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経済産業省と考える「本気の産学官融合」―対話型イベント徹底レポート!

経済産業省と考える「本気の産学官融合」―対話型イベント徹底レポート!

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去る2月6日、『Society 5.0 産学官を巻き込む未来。今すべきこととは?』と題した、経産省主催のイベントが、AND ON SHINAGAWA(東京・品川)で開催された。イベントの目的は、Society 5.0時代において、「産学官連携の姿はどうあるべきか」「実現した先にどのような未来が描かれるのか」について、ともに議論し成功の糸口を探ることだ。

応募が殺到した中から、約30名が選ばれ、会場に集結した。参加者は、大企業のオープンイノベーション担当や、新規事業開発担当、スタートアップの代表取締役などが多く、中には石川県や愛知県からこのイベントのために足を運んだという方もいた。

当日は、経済産業省によるオープニングトークから始まり、チームに分かれてのディスカッション、その後の発表と、ワークショップを盛り込んだ内容となった。本記事では、オープニングトークと各チームの発表の中身を中心に、当日の様子をイベントレポートとしてお届けする。

※関連記事:大学の知を起点に企業がイノベーションを起こす――新たな産学官連携の姿を描く、経産省・川上氏の構想に迫る

オープニングトーク――経済産業省が描く、「新しい産学官融合の姿」

冒頭、本イベントの主催者である経済産業省の川上悟史氏より、オープニングトークが行われた。川上氏は、産学連携の現状を次のように説明する。

民間企業が大学との共同研究にかけた金額は、平成15年から29年の間で、約4倍まで伸びている。一方で、企業の総研究費に対する大学への研究費拠出割合は、諸外国と比べてかなり低い。1件あたりの共同研究費も、大部分が300万円未満と少なく、「おつきあい程度」の額だという。この現状に対し、「本気の産学官連携」を実現していくことが、本取り組みの大きな目的だと話した。

この目的の中で、特にフォーカスしたいのは、地方の国公立大学や私立大学といった中堅クラスの大学への期待だという。

「今日来ている皆さんは、様々なバックボーンを背景に、クリエイティブな発想を持つ方々だと感じているので、中堅クラス、特に地方の大学をどう巻き込むかを意識した産学連携像について、自由な発想で先進的なイメージを生み出していただくことを期待している。」と、参加者にエールを送り、オープニングトークを締めくくった。

▲経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室長 川上悟史氏

続いて、株式会社日本総合研究所シニアマネジャー 吉田賢哉氏より、地方大学を核として、産学官連携がうまく機能し融合している事例が紹介された。

1例目は、青森県にある「弘前大学」だ。青森県は平均寿命の短さから「短命県」と言われてきた。行政はこの現状に課題感を抱き、10年以上前から「短命県返上」に向けて、弘前大学や住民を巻き込んだ取り組みを推進してきた。その一環として、1,000人もの住民から、2,000項目にもわたる健康データを取得。そのデータが10年分蓄積しているという。

これほど豊富な健康に関するビッグデータがそろっている場所は世界的にも珍しいことから、ヘルスケア領域を強化したい大企業や地元企業、研究者などがこの地域に集まってきている。その結果、オープンイノベーションの好循環が生まれているという。

2例目は、石川県にある「金沢工業大学」だ。石川県は伝統的に繊維産業がさかんな土地だが、近年は複合材料(複数の素材を組み合わせた材料)の研究が進んでいる。金沢工業大学は、地域の研究拠点としての役割を果たすと同時に、研究成果の社会実装を推進すべく、研究開発センターを整備。そこに、複合材料の研究に必要な最先端の機械や量産設備をそろえて、民間企業に提供している。

この取り組みが奏功し、複合材料の開発に携わる多くの企業や研究者が集まり、複合材料に関するイノベーション創出やコラボレーションにつながっているという。

ディスカッション――「2030年の産学官融合拠点とは?」

オープニングトーク終了後は、参加者が6つのチームに分かれ、最終的に3分にまとまるアウトプットを目指して、ディスカッションを繰り広げた。発表の中身を紹介する前に、チームでアイデアを固めていったプロセスについて、簡単に触れておく。今回のディスカッションでは、「個人ワーク」と「グループワーク」を交互に配置し、アイデアの「拡散」と「収束」により議論をまとめるフレームワークを用いた。以下でその流れを紹介する。

【STEP1/個人ワーク】 各自が描く「産学官融合拠点像」の書き出し

▲ひとり30個を目安に、それぞれが思い描く拠点像の要素を付箋に書き出す。

【STEP2/グループワーク】 各自が書き出したものを、チーム内に共有

▲ホワイトボードに付箋を貼りながら、それぞれの拠点像をチームメンバーにシェア。ホワイトボードに貼り切れないチームも。

【STEP3/個人ワーク】 自分がしっくりくるものを2案選択

【STEP4/個人ワーク】 自身が拠点に関わると想定した場合、どちらの方が尽力したいか順位づけ

▲たくさん出た案の中から、「自分がもっとも尽力したい」と感じるアイデアを選ぶ。

【STEP5/グループワーク】 選んだ題材を、チームに共有

【STEP6/グループワーク】 チームで「実現したい拠点のあり方」を3つに収束

【STEP7/グループワーク】 3つに収束した内容に共通する「テーマ」か「ワード」を決定

▲選んだ題材をチームメンバーにシェアし、その中からチームのコアとするアイデアを3つ選ぶ。

【STEP8/個人ワーク】 この3つに対し、「実現に必要な要素」「個人としてできること」を書き出す

▲再びアイデアの拡散へ。選んだ3つに対して、必要な要素を書き出す。アイデアが溢れて、筆が止まらない人が続出。

【STEP9/グループワーク】 チームに共有し、まとめる

▲ラストスパート。発表に向けて、アイデアを3分で発表できるアウトプットにまとめる。

 

プレゼンテーション――新たな拠点像を描く、6つのアイデアとは?

約75分のディスカッションから、どんなアイデアが生まれたのか。各チームが考えた「2030年の産学官融合拠点」について、発表の中身を紹介する。

●失敗が許容されるカルチャー (Aチーム)

産学官融合の理想を、「失敗が許容される文化から、新産業が積極的に創出され、多様な人材が集まる」状態だと話すAチーム。この理想像を実現するためには、3つの重要なポイントがあるという。

1つ目は、失敗を認めるカルチャーを醸成していくこと。そのために、小さなチャレンジを試せる場所が必要だと指摘する。2つ目は、多様な人材が集まること。そのために、「週末だけ」あるいは「プロジェクト単位」で参画できる仕組みを提案した。さらに3つ目として、集まった多様な人材に対し、ビジョンを打ち立てて牽引するリーダーの存在が欠かせないと述べた。

●マネタイズできる拠点 (B・F混成チーム)

「産学官融合拠点が継続するためには、拠点そのものがマネタイズできる必要がある」という考えがスタート地点にあったと語るB・F混成チーム。拠点に参画する大学の先生、学生、ベンチャー、住民など、それぞれが価値を感じる部分にマネタイズすることがポイントだと説明した。

また、地域ならではの特性を活かして拠点化すること、拠点は可動式やバーチャル空間の方が便利なケースもあること。さらに、拠点の中心人物は「大学の教授」が理想で、教授を中心に据えるためには、ITツールの導入やサポート体制の充実化により、教授を雑務から解放する必要があると話した。

●DASH村 2.0 (Cチーム)

「一番インパクトのある課題を、産学官で解決すべきだ」という考えを起点に議論を進めたCチームは、一次産業にフォーカスしたアイデアを披露。農業や漁業といった一次産業に対し、企業や大学の新しい技術を導入し、イノベーティブに変えていく。学生も巻き込みながら実践していくことで、一次産業の次の担い手も確保するというプランを発表した。

一方で、一次産業には「暗くなりがち」という課題もある。そこで、「ワクワク感の創出」や「エンタメ化」にも注力し、一次産業を楽しく演出する提案を盛り込んだ。具体的には、YouTuberを活用した情報発信などを仕掛けていく構想だ。Cチームには、テレビ局から参加したメンバーもいたことから、テーマ名は某テレビ番組名になぞらえ『DASH村 2.0』にしたという。

●中島みゆき「糸」 ver.2030 (Dチーム) 

テーマを絞っていく中で、「サスティナビリティ」と「オンライン<オフライン」という2つのキーワードに収束したと話すDチーム。サスティナビリティについては、継続させる仕組みづくりが欠かせないと話す。一方、「オンライン<オフライン」は、産学官の多彩なバックグラウンドを持つ人たちが交わる場で、人と人の関わりをいかに深めるかがポイントだという。

「時代を超えて普遍的なもの(サスティナビリティ)」を縦糸に、「人と人の横のつながり(オンライン<オフライン)」を横糸にして、未来を織りなすイメージから、中島みゆきの名曲「糸」というテーマ名にした。さらに、「思いがあるところに人は集まるので、ビジョナリーなリーダーが必要」という意見や、「多様性のある組織にするためには、文化・歴史への理解を深めるべき」という意見が出たと話した。

●地域社会との共存共栄 (Eチーム)

「現時点において、地域社会との共存ができていない」という課題感から議論を発展させたEチーム。地域社会と大学・企業がコラボレーションしていくために、まずは各地域社会が抱える「課題集め」からスタートすることを提案する。たとえば、「鳥取県はこの地域特性から、こんな課題を持つ」という具合だ。

課題が集まれば、その課題を広く発信し、解決できる人材を募集する。解決できるソリューションを持つ人が、その地域に移動していく流れをつくる。そして、集まった研究者や企業が、「課題」に対してコラボレーションし解決するという。これをうまく機能させるには、大学と企業の相性を鑑みてつなげる人が必要だと話し、人材の育成が重要だとつけ加えた。

●正六面体 (Gチーム)

「皆さん、正三角形をイメージしてください」という語りかけから始まったGチームの発表。正三角形の上下に軸を加えると、正六面体になると説明しながら、正三角形の各頂点には、産・学・官があり、正三角形の上下にある頂点には「リアリティ」と「バーチャル」があると話した。

まず「リアリティ」について、スタート地点にあるのは「教授」だという。東京大学の松尾豊教授や筑波大学の落合陽一准教授のように、資金も人材も集められる教授の存在が重要だと話す。そこで、各大学の教授をブランド化することを提案する。それに伴い、ブランド戦略を練る人材が集まり、少しずつお金も動き始める。地方に多彩な人材が集結し、地域毎のアイデンティティも生まれるはずだと説明した。

もうひとつの頂点をなす「バーチャル」については、拠点のあり方についての提案だ。5Gやテレビ会議システムが進化する今、必ずしも同じ場所に集まる必要はなく、遠隔でもコミュニケーションがとれる環境整備、仕組みづくりが必要だと指摘した。最後に、「産学官、バーチャルとリアリティ、いずれかに偏らず、バランスをとりながら形づくっていった結果が2030年だ」と述べ、発表を締めくくった。

クロージングトーク――産学連携を強化し、再び世界でトップを目指せる国へ

すべてのチームが発表を終えた後、クロージングトークとして経済産業省 川上氏が再び登壇。「アイデアも素晴らしいし、熱意を持って議論いただく姿に感動した」と感想を述べたうえで、各チームの発表に対してコメントした。その中で、『DASH村2.0』の発表に触れ、「このアイデアは経産省では絶対に出ません。なぜなら農水省の管轄だから」と笑いを誘いながら、「しかし、我々経産省も産学連携の進め方を考えていく上では、そういう制約をつくるべきではないと再認識しました」と話した。

加えて、『正六面体』の発表については、「この概念化は素晴らしい、経産省では出てこない」とコメントした。最後に、「本日出た要素を持ち帰り、政策にもしっかり落とし込んでいきたい。産学連携を進め、この国をもう一度、経済でもトップを目指せる国にしていきたい」と述べ、クロージングトークを締めくくった。

インタビュー ――『正六面体』は、どう発想したのか?

閉会後、eiiconは「概念化が素晴らしい」との評価を得た、Gチームに突撃インタビューを敢行。チーム構成や『正六面体』に辿り着いた背景、イベントを終えてみての感想について話を聞いた。

聞くところによると、『正六面体』の発想は、リーダーの石丸氏から出たものだという。石丸氏曰く、テーマを絞った結果、大半のアイデアがリアリティとバーチャルに分類できることに気づいたとのこと。そこからキーワードを考えていくにあたり、産・学・官の絵を描き、それぞれにつながるバーチャルとリアリティをイメージした。その時に、『正六面体』が閃いたという。

▲Gチームのメンバーは、大東氏、石丸氏、上野氏、武藤氏の4名。リーダーは公平なるじゃんけんの結果、最年少の石丸氏に決まった。各メンバーの所属は、大手SIer、AIベンチャーなどだ。

「どの角度から見ても、回してみても形は変わらない。何かに偏ることもなく、バランスがよいという意味で、正六面体にした」(石丸氏)とのことだった。「もともと理系的なアプローチが得意なのか?」と質問したところ、石丸氏は「自分自身は文系で、むしろデザインが好きだ」と答えてくれた。

また、他のメンバーにディスカッションで得た気づきについて聞いたところ、「自身は大企業に所属しているが、スタートアップやベンチャーの皆さんのアイデアの斬新さに驚いた。普段、めぐり会えない人たちと議論ができて、おもしろかった」(大東氏)、「理系・文系もそうだし、今日は経産省の方の話もあり、さまざまな見方に触れることができた。とても参考になった」(武藤氏)、「チームでの議論の中で印象的だったのは、教授のタレント化だ。スタイリストが教授をカッコよくするなど、文系的な切り口はこれまでになく、おもしろいと感じた」(上野氏)と、それぞれが感じた思いを明かしてくれた。

取材後記

年齢もバックグラウンドも異なる人たちが、「産学官融合をどうするか」というひとつのテーマに対して集まり、熱心に議論を繰り広げた本イベント。発表で披露されたアイデアの他にも、実に多彩なアイデアが湧き出た。最終的に会場は「付箋だらけ」となり、その様子からも参加者たちの本テーマに対する関心の高さや鼓動の高鳴りを感じとることができた。「本気の産学官融合」に向けて、次はアイデアの実装へ。今後の動きに期待したい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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