【特集インタビュー】社会インフラの未来を創るため、業界の巨人・NTTデータが試みていることとは?(後編)
「さあ、ともに世界を変えていこう」を旗印に、NTTデータはオープンイノベーションのビジネスコンテスト「豊洲の港から」を2013年から主催している。年商1.5兆円超、従業員11万人以上を抱える国内最大手SIerである同社が、ベンチャー企業との協業を大々的に試み、各界から大きく注目されているのだ。実際に、同コンテストからはインターネットバンキングAPIを活用した金融機関向けFintechサービスなど、具体的な実績も出ているという。 次回開催の第5回目は、日本を飛び出し、世界10都市が舞台となる。これまでの「豊洲の港から」に比べ、規模を飛躍的に拡大させた。この新しい動きの中心となっているのが、今回お話をお伺いした残間光太朗氏だ。同コンテストから立ち上がったビジネスをはじめ、オープンイノベーション推進の方法などをお伺いした。 ※関連記事:【特集インタビュー】社会インフラの未来を創るため、業界の巨人・NTTデータが試みていることとは?(前編)
株式会社NTTデータイノベーション推進部 オープンイノベーション事業創発室 室長残間 光太朗 Kotaro Zamma 1965年生まれ。88年北海道大学卒業後、NTTデータに入社。90年からNTTデータ経営研究所にて、経営管理、新規ビジネス立ち上げ、マーケティング支援コンサルティングなどに従事する。96年、NTTデータに復帰。新規ビジネスの企画・立ち上げに多数、携った後、オープンイノベーション事業創発室を創設。2013年に現職に着任する。
■危機感と使命感から、「世界展開」へ。
――3月にグランドフィナーレを迎える第5回「豊洲の港から」は、世界10都市で開催されます。狙いを教えてください。
残間:国内だけでやっていても、スピード感と広がりという面で、限界があると感じていました。海外のベンチャーの方ともお会いすることがあるのですが、世界では5年も10年も前からオープンイノベーションをやっています。それも、グローバルな規模で行っているのです。このままだと世界に置いていかれる、日本のICT産業は遅れるという危機感がありました。
——そうした思いがグローバル展開の源になったのですね。
残間:少々口はばったいですが、NTTデータという日本のICT社会インフラシステムを支えてきたSIerとして、その中にいる一人として、世界に展開していかねばならない、という使命感のようなものがあったのです。開催にあたり、中には、2~3都市にしたほうがいいのでは、という意見もあったのですが、スピード感を持って仕掛けていきたいと考えました。それぞれの都市で事情は異なりますから、他でうまくいった方法を持っていったところで、うまくいくかわかりません。時代が変わっている可能性も十分にあります。思い切って、初めから世界10都市で開催することを決めました。 コンテストは、イギリス、スペイン(2都市)、イスラエル、シンガポール、中国、カナダ、アメリカ、ブラジル、日本で開催される。募集は16テーマあり、応募はどこからでも可能となっている。日本へのビジネスとしてのインバウンド、海外でのビジネスとしてのアウトバウンド、両側面からビジネスの展開を見据えていける。
■社内のイノベーターを育てることの重要性。
――オープンイノベーションを行うためのアドバイスはありますか。
残間:社内のイノベーターを育てることがとても重要です。ついつい外ばかり見てしまうけど、社外のいいものを自社に取り込み、ビジネスとして成立させてくれる人の存在は絶対に必要です。そういう人、つまりイノベーターがいないと、ビジネスにならないし、ベンチャー企業からも幻滅されます。ここに話を持ってきても仕方がないとなってしまうでしょう。
——なるほど。
残間:当社では、オープンイノベーション事業創発室の立ち上げと同時に、社内イノベータワーキングという形でイノベーター育成も行っています。今は400~500人の参加者がいて、社内で提案された企画について、オープンイノベーションでどんなビジネスになるかを考えてもらっています。他には、既に出てきていることですが、やはり社外の方、お客様を味方にすることも欠かせません。当社の場合は、お客様から「豊洲の港から」を評価していただき、社内でも存在感が増して、広がりを見せるようになりました。
――最後に、心構えのようなものがあれば教えてくださればと思います。
残間:オープンイノベーションはすぐにはビジネスにはなりません。短期的には儲からないことがほとんどです。特に大きなビジネスに育てようとすると時間もかかります。それをどのように指標化して継続させるかは永遠の課題と言えるでしょう。継続的な活動としてやっていくという意思がないと、3年たってもなんにも出てこないね、じゃあやめようか、となりかねません。うまくいっていることも頓挫してしまいます。誰かが強烈に意思を持って仕組みづくりをし続ける、自分が信じるビジネスを追い続ける、というパッションはとても重要です。
■取材を通して得られた、オープンイノベーションの2つのノウハウ
(1)社内のイノベーターを育てる
残間氏が指摘するように、ベンチャー企業との連携の話が持ち上がっても、社内の受け皿、つまり、イノベーターとして新たなビジネスを創造できる人の存在がないと、事業は成立しない。社内のイノベーターの育成とその仕組み作りは必須と言える。
(2)お客様を巻き込む
社外の声が会社を動かすことは少なくない。特にお客様の声は、会社を動かす大きな力となるはずだ。しかし、例えばビジネスを開く場合、一定以上の質と具体的な実例の提示がなければ、お客様にもガッカリされるだけ。ただ声をかければいいというものでもない。 (構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)