【ソフトバンク】“人流統計データ”を軸に、幅広い領域で新ビジネスの共創を目指すコンテストを開催(自治体・社会インフラ・モビリティ・運輸・建設・不動産・金融・小売・飲食・物流・製造・医療/ヘルスケア)
コロナ禍において、大きな役割を果たしている「人流データ」。2020年以前は、やや馴染みの薄いデータだったと言えるが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてニュースなどに活用されることもあり、その存在は多くの人に知られるようになった。
データが「21世紀の石油」とも呼ばれる現代。今後、人流データはさらに重要度を高め、イノベーションを生み出す原動力となっていくに違いない。
2021年9月から、ソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)は、人流データを活用した共創の促進を目的に、「全国うごき統計共創アイデアコンテスト」を開催している。
「全国うごき統計」とは、ソフトバンクが建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツとの共創により開発した人流統計データサービス。ソフトバンクの基地局から得られる数千万台の端末の位置情報から利用許諾を得たお客さまのデータのみを使用し、個人を特定されないように匿名化および統計化したのち、少人数のデータは秘匿処理を行った上で、安全な情報を活用して、日本全国24時間365日、人の移動と滞在を把握できるサービスだ。今回のコンテストでは、全国うごき統計をもとにしたサービスアイデアが募集されている。※説明会も開催中
TOMORUBAでは、アイデアコンテスト開催に至る狙いや背景、さらに、全国うごき統計の詳細について伺うため、インタビュー取材を実施。アイデアコンテストの事務局を務める神島(こうしま)氏、全国うごき統計の開発に携わった龍野氏、須田氏の3名に話を聞いた。
【写真右】 ソフトバンク株式会社 法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルオートメーション事業 第1統括部 IoTプロダクト企画推進部 プロダクト企画4課 神島 庸浩氏
人材系ベンチャー企業、総合商社を経て、2011年にソフトバンク入社。コンシューマー事業分野の商品企画・開発などに従事したのち、法人プロダクト&事業戦略本部に配属。IoT分野の事業管理や、ソフトバンクが持つ設備やデータなどの法人新規事業での利活用推進を担当している。
【写真中】 ソフトバンク株式会社 法人事業統括 デジタルトランスフォーメーション本部 第三ビジネスエンジニアリング統括部 スマートシティ事業推進部 スマートインフラ プロジェクト プロジェクトマネージャー 龍野 祐太郎氏
2010年、ソフトバンク入社。携帯電話事業の営業企画、デジタルマーケティング事業などに従事したのち、2017年にDX本部の立ち上げに参画。パシフィックコンサルタンツとの共創プロジェクトをリードする役割を担っている。
【写真左】 ソフトバンク株式会社 テクノロジーユニット IT-OTイノベーション本部 ソリューション開発統括部 ソリューション企画部 ソリューション企画1課 須田 英一氏
システム開発会社を立ち上げるなどエンジニアとしてのキャリアを積ねたのち、2012年にソフトバンク入社。コンシューマー部門にてマーケティングや解約分析などに従事したのち、法人パートナーに対するデータコンサルティングなどを担当。その後、うごき統計の共創プロジェクトに参画し、人流データなどの分析業務を担っている。
ソフトバンクが思い描く「すごい明日」の実現を目指し、“人流統計データ”を活用したサービスアイデアを求める
――「全国うごき統計共創アイデアコンテスト」を開催する狙いや背景についてお聞かせください。
神島氏 : もともとソフトバンクは、toC向け、toB向けの通信事業が主軸事業でした。しかし、ここ5年ほどでソフトバンクグループは裾野を広げ、通信事業のお客様ではない、Yahoo!やLINEのお客様にも向き合う必要が出てきました。そうしたなかで、ソフトバンクが描く生活者のイメージは大きく変化しています。
また、toB向けの事業においても、ソフトバンクグループのアセットを活用して、法人のお客様と共創する取り組みが増えています。特に活発なのは、BtoBtoCの領域です。従来、toB向けの事業では、ソフトバンクと法人のお客様は「サービス提供側と顧客」という一対一の関係だったところ、現在では、ともに手を取り合って生活者に向けたサービス提供で共創する、パートナーの関係になりつつあります。
加えて、昨今、新型コロナウイルスの感染拡大やカーボンニュートラルへの対応など、数々の社会課題が表出するなかで、ソフトバンクとしても、自社だけでは解決できないこれらの大きな課題をパートナー企業との共創により解決していくべきだという機運が高まっています。
現在、ソフトバンクでは「すごい明日を、みんなのものに」というキーフレーズを掲げ、生活者目線でさまざまな社会課題が解決された「すごい明日」を、目指すべき未来像として設定しています。そして、この「すごい明日」を実現させるために必要な様々なサービスや技術を、パートナー企業とともに共創していく方針です。今回のアイデアコンテストも、そうした方針のもとに位置付けられています。
――具体的に、今回のコンテストではどのような領域のサービスアイデアを求めているのでしょうか。
神島氏 : 全国うごき統計をベースにしたサービスアイデアであることが応募の条件で、対象となる領域は非常に広範です。というのも、ソフトバンクグループは、豊富なソリューションを様々な領域に提供しているため、サービスには多様な形が考えられます。
例えば、重点事業として設定している領域だけでも、小売、物流、製造、ヘルスケア、自治体、交通、不動産、建設など数多いです。また、そうした領域に提供しているソリューションも自社サービスのほか、パートナー企業のサービス、投資ファンドのソフトバンク・ビジョン・ファンドが出資する企業のサービス、PayPayなどのコンシューマサービスと、枚挙に暇がありません。そのため、今回のコンテストではご応募いただいたアイデアの性質に合わせて、どのような形で市場に提供するかを検討していきます。
――コンテストのインセンティブや特典、応募資格について教えてください。
神島氏 : 最優秀賞には賞金100万円、優秀賞には30万円など、総額150万円の賞金をご用意しています。また、今回のコンテストはサービス化を念頭にしたものであり、優秀なアイデアに関しては共創を協議するほか、両社協議の上でサービス化が確定した際にはサービス化支援やプロモーションも実施します。
応募資格は、国内に拠点をお持ちの企業、団体、自治体です。全国うごき統計は日本国内のデータですので、海外企業のご応募はご遠慮いただければと思います。ただし、海外企業であっても、日本法人を持ち、日本語によるコミュニケーションに支障がなければご応募可能です。ぜひ、多くの企業、団体、自治体の皆様からご応募をお待ちしております。
その他応募条件については応募規約をご確認ください。
日本全国24時間365日、人の移動と滞在をリアルタイムで把握できる「全国うごき統計」
――次に、全国うごき統計について詳しくお伺いします。全国うごき統計のサービスの特徴や強みついてお聞かせください。
龍野氏 : 全国うごき統計は、ソフトバンクと建設コンサルタントであるパシフィックコンサルタンツとの共創により開発しました。パシフィックコンサルタンツは、都市開発や社会インフラ整備など、計画・調査・設計・管理の側面から担う会社ですが、そうした事業の中で培った交通などに関する知見と、ソフトバンクがスマートフォンなどの端末を通じて収集した、数千万台の位置情報が融合されて、全国うごき統計は出来上がっています。
全国うごき統計は、日本全国24時間365日、人の移動と滞在が把握できる個人特定できないよう加工された統計データをご提供しています。特徴は、人がどこからどこに移動したかといったデータだけでなく、移動の経路や交通手段などのデータもご提供できる点です。こうした部分には、パシフィックコンサルタンツが保有する交通に関する高度な知見が生かされています。
須田氏 : また、全国うごき統計の強みとして、「基地局から取得した位置情報」を活用している点が挙げられます。位置情報といえば、一般的によく知られているのはGPSですが、ユーザーがアプリを利用していなければデータを得られません。一方で、基地局の場合、端末に電波がつながっていれば利用許諾済の情報が取得されるため、データを得られる量に大きな差が生まれます。※利用許諾していない情報は削除しています
さらに、ソフトバンクは、その大量のデータを、地域におけるソフトバンクのシェア率や人口密度などによる拡大推計の他、交通手段判定データや各種統計データをかけあわせることで、極めて精度の高い人流データの提供を可能にしています。
――現在、「人流データ」は新型コロナウイルスの感染抑止対策などに活用されています。人流データのビジネス活用における課題があればお聞かせください。
龍野氏 : 従来型の統計データに比べて、デジタルに取得する人流データは歴史が浅いことと手法によっては課題もあるため、まだこれまでのやり方から置き換えられていない印象です。
ただし、先日、国土交通省が交通量調査の調査員をカメラに代替することを発表するなど、デジタルによるデータ収集の取り組みは国全体で加速し始めていると感じます。そういった動きが加速することで、さまざまな用途での活用方法の確立やデータを活用できる人材の育成も徐々に進んでいくだろうと見込んでいます。
“交通・不動産”以外の、まだ取り組めていない幅広い領域にも、人流データ活用を広げていきたい
――全国うごき統計は、現在、どのような企業が活用しているのでしょうか。
龍野氏 : 現状、全国うごき統計は、統計データを販売する形で提供されています。提供先としては国や自治体、民間企業など様々で、例えば、公共交通機関の再編をする際の地域住民の移動状況の把握や不動産領域での活用、観光戦略立案のための現況分析、屋外広告の効果測定などに用いられています。
須田氏 : 一方で、パートナー企業と連携して、全国うごき統計を活用したソリューションの開発も進んでいます。進行中のプロジェクトであるため詳細はお伝えできませんが、例えば、現在、店舗の来店者数と商品需要を予測するソリューションを複数の事業体と共創しています。その他にも、全国うごき統計を活用したソリューションの開発プロジェクトは複数進行しており、今回のコンテストでは、これらのプロジェクトに新たに加わるアイデアを求めたいです。
ソフトバンクには、統計データの専門家や、事業推進の専門家が数多く所属しています。しかし、例えば、小売や物流、製造、ヘルスケアなどの領域に関しては、専門外であることは否めません。そのため、ぜひパートナー企業のお力を借りたいと考えています。
<募集テーマ>
自治体 / 社会インフラ / モビリティ / 運輸 / 建設 / 不動産
金融 / 小売 / 飲食 / 物流 / 製造 / 医療・ヘルスケア
<共創パートナー例>
・独自のデータを保有する企業 例)車両データ など
・独自のツールを保有する企業 例)BI ツール など
・独自の人流活用ノウハウを保有する企業 例)業界特化の経験・ノウハウ など
複数の角度から「移動」を掘り下げる。全国うごき統計を構成する4つのメニュー
――全国うごき統計では、具体的にどのような人流データを提供しているのでしょうか。
須田氏 : 全国うごき統計では、4つのサービスメニューを提供しています。4つのうち3つが「移動を捉えるデータ」。残りの1つが「滞在を捉えるデータ」です。
最もイメージしやすいのは、滞在を捉えるデータの「滞在人口調査」だと思います。滞在人口調査は、ある特定のポイントにおいて、どのくらいの人口が滞在していたかを表現するデータです。メッシュと呼ばれる正方形型のエリア内における、特定の時間の滞在人口を推定します。具体的な活用方法としては、「特定地域における人流の増減」を把握するために用いられます。
次に、移動を捉えるデータです。移動を捉えるデータのなかで、最もシンプルなのは「断面交通量調査」です。断面交通量調査は、道路上に座ってカウンターで人の移動を計測するタイプの交通量調査と同じだと考えていただければと思います。ある2地点間の交通量を推定するために活用されます。
その次が、「メッシュOD量調査」です。ODのOとはOrigin(出発地)、DはDestination(目的地)を指します。つまり、メッシュOD量調査とは、あるメッシュ内のエリアを出発又は到着した人の数を測るものです。特定の地域にどこから何人が訪れたのか、あるいは、特定の地域からどこに何人が出発したのかといったことが分かります。メッシュOD量調査の活用ケースとして想定されるのは、商業施設やテーマパークです。自社の施設には、どの地域から何人が訪れたといったデータを得ることができます。※個人情報の匿名加工処理を行い、さらに統計化処理を施し終えたものを秘匿化し、個人を特定できない統計データ化しています。
最後に、「交通施設OD量調査」です。交通施設OD量調査では、メッシュ単位ではなく、鉄道の駅、高速道路のIC、空港といった交通施設を単位としてOD調査を行います。これにはパシフィックコンサルタンツの交通に関する知見が生かされており、全国うごき統計に独自のメニューになっています。そのため、交通施設OD量調査を活用したサービスを開発すれば、非常に画期的なものになることは間違いありません。
今回のコンテストをできるだけ大きなプロジェクトに発展させていきたい
――それでは最後に、今回のコンテストに応募を検討している企業などにメッセージをお聞かせください。
龍野氏 : 社会課題を解決するにあたって、人流データは確かな基盤になると確信しています。しかし、人流データだけでは足りないのも事実で、もっとさまざまなデータとの組み合わせによってより効果的な仕組みが構築できると感じています。ですので、応募を検討されている方にはぜひ「データの組み合わせ」という点にも注目いただいて、サービスアイデアをご検討いただけると嬉しいです。
須田氏 : 私は技術者サイドの人間ですが、技術的な巧拙よりも、熱量の高い方にご応募いただきたいと思っています。たしかに、共創のプロジェクトでは技術的な壁に直面することもありますが、それ以上に、熱量がないと突破できない局面が多いと感じています。何か困難に直面したときに「どうせできない」ではなく、「どうしたらできるんだろう」と問題に立ち向かっていけるメンタリティで、コンテストにのぞんでいただければと思います。
神島氏 : 先ほど、ご紹介した4つのメニュー以外にも、全国うごき統計では、ご紹介した4つのメニューを基に、一部仕様外の対応も可能です。よって、応募企業様からデータの仕様をご提案いただくことも歓迎しています。ソフトバンクとしては、今回のコンテストをできるだけ大きなプロジェクトに発展させていきたいと考えているため、完成形でなくても構いませんので、荒削りのアイデアをどんどんぶつけてほしいですね。
取材後記
コロナ禍以降、人流データに大きな注目が集まる一方で、その活用方法については、まだ未開拓の部分も多いようだ。しかし、それは裏を返せば、人流データの活用には発展的な可能性が多く残されていることを意味する。今回のコンテストは、その大きな可能性に足を踏み入れる絶好の機会と言えるだろう。コンテストの応募期間は10月末までが予定されており、説明会も開催される(10/8(金)、10/15(金) 11:00〜11:45) 。「すごい明日」をソフトバンクとともに見据えてみてはどうだろうか。
(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:山﨑悠次)