【インタビュー】データサイエンスの未来を変えるNECの「予測分析自動化技術」。日本発の技術で、世界を席巻する。
大量のデータが蓄積されるようになった今、そのデータをいかに活用するかが、次のビジネスを展開するうえで大きなカギとなっている。リーダー企業の多くは、ビジネスにおける意思決定をデータドリブンにしようと試みているのだ。
一方、データはあまりに膨大、かつ分析はデータサイエンティストによる職人芸的に行われており、結果が出るまでに時間がかかるなどの課題があった。これを自動化する技術=「予測分析自動化技術」を創り上げたのがNECだ。この技術を創り出したプロジェクトチームを率いる藤巻氏に、技術開発の背景や今後の展開について伺った。
高まる一方のデータ分析のニーズに「自動化」というソリューションを提供
▲NEC データサイエンス研究所 主席研究員 博士(工学) 藤巻遼平氏
2006年日本電気株式会社(NEC)入社。以来、異種混合学習、予測型意思決定最適化などNECのAI事業のコアとなる技術を開発。11年からNEC北米研究所に活動の拠点を移す。15年にはNECの歴史上最年少で研究最高位である主席研究員に就任。現在は予測分析自動化技術のプロジェクトリーダーを務めている。
――AI技術を活用したデータ分析の自動化が大きく注目されています。データサイエンスのあり方を変える可能性を秘めていますが、自動化を試みた背景をお教えください。
藤巻:私はデータサイエンティストとしても多数のプロジェクトを率いており、お客様のデータを分析してソリューションを提供しています。多数のプロジェクトを進める中で見えてきたのが、データ分析のニーズが高まっている一方で、分析できる人が非常に少なく、各社で人材を抱えることも難しいという課題でした。需要と供給が合っておらず、そこに大きなビジネスチャンスがあると感じていたのです。
予測分析自動化技術は、企業内に蓄積される業務データをAIが自動的に分析し、ビジネス課題を解決する予測モデルを自動で作成するものです。その結果、熟練のデータサイエンティストでなくとも誰でも短時間で高精度なモデルを作ることが可能になります。しかし、最初はあくまで内部に向けて開発を行っていました。
――内部に向けて作っていた技術を外部に広めようとしたことについて、きっかけとなったのはどのようなことでしょう。
藤巻:アメリカでお客様にプレゼンテーションをした際、自動化の技術に触れる機会がありました。そこで、「そんなことが本当にできるのか」「これこそが我々の欲しいものだ」という反応をいただき、この技術が市場で大きなニーズとチャンスがあると感じました。それをきっかけに、内部向けだったプロジェクトを一気に方向転換しました。
その後、三井住友銀行様から実証実験の機会をいただき、そこで熟練のデータサイエンティストが2~3ヶ月かかって作ったモデルと同等以上の精度を一日で達成できました。今、私たちは、データサイエンスの未来やあり方を変えるという確信を持って開発に取り組んでいます。
研究から事業化を一体化する
――予測分析自動化技術がどのように研究・開発が行われているか、教えてください。
藤巻:私たちは従来の大企業の技術開発とは異なる事業化のアプローチを試みています。大企業では、研究開発を研究部門が行ない、製品化・事業化は事業部門が行うということが通常です。一方で、最先端の技術によって新事業を創出するには、意思決定の分散、技術者の確保、既存事業との整合など様々な課題があり、そうしたスピード感では周囲を取り巻く環境の変化に対応しきれません。
技術と事業のビジョンを統一的に描き、最先端の技術を、お客様に使っていただきながら改良・改善を加え、すぐにプロダクトに取り込みながら進化させていきます。「私は研究するひと」「あなたは事業化する人」ではなく、この技術によって世の中を変えたいと本気で思っているメンバーが研究、製品化、事業化を手がけるのです。
――エンドユーザーと関わる機会も多いのですか。
藤巻:そうです。データと課題はお客様にあります。「自分は開発の人間だからユーザーのことはよくわからない」、ではいい技術やプロダクトは創れません。ユーザーが何を考え、何を求めているかが最も重要な点です。このプロジェクトは、お客様それぞれが持つ非常に莫大な量のデータやビジネス課題に触れることができます。その中で、今世界で何が求められているか、共通の課題が見えてきます。その意味で、技術者にとっては非常に恵まれたプロジェクトだと思います。
日本発のAI技術で北米の市場を席巻したい
――NECの中でも、これまでにない開発を行うメンバーは、どのような方々なのでしょうか。
藤巻:このプロジェクトでは、一人の技術者が複数の領域にまたがり開発を行っています。例えば、リサーチとエンジニアリング、リサーチとデータサイエンスというように。ですから、自身の得意分野を持ちながらも、ユーザーの声に耳を傾けながら新しいことを積極的に取り入れていくことができ、そして何より自分たちの創るものによって世界を変えるというモチベーションを持ったメンバーが活躍していると思います。
――開発環境について、言える範囲で教えていただければと思います。
藤巻:非常に大きなデータを高速に処理することが求められるため、計算基盤のコアはApache Sparkを採用し、特徴量自動設計と予測モデル自動設計の2つのコアエンジンをScalaベースで開発しています。また、Webフロントエンド、Webバックエンド、仮想インフラの各レイヤーのモダンなOSS技術を組み合わせています。開発は日本・米国・欧州・インドに分散しているため、各拠点で連携して開発するためのDevOpsの環境を作っています。
――これからの目標をお聞かせください。
藤巻:まずは多くのお客様の実用化に耐え得る製品を創り上げ、市場へのリリースを目指します。既に多くの引き合いをいただいているので、その声に応えたいという思いは強くあります。
また、これは個人的な思いですが、日本発のAI技術でまずは北米市場を開拓し、世界を席捲したいですね。これまで、日本のAI技術が北米のマーケットに広く浸透した例はありません。「黒船」ならぬ「白船」というのでしょうか。私たちの技術で世界で戦っていきたい、世界を変えていきたいと思っています。