最優秀賞は、あのヘルステックベンチャー!グロービスのアクセラレータープログラム「G-STARTUP」デモデイをレポート
「ユニコーンを100社輩出する生態系を共に築く」ことをビジョンに掲げ、今年4月にスタートしたグロービスのアクセラレータープログラム「G-STARTUP」。去る11月27日、グロービス東京校にてプログラムの成果を発表するデモデイが開催された。
本デモデイの特徴は、約50人ものベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家が事業発表を見学し、その場で投資を検討するスタイルであること。主催者であるグロービス も、G-STARTUP専用のファンドより1社あたり5000万円を上限として投資を検討する。
さらに、審査員が高く評価した企業に対し「最優秀賞」と「優秀賞」、プログラム期間中の成長幅が大きかった企業に「ベストグロース賞」、成長を効果的にサポートした「ベストメンター賞」のほか、来場者の投票による「ベストオーディエンス賞」も用意された。
デモデイでは、緊張感の高まる中、本アクセラレータープログラムで鍛え抜かれた14社が登壇。事業内容と今後の展望について発表した。本記事では、その中身をレポートする。もし、手元に5000万円の投資資金があったら、どのスタートアップに投資するか――そんな気持ちで読んでほしい。
ユニコーンを目指すスタートアップが登壇、白熱のプレゼンを披露
【1】株式会社Spornia. (スポーニア)
CEO上山 開 氏 (メンター:グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下「GCP」) ディレクター 渡邉 佑規 氏)
スポーツしながら稼げる“プレイヤー経済圏”を創る、スポーツ特化のマネジメント事業
最初に登壇したのは、3歳からサッカーを続けてきたという上山氏だ。上山氏は「スポーツの世界で稼げる人はほんの一握り」という課題に着目。トップアスリートだけではなくアマチュアも含めて、スポーツで稼げる人口を増やす事業を提案する。
具体的には、アスリートと会えるリアルイベントの開催やYouTubeチャンネルの開設、オリジナルグッズの販売などにより、キャッシュを生み出す仕組みを検討。幅広いタッチポイントで選手とファンをつなぎ、スポーツのコンテンツ化を目指すという。
【2】Crossborders Innovation株式会社(クロスボーダーズ・イノベーション)
Co-Founder & CEO茂木 桂樹 氏(メンター:株式会社KVP代表取締役社長/パートナー 長野 泰和 氏)
人材エージェントの日々の機会損失を解消するAIアシスタント「hachico」
次に登壇したのは、インド留学や南スーダンでの仕事を経て戦略コンサルティングという、異色の経歴を持つ茂木氏。茂木氏は、人材業界の収益の源泉であるマッチングが記憶と勘に過度に依存しているため、時間が掛かる上抜け漏れも多いという、業界が何十年も抱える課題に着目。瞬時に漏れなく人材・案件を探せるマッチングツール「hachico」を開発した。
よくあるタグ検索にありがちな、何度もクリックするという煩わしさを排除し、人材要件文や経歴文章をコピペするだけ、またはファイルをドラッグ&ドロップするだけで瞬時に候補人材・案件をマッチ度の順に表示する。さらに、複数の採用管理ツール(ATS)経由でエージェントに共有される求人データを、自動集約し一気通貫でかんたん検索できる新機能を開発した。今後はエージェントの利用する各種ツールとの連携を進め、AIマッチング×PaaSとして価値を高めていくという。
【3】株式会社リーゴ
代表取締役 宮本 秀範 氏(メンター:GCP アソシエイト 山本 絢子 氏)
友達・家族・恋人旅行の計画をスムーズに、旅行アプリ「Liigo」の運営
次に登壇したのは、世界一周経験を持つ宮本氏だ。宮本氏は、旅行計画を立てる際、2泊3日以内の旅行計画に3日以上かかる非効率さを指摘。これを解消するため、「最適・最速」に旅行の計画が立てられる「Liigo」を開発した(iOSアプリ& webにて展開中)。
サービスの特徴としては、Booking.com、ベルトラ、Viator(TripAdvisor)などとの連携により、2000万件ものコンテンツを収容。そこから、独自のレコメンド機能により、好みに合ったツアー・アクティビティや宿泊先を発見。さらに、複数名での旅行の場合、自動的に多数決順に並べてくれる機能も搭載。その後の予定作成・共有も容易。来年からは、独自のコンテンツも展開し、独自性&収益率を高めていくという。また、他者の旅程データからのおすすめ旅行パッケージプランを提案する事で、計画をスムーズにする予定だという。
【4】株式会社ユノ
代表取締役 湯ノ口 直樹 氏(メンター:GCP シニア・アソシエイト 野本 遼平 氏)
プロの料理人が作るビジネスケータリングのマーケットプレイス
次に登壇したのは、「こだわった料理を作る人の美味しい料理が食べたい」と語る湯ノ口氏だ。湯ノ口氏はビジネスケータリングの課題に着目。見積もりに時間がかかる上に、プランも限定的なため、満足度にバラつきがあるという。
そこで、ネットで完結できるビジネスケータリングのマーケットプレイス「Chefs Cater」を開発した。料理の質を担保するため、個人の料理人にフォーカスして売り手を集める。配送は「Chefs Cater」で一元管理し、料理人の負担を軽減。すでにイベント事業者などから注文も入り始めている。今後、ビジネスケータリングに絞って、事業の拡大を目指すという。
【5】株式会社ガラパゴス
代表取締役社長 中平 健太 氏(メンター:GCP ディレクター 湯浅 エムレ 秀和 氏)
AIを活用したマーケティングデザイン提供ソリューション“AIR Design”
ガラパゴスからは、デザイン会社で10年以上の経験を持つ中平氏が登壇。アナログなデザインの世界を、AIの活用により変革する事業についてプレゼンを行った。詳しくは以下の記事参照。
※関連記事:100社のユニコーンを育てるグロービスのプログラムに迫る。――事務局長・高原氏×ガラパゴス中平氏に聞く「G-STARTUP」の魅力とは?
【6】株式会社Grune(グルーネ)
代表取締役 山下 敏義 氏(メンター:GCP シニア・アソシエイト 南 良平 氏)
AR/VR/MRを活用した展示場・家具販売・オフィスレイアウトシミュレーション
続いて、建築業界で働いてきたバックグラウンドを持つ山下氏が登壇。山下氏は住宅展示場の抱える課題に注目する。5年で3億円という膨大な建築・維持コストがかかる一方で、集客数は減っているという。
そこで提案するのが、VRを活用した住宅のプロモーションだ。まずは、住宅展示場向けにサブスクリプションでVRサービスを提供する。専用のVRゴーグルを装着することで、簡単に壁紙・床・家具の変更ができるものだ。将来的には、駅前や商業施設といった人の集まる場所にVR住宅展示場を設置、さらにWEB上へも展開していく狙いだという。
【7】株式会社ダイバーシーズ
代表取締役 洪 英高 氏 (メンター:GCP 福島 智史 氏)
現代版下宿プラットフォーム
次に登壇したのは、多種多様な人種の混じるシリコンバレーへの留学経験を持つ洪氏。洪氏が開発したのは、「家を貸したいホスト」と「家を借りたいゲスト(外国人)」をつなぐプラットフォーム「Homii」だ。短期宿泊ではなく長期滞在での利用を想定する。ホスト側のメリットとしては、民泊の法規制適用外であることや、入れ替わり頻度が低いことによる経営負担の少なさが挙げられる。
一方、ゲストである外国人側のメリットとしては、敷金礼金がないことや、ホストファミリーに頼れる安心感が挙げられるという。毎月の謝礼(賃料)の一部を手数料として徴収しマネタイズする。同社は「混ぜる暮らし」で、世界を豊かにすることを目指していくという。
【8】株式会社キュカ
代表取締役 禹 ナリ 氏(メンター:W ventures株式会社 代表パートナー 東 明宏 氏)
位置情報をベースとしたセーフティーコミュニティ
ヤフー知恵袋を開発・運営してきたメンバーが集まり創業したキュカからは、代表の禹ナリ氏が登壇。ナリ氏は自分の周囲で起こっている事件や軽犯罪が見えない課題を指摘。そこで、痴漢などの被害を簡単に通報できるサービス「痴漢レーダー」を開発した。通報された情報が地図上に表示され可視化されるほか通知もされる。これをもとにコミュニティ形成にもつなげていく狙いだ。
マネタイズの方法としては、広告収入と企業へのデータ販売などを考えている。将来的には、防犯や災害後の支援へと事業を拡大することを検討。グローバル展開も視野に入れており、すでにインドの企業から声もかかっているという。
【9】キュリオ株式会社
代表取締役兼CEO 横山 貴寛 氏 (メンター:GCP ディレクター 渡邉 佑規 氏)
居心地の良いワークスペースを今すぐ確保できるWebサービス
次は、ユニークなオフィススペースを貸し出すサービス「Daysk」を運営する横山氏が登壇。同社は多くのクリエイティブワーカーが、働く場として「オフィスらしくない場所」や「緑が見える開放感のある場所」などを求めていることに注目する。そこで、自然光あふれるレストラン、日本庭園を見下ろせる神社、昼間のバーといったこれまでオフィスとして活用されてこなかった場所を、働く場として解放していく。
マネタイズとしては利用料金の一部を手数料として徴収。オフィスの次の概念にくるものを見出し、今後増加が見込まれるクリエイティブワーカーに、インスピレーションを刺激する場の提供を目指すという。
【10】株式会社expeet(エクスピート)
代表取締役CEO 若月 舞子 氏(メンター:株式会社KVP代表取締役社長/パートナー 長野 泰和 氏)
夢を目指す全ての人に向けた、スキルビルド型支援プラットフォーム
expeetからは、大学生起業家である代表の若月氏が登壇。同社はすでに、スキルシェアサービス「expeet」をローンチし運営している。このプロダクトのターゲットを明確にするため、プログラム中に議論を重ね、清掃業界にフォーカスすることを決めた。同社が契約する清掃員と清掃を依頼したい企業をオンラインで効率的にマッチングするサービス「clin」を新たに開発。今後、清掃を皮切りに、スキルビルド型のプラットフォームをより進化させていく狙いだ。
【11】株式会社Buzzreach(バズリーチ)
代表取締役 猪川 崇輝 氏(メンター:株式会社UB Ventures代表取締役社長 マネージングパートナー 岩澤 脩 氏)
製薬企業と患者を繋ぐ、医療情報(新薬・治療)マッチングプラットフォーム
次に登壇したのは、治験業界において15年以上の経験を持つBuzzreach代表の猪川氏だ。同社は、新薬の開発プロセスにおいて必要な「治験」の課題解決を目指す。主な課題として、「新薬を必要とする患者に治験情報が届いていないこと」「7割の治験で参加者が足りていないこと」「治験参加者とのコミュニケーションがアナログであることなど」が挙げられるという。結果的に治験の遅延が頻発している。
これらに対してBuzzreachは、3つのサービスで解決を目指す。製薬企業が治験情報を登録する「puzz」、治験情報を公開する「smt」、治験参加患者と医療機関、製薬企業をつなぐ「ミライク」だ。すでに、約18社の大手製薬企業で導入され、約188件の治験プロジェクトが登録されている。今後の展望として、治験プロセスにおける川上から川下まで、全体をサポートできるようなプラットフォーマーを目指す。同時に、治験の効率化により、1日もはやく新しい治療法を患者に届けられる世界を実現するという。
【12】株式会社dreamstock(ドリームストック)
Founder 代表取締役 松永 マルセロ ハルオ氏 (メンター:East Ventures パートナー 金子 剛士 氏)
スマホアプリでプロ契約までできる、オンライン動画投稿プラットフォーム
最後の登壇者は、dreamstock代表の松永氏だ。同社のミッションは、「スマホで世界中の子供が平等にサッカー選手を目指せる世界をつくる」こと。その手段として、サッカー版LinkedInを運営する。
具体的には、プロを目指すユーザーが、自身のプレー動画をアプリにアップロードする。それを見て、プロのサッカーチームがスカウティングする仕組みだ。南米を中心にユーザーを獲得し、すでに40名以上がプロ契約を実現しているという。
ビジネスモデルはシンプルで、選手がプロチームと契約するタイミングで、同社と選手がエージェントマネジメント契約を結ぶ。さらに、本プログラムを経てプロ選手の獲得にも進出。巨大な移籍マーケットを狙っていくという。
※上記12社のほか、オリジナルライフ株式会社 代表取締役 榎本 純 氏(メンタ―:株式会社セールスフォース・ドットコム セールスフォース・ベンチャーズ プリンシパル 湊 雅之 氏)、株式会社Morght 代表取締役 土井 皓貴 氏(メンター:W ventures株式会社 代表パートナー 東 明宏 氏)がプレゼンを行った。2社については、プレゼン内容非公開。
栄えある最優秀賞に輝いたのは…
<最優秀賞>
株式会社Buzzreach
<優秀賞> 2社
株式会社ガラパゴス
株式会社dreamstock
<ベストグロース賞> 2社
株式会社ダイバーシーズ
株式会社キュカ
<ベストメンター賞>
東 明宏 氏(W ventures株式会社 代表パートナー)
<ベストオーディエンス賞>
株式会社Buzzreach
治験の課題解決に挑むBuzzreachが、最優秀賞とオーディエンス賞をダブルで受賞。審査員、来場者、両者の心を射止める結果となった。 日本有数のベンチャー経営者ら、各界のリーダーが参加する大型カンファレンス「G1ベンチャー」に参加できる権利も授与された。
なお、本審査員を務めたのは、川田尚吾氏(株式会社 DeNA共同創業者)、有安伸宏氏(エンジェル投資家/Tokyo Founders Fund)、立岡恵介氏(グローバルブレイン ジェネラルパートナー)、堀新一郎氏(YJ キャピタル 代表取締役社長)、今野穣氏(GCP 代表パートナー最高執行責任者(COO)/G-STARTUP 共同代表)の5名だ。
発表の後には懇親会も催され、プログラムに参加した起業家たちと、投資家・メディア関係者が歓談し親交を深めた。
取材後記
ユニコーンとは、評価額が10億ドル(約1000億円)を超える未上場スタートアップのこと。ユニコーンの輩出を目指す「G-STARTUP」プログラムでは、メルカリなどユニコーンの世界を見た豪華経営陣による実践的な講義もあるという。日本はアメリカや中国と比較して、ユニコーンの数が圧倒的に少ないと言われている。
日本からユニコーンを100社生み出すために何が必要か――まだそのチャレンジは始まったばかりだ。グロービスは2期目のプログラムとして、2ndバッチのプレ応募の受付を開始した。本気でユニコーンを目指したいという野心的なチームに、ぜひ応募をお勧めしたい。
(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)