【特集インタビュー】カメラはオープン化の時代へ。デベロッパーやユーザーが参加する「OLYMPUS AIR A01」に見る、オープンイノベーションのプロセス。<後編>
オリンパスが2015年に発売したオープンプラットフォームカメラ「OLYMPUS AIR A01」。この斬新なコンセプトのカメラは、撮影モジュール以外のすべてのパーツを外部デベロッパーに対して開放することで、カメラとユーザーの新しい関係性を生み出そうとしている。レンズ、アクセサリ、表示・撮影モジュール、アプリなど、デベロッパーやユーザーが自由にサードパーティのパーツを作り、それぞれのスタイルで写真を楽しんでいく。開かれたプラットフォーム上で生まれた「OLYMPUS AIR A01」の存在は、まさにオープンイノベーションの好事例と呼ぶに相応しい。
そこで、本プロジェクトを立ち上げ、今もリードし続けているオリンパス技術開発部門の石井謙介氏に取材を敢行。前編に続き、インタビューの後編では、オープンイノベーションを駆使して、どのようにプロダクトを育み、世の中に認知されるよう尽力していったのかを明かしてくれた。
オリンパス株式会社
技術開発部門 モバイルシステム開発本部 課長
石井謙介Kensuke Ishii
1994年、オリンパス入社。画像処理アルゴリズムの研究開発に従事後、2010年にスタンフォード大学客員研究員となり、産学連携プロジェクト推進を担当。米国駐在中にMITメディアラボへのメンバー加入を提案し、加入後はリエゾンとして活動し、「OLYMPUS AIR A01」開発に携わる。
■製品発売前から情報公開し、コミュニティの基盤をつくる
ーー「OLYMPUS AIR A01」のティザーサイトを立ち上げたのは2014年7月、発売の約8カ月前ですね。発売前に情報を公開した理由は。
オリンパスとして初めての試みですから、社外のデベロッパーが本当に味方になってくれるのか、証明する必要があったんです。2014年7月にサイトを公開し、11月にはSDKと3Dデータを含めたボディ外観のデータも公開しました。ですが本来、カメラのデザインというのは機密事項です。オープンプラットフォームのコンセプトで発売できるのか見極めるという意味合いがありました。
ーー「OLYMPUS AIR A01」の販売を自社のオンラインストアに限定したのはなぜですか。
カメラの世界は、早いスピードで新製品が発売されていきますよね。しかしオープンプラットフォームを盛り上げていくためには、同じ製品をできるだけ長く売っていきたかったのです。オープン化によってプロダクトが成長し、よりサステナブルな事業モデルに転換できるかということを試行したい意図があります。そもそも台数を追求するタイプの製品ではないとは言え、発売から1年半が経っても継続して売れ続けています。
ーーデベロッパーを味方につけ、オープンイノベーションの規模を拡げるためにどのような取り組みをしましたか。
イベントなどに呼ばれたら積極的に足を運んでいました。特にハッカソンなどに参加する人にはアーリーアダプター、インフルエンサーと呼ばれる人たちが多くいますから、認知拡大を狙い、適切にタッチポイントを持つことが大切です。それと、Facebookページは平均して週に数回の更新を続けており、ファンの数も現時点で15000人を超えるほどに増えています。主に「OLYMPUS AIR A01」の使用例などを投稿しているのですが、ずっと続けるのはネタ探しに苦労しますね(笑)。
■社内の熱意がなければ、オープンイノベーションは成功しない
ーー情報発信の例を紹介していただけますか。
主に活用事例を紹介する目的で、リアルイベントもオンラインイベントも開催しています。製品発売後も継続していくことが大切です。例えば、自撮り機能に特化したUIを持ったアプリと、それに合わせたアクセサリを作り、オンラインイベントとともに情報拡散などを行っていきました。私は娘がいるのですが、友人との写真はスマホで撮っているんですよね。ですが、良いカメラで撮ることの大切さも伝えたくて、こうした企画を立てたという背景もあります。
ーーコミュニティがこれほどの広がりになった要因をどう考えますか。
正直、予想していた以上の広がりでした。まだ分析しきれているわけではありませんが、やはり自分の手を加えられる製品である、ということがユーザーに支持されたのではないかと。使い勝手の悪い面もあるカメラですが、そこも含めてカメラに愛着を持ってくれる人が多いんですよ。「Java Script やRubyでアプリを作りました」という人もいて、こちらが驚かされることも多いです。
ーー最後に、オープンイノベーションを成功させる秘訣を教えてください。
主体性を持たずに、外部に頼る、外部を利用するという発想ではいけないかと思っています。まずは内部の人間が熱意を持つこと。絶対に世の中に出したいという強い意思と、周りを巻き込む力が不可欠です。単純にお金で解決できるものではありませんね。熱意と楽しさがなければ、デベロッパーやユーザーたちはプラットフォームに加わってくれないのですから。このプロジェクトをオープンイノベーションの実例として多くの人に知ってもらって、少しでも日本全体が元気になる手助けができれば嬉しいですね。
■取材を通して得られた、オープンイノベーションの2つのノウハウ
(1)主体的な情報発信を行う
オープンイノベーションを成功させるには、関わる人々と場所をいかに盛り上げていくかが重要な課題となる。今回の事例に関して言えば、デベロッパーやユーザーの活動を活性化させるには、プラットフォームを用意して終わりではなく、こちら側から主体的かつ継続的に情報発信を行うことが必要だ。オリンパスは、アーティストや著名人などを巻き込んだ企画を行い、ユーザーを飽きさせない環境づくりを行っていたことが成功につながっている。
(2)企画の早期段階から社外の知見を取り入れる
オープンイノベーションの理想的なあり方について、「企業のバウンダリを超えて、技術やアイディアが加わっていくこと」と語る石井氏。今回の事例においても、コンセプトの策定から開発、情報発信まで、オリンパスはあらゆるフェーズでオープンイノベーションを実施してきたと言える。自らの発想のみにこだわることなく、早期段階から様々な人々の知見や意見を積極的に取り入れることが、オープンイノベーションには必要であることが分かる。
(構成:眞田幸剛、取材・文:玉田光史郎、撮影:佐藤淳一)