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採択企業の55%が資金調達を実現。中小機構アクセラプログラム『FASTAR』参加者が語る“厳しい支援”の魅力とは

採択企業の55%が資金調達を実現。中小機構アクセラプログラム『FASTAR』参加者が語る“厳しい支援”の魅力とは

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独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)によるアクセラレーションプログラム、「FASTAR」。IPOやM&Aを視野に、ユニコーン企業や地域中核企業を目指すベンチャー・中小企業に対し、より早く成長するための支援を行うプログラムだ。6ヶ月または1年間にわたって、担当の専門家が伴走し事業計画策定を支援していく。2019年にスタートし、過去に採択された企業の多くが資金調達に成功、飛躍的に成長している。

さらに今年は、創業期〜シリーズAを中心とするスタートアップを中心に出資・成長支援するVC、サムライインキュベートがプログラムをバックアップ。10年以上にわたって培ってきた0→1の事業創造ノウハウを活かしたプログラム支援をする。10/27には、第3期に参加した9社が成果を発表する「アクセラレーションプログラム FASTAR 3rd DemoDay」も開催されるという。

今回は同プログラムの特徴や具体的な支援内容について、支援側と採択企業側の両者の視点から話を伺った。

■インタビュイー

・中小機構 創業・ベンチャー支援部 課長代理 丸尾氏

・中小機構 創業・ベンチャー支援部 中小企業アドバイザー 木嶋氏

・株式会社トライエッティング 代表取締役 長江氏(2019年度第1期採択企業)

・株式会社RAINBOW 研究開発担当取締役 河堀氏(2019年度第2期採択企業)

1年に渡る伴走支援で、「プロの経営ノウハウ」を叩き込む

――まずは、中小機構さんがどのような背景・目的でFASTARを運営しているのかお聞かせください。

丸尾氏 : 2018年に政府で閣議決定された「国家成長戦略」の中で触れられた、「2023年までにユニコーンベンチャーを20社育てる」という目標を後押しすることが一つの目標です。経済産業省でも、ユニコーンの予備軍を集めて「J-スタートアップ」プログラムで支援していますが、私たちが支援するのはもっと早いフェーズ。つまり、シード・アーリーステージのスタートアップを発掘して、将来のユニコーン候補に育て上げていくことを目標にしています。

また、急成長してIPOすることも重要ですが、一方で地域のリソースを活用して地域経済を牽引していく、ローカルベンチャーの存在も同じくらい重要です。そのような地域のベンチャーエコシステムの形成・発展に寄与することもFASTARの大きなコンセプトの一つとなっています。


▲独立行政法人中小企業基盤整備機構 創業・ベンチャー支援部 創業・ベンチャー支援課 課長代理 丸尾 真吾

――これまで3年に渡り運営してこられたと思いますが、立ち上げ時からプログラムとして成長した点はありますか。

丸尾氏 : FASTARをスタートさせたのは2019年度ですが、正式にやると決まったのは2018年度の年度末。そのため、立ち上げ時はどうしても突貫工事で進めざるを得ませんでした。「走りながらプログラムを進化させよう」と思ってスタートさせたので、当時から支援内容も変わったと思います。

大きく変化したのは支援内容の標準化。プログラム第1期では、それぞれのスタートアップが持つ固有の経営課題に対して支援を行っていたため、どうしても御用聞きになってしまう部分がありました。しかし、それでは安定した支援とサービスの品質管理ができません。そこで、2期目からは支援内容の標準化を進め、その中で企業ごとの経営課題に合わせた支援計画を立ててきました。

――支援内容の中で、採択企業から特に定評のあるものがあれば教えてください。

丸尾氏 : 個別の支援内容と言うよりも、“半年から1年に渡って伴走支援するプログラム”として評価をいただいています。特に私たちが採択している企業には、科学技術を用いるような「ディープテック系」のスタートアップも少なくありません。今でこそディープテック系の支援プログラムも充実しつつありますが、私たちが始めた頃は技術先行型のスタートアップに寄り添った経営支援はあまりありませんでした。

ディープテックの経営者は、技術を優先するあまり、ビジネスやファイナンスのナレッジがどうしても不足しがちです。それに対して、数ヶ月の集中的な支援ではなく、1年に渡って支援することで、経営のナレッジを身につけられると好評をいただいています。

研究者中心のスタートアップでも、プログラムが終わった頃には、VCや大企業と対等な立場で経営の話ができるまでに成長しているので、感謝の言葉をもらうことも多いですね。

――FASTARの専門家(メンター)である木嶋さんにも伺いたいのですが、プログラムの魅力はどこにありますか。

木嶋氏 : 丸尾さんがお話ししたように、1年に渡って支援できるのは、メンターにとっても大きなやりがいです。私は他のプログラムでもメンターをしていますが、通常は数ヶ月後のデモデイに向けて、プログラムを急ピッチで作り込むものがほとんど。

しかし、「FASTAR」では起業家とじっくり話す時間があるので、事業にかける想いなども聞き出せます。その想いを尊重しながらオーダーメイドの支援ができますし、起業家が気づいていないチャンスやリスクに関して誘導することもできます。時間をかけることで支援の幅が広がるのは、私たちメンターにとってもありがたいですね。


▲独立行政法人中小企業基盤整備機構 中小企業アドバイザー(スタートアップ) 木嶋 豊氏

採択企業の半数以上が資金調達に成功。印象に残った支援事例とは

――3期目を迎えている「FASTAR」ですが、これまでの実績について教えてください。

丸尾氏 : これまで採択された企業29社のうち、16社が資金調達に成功しました。その合計額は38.6億円にのぼります。また、コロナ禍においても約半数の15社が売上増、もしくは前年並みの売上を維持していることも、大きな実績と言えるでしょう。

▲「FASTAR支援成果(2019年度実施1期生・2期生調査)」より抜粋。

――木嶋さんにとって、これまでのご支援の中で印象的な事例はありますか?

木嶋氏 : 私が担当した北海道のスタートアップは、海外での大型の資金調達に成功しました。その企業はミドルフェーズに到達しており、日本のVCを回ってもなかなか調達できなかったのです。そこで、私の勧めでボストンや中国のVCを回り、約20億円の資金調達に成功しました。

それも普通に資金調達を行うのは難しいので、海外に子会社のようなものを作り、いわゆる「ストラクチャード・ファイナンス」を行ったのです。20億円という規模感にもやりがいを感じましたが、普通のエクイティ・ファイナンスではない資金調達ができて面白かったですね。社長にも、「木嶋さんのおかげで資金を調達できてありがたかった」と感謝の言葉をもらえました。

【2019年度第1期採択企業:トライエッティング】―「厳しいメンターたちに鍛えてもらった」

――ここからは2019年度第1期の採択企業である、トライエッティングの長江さんにも話を聞いていきたいと思います。現在ノーコードAI事業を展開するトライエッティングさんですが、まずはFASTARに応募したきっかけを教えてください。

長江氏 : 私たちは、2019年に豊田合成さんなどから約3億円を出資していただいたのですが、その時出資者の中にFASTAR関係者の方がいて、「成長の機会になると思うから参加してみては?」とお誘いを受けたんです。ちょうど私たちもビジネスモデルの転換期だったので、いいタイミングだと思い、軽い気持ちで受けてみることしました。


▲株式会社トライエッティング 代表取締役社長CEO 長江祐樹氏

――ビジネスモデルの転換期とは、具体的にどのような転換だったのですか?

長江氏 : AIの企業にはよくあることですが、私たちも最初は受託開発から事業を始めました。そこから、今の主力プロダクトであるサブスク型のノーコードAIに転換するタイミングだったのです。

――重要なタイミングだったと思いますが、プログラムに採択されたことで、具体的にどのような支援があったのか聞かせてください。

長江氏 : 専門家の方々と経営陣で集まり、「ファイブフォース分析」や「4P分析」といった、いわゆるフレームワークを使った分析を行って、事業ドメインなどの整理をしてもらいました。

「そんな基礎的なこと?」と思われるかもしれませんが、私たちは名古屋大学発のベンチャーで、私自身、大学の研究室以外の社会人経験はアルバイトくらいしかありませんでした。経営の「け」の字も知らないような状態で3年も事業をしてきたので、プロからフレームワークのレビューをしてもらえることは、非常に貴重な経験だったのです。そしてそれは、経営者としての自信に繋がる経験にもなりましたし、採択されて本当によかったと思っています。

――トライエッティングさんは他のアクセラレータープログラムにも採択されていますが、FASTARならではの特徴はありますか?

長江氏 : メンターたちが厳しいことです。FASTARは中小機構さんが運営しているので、いい意味で私たちを「お客さん扱い」しません。メンターの方の性格にもよりますが、基本的に厳しいフィードバックをいただけますね。言いにくいような弱点もズバッと言ってくれる姿勢が、私にはマッチしました。

また、当時の私たちは新しいビジネスモデルに自信がなく、「本当にサブスク型で売上を上げられるのか」と思っていたんです。それでもメンターの方たちは、成長することを前提に、「今のうちにパートナー戦略の用意をしておいた方がいい」と先を見越したサポートをしてくれました。結果的に事業は大きく成長しましたし、あのタイミングで自分たちを信じてくれたメンターの方たちと一緒に仕事ができてよかった、と思えましたね。

――どんな企業にFASTARをおすすめしたいですか?

長江氏 : BtoBもしくはBtoBtoCで、クライアントの業種が多岐に渡り、かつ優先順位を決めきれていない企業です。採択された当時の私たちがまさにそうで、プログラムを進めていく中で事業の方向性や優先順位が明確になっていきました。メンターには経営ノウハウが豊富な方が多いので、フレームワークを使ってロジカルに事業の整理をしてくれます。おかげで私たちも、ターゲットを整理し、大きく成長することができました。

――最後に、プログラムへの応募を検討している企業にメッセージをお願いします。

長江氏 : FASTARのプログラムは厳しく時間も使いますが、それだけ勉強になりますし、得るものも大きいです。採択されるのは簡単ではありませんが、もし採択されたら死ぬ気で勉強してください。よく、アクセラレータープログラムに参加するメリットは「人的ネットワーク」だと言われますが、FASTARはプログラム自体の質が高いので、内容だけでも十分に満足できると思います。もちろん人的ネットワークも魅力です。

とにかく、メンターは厳しい人ばかりですし、いい意味で大人気ないです。経営者になると、なかなか人に厳しく言ってもらえる機会もないので、本気でぶつかりたい人はぜひ応募してみてください。

【2019年度第2期採択企業:RAINBOW】―「高い技術を持ちつつも、社会に実装できていない企業に勧めたい」

――続いて2019年度第2期のプログラムで採択された、北海道大学脳神経外科発の再生医療バイオベンチャー・RAINBOWの川堀さんにも話を聞いていきたいと思います。まずはFASTARに応募したきっかけを教えてください。

川堀氏 : 応募したきっかけは、私たちが中小機構が運営しているビルに拠点を構えており、そこのマネージャーに勧められたことです。それまではプログラムの存在も知らなかったので、もし誘われていなかったら応募することはなかったと思います。


▲株式会社RAINBOW 研究開発担当取締役

北海道大学病院脳神経外科/神経細胞治療研究部門 特任准教授

川堀 真人氏

――プログラムに採択されて、どのようなメリットを感じていますか?

川堀氏 : 主に2つのメリットを感じています。一つは資金調達についてです。私たちは採択されてから資金調達をしたのですが、メンバー全員にとって初めての経験だったので、契約書の見方さえさっぱりわかりませんでした。

金額が大きければ大きいほど良いと思っていた私たちでしたが、メンターの木嶋さんからは、「この条項は外してもらったほうがいいよ」といったアドバイスをいただきました。中には、多額の投資を申し込んでもらえたものの、将来的に思うような経営ができなくなる内容の契約書もあり、そういった申し出は木嶋さんのアドバイスのもとお断りをしました。

もしも、FASTARに採択されずに自分たちだけで判断していたら、後にビジネス展開の幅を狭めることになっていかたもしれません。FASTARのおかげで、初めての資金調達もスムーズに行えました。

――もう一つのメリットについても教えてください。

川堀氏 : もう一つはビジネスモデルの構築です。当社のメンバーの多くは医師のキャリアしかなく、これまで事業計画などを立てたことがありません。そのため、他の会社に見せられるような、自分たちの強みや方向性を記した資料もなかったのです。

そのため、木嶋さんのアドバイスをいただきながら資料を作成し、「ビジネスの世界ではこういう資料がないと物事が進まないんだな」ということを学びました。そのようなビジネスリテラシーを身につけられたのは、私たちにとって本当に大きなメリットでしたね。

――過去にアクセラレータープログラムに参加したことはないのですか?

川堀氏 : ピッチイベントに参加したことはあっても、アクセラレータープログラムに参加したのはFASTARが初めてです。というのも、私たちはまだ外にアピールしにいくよりも、研究を進めなければいけないフェーズだったため、今回のプログラムに採択されるまでは、積極的にイベントに参加したことはありませんでした。

――これから見据えているビジョンをお聞かせください。

川堀氏 : 私たちは薬を開発している会社なので、まずは治験をパスして国から承認を得なければなりません。3回ある治験のうち1回はパスできたので、残り2回の治験をパスすることが直近の目標です。また、治験をするにも多額のお金が必要になるため、そのための資金繰りも今の課題ですね。

無事に治験をパスした後は、医薬品として承認を受けることができ、多くの患者さんに薬を届けられます。日本で承認を得れば、アメリカ・ヨーロッパでの承認も受けられるので、その先のスケールも期待しています。

――そのようなビジョンに対して、FASTARを通して得られたアドバンテージはありますか。

川堀氏 : プログラムの制度そのもの以上に、プログラムを通じて知り合った方々との人的ネットワークが重要だと思っています。私たちを応援してくれる人が増えたことが一番のメリットであり、それは今後も続いていくものです。プログラム期間が終わっても人的ネットワークは残りますし、私たちもまたプログラムの卒業生として、将来の採択企業に対して何か貢献できると嬉しいですね。

――最後にどんな企業にFASTARをお勧めしたいか聞かせてください。

川堀氏 : 高い技術力を持っているけれど、それをどうやって社会に実装すればいいかがわからない企業にお勧めしたいです。私たちがまさしくそうでした。そのような企業がFASTARに採択されれば、一気に加速できるはずです。

取材後記

今回取材した2社のような、大学発「ディープテック」系スタートアップが急激に増えている。その中には社会経験のない起業家も多いため、基礎的なビジネスリテラシーを持ち合わせていないケースも珍しくない。創業間もない頃は、研究やプロダクト作りに没頭したい時期だと思うが、事業を成長させ研究を続けていくには、経営知識を身につけることも不可欠だ。そんなディープテック系スタートアップにこそ、厳しいメンタリングの中で経営を学べる本プログラムをお勧めする。なお、10/27には第3期のDemoDayが開催されるので、FASTARをより詳しく知りたいという方はチェックしていただきたい。(詳細はこちら) 

(取材・編集:眞田幸剛、文:鈴木光平)

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  • 眞田 幸剛

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