Quemix×日産、量子コンピュータによる空力シミュレーション技術を開発 車両開発への実装を視野に共同研究を加速
量子コンピュータのアルゴリズム・ソフトウェア開発を手掛ける株式会社Quemixと日産自動車株式会社は、量子コンピュータを活用した次世代空力シミュレーションソフトウェアの共同研究開発を開始した。両社は、車両の複雑な形状を扱うことが可能な新たな量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを開発し、量子シミュレータ上で従来の空力解析結果を高精度に再現することに成功し、あわせて共同で特許出願も行った。将来的には実際の車両開発プロセスへの適用を目指し、量子コンピュータによる流体解析の実用化を加速させる。
カーボンニュートラル実現に向け重要性が高まる空力性能
自動車業界では、カーボンニュートラル実現に向けて車両の空力性能向上が重要なテーマとなっている。空気抵抗を低減できれば、エンジン車では燃費向上、EVでは電費改善や航続距離延長につながるためだ。
現在、車両開発における空力解析では「格子ボルツマン法(LBM)」と呼ばれるシミュレーション手法が広く用いられている。一方で、量子コンピュータを流体解析に活用しようとすると、車両のような複雑な形状や境界条件を量子計算へ組み込むことが難しいという課題があった。
従来の量子流体アルゴリズムは、単純な立方体や規則的な格子空間を前提とするケースが多く、実際の車両開発で必要となる複雑な曲面形状や非斉次境界条件への対応が難しかった。また、量子回路の規模拡大や複雑化に伴い、現行および近い将来に登場する量子コンピュータでは、実用レベルの計算を遂行することが困難であると考えられている。
量子・古典ハイブリッドアルゴリズムを開発
今回の共同研究では、早期誤り耐性量子コンピュータ(Early-FTQC)での実行を見据え、量子コンピュータと古典コンピュータを組み合わせたハイブリッドアルゴリズムを開発した。
新アルゴリズムでは、流入・流出や物体の移動に関する計算などを古典コンピュータが担当し、流体計算の主要部分や固定された物体境界の処理を量子コンピュータが担う構成を採用した。これにより、量子計算資源を効率的に活用しながら高精度な流体解析を可能にした。
また、車両形状を想定した空力シミュレーションを量子シミュレータ上で実施した結果、従来の古典コンピュータによるLBM解析と比較して高い再現性を確認。複雑な車両周辺の空気の流れを精度良く表現できることが示された。
自動車以外の産業への展開も期待
今回開発された技術は、自動車分野だけでなく、航空機や船舶、建築物など複雑な形状を扱う流体シミュレーション全般への応用が期待される。
流体解析は設計や開発の高度化に欠かせない技術であり、量子コンピュータによる計算能力向上が実現すれば、より精緻かつ高速なシミュレーション環境の構築につながる可能性がある。
Quemixは2019年の設立以来、誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)向けアルゴリズムの研究開発を推進しており、量子化学計算分野では独自アルゴリズム「PITE®」を開発・特許化している。今回の取り組みも、量子コンピュータの実用化に向けた重要なユースケースの一つとなりそうだ。
実車開発への応用を視野に実用化を推進
両社は今後、量子コンピュータによる空力シミュレーションソフトウェアの実用化を目指し、実際の車両開発プロセスへの適用を進める方針だ。
自動車産業では、AIやデジタルツインに加え、量子コンピューティングの活用が次世代の開発競争力を左右する技術として注目を集めている。Quemixと日産は今回の成果を起点に、量子コンピュータによる空力解析の実用化を進め、自動車開発における計算技術のパラダイムシフトを目指す。
なお、本研究成果は2026年6月4日から5日にかけて東京で開催される量子技術カンファレンス「Q2B 2026 Tokyo」において、両社の研究者によって発表された。
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(TOMORUBA編集部)