【インタビュー/オプティマインド代表・松下健】 日本郵便のオープンイノベーションプログラムで「最優秀賞」を獲得したスタートアップが描く、物流の未来とは?
2015年に創業した、オプティマインド。Optimization(最適化)とMind(心)を合わせた造語が社名の由来となった同社は、1992年生まれの松下健氏が中心となって設立された名古屋大学発のスタートアップだ。物流の最適化を専門に研究を行い、社名の通り最先端の「最適化」技術を有し、それに加えて機械学習も得意としている。
そんな同社は、日本郵便初となるオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」の採択企業の4社に選ばれた。2月1日に開催されたDemo Dayでは、「人工知能を活用した配送業務効率化」をテーマにプレゼンテーションを実施。
これまでアナログに行われていた配達ルート作成を自動化して新人のレベルを底上げし、誰でも最初から平均レベル以上の配達が実現可能なことをアピールした。さらに、独自の最適化エンジンの技術を活用しながら、実証実験では埼玉県の草加郵便局と協力して配達データやドライバーによる検証を着手。熟練技のデータ取得や不在予測・最適訪問時刻の学習を行うことで、より精度を高めた業務効率アップを目指すことを発表した。――その結果、「最優秀賞」を受賞した。
先日、eiicon labでもこのDemo Dayの模様をレポートしたが、今回は「最優秀賞」に輝いたオプティマインドの代表、松下健氏に、創業の経緯から「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」の特徴、今後のビジョンなどについてじっくりと話を伺った。
▲合同会社オプティマインド 代表社員 松下 健
1992年生まれ。名古屋大学情報文化学部卒業し、同大大学院情報学研究科 博士課程後期に在籍中。2015年に合同会社オプティマインドを創業する。2018年2月末頃に株式会社化を予定。
受賞は、未来に向けての「スタート」
――「最優秀賞」受賞、おめでとうございます。まずは、率直な感想をお聞かせください。
松下 : 最優秀賞が発表されて壇上に上がったときに、今回のプログラム運営を担当し、大変お世話になったサムライインキュベート・榊原代表がうっすらと涙を浮かべていたように見えたんです。それを見たときに、私自身もこみ上げるものがありました(笑)。ただ、感動したというよりも、受賞してアドレナリンが出ているような状態でしたね。
――受賞が「ゴール」ではなく、「スタート」ですね。
松下 : そうですね。Demo Day終了後に、日本郵便の横山社長とお話しする機会もあり、「一緒に頑張っていこう」と声を掛けていただきました。Demo Dayの夜には懇親会をしてチームメンバーと共に受賞の喜びを分かち合い、ホテルに戻ったのが23時頃。落ち着いた状況でふと自分のスマホを見てみるとメッセージ通知が50件以上あって、驚きました(笑)。
▲メディアの囲み取材を受ける松下氏(写真左)と、日本郵便・横山社長(写真中)、サムライインキュベート・榊原代表(写真右)
――どんな反響でしたか?
松下 : 名古屋でお世話になっている方々はもちろん、投資家の方々など、多方面から連絡が来ていましたね。会社のコンタクトメールのほうにも、連絡がきていましたし、Facebookを通じて連絡をいただいた方もいらっしゃいました。深夜まで電話やメールの対応に追われました(笑)。
「最適化」を提案して一番受けが悪かった物流業界
――Demo Dayでも、オプティマインドの創業経緯が語られていましたが、改めて、どのようなキッカケの中で起業を決意されたのか。お聞かせいただけますか。
松下 : はい。オプティマインドは私が在籍している名古屋大学発のスタートアップです。大学1年のときに、いろんな教授が研究分野を紹介する講義があって、そこで「最適化」という技術を知ったことが最初のキッカケです。この「最適化」を勉強し、研究すれば、社会の役に立つと感じたんですよね。
――「最適化」のどこに惹かれたのでしょうか?
松下 : 世の中でモヤモヤとしているものや困っているものを、数式に落とし込んで、数値で効果を出せるというところです。それができるこの技術に純粋に感動したんですよね。そして大学4年のときに「最適化」の技術を活かして起業しようと思いました。
――大学入学から、もともと起業しようと考えていたんですか?
松下 : いえいえ(笑)。実は、修士課程が終わって就職しようと思っていました。起業する人って、「すごいなあ」と感じていたくらい起業とは無縁だったんです。
――起業を決意させるキッカケがあったんでしょうか。
松下 : はい、キッカケは3つあります。私の父が銀行員で、勉強している最中に、「社長になれ」と私に言うんです(笑)。父自身も社内改革に取り組んだものの、大変な思いがあり、自分の力で直接会社や社会に影響を与えられる人間になってほしかったのかなと思います。――この父の言葉が、頭の中に残っていたことがキッカケの1つ目です。
――2つ目のキッカケは?
松下 : もう亡くなってしまったのですが、祖父が日本画家で自分の腕だけで生き抜いてきた人でした。そんな祖父の生き方を「かっこいいな」と感じていたことが2つ目ですね。そして3つ目が、ドイツに留学したことです。大学4年の頃に「ビールが美味い」という点に魅力を感じて(笑)、ドイツのインターナショナルスクールに短期留学しました。向こうでは、30代~40代くらいの大人でも、やりたいことのために自由を謳歌している方もいたんです。そこで、「就職」という縛りにとらわれることなく、自分のやりたいことをやろうと一念発起して、就職の道を断ち、起業する決断をしました。
――どのような事業を展開していったのでしょうか?
松下 : やはり強みは「最適化」なので、製造業など地場のいろいろな企業に飛び込み訪問をして「最適化をやらせてください」と提案していきました。その中で、一番受けが悪かったのが、物流業界だったんです。「誰だお前は?」から始まって、「そんなの使えない」「意味がない」と散々言われました(笑)。それで闘争心に火が付きました。物流業界を技術面から研究して、多くの課題を解決し、変革するのは自分しかいない。――そんな使命感にかられて、物流という業界にフォーカスして突き進むことに決めました。
――なるほど。
松下 : ただ、いきなり物流業界での仕事は得ることは難しくて。そこで、起業した1~2年目は、普通の受託開発の仕事に着手しました。そこで経験を積み、資金を確保。ようやく物流業界の「最適化」に挑戦できる体制が整ったのが、起業して3年目の2017年でした。
日本郵便に対するイメージが変わった
――「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」に気付いたのは、応募締め切りの2日前だったとか。
松下 : そうなんです(笑)。知り合いの方から、「こんなプログラムあるよ」って教えてもらいまして。テーマが、まさに当社がやりたいことと一致していて「コレだ!」と。そこから2日間睡眠時間を削って提案書を作りました。
――提案書では、特にどのような部分をアピールしたのでしょうか。
松下 : 私たちは、名古屋大学発のベンチャーなので、教授からのバックアップがあるなど学術的な強みがあるところ。それに加えて、「最適化」や「機械学習」といった技術面をアピールしました。書類選考は無事に通過し、2次選考のプレゼンで時間が超過してしまうというミスはありましたが、無事に採択企業に選ばれました。
――プログラムは具体的にどのように進んでいったのでしょうか。
松下 : 2017年11月にプログラムのキックオフが開催されて、日本郵便さんとのディスカッションがスタートしました。その場で、私たちのビジョンや保有する技術と照らし合わせて、「ゆうパック」の配送業務の改善にフォーカスすることが決定したんです。
――今回は、実証実験の場として、埼玉の草加郵便局のアセットを提供してもらったと伺いました。
松下 : はい。私たちについてくれた日本郵便の三苫さん(郵便・物流業務統括部長)の社内ネットワークから掛け合ってもらい、草加郵便局さんにご協力いただくことに決まりました。それからはひたすら、草加郵便局さんから配送データを提供してもらったのです。そのスピードも、想像以上のものでした。年末は郵便局も非常に忙しく、年が明けて1月になり、実際に私もレンタカーに乗って草加市内を駆けずり回りながら、実施検証に明け暮れました。
――実証実験では、御社の技術を使った配送ルートを使えば、ベテランさんに迫る効率化が実現できることが分かりました。
松下 : 実は、ベテランよりもはやいルートを出せると思っていたのですが、やはりベテランさんの持つ長年のノウハウはすごかった。今後は、その点も考慮に入れてシステムのエンジン開発をしていきたいと思います。
――今回のプログラムを通して、日本郵便さんのイメージは変わりましたか?
松下 : 変わりました。勢いがすごすぎます(笑)。もちろん、今回のプログラムに参加されたメンバーは日本郵便社内でもチャレンジングな方々が集まっているとは思いますが、とても強烈でした。「みんな、めっちゃ喋るなあ」と(笑)。そして、段取りも非常にはやかったのも印象的でしたね。
日本、そして世界の物流インフラに
――これからの事業展開について教えてください。
松下 : 2月中に、当社のサービスが実用レベルなのかをもう一度、草加郵便局で実証実験を実施します。同時に法的な問題やセキュリティに関する課題も、日本郵便さんの知見をいただきながら、解決していきたいと思います。そして、データを蓄積していきながら、将来的には外販していくことを予定しています。
――外販というと、日本郵便さん以外の物流会社に?
松下 : 物流会社だけではありません。例えば、ガス会社や機械メンテナンス会社、お酒の配達といった、巡回・配送ルートが必要となる事業会社への展開も考えています。
――なるほど。
松下 : 人やモノが動くようなビジネス全般に、私たちのサービスが活かせると考えています。現在、システムのエンジン部分は仕上がってきているのですが、アプリの作成など、インターフェース部分の作り込みが目下の課題ですね。
――さらにその先は、どのような世界を実現していきたいでしょうか。
松下 : 今は1社1社にシステムを導入する形ですが、ゆくゆくはシステムをクラウド化していく予定です。データ共有をして物流に特化した地図データを作り、物流のインフラを構築していきたいと考えています。3~5年以内にはそれを日本で実現し、その先は世界展開を見据えています。
取材後記
松下氏に「プログラム」を通して得たものは何か?と質問した際、「自信というか、確信です」という返答があった。日本郵便やサムライインキュベートという実績ある企業の経営陣から評価され、オプティマインドの技術が世の中に必要とされていることが明確になったからだ。さらに、採択された他の3社(ecbo、MAMORIO、Drone Future Aviation)とも繋がりができ、協業することも視野に入れているという。
また、松下氏は、同プログラムを振り返って、「めちゃめちゃ楽しかった。つらいと思ったことはゼロ」と話す。プログラムで得たさまざまな知見・ノウハウ・人脈を活かし、物流のインフラを築くという同社の未来に注目していきたい。
(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:佐々木智雅)