【イベントレポート】「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」〜eiiconがお伝えするオープンイノベーションルーキーの20の「罠」と、実践ノウハウ〜
メディアを通じてベンチャー、スタートアップの活動を支援するASCII STARTUP(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス)は8月28日、IoTやハードウェア関連のプロダクトに関するスタートアップ企業と、共に事業を検討したい企業のための展示・交流イベント「IoT&H/W BIZ DAY 4 by ASCII STARTUP」を開催した。
会場となったベルサール飯田橋ファーストにはスタートアップなど20社以上がブースを出展し、IoT及びハードウェア関連の革新的なプロダクトや先端技術に関心を持つ来場者と活発にコミュニケーションを取り合うなど、平日昼間の開催にも関わらず大いに賑わいを見せていた。
隣接会場ではカンファレスセッションも開催され、オープンイノベーションプラットフォーム「eiicon」のfounderである中村亜由子も登壇。以前に本メディア「eiicon lab」にご登場いただいたガチ鈴木こと鈴木亮久氏(ASCII STARTUP)がモデレーターを担当し、『日本オープンイノベーション最前線 〜eiiconがお伝えするオープンイノベーションルーキーの罠と、実践ノウハウ〜』と題してオープンイノベーションを始めようとする大企業の担当者やスタートアップが陥りやすい20の罠(障害)を紹介。
▲ASCII STARTUP 鈴木亮久氏
サービス開始からわずか半年間で400以上の企業からオープンイノベーションの相談を受けてきた経験をもとに、多くの企業が罠にハマる原因とその対処方、大手・スタートアップそれぞれに求められるマインドセットなどについて語った。
多くの日本企業が共創すべきパートナーを探せていない、出会えていない現状
カンファレンスセッションは日本におけるオープンイノベーションの現状と課題の解説からスタートした。中村は、社会・経済の変化が加速度的に上がることで各企業の事業に不確実性が増していることや各国の技術的キャッチアップにより技術的優位性の固持が困難になり、世界的に新しい事業を立ち上げることが難しくなった昨今、オープンイノベーションこそが企業の成長を支える新規事業の創出・推進に効果的な手法であると紹介し、P&G社の成功事例なども含めて説明した。
日本でもアクセラレートプログラムを企画するなど様々な形でオープンイノベーションに関する取り組みを開始している企業が増えており、資金も確保できている。しかし、それらを上手く活用できている企業は少なく、多くの企業が「共創すべきパートナーを探せない、出会えない」という問題を抱えていることに関しても示唆した。
それではオープンイノベーションの“ルーキー”たちが陥りがちな失敗にはどのようなものがあるのか。中村は「オープンイノベーションルーキーが必ずハマる20の罠」を紹介するにあたり、特に大企業が共創するスタートアップを探す際に発生しがちな「まずは幅広く募集」という罠をフィーチャーし、失敗のメカニズムについて説明した。
▲eiicon founder 中村亜由子
「まずは幅広く募集しよう」は、なぜ失敗するのか
「オープンイノベーションをスタートしたニーズ探索サイド、特に大企業にありがちなのは、“会いたがっているスタートアップとは全て会おう”というスタンス。社名やサービスが有名な企業であればあるほど、オープンイノベーションの担当者は多くのスタートアップと出会うことができる。しかし、嵐のような数の面談・会食・打ち合わせを経て多くのスタートアップに会ったにも関わらず、経営陣からは“求めている共創先とは違う”と言われ、どれだけ人に会い続けても話が前に進まない。その結果、担当者自体は“オープンイノベーション疲れ”という状況に陥ってしまう。
こうなるとシーズ提供サイドであるスタートアップから見ても、決裁者に会えないまま何回も無駄なミーティングに付き合わされる、何がしたいのか分からないし、本当にお金を出してくれるのかも分からないといった懐疑的な感想を持たれてしまう。
こうした失敗は、大企業が見切り発車的にオープンイノベーションを始めてしまった場合に発生しやすい。社内では“新規事業を立ち上げるためにオープンイノベーションを活用する”ということだけが決まっており、オープンイノベーションのゴール設定や、どのような共創相手を探すべきかというターゲットの設定がなされないまま、経営陣から指示を受けた担当者が闇雲に多くのスタートアップと会うということを繰り返し、“結局上手くいかない。どうすればよいのか…”という相談を受けることはeiiconでも非常に多くなっている」
共創するスタートアップの明確なターゲティングが重要
「このような失敗を防ぐためには、社内におけるオープンイノベーションの位置付けを明確にしておく必要がある。自社の事業戦略上、どの分野・セクションで行われる取り組みか、社内で並走している施策は何か、なぜ外部と連携する必要があるのか、社内では出来ないのか、といった前提を整理して社内で十分に擦り合わせを行うことが重要だと考えている。
前提の整理を行った上で、共同研究の開始、プロダクトの開発、販売など、オープンイノベーションのゴールを設定する。さらには社外にオープンイノベーションをPRする際にも認知されればいいのか、トライアルなのか、提携までを目的とするのか、はっきりと決めておく必要がある。
前提の整理、オープンイノベーションのゴール、PRのゴールが明確化されることでスタートアップのターゲットも自ずと絞られてくる。具体的に有している技術やプロダクトの状態といった定量面はもちろん、相手に求めるスタンスやビジョンなどの定性面も明確にしておくとなお良い。
ターゲット設定が明確になった後はPRの際、ターゲットとするスタートアップに響くような訴求ポイントを整理する。例えば“共に研究する”というスタンスで来て欲しい場合は、どのような研究者と研究を行えるのか、どのような研究施設が利用できるのか、どのくらいの研究費を出すのかなど、スタートアップが享受できるメリットを正確に伝えていくべきである」
オープンイノベーションルーキーが必ずハマる20の罠
先にピックアップして紹介した「まずは幅広く募集」の罠を含め、中村が語ったオープンイノベーションに取り組もうとする企業が警戒すべき20の罠について紹介する。(1)〜(11)は大企業サイドが陥りがちな罠、(12)〜(20)はスタートアップサイドが陥りがちな罠となっている。
【大企業サイドが陥りがちな罠】
(1)「まずは幅広く募集」の罠
オープンイノベーションのゴールや共創相手のイメージがないまま、闇雲に多くのスタートアップと会っているだけでは、自社にとってより良い共創相手と出会うことはできない。社内における前提のすり合わせ、ゴール設定、ターゲット設定を行うことが重要。
(2)横文字のオープンイノベーションに踊らされる罠
「オープンイノベーション」という曖昧な言葉のみを共通言語にしてスタートしたために、プロジェクトが進んでいるのに社内において全く評価が得られないケースも。プロダクトの完成・改善、具体的な売上など、成功の基準を明確化しておく必要がある。
(3)「秘密主義」かつ「自前主義」の罠
社内においてオープンイノベーションに関する何らかの取り組みを推進しているにも関わらず、多くの企業が社外に告知・発信できていないという現状がある。「まずは社内で体制を構築してから」、「勘所を掴んでからスタートしよう」と考えるととにかく時間がかかってしまいがち。対外的に発信するスキームを早期に構築するためにも、Webサイトの活用はもちろん、オープンイノベーション仲介業者など外部プレイヤーの手を借りた方が効率的である。
(4)リアルイベントの罠
企業同士がコミュニケーションを取れる様々なリアルイベントが開催されているが、交換した名刺の数で満足してしまう人も多い。イベントを有効活用するためには、会うべき企業・担当者、話すべき内容を明確化して参加し、相手にも自分の目的をしっかり伝える必要がある。
(5)アクセラレートプログラムの罠
アクセラレートプログラムの企画・運営など、事業化前にも関わらず資金を投入し過ぎることによって、いざ提携後に事業をブーストさせる資金が足りないという状況に陥ることも。担当者とスタートアップ双方に事業化前の投資額がプレッシャーとしてのし掛かることにもなるので、アクセラレートプログラムに資金を使い切ることなく、提携後の走り出し資金を確保しておくことが重要。
(6)無意識の「上から目線」の罠
スタートアップに対して自社用にカスタマイズを要求したり、スタートアップ側だけに再提案を依頼したりするなど、「発注」に慣れている大企業側の担当者は、無意識のうちに「上から目線」な態度をとってしまいがち。オープンイノベーション担当者に加え、プロジェクトを推進する事業担当者、共創相手の三者間で意思決定を行うことで解決しやすい。
(7)サラリーマン根性の罠
オープンイノベーション担当者が上司からの指摘を受け続け、上司の考えを忖度し過ぎるようになると極度に失敗を恐れるようになる。こうなると新規事業が生まれにくい状況に陥ってしまうため、失敗を恐れるサラリーマン根性を捨て、新しいことにも果敢に挑戦するマインドを持ち続けたい。
(8)浦島太郎感覚の罠
「今年度の予算化が厳しいから来年度から…」という大企業の時間感覚はスタートアップには通用しない。大企業とスタートアップでは時間の感覚が全く異なるという前提で話を進める必要がある。
(9)釣り合ってる? シーズすぎないか? の罠
イノベーションブームに乗って若いスタートアップにこだわり過ぎると、「販売ラインがない」、「プロトタイプはこれから作る」、「人事がいない」、など相手企業の体制が整っていないために上手く協業できないことも。協業イメージの湧く相手を選ぶことが重要。
(10)アイデアに価値はない・秘匿主義の罠
アイデアを秘匿、秘密にすることに固執し、NDAなどの契約ばかりに時間をかけ過ぎることによってチャンスを逃すケース。まずは共創をスタートさせ、いかに早く実現させるかを重視するべきである。
(11)反対意見に振り回される罠
オープンイノベーション担当者が様々な人のアドバイス、特に反対意見を気にし過ぎて混乱してしまうことがある。迷った時は最初の課題に立ち戻って判断・決定をした方が良い。課題のみが事実であり、最も信用に足る情報であると考えるべき。
【スタートアップサイドが陥りがちな罠】
(12)口約束の罠
大企業では人事異動も頻繁に発生するため、協業スタート後にオープンイノベーション担当者が別部署に異動してしまうことも珍しくない。担当者が変われば口約束はなかったことになるため、譲れない部分は必ず書面で残しておくことが必要。
(13)自社のサービス説明だけで終わってしまう罠
スタートアップが大企業と提携を結ぼうとすると、自社のサービス、プロダクトについての説明・アピールに終始してしまいがち。初回の打ち合わせ前に、相手企業の決算報告資料や事業計画を確認し、大企業側のメリットや都合を考えた上での説明が求められる。
(14)目先の事業提携に囚われる罠
スタートアップはどうしても短期的な売上や資金調達に捉われがち。一方で大企業のスタートアップ担当者は経営層からの指示を受けているため、お互いに「まずは事業提携を」というスタンスに陥りやすい。双方が目先の目的ではなく、本質的なビッグインパクトを生む共創マインドを持つことが大切である。
(15)誰がキーマンだか分からない罠
打ち合わせでどれだけ話が盛り上がっても、決裁者の決裁がなければ大企業は動き出せないし予算も出ない。誰が決裁権を持っているのかを把握し、何かタスクが発生する度に決裁の有無について、担当者に確認を取るようにしたい。
(16)相手のブランドや規模だけで共創先を探してしまう罠
相手企業の名前・規模だけに魅力を感じて提携すると、協業がスタートした後に上手く行かないことがある。その後の協業によって何を成すべきかを見据えて企業を選ぶべきである。
(17)カルチャーの違いを蔑ろにしてしまう罠
ニーズとシーズが合致していたとしても、あまりにもカルチャーが異なる企業同士の協業は上手く行かないので、提携前に留意する必要がある。
(18)実現不可能なスケジュールを組んでしまう罠
インパクトが大きな取り組みは実現までに時間が掛かるのは当然。スタートアップ側も大企業の時間感覚を把握し、共に協業していける体力を持つことも必要である。
(19)アクセラレーションプログラムの罠
誰が何をしてくれるのか明らかになっていないアクセラレーションプログラムへの参加は徒労で終わることも多い。参加するなら担当者がプロフィール等を明らかにしているものを選びたい。
(20)「この人本気なの?」と思われてしまう罠
前出の(13)のようにアピールばかりになってはいけないが、自社の事業やサービスを強く信じ、大企業の担当者に「本気だな」と思わせることは重要である。
取材後記
新規事業創出のためにオープンイノベーションを活用する企業が増えていることは間違いない。しかし、多くの企業にとって経験のない取り組みだからこそ、提携・協業を阻害する多くの罠(障害)が潜んでいることも事実だ。オープンイノベーションによる理想的な共創を実現するためには、大企業側・スタートアップ側の双方が、今回紹介された数々の罠の存在を認識し、「オープンイノベーション」という言葉だけに踊らされることなく「何を実現するのか」という最終目標をしっかりと定義・明確化することが不可欠であると感じた。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)