材育成」も同じくらい大切です。人材育成要素がないと起案の質は属人スキルに頼ってばかりでは全体的に高まらないですし、風土醸成できていないとそもそも起案数が増えず新規事業プログラムが成り立ちません。かと言って、「新規事業」の要素を薄めるとプログラム自体が形骸化してしまい本末転倒です。企業内で新規事業プログラムをする立場としては、正解がない問いなので日々葛藤しています。
悩みポイント③ 最終審査通過後のフォローをどうするか?
悩みはプログラム内だけではありません(笑)。今回の記事において最後の悩みポイントは、最終審査を無事に通過した後のフォローについてです。担当者として事務局のゴールは、最終起案通過数としがちですが、起案者にとってはここがスタートライン。過去の起案通過者にヒアリングをしたところ数多くの意見(不満?)が出てきました。整理したものは下記をご参照ください。
なかなか起案通過後までフォローできない理由としては、中長期的に新規事業をサポートし続ける余力がないというのが率直なところです。組織開発/人材開発担当者は新規事業の専任ではないので、他の研修に時間をとられます。特に、新規事業が正式にスタートする4月は新人研修という一大イベント、その他の新規企画のカットオーバーの波が待ち受けています。(企業によっては新規事業プログラムの担当者が経営企画、営業推進などの場合もあるようですが共通して3月決算の企業は忙しいと想定しています)
解決案の一つとしては、例えば、事業戦略を検討する部署(経営企画など)と連携することなどが挙げられます。役割分担としては最終起案通過前までは組織開発/人材開発担当者、その後は経営企画の担当者に引き継ぐなど。新規事業はうまく軌道に乗れば3~5年で次のビジネス拡張フェーズへと進化します。あくまで一案ではありますが、事業戦略を描く専門部署と連携することで、起案者にとって良いサポートができるのであればこのような考え方も有効かと思います。
まだまだ自社内では起案者に対するサポートが足りていませんが、少しずつ社内を巻き込みながら、会社をあげて新規事業を起案する熱意ある社員を応援する体制を組んでいきたいと考えています。
第3回は「社内起業プログラムの“あるある”」を寄稿予定です。