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新たなイノベーション聖地になりつつある欧州

新たなイノベーション聖地になりつつある欧州

Noel Pritchard

イノベーションハブの変化

テクノロジー/海外イノベーションの聖地といえば、まずどこを思い浮かべるか、という問いに対して、おそらく多くが米国、特にシリコンバレーと回答するのではないか。

シリコンバレーを中心とする米国のイノベーションへの取り組みは1980年代に活発化し、アップル、マイクロソフトなど、誰もが知るテクノロジーの先端を走る有名企業を生み出してきた。EYによると、米国への四半期毎の投資規模、またシリコンバレーを含むベイエリアがその中でいかに大きな役割を果たしているか、一目瞭然である。

しかし、近年ヨーロッパやアジア各国の台頭により、この米国独占状況に大きな変化が生まれている。

英国新聞The Telegraphによると、2008年には全世界のベンチャーキャピタル(VC)投資総額の約80%が米国に集まっていたにも関わらず、近年はその値が約50%まで落ち込んでいる。一方、欧州と中国への投資額は過去10年右肩上がりで上昇し続け、それぞれ2008年にはそれぞれたった$8billion(約86億円)、$5billion(約54億円)だったのが、2018年には過去最高の$27.5billion(約3兆円)、$70billion(約77兆円)という数値を叩き出し、米国との差を年々縮め続けている。

グローバル・イノベーション・インデックス

このようなスタートアップへの投資動向も含め、この新規テクノロジー開発/イノベーションにおける各国の勢いや発展をより明確にした指標として、グローバル・イノベーション・インデックス(Global Innovation Index: GII)がある。最新の第12版が、2019年7月にWIPO(世界知的所有権機関)より発表された。GIIは、社会経済的発展の原動力となる革新的活動をどのように振興し、評価するかを理解するための国際的な指標である。政府や各企業の投資政策、市場動向だけではなく、ハイテク輸出のような新しい側面も考慮した判断基準に基づき、129の国々をランク付けしている。

本レポートによると、スイスが最も革新的な国となり、その後にスウェーデン、米国、オランダ、英国が続いた。シンガポールを筆頭に、香港、中国、日本を含むアジア勢も大きな躍進を見せたものの、合計で欧州12 カ国がトップ20を占めたことで、欧州がイノベーションの中心地となりつつあることがより明確になった。

欧州のこの猛烈な成長の元とは?

経済と市場は「複雑系」であり、大きな変化の要因を特定するのを難しくしている。しかし、Isomer Capitalの創業パートナーで、欧州VC業界のエキスパートであるクリス・ウェイド氏によると、少なくとも以下のいくつかが要因となっているという。

1) リーマンショックの余波

2008年までは、欧州で学んだ多くの学生たちが、同域内の銀行及び他金融業界へそのまま就職をしていた。しかし、世界の金融機関の中心となるロンドンに大きな影響を与えたリーマンショック以降、結果的に起きた規制改革が金融業界における成長の早いスタートアップへの参入機会という新たなドアを開いたことで、スタートアップ業界がより魅力的になり、優秀な人材が集まった。

2) ベンチャーキャピタリストの新世代

従来の欧州VCは、投資について深く理解している金融専門家が経営してきた傾向があったものの、VCの創業者に対して、どのように新規ビジネスを拡大させるかという点で指導力や知識に欠けていた。しかし、1990年から2000年にかけて、スタートアップで成功した多くの企業家が自らのVCを立ち上げると、ベンチャーキャピタルの供給が増えるとともに、創設者に共感するような風土になり、シリコンバレーではなく、欧州で資金を調達しようとするファウンダーの動きが増えた。

3) 米国VCからの資金流入

欧州のVC市場が成長するにつれ、より多くの米国発VCが欧州を投資先としてきた。結果的に資金の新しい流れが出来たことで、VC間の競争が激しくなり、資金調達を認める起業家にとってよりより豊かなビジネス環境となっていった。

4) ユニコーンとハイリターンの可能性

また将来的に巨額の利益をもたらす可能性の高いユニコーン企業数も、着実に伸びている。欧州内のユニコーンは2014年には30社しかなかったが、2018年には前年から28%増の計84社に達した。合計社数では、まだ米国が大きくリードしているが、年間の成長率では米国の20%を上回っている。さらに同年、米国で株式を公開したスタートアップ28社の株価上昇率がたった44%であったのに対し、欧州では倍以上の69社がIPOを行い、その株価上昇率も220%を記録した。この数字から明らかなように、欧州スタートアップへの投資にはハイリターンの可能性があり、今後の成長に期待できる。 

最後に、、、

日本企業がイノベーション事業に取り組むとなった際、シリコンバレーをはじめとする米国ばかりにどうしても目を向けてしまう。実際、米国が今も世界の市場をリードするイノベーション大国であることは否定できない。しかし、欧州や中国などその地域の台頭を踏まえると、米国のみへの注力でなく、今後は広い視野を持ち、世界規模でベストな投資先を見つけていく必要があると言えるだろう。

今後も本ブログシリーズでは、イノベーションに関する欧州各国の取り組みや、新しいイノベーションエコシステムの動向について、随時取り上げていきたい。

筆者

ノエル・プリッチャード

植木 このみ

イントラリンク について

イントラリンクは、英国オックスフォードに本社を構え、海外ベンチャー企業のアジア展開と日本大手企業の海外オープンイノベーション業務を支援するコンサルティング会社です。

ソース

https://www.ey.com/en_us/growth/how-venture-capital-investing-fared-in-q2

https://www.telegraph.co.uk/technology/2018/11/20/global-venture-capital-industry-has-trebled-size-160-billion/

https://www.ey.com/Publication/vwLUAssets/Venture_Capital_Insights_4Q14_-_January_2015/$FILE/ey-venture-capital-insights-4Q14.pdf

https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2019/article_0008.html

https://www.cnbc.com/2018/12/04/state-of-european-tech-2018-record-year-for-start-ups.html

https://tech.eu/features/23940/european-tech-report-funding-exits-2018/

Noel Pritchard株式会社イントラリンク

2002年、イントラリンクに5人目として入社し、海外ベンチャー企業の日本ビジネス展開を担当。2007年INSEADでMBAを取得後、英国のボーダフォン、米国のベライゾンで多国籍エンタープライズ向けモバイル活用に特化したイノベーション担当を務める。2015年にイントラリンクに再入社し、オープンイノベーション事業部を立ち上げた。

株式会社イントラリンク

事業開発 統括ディレクター オープンイノベーション・クループ

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