【特集インタビュー】 24時間365日「新規事業開発」に関わり続ける目で見た、真のオープンイノベーションとは。(前編)
2016年、株式会社リクルートホールディングス(以下リクルート)と高知県庁/長野県塩尻市が業務連携協定を締結した。人口減をはじめ多くの課題を抱える地方の活性化を目指すこのプログラムの起案元は、リクルートの新規事業開発プログラム「Recruit Ventures(リクルートベンチャーズ)」。新規事業開発を絶え間なく行うことを体現化しているこの活動を、アジテーターとして支えるのが麻生要一氏だ。社会に新たな価値を生み出し続ける麻生氏にとって、真のオープンイノベーションとは何かを伺った。
■麻生 要一氏 プロフィール 2006年4月にリクルート新卒入社。独立・起業情報誌「アントレ」の広告営業に2年間従事した後、社内新規事業コンテスト「New Ring」で受賞。2010年に株式会社ニジボックス設立。2014年、TECH LAB PAAKの所長に就任。また、2015年には株式会社リクルートホールディングス 事業開発室 室長 兼 事業育成機関Media Technology Lab.の室長にも就任している。
■明確過ぎない視点がイノベーションを生む。
——地方創生では、具体的にどんな事業を想定されているんですか。
麻生:具体的な分野は設定していません。オープンイノベーションでは目的をシャープにし過ぎない方が良いと思っています。まずは「場」を用意してそこを使ってやりたいことを考えていこうという取り組みです。新しいアイデアの応募が続々ときていて、これからが楽しみですね。
——目的をシャープにし過ぎないというのはキーワードになりそうです。具体的に教えてください。
麻生:オープンイノベーションにおいて、大企業側では目的や費用対効果を明確にしないと承認が降りないという話をよく聞きます。一方でスタートアップ側では、単に売り込みたい自社サービスの営業活動をしているだけというケースもある。それはオープンイノベーションじゃないと思うんです。リクルート×高知県庁/塩尻市の事例は、最初から「ここと組もう」とか「これを導入したい」とかは決めずに、まずはイノベーションが起こる「場」作りからスタートしています。そこから何が生まれるか誰も分からないからこそ、オープンイノベーションと言えるのだと思っています。
——それはお互いにですか?
麻生:お互いです。もちろん「地方創生」という大きな目的の設定は共通しています。県庁内/市役所内に、リクルートの新規事業(実証実験など)を手伝うための部署を設置していただいています。案が採用されたらその部署と連携して、担当の方にコーディネートしてもらうというスキームになっています。
■新規事業ありき。それが常だからこそサポート態勢を整える。
——起案元の「Recruit Ventures」は麻生さんが仕掛人ですよね。
麻生:はい。もともとリクルートにあった新規事業コンテスト「New Ring」を2014年にリブランドしたのが「Recruit Ventures」です。「New Ring」は年に1回の開催でしたが「Recruit Ventures」は年12回の開催にしています。
——年12回ということは毎月ですね。新規事業開発に対するその熱意は?
麻生:個人的にオープンイノベーションは新規事業ありきだと思うんです。新規事業開発ができる仕組みが自社にない状態で「オープンイノベーションだ!」って言っても、本質的なイノベーションにはならない。どちらかというとM&Aとかアライアンス先募集に近くなると思います。まずは新規事業開発で、それができる仕組みを整えること。更に、その事業がスタートした後、成長するためのサポート態勢も大切だと思っています。
——事業がスタートした後のサポートはなかなか難しいですよね。例えば自社内で新規事業コンテストがあって優勝しても、その後は野放しにされることが多い気がします。
麻生:「大企業あるある」ですね。年1回の一大イベントでその瞬間はものすごく盛り上がるんだけど、その後は放置。優勝者から見れば、急に梯子を外される感覚ですよね。リクルートでは24時間365日、ボトムアップ型で従業員はいつでも提案をエントリーできます。提案の中から僕たちが良いものを厳選して事業化が決定したら、そこへの投資と育成の仕組みを整えていきます。リクルートの従業員を起業家と見立てて、Media Technology Lab.がVC・アクセラレーター・インキュベーターを兼ねた存在としてサポートします。資金面、人材面、ネットワーク面、必要になるサポートをしながら育成していきます。
——手厚いですね…!
麻生:手厚いですよー(笑)。社内で新規事業をやろうと思った時に「独立してスタートアップやった方が良いな」と思われたらアウトだと思っています。スタートアップ支援のエコシステム全体をリクルート一社で行い、外に出る気を起こさせないくらい手厚くさせようという信念でやっています。
——新規事業に関してそこまで腹決めしている企業は少ないかもしれませんね。
麻生:リクルートでは新規事業開発が生活サイクルの一部になるくらい日々トライしていて、だからこそ僕たちは手厚いサポートやイノベーションが起こる場所を用意するんです。
今回の麻生氏インタビュー前編では、オープンイノベーションに関する以下のポイントが明らかになった。
■オープンイノベーションでは、目的をシャープにし過ぎない。まずはイノベーションが生まれる「場」作りを。
■オープンイノベーションありきの行動ではなく、新規事業開発ありきの行動がイノベーションを生む。
■新規事業開発はコンテストだけで盛り上がりがち。サポートの仕組みや「場」作りが、その事業の行方を決める。
明日公開予定のインタビュー後編では、麻生氏が所長を務めるTECH LAB PAAKについて伺い、イノベーションを生む「場」作りを深堀りする。また新規事業開発とオープンイノベーションの関係性についても、前編に引き続き詳しく語っていただく。 (構成:眞田幸剛、取材・文:石崎もえみ、撮影:加藤武俊)