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♯Epilogue 社会実装の鍵 ―未来の足音 JR EAST STARTUP―

♯Epilogue 社会実装の鍵 ―未来の足音 JR EAST STARTUP―

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「すでに創り出された未来」は、なぜ可能になったのか?

AIが、囲碁や将棋で人間に勝つ。キャッシュレス化によって、財布が不必要になる。ドローンが空を飛び、山々を超え、荷物が運ばれる。場所や土地に縛らず、遠隔で旅行を体験する。――世の中の常識を凌駕するような新しい技術やアイデアが次々と生まれる中、未来はすでに私たちの生活の一部になりつつある。

中でも、次々と未来の社会実装を進めているJR東日本スタートアップ。そんな未来の一端を垣間見ていく連載企画「未来の足音」。これまでの連載ではJR東日本スタートアップがさまざまなベンチャーとの共創によって創り出した未来――新しい店舗やデータ予測、新たなレール活用など――について見てきた。

これらの共創事業は、JR東日本スタートアッププログラムにおいて採択されたベンチャー各社とJR東日本グループとが共同でおこなってきた実証実験などを通じて社会に実装されはじめているものであり、「すでに創り出された未来」である。

ところで、JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)といえば、売上高約3兆円、時価総額約4兆円、従業員数約5万5000名、グループ企業約70社を擁する、日本有数の巨大企業だ。また、社会の基盤を支える交通インフラ企業である同社が最高の価値として掲げるのは「究極の安全」だ。長い伝統を持つ巨大企業で、しかも安全を最優先の価値とする交通インフラ企業とくれば、どうしても保守的な企業文化が連想されるだろう。

しかし実際のところは、これまでの3回の連載でも見てきたように、JR東日本の共創への取り組み姿勢は本気かつ大胆で、革新的なものである。では、なぜ長い伝統を持つ巨大企業にあってそのような共創への取り組みが可能となったのか?

その謎を解くカギが、組織の中で実際に事業を動かしている「人」だ。

そこで、連載の最終回となる今回の記事では、巨大企業の中で革新的な取り組みに挑むJR東日本スタートアップの各メンバーにフォーカスし、未来のビジネスを創出する力を紐解いてみたい。

■JR東日本スタートアップ株式会社 

シニアマネージャー 隈本伸一氏 <写真右から2番目>

シニアマネージャー 俵英輔氏 <写真中央>

マネージャー 阿久津智紀氏 <写真右>

アソシエイト 山本裕典氏 <写真左から2番目>

アソシエイト 佐々木純氏 <写真左>

JR東日本スタートアップの社員の中から5名の方に、2018年のJR東日本スタートアッププログラム採択企業との共創事業の事例、巨大企業の中で新しい事業を進めていくときに直面する困難やそれを突破した方法、また、今後のプログラムにおいて、どのような共創を目指し、どのようにベンチャーを支援していきたいかという将来像など、さまざまなお話をうかがった。

地域通貨とSuicaをつなぐ:株式会社ポケットチェンジとの共創(隈本伸一氏)

2018年2月にJR東日本スタートアップが創立されたときの、創立メンバーはわずか3名。代表取締役社長の柴田裕氏、現営業推進部マネージャーの阿久津智紀氏、そして今回お話をうかがった現シニアマネージャーの隈本伸一氏である。

隈本氏は、2018年のJR東日本スタートアッププログラムの採択企業から、株式会社ポケットチェンジ、tripla株式会社、株式会社CAMPFIRE、株式会社バズヴィルの各社を担当。実証実験や事業共創を進めている。同氏はこれまでにJR東日本において生活関連サービスのIT周りの業務経験があり、その経験を活かせる共創事業の担当が多い。今回はその中でも、地域を大きく巻き込んだ実証実験として際だった特徴を持つ、株式会社ポケットチェンジ(以下、ポケットチェンジ社)の事例についてくわしくお聞きした。

▲隈本伸一氏 

ポケットチェンジ社は、空港などに置いてある、外貨を両替して電子マネーとして貯めることができる機械(ポケットチェンジ)を作っている会社だ。同機械では、Suicaへのチャージもできる。そこで、各地の地域通貨をその機械に乗せて、最終的にSuicaに替えられるようにして利用を促進することが、今回の共創事業のテーマとなった。

地域通貨が発行されている地方都市は多い。地元の住民の間ではそれなりに普及して利用されている地域通貨もある。しかし、外部から訪れる人、特に海外からの観光客などに使ってもらおうと考えたときに、その人たちが帰るときに余らせた地域通貨をどうするのかが課題となる。地域通貨を最終的にSuicaに交換できるようになれば、その課題が解決でき、観光客の利用にも弾みがつくだろう。地域通貨が普及している観光地であれば、その地域内でのキャッスレス観光も可能になるはずだ。これが日本の各地で広まれば、諸外国に比べて遅れている日本のキャッシュレス化が、一気に進行するかもしれない。

「JR東日本にとっては、Suicaの決済端末に搭載できない地域でも、地域通貨を発行しているなら今回のソリューションを使うことで入り込んでいける可能性があります。よく話しているのが、キャッシュレス決済の動脈がSuica、静脈がポケットチェンジだということです。両者をうまくつないでマネーを循環させることで、日本の隅々にまでキャッシュレスの世界を広めていけるかもしれません。そのパートナーになりませんかといって、あちこちに話を持ち込んでいるところです」(隈本氏)。

ポケットチェンジとの実証実験は、「竃(がま)コイン」という名前の地域通貨が発行されている宮城県塩釜市でおこなわれた。

▲竃(がま)コイン

地域通貨を使った実験という性格上、JR東日本とポケットチェンジの他、地元自治体、地域通貨発行主体のDMO(Destination Management Organization)、各加盟店、そして地域住民と、参加プレーヤーが多く、仕様やレギュレーションの調整も複雑で時間がかかった。また、2,3か月程度では実験結果も見えにくい。そのため、「年度末の時点で実験は終了しておらず、いまも継続しています。実験というより、ほとんど本番のようになってしまいました」(隈本氏)とのこと。JR東日本スタートアップ側の調整業務も相当大変だったようだ。

しかし、その苦労のかいあって、アプリのダウンロード数も増え、塩釜市長をはじめ、自治体でも積極的に宣伝をしてくれている。夏の観光シーズンやイベントに向けて、徐々に盛り上がりを見せており、費用面で見てもほぼ事業として自走ができるくらいのところまで来たという。

「いろいろな地方に行くと、Suicaを使ってなにかできないかという話がよく出てきます。今回の実験で、収益的にはさほど大きくないにしても、自走して回るような仕組みがほぼ確立できたことで、ポケットチェンジさんの方に、他の地域からの問い合わせも増えているそうです」(隈本氏)。ポケットチェンジの方から見ても、今回の共創実験はひとまず成功裏に着地しつつあるようだ。

同種のアクセラレータープログラムでも、これだけの大規模かつ長期間の実証実験が行われることは珍しいだろう。この点でも、未来の創造に向けたJR東日本スタートアップの実力と、本気度がうかがわれる。

駅を減菌空間に:エネフォレスト株式会社との共創(俵英輔氏)

JR東日本スタートアップにおいて、創業メンバーの3人から遅れること5か月、2018年の7月から同社に参画した俵英輔氏。2018年JR東日本スタートアッププログラム採択企業では、エネフォレスト株式会社、ClipLine株式会社、株式会社ANSeeN(インキュベーションコース)を担当した。

俵氏は、JR東日本時代、鉄道系業務の経験が長く、乗務員や駅の助役などもやってきた生粋の鉄道マンだ。実は、JR東日本スタートアップには、生活サービス系業務出身の人材が多く、俵氏のような鉄道系業務をメインにやってきた人は少ない。だが、駅に装置を設置するエネフォレスト社や、車両メンテナンスの現場にも入っていくClipLine社との共創事業を進める上では、俵氏の鉄道系での業務経歴が、現場とのネゴシエーションの際などに、大いに役立ったという。

▲俵英輔氏

エネフォレスト社との共創事業の内容は、簡単にいうと空気中の浮遊菌を殺し、空気を浄化するシステムの設置である。このシステムの特徴は、他社の空気清浄メカニズムでは除去が難しい空気中の菌を減らすことができる。すでに病院や老人ホームなどでの採用実績も多く、そういった施設からは高い評価を受けている。しかし、駅という場所はそれらの施設とは異なり、基本的に常に人が出入りしている開放空間だ。そのような場所で、果たして効果があるのか? また、そもそも、駅でそれほど綺麗な空気を求めるニーズがあるのか? それらを確かめるための実証実験が行われた。

▲今回の実証実験で使用されたエネフォレスト社製「エアロシールド」

実験場所の一つが埼玉県・大宮駅の新幹線待合室の奥にあるベビー休憩室。赤ちゃんのおむつ替えや授乳ができるスペースだ。大人だけが利用する場所とは異なり、赤ちゃんを連れた親御さんが利用する場所では、空気清浄にも敏感になるのではないかという仮説から、この場所が選ばれた。

お客さまが利用する駅構内で実証実験がおこなわれることもあり、俵氏は現場との折衝や調整に特に気を使ったという。

「実証実験の趣旨などは、もちろん丁寧に説明します。しかし、私も現場にいたのでわかりますが、駅の現場では突発的なことが日々起きるので、通常業務にプラスしてなにかをするというのは結構キツいんです。ですから、相手(駅などの現場)に極力負担をかけないということの確認が重要です。『そちらにも負担をかけます』とか『こういうことをやって欲しい』ということではなく、『準備から、管理、撤収まで、基本は自分たちでやりますので、最低限ここだけをお願いします』という具合に、現場の気持ちを考えた話のもっていき方を心がけました」(俵氏)。

そうしておこなわれた実験の結果、常に自動ドアが開閉されて人の出入りがあるような空間でも、エネフォレスト社のシステムによりかなりの殺菌効果があることが判明した。さらに、利用者アンケートを取ったところ、ほとんどの利用者がそういう環境を欲しているということもわかった。「しっかり効果があって、ニッチかもしれないが確実にニーズもある。それが確認できたことは実証実験の大きな収穫でした」(俵氏)。

この実験結果を得て、俵氏とエネフォレスト社では現在、施設管理業務などを担当しているJRグループ内の企業に対して提案をおこなっている。「グループ会社でも、自分たちが営業をするときに提案できる技術や新たなサービスを求めています。そこに対して、実験結果を得たファクトベースで提案できるのはとても強い」(俵氏)ということで、反応はおおむね上々。すでにマネタイズの可能性も見えてきているという。

駅で手軽にファッションスタイリング:株式会社エアークローゼットと共創(佐々木純氏)

今回お話をうかがった4名の中では、一番後にJR東日本スタートアップに入社した佐々木氏。駅ナカの店舗管理など生活サービス系業務経験もあるが、以前は、広告代理店の関連会社に出向していたこともあり、店舗とメディアとの両方に知見を持つ。その経験を活かし、株式会社エアークローゼットと共創し、駅での無人パーソナルスタイリングを実証実験した。

無人パーソナルスタイリングは、いままでに存在しない新しいサービスなので、少し説明しておこう。まず、駅ナカに、試着用の服やファッションアイテム、そして専用の「スマートミラー」を設置した区画を用意する。スマートミラーとは、簡単に言うと鏡に日常的に使われる鏡にタブレット端末が組み合わさったものだ。カメラやスピーカーも搭載されているので、画像と音声で遠隔地にいる人と、鏡の前にいる人とがコミュニケーションを取ることができる。

つまり、駅の利用者が、ちょっとした空き時間に服を試着し、スマートミラーを通して、エアークローゼット社の店舗などに在籍しているスタイリストからアドバイスを受けることができる。実際にはミラーに表示される画像や音声だが、まるで目の前にいるスタイリストからアドバイスを受けているような体験ができるわけだ。

▲2018年12月に大宮駅で行われた無人パーソナルスタイリング体験のデモの様子

「エアークローゼット社さんは服のシェアリングサービスも実施なさっていますが、強みはモノを持っていることではなく、アドバイスをできるスタイリストさんをたくさん抱えていることだと考えました。駅という毎日使う手軽な場所で、隙間時間を使って、試着しながらスタイリストのアドバイスを受けられることは、非常に新しい体験価値を生むと思います」(佐々木氏)。

今回の実証実験は、首都圏の駅と、長野県など地方の駅との両方で実施された。地方でも設定目標は達成できたが、意外だったのは首都圏で圧倒的に注目度が高く、目標の3倍もの集客を達成できたこと。そこで今後、首都圏の駅では、既存の「店舗」という形のスペースではなく、ボックス型のコワーキングスペースのような、より手軽に利用できる形での展開が考えられている。

また地方においても、「地方にいくと駅ビルでもテナントがなかなか入らないようなところもあります。そういったところでも、このシステムであれば比較的容易に導入できて、新しい体験価値を提供できると考えています」(佐々木氏)ということ。これまでのような、モノを売るだけの店舗とは違った、体験メディアとしての駅空間が模索されている。

▲佐々木純氏

養蜂家が生んだシカ害ゼロへの道:株式会社はなはなとの共創(山本裕典氏)

山本裕典氏は、JR東日本ではシステム会社への出向経験などもありITに強く、JR東日本スタートアップには、いわば「IT枠」で入社している。そのような経緯もあって、2018年JR東日本スタートアッププログラム採択企業からも、Wi-Fiセンサーによる侵入監視システムのOrigin Wireless Japan株式会社、AIによるブレーキの予兆検知・消融雪機の最適稼働を図る株式会社エイシングなど、IT系企業を主に担当している。しかし、それらのIT系企業と比べると、異色の存在である株式会社はなはなも、山本氏の担当だ。

「2018年のプログラムでは、約180件の応募があって、そこから50社を選んでプレゼンテーションをしてもらいました。応募180社の中でも、はなはな社さんの提案内容はずば抜けて奇想天外なものだったので、私たちは全員びっくりしました。正直、半信半疑でもあったのですが『これはぜひプレゼンを聞いてみたいね』という点で一致しました。それで実際にプレゼンをしてもらったら、これはいけそうだということになり、面白そうなので私が手を上げて担当しました」(山本氏)。

▲山本裕典氏

メンバー全員が驚いたというはなはな社の提案内容は、「蜂の羽音を流してシカを追い払う」というもの。実は、JR東日本ではシカによる被害に、長年悩まされている。シカが線路に入りこんだり、最悪の場合列車と衝突したりすることで運行に支障をきたす獣害だ。これまでも、金網の設置はもちろん、シカが苦手な匂いだというライオンの糞をまいたり、レーザー光線を光らせたりと、さまざまな対策を講じてきた。しかし、一時的な効果はあっても、すぐにシカが慣れてしまって、決定的な決め手となる対策は存在しなかった。

一方、はなはな社の本業は、広島県でミツバチなどを飼育する養蜂家である。長年、養蜂業を続けてきた中で、蜂を飼っているとシカが寄りつかないことに気づいた同社は、その理由が蜂の羽音であることを突き止めた。そこで、蜂の羽音を機械で流す装置を開発し、シカ害に悩む農家などを相手に3年ほど前から販売している。

果たして、これが本当に通用するのだろうか?

山本氏が実証実験の場所として選んだのは、岩手県の盛岡駅から宮古駅までを結んでいる山田線の陸中川井駅付近。なぜここが選ばれたかといえば、盛岡支社のエリア内で、1キロ当たりのシカ衝突件数がもっとも多い場所だからだ。「シカ事故が一番多い場所で効果が見られれば、それは間違いなく効果があるといえるでしょう」(山本氏)。

場所は決まったものの、そこからが苦労の連続だった。まず、はなはな社のシカ除け装置は、音を通すための塩ビパイプを線路脇に敷設しなければならない。これは安全にも配慮しなければならない工事なので、JRの通常の進行だと、1年がかりで予算を通して、来年度に工事といったスケジュールになる。しかし、今回の実証実験は、11月から始めて年度末の3月までに成果を出すという異例のスピード感で進めなければならない。そこで山本氏が各所に調整を図り、工事ができる許可はなんとか得られた。が、今度は実際に施工をしてくれる会社がない。盛岡支社も保線関係のグループ会社も、すでに年度内の工事予定が一杯で、追加で手配してもらえる余裕がなかったのだ。

「今回の実証実験で一番大変だったのは、施工会社探しだったかもしれません。私は盛岡に土地勘がないですし、現地は11月から雪が降り始める。ありとあらゆるツテを使って、通常工事をおこなう線路系の会社ではなく、電気系の会社に頼んで工事をしてもらいました」(山本氏)。

雪の降る中、急いで施工を進めてもらい、陸中川井の線路脇の500メートルにわたる塩ビパイプの敷設や、ソーラー発電機の設置が終わったのが、ようやく12月末。そこから、3か月にわたる実験がスタートした。スタート後も、想定した通りに発電機が動かないなどのトラブルに見舞われたが、それにもかかわらず、蜂の音を流す装置の効果は絶大だった。

▲実証実験の様子 

「盛岡地区でもっともシカ事故が多いエリアだったのに、その3か月間は事故がゼロ。これにはびっくりしました。路線の運転手や車掌からも『明らかにシカの数が減った』といわれました。さらには、近所の農家のお母さんからも、『最近シカが減った』といわれたのです」(山本氏)。

プレゼンを通した後も、実際に実験をはじめるまで、山本氏も正直、半信半疑だったというはなはな社の装置。それが、確実にシカ害減少に効果をもたらすものだと証明された瞬間だ。

この効果を耳にして、首都圏でいうと八王子から山梨の中央線エリアなど、シカ害で悩んでいる他のエリアからも、ぜひ導入を検討したいという声が寄せられているという。さらには、シカだけではなく、他の動物への効果も期待されているという。だれもが半信半疑の気持ちで聞いていたプレゼンから、このような共創事業の広がりが生まれていく。これこそ、アクセラレータープログラムの醍醐味だといえよう。

トップが持つ危機感が、大規模な共創を推進する源の一つ

アクセラレータープログラムを通じた、大企業とスタートアップ企業、ベンチャー企業との共創の取り組みは、日本全体で広がりを見せている。しかし、ここまで広範囲に共創を広げ、大規模かつ長期間の実験を経て、社会実装のレベルまで深化させている例は、他ではあまり見られないのではないだろうか?

なぜJR東日本スタートアップにはそれができたのか、さらにそれを踏まえて、今後はどのような方向を目指していきたいのか、共創の未来に向けた抱負を最後にたずねてみた。

まず、阿久津氏はこれまで大規模に共創を推進できる背景についてこのように説明した。「意外に思われるかもしれませんが、私たちのグループのトップは、非常に危機感を持っています。なにしろ、一度経営危機に陥った経験(国鉄時代)がありますので『環境に応じて変化しなければ、企業は危ない』ということを、経営陣が肌身にしみてわかっているのです」。――さらに隈本氏は次のように続ける。「オープンイノベーションも、単にアリバイ的にやりましたというレベルではなく、本気で取り組む姿勢をトップ自らが持っています。だからこそ、JR東日本スタートアップの各メンバーをはじめ、スタッフも本気で取り組めます。そしてそのことは、参加するベンチャー企業さんにも伝わるため、ベンチャー企業さんたちにも本気で取り組んでもらえています。私たちのプログラムが一定の成果を生んでいるのは、このような背景があるためだと思います」。

また、俵氏、佐々木氏、山本氏は以下のようにこれからの抱負について語った。

「JR東日本グループは豊富なアセットを保有しています。ベンチャーさんにとっては、そのアセットを徹底的に使えることが、大きなメリットになると思います。私たちは、共創するベンチャーさんからなにかしたいことを求められたら、主管部と交渉しながら、ベンチャーさんがやりやすい形でアセットを使ってもらえるように、最大限環境を整えます。言い換えると、私たちは徹底的にベンチャーさんの方を向いています。本社の方を向きながら共創を進めるということは、決してありません。そのことが、真の共創につながるのだと信じています」(俵氏)。

「私は地方支社に4年間いて、地方は本当に課題が多いことを実感しました。ところが、JRはグループ会社が方であるがゆえに、それ以外の外部との接点があまりなく、地方においてもなかなか課題解決ができないジレンマがありました。いま、こうしてJR東日本スタートアッププログラムができ、外に開いていける環境が整ったことで、地方創生、地方活性化の基盤はできたと思います。あとは、いかに実行していくのかだけです」(佐々木氏)。

「私たちは交通会社で、お客様に安全かつ快適に移動をしてもらうということが、一番本質的なところにあります。その意味で、たとえばMaaS(Mobility as a Service)のようなテーマには本腰を入れて取り組むべきです。このような、新しくて変化が速いテーマこそ、小回りのきくベンチャー企業と、インフラを持つ我々が共創することで、未来の交通事業における大きなシナジーが生まれるのではないかと考えています。」(山本氏)

――それぞれの語るまとめの言葉に、なぜJR東日本スタートアップが未来を創れるのか、その答えが見えてきたのではないだろうか?

※数々の未来を、社会実装へと導くJR東日本スタートアップ。

共創の窓口はこちらから→JR EAST STARTUP PROGRAM

(構成・取材:眞田 幸剛、文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)

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