【完全保存版】アクセラレータープログラム 実践ガイド
2019年現在の日本において、企業同士のコラボレーションの形は多様になっています。特に、スタートアップの成長を加速させる「アクセラレータープログラム」の枠組みは、アメリカのベンチャーキャピタル(VC)が生み出し、日本でも広がりつつあります。
しかし、日本において「アクセラレーター」という言葉は広まったものの、そもそもアクセラレーターとは何なのか?という定義や意味はまだ定着していません。
本記事では、アクセラレータープログラムが持つ意味や、類似の言葉との違いを解説。そして大企業やスタートアップがどのようにアクセラレータープログラムを導入すべきか、成功事例も交えながら実践のためのノウハウを解説していきます。
そもそもアクセラレータープログラムとは?意味や定義について
アクセラレーター(Accelerator)は英語で「加速装置」「アクセル」といった意味があります。
「アクセラレータープログラム」(accelerator program)とは、アクセルを語源としており、会社の事業を加速させるプログラムだと捉えられます。
日本では、主に主催者サイドの業界に関する専門知識や設備等の自社資源を提供することを条件にスタートアップを公募し、一定の審査を通過したスタートアップと連携し創業・事業創出を目指すプログラムを指しています。
アクセラレータープログラムの目的は?インキュベーターとの違い
それではアクセラレータープログラムとは一体なんなのでしょうか。ここで最初に説明しておくべきは「インキュベーター」との違いです。双方ビジネス用語としては頻繁に利用されますが、正確な意味や違いについては認識が曖昧な場合が多く「アクセラレーター」と「インキュベーター(Incubator)」はよく混同されて用いられる傾向があります。
インキュベーションは「孵化(ふか)」インキュベートとは培養・育成、また支援・育成を意味しています。
アクセラレーターは「加速装置」「加速支援」のため、アクセラレータープログラムは、より大枠での「加速支援」を指し、インキュベーションはアクセラレーターに比べより事業にフォーカスした支援、すなわち「事業孵化・育成」を指すといえるでしょう。
「加速装置プログラム=アクセラレータープログラム」における一工程にインキュベーション(=孵化)が内包されることもありますし、アクセラレータープログラム後にインキュベート(育成)期間が設けられることもあります。
※そのほかアクセラレータープログラムに関する定義・メリット・デメリットに関してはこちらの関連を参照ください。 アスキーエキスパート ― 第60回「とりあえずアクセラレータープログラム」で事業を創ることはできない 文● eiicon代表 中村 亜由子
アクセラレータープログラムの成功事例
アクセラレータープログラムについて学ぶには事例を参考にするのが近道です。数々のアクセラレータープログラムを支援・取材してきた私たちeiiconがピックアップしました。
国内最初のアクセラレータープログラムとして有名なKDDIの事例
日本国内の事業会社においては2011年にKDDIが初めてスタートさせた会社です。その後、2015年以降その数は年々増加しており、2018年度に国内で開催されたプログラム数は150件を超えました(eiicon調べ)。オープンイノベーションを進めるきっかけとしてアクセラレータープログラムを採用するケースも多く、「今後取り組んでいきたい」と考える大企業も珍しくない状況です。
※関連記事:eiicon lab 2018年度アクセラレータープログラム108選
コーセーとの共創における Innovation Program
2019年現在、アクセラレータープログラムは徐々にフレームワーク化が進み成功事例が増え始めています。
eiiconで支援しているアクセラレータープログラムの中から、成功事例をいくつかご紹介します。
コーセーが主催したアクセラレータープログラムではコーセーが長年取り組んでいる「美」をテーマにして、デジタル技術や最新技術を持つベンチャー企業を募集しました。
結果、量子コンピュータ開発に強みを持つベンチャー企業、MDRとの共創が満場一致で決定しています。
共創プロジェクトは順調に進んでおり、最終的にはラボラトリーオートメーション、そしてファクトリーオートメーションを目指しています。
※関連記事:コーセー共創プロジェクトの裏側 「量子コンピュータ×化粧品で、業界のものづくりに変革をもたらす」
KITAGAS SMART LIFE ACCELERATOR
北海道ガスの主催したアクセラレータープログラムでは結果としてスタートアップ4社との共創が開始されました。
北ガスは「エネルギーのその先のサービス」を模索しており、その答えを出すための手段としてアクセラレータープログラムを選択しました。
その結果、4社とも北海道の地域創生において着実に成果を出しつつあります。
※関連記事:北海道ガス×GREEN UTILITY、カマルクジャパン、mui Lab、STORY&Co.
アクセラレータープログラムの実施フロー
ここからは、取材を通じて数百の現場に潜入してきた情報の蓄積と、自らもアクセラレータープログラムの運営支援を数多く手掛けたeiiconの実績をもとに、アクセラレータ―プログラムの実践方法を紹介していきます。
準備段階である「プログラムの設計」からゴールの「デモデイ」までを6つのフローに分け、アクセラレータプログラムの基本的な流れを分かりやすく解説します。
1.プログラムの設計(期間:約1~2カ月)
1-1.プログラムのゴール設定
アクセラレータープログラムを行うことで、どのような成果を目指すのか。このゴールを明確に設定することが、プログラム成功を目指す上での第一歩となります。主要なゴール設定は、新規事業創出に向けた「事業化判断」です。また、企業のTPOに合わせて、将来の事業化を見据えた「投資」、「実証実験」による新事業・サービスの実現可能性の検証 などを最終目標とするケースもあります。
1-2.自社リソースの整理
技術力・知見・ブランド・顧客基盤・インフラなど、パートナー企業に対して提供可能な自社リソースを洗い出しておきましょう。また、社内に不足しているリソース=課題も整理・把握することで、パートナー企業を求めるポイントも認識しやすくなります。
1-3.募集テーマの設定
自社リソース・課題を踏まえた上で、アクセラレータープログラムにおける募集テーマを設定します。その際、可能性のある新規市場や業界トレンドの変化、時代の潮流などを踏まえることが、成果向上を目指す上でひとつのポイントです。
1-4.プログラムのスケジュール確認
アクセラレータープログラムは、パートナー企業の募集からデモデイの実施まで、同一年度内での完結するのが一般的。多くの場合、準備期間を含めて約6~9カ月程度を要するため、それを踏まえてスケジューリングにしましょう。
1-5.運営予算の確保
円滑なプログラム運営を目指すためには、「予算確保」も重要なミッションのひとつ。パートナー企業募集に向けたプロモーション費用や説明会・デモデイの運営費、インキュベーションでの外部メンターへの謝礼などが合計約800~900万円程度、実証実験費用が1テーマにつき500万円~1000万円程度。3~4テーマ採択した場合を考慮して、大まかな概算金額は2000万~3000万円程度が一般的となっています。
【予算の概算サンプル】
■企業募集のためのWebページ作成などプロモーション費・・・・・・約300万円
■説明会の会場費・・・・・・約50万円
■説明会のケータリングなど・・・・・・約40万円
■選考会の会場費・・・・・・0円(自社内で実施の場合)
■社外メンターへの謝礼・・・・・・約50万円
■インキュベーション時の運営雑費・・・・・・約100万円
■デモデイのプロモーション費・・・・・・約300万円
■デモデイの会場費・・・・・・約50万円
■デモデイのケータリングなど雑費・・・・・・約40万円
■実証実験費用 1案件につき・・・・・・約500万円(4テーマ採択の場合は2000万円程度)
合計予算・・・・・・約2000万~3000万円
運営事務局の設置(期間:約1~2カ月)
2-1.決裁ルートの確保
アクセラレータープログラムは、定められた期間の中でスピーディーに共創関係を構築し、成果を目指せることがメリットのひとつ。その実践には、既存事業とは異なる「プログラム独自の決裁フロー」の設計が重要となります。社長決裁は必須か、管轄役員が判断できるのかなど、事前に「最終決裁者」を把握し、プログラムの現場に巻き込むなどして、スピード感のある決裁ルートを確保しましょう。
プログラム後、事業化する際の受け皿となる部署や予算、事業部を新設する場合は事業化までのステップも整理しておくとベターです。
2-2.判断基準の明確化
応募企業の中から、どのようなパートナー企業をスクリーニングすべきか、プログラムの中間・最終段階で協業を継続すべきか否かなど、アクセラレータープログラムには複数の“チェックゲート”が存在します。そのため、体制づくりの時点で社長・役員など評価担当者の選定と、「事業アイデアの新規性・市場性」「市場規模は見込めるのか」「既存事業との非連続性はどうか」「協業しなければ実現不可能か」など、具体的な判断基準の策定も行っていきましょう。
2-3.事務局メンバー・テーマオーナーの選定
プログラムを運営する事務局は、2~3名程度で構成するのが主流。テーマオーナーを構成する方法は、プログラムテーマが各事業部の課題に基づいて抽出した場合に、担当事業部の社員が兼務する「ボトムアップ型」、事業創造を担える人材を専任担当として配置する「イノベーター人材伴走型」など様々です。また、事務局トップに決裁権限者を据えれば、決裁ルートも確保しやすくなります。
2-4.メンターの選定
採択したパートナー企業をサポートし、ともに事業アイデアを実現していく場合、豊富な専門知識や経験に基づいたサポート・アドバイスを行うメンターが必要となります。まずどの要素での助言を必要とするか、洗い出しが必要です。ビジネスモデル構築のアドバイスが必要であれば、新規事業創出やパートナー企業の支援に長けた社外メンター、実現可能性を高めるためには社内リソースに関連する部門の管掌役員などの社内メンターなど、それぞれを選定していきましょう。
パートナー企業の募集(期間:約1.5カ月)
3-1.Webページの作成
1-3で設定したアクセラレータープログラムのテーマを踏まえ、パートナー企業の募集に取り組みます。まずは、幅広く告知するためにプログラム専用のWebページを構築しましょう。このページでは、プログラムを行う目的やビジョン、募集テーマ、募集要項、プログラムのスケジュール、説明会の日程、問合せ先など、必要となる情報を分かりやすくまとめます。
3-2.プロモーション活動
数多くのアクセラレータープログラムの中でニーズに合致したパートナー企業にリーチするためには、広報・宣伝活動が必要不可欠。Web広告を打つ、プレスリリースを作成・配信する、各種メディアにアプローチするなど、プロモーション施策を企画・実施していきます。
3-3.説明会の実施
パートナー企業向けの説明会は、自社内に会場を設けて行うのが一般的。会場規模は30~60名程度の動員を想定します。説明会の内容は、事務局からのアナウンスに終始せず、経営陣による意思表明やテーマオーナーによる具体的な説明などを盛り込むことが大切。これにより、プログラムに対する本気度や自社内の課題感・リソースなど、“生の声”をパートナー企業に届けることが可能になります。また、説明会後に参加者との懇親会を催せば、関係性構築や情報交換の場としても機能します。
3-4.記者会見
企業規模や経営陣によるコミットの度合いによって、各種メディアを招いて記者会見を行うケースも。アクセラレータープログラムを通してオープンイノベーションに取り組む企業スタンスを、社長自らが会見の場で発信し、業界内外に広くPRできたといった成功事例も増えています。
選考(期間:約0.5~1カ月)
4-1.選考担当者の選定
パートナー企業の選考は、事務局担当者だけでなく、テーマオーナーも含めて行いましょう。また関連する事業部の役員・社員にも随時共有をしておくことで、アクセラレータープログラムに対する意識向上や、審査担当者個人のパートナー企業に対する応援マインドの醸成といった効果も期待できます。
4-2.書類審査・面接
書類審査では、企業や経営者自身の経歴・実績を踏まえつつ、シード・アーリーといった成長ステージや事業領域に偏りがないよう注意を払って選考していきます。また、さらに書類審査を通過した企業と面接を行い、ビジネスアイデアの実現可能性を探りながら、事業パートナーとなりうる存在を見極めましょう。
5.インキュベーション(期間:約3~4カ月)
5-1.キックオフ
インキュベーションでは採択されたパートナー企業と社内メンバーがチームを作り、各プロジェクトに取り組んでいきます。ここで、いわゆる“受発注の関係”ではなく、“共創パートナー”を目指す上で重要なのが、キックオフミーティングの場における目標・ゴールの設定。お互いにどのような価値を生み出したいのか、懸念点はあるか、今後のプロジェクトの進め方・ゴール設定など、同じ方向を向けるようにコミュニケーションを重ね、意識のすり合わせを図ります。
5-2.ビジネスアイデアの検討・詳細化
まずはパートナー企業の提案アイデアをより詳細にすべく、業界知識や自社リソースの特徴など専門性の高い情報をインプット。そうした情報を踏まえ、ビジネスアイデアの仮説・検証・修正を繰り返し、アイデアの実現可能性を高めていきます。
5-3.実証実験によるビジネスモデルの検証
アイデアが具体化できたら、新事業・サービスの実現可能性を検証するため、実証実験へ。具体的な活用リソースの選定や活用方法の検討も行うため、関連部門との調整・橋渡しが重要になります。実証実験において重要なことは「何を検証するためなのか」という目的をぶらさないこと。具体的な実証実験計画へ落とし込んだ上で、実証実験後は効果検証までしっかり行う必要があります。さらに、具体的な協業・事業化計画への落とし込み、最終段階であるデモデイに向けたプレゼン準備に入ります。
6.デモデイ(期間:1日)
6-1.デモデイ実施の告知
デモデイは、いわばアクセラレータープログラムの成果を紹介する「お披露目会」。イベントを告知するWebページの作成といった基本対応に加え、社内意識の向上を目指すのであれば、全社的にイベント実施を広く告知しましょう。社外ブランディング重視の場合には、VC・起業家・各種メディアを積極的に招待するなど、目的に応じたプロモーションを行っていきます。
6-2.イベント当日の運営
デモデイでは、各参加チームのメンバーが事業アイデアのプレゼンを行います。この登壇を通して、社内外の多くの方にプログラム全体の成果・意義が具体性を持って認識されるようになり、さらなる連携・投資の可能性の発見や経営層の意識の高まりといった、様々な効果が期待できるでしょう。
デモデイ後は、実証実験での検証結果も踏まえて、最終的に事業化判断へのフェーズに入っていきます。
6-3.プレスリリースの作成・配信
最後にデモデイの内容をプレスリリースにまとめ、自社サイトや各種メディアにリリース。これを持ってアクセラレータープログラムは終了となります。
【まとめ】大企業・スタートアップともに注目されるアクセラレータープログラム
「期間を区切って実施する方式」「内容が一定体系化されている点」など、様々なメリットをもつアクセラレータープログラム。イベント性も高く、オープンイノベーションに対する企業姿勢をパートナー企業や業界内外にアピールしやすい点も魅力的です。
こうしたプログラムを通して、有望なパートナー企業との出会いを果たす大企業も増えています。そうした成果を生むためには、まずは基本を抑えることが第一歩。今回の記事を参考に、オープンイノベーションの種を生む仕組み作りを進めてください。