
福地組×FUN SPIRITSが取り組む『NAHA Mystery WORLD』誕生の舞台裏――OKINAWA Co-Creation Lab.採択プロジェクトインタビュー vol.2
沖縄県が主催し、eiiconが事務局を担う『OKINAWA Co-Creation Lab.』。沖縄県内企業と全国のパートナー企業が連携し、新たなビジネスやサービスを創出するためのオープンイノベーションプログラムだ。2024年度は補助事業と協働・共創事業の2つの取組で展開され、合計10チームが共創事業の立ち上げに挑むなど、盛り上がりを見せている(※参考記事:2024年度成果発表会レポート)。
TOMORUBAでは、今年度のプログラム開始にあたり、昨年度のプログラムに参加した2つの共創プロジェクトにフォーカス。前編・後編にわけて、参加企業のリアルな声を紹介する。共創事業の手応えや、プログラムの魅力、事業の現在の状況や展望について、実践者の声を通し、今年度の『OKINAWA Co-Creation Lab.』に参加するメリットをお届けしたい。
沖縄タイムス社×ファミワンが登場した前編に引き続き、後編となる本記事で登場いただくのは、『NAHA Mystery WORLD』という事業に取り組んでいる【株式会社福地組(ホスト企業)× FUN SPIRITS株式会社 (パートナー企業)】の共創プロジェクトチームだ。

【写真左】 株式会社福地組 代表取締役社長 福地一仁 氏
【写真右】 FUN SPIRITS株式会社 代表取締役 日景太郎 氏
ゼネコン×エンタメで仕掛ける新しい都市開発――“謎解き”が導く地域のストーリーを伝えるまちづくり
――まず、福地組の事業概要と、現在感じている課題について教えてください。
福地組・福地氏: 当社はゼネコンとして、沖縄のまちづくりに携わっています。コロナ明け以降、景気が回復し、地域の発展に向けた都市開発も活発化しています。ただ、そうした開発はどうしても市場原理に基づき、「いかに収益を生むか」という視点が強くなりがちです。
もちろんそれが悪いわけではありませんが、一方で、沖縄に元々あった憩いの場や風情ある町並みが「古い」という理由だけで建て替えられ、文化的価値のあるものまで解体されてしまう現状もあります。そうした状況の中で、「自分たちがつくる新しいものは、本当に良い方向に向かっているのか」「壊してしまったものは、本当に壊すべきだったのか」といった疑問やアンチテーゼが、私たちの中に生まれてきました。
単にハード面だけではなく、ソフト面にも目を向けるべきではないか。もう少し広い地域や沖縄全体の視点から、都市開発のあり方を見つめ直すべきなのではないか、というのが当社の課題意識です。
――ソフト面とは具体的に、どういったものでしょうか。
福地組・福地氏: 例えば、その地域で活動する人々のコミュニティや、その土地や地域のストーリーのことです。そうしたソフト面に視点を移し、コミュニティの活性化や地域のストーリーにスポットを充てる事業開発を模索しています。『OKINAWA Co-Creation Lab.』には、当社が得意とするハード開発に対して、どんなソフトを掛け合わせれば、より良いまちづくりにつながるのか。そのヒントを得たいと思い、参加を決めました。
――FUN SPIRITSの日景さんにも、御社の事業概要と本プログラムへの参加理由をお伺いしたいです。
FUN SPIRITS・日景氏: 当社は、「エンターテインメント×地域活性」を基軸に、全国で地域活性に取り組むスタートアップです。社内には『KAGENAZO』というクリエイティブチームがあり、現在は約15名のメンバーが在籍しています。このチームで企画・運営しているのが、街歩き型の謎解きイベント。このようなイベントを通じて、地域の回遊性を高めるとともに、県内外からの集客を促進し、地域全体の消費を活性化させる事業を展開しています。
今回『OKINAWA Co-Creation Lab.』で福地組さんのテーマに応募した理由は、福地さんがお話しされていた“ソフト面”の開発――つまり、既存のアセットを活かして新たな観光資源を生み出すという方向性に、当社の事業と高い親和性を感じたためです。
2カ月で200人以上が体験!現在から過去へ、賑わいの中心地を“謎解き”をしながら巡る『NAHA Mystery WORLD』
――今回の共創では、街歩き型の謎解きコンテンツ『NAHA Mystery WORLD』を企画・運営されました。まず、福地組が“謎解き”に着目された理由を教えてください。
福地組・福地氏: 地域開発が望ましくない方向に進む背景には、そこに住む人たちが自分たちの地域にあまり関心を持っていないという課題があると感じています。私たちの拠点である那覇の東町・西町も、かつて沖縄の経済や政治の中心地でしたが、その歴史はあまり知られておらず、土地の記憶が埋もれているのが現状です。
当初は、地域の人や訪れる人にこの土地のストーリーに興味を持ってもらうため、東町・西町を巡るツアーの実施を検討していました。しかし、歴史があるとはいえ現在の街並みはごく普通。ツアーだけで関心を引くのは難しいと感じました。そこで、遊びながら楽しんで関心を引き出しつつ、歴史も学べる方法として“謎解き”が有効だと考えたのです。
――新たに開発された街歩き型の謎解きコンテンツ『NAHA Mystery WORLD』とは、どのようなものですか。
FUN SPIRITS・日景氏: 『NAHA Mystery WORLD』は、現在の賑わいの中心地である国際通りから、かつての中心地・東町・西町へと歩きながら謎を解いていく体験型コンテンツです。まるで現在から過去へとタイムスリップするような感覚を味わえる仕掛けになっています。
参加者はまず、観光案内所などで謎解きキットを購入します。その後、スマートフォンで公式LINEアカウントを登録すると、『ナジキ』という妖精から「この街並みを探してほしい」という意味深なメッセージが届き、物語が始まります。
LINE上で展開されるストーリーは、実際の石碑や大石などの観光スポットとリンクしています。参加者はそれらの場所を歩いて巡りながら、出題される問題を一つずつ解いていきます。これを繰り返して、最終的に東町・西町でゴールする流れで、全体でおよそ4時間の体験コンテンツになっています。
▲『NAHA Mystery WORLD』のPV
FUN SPIRITS・日景氏: 福地社長と街歩きをした際に教えていただいたのですが、平和通りにある市場本通りは、もともと川が流れていた場所だそうです。しかし、現在は暗渠になっており、元の川の姿は見ることができません。川は、戦後の復興時に水は重要な資源だったため、その川の周辺に街が発展したという背景があるそうです。その話を聞いて、市場本通りを歩く際の視点が変わりましたね。
――2025年5月に『NAHA Mystery WORLD』をリリースされてから、約2カ月が経ちました。これまでの反響はいかがでしょうか。
FUN SPIRITS・日景氏: これまでに体験いただいた方は、累計で約250名ほどです。ざっくり言うと、月あたり100名程度のペースでご参加いただいており、参加者数が安定して推移している点は、前向きに捉えています。特に7月の3連休には30組ほどが参加してくださいました。
参加者の中には「社員旅行の自由時間中に楽しんだ」という方や、以前から私たち『KAGENAZO』の謎解きコンテンツを楽しまれていた方で、謎解きのために沖縄旅行を計画されたという例もありました。こうした動きからも、地域外からの関心が少しずつ広がっていることを実感しています。

プログラムがつないだ共創――福地組の地元理解とFUN SPIRITSのコンテンツ力で生まれた、新しいまちの魅せ方
――沖縄県主催の『OKINAWA Co-Creation Lab.』に参画して、良かったと感じている点があれば、ぜひお聞かせください。
福地組・福地氏: FUN SPIRITSさんは豊富な実績をお持ちなので、短期間ながら非常にクオリティの高いコンテンツを作ることができました。実際に体験された方々の満足度も一様に高く、その点は大きな成果として感じています。
また、eiiconさんの伴走支援も非常に心強いものでした。適切なタイミングで的確なアドバイスをいただけたことで、プロジェクトを着実に前に進めることができました。事務局の皆さんが進行のペースをうまく調整してくださったおかげで、しっかりと形にまとめることができました。「ハード+ソフト」の組み合わせで有益なコンテンツを作ろうという意識が高まったのも、eiiconさんの伴走があったからだと思います。
――スタートアップと取り組むことで、どのような気づきや変化がありましたか。
福地組・福地氏: こちら側の視点だけではなく、スタートアップ側の考えや「事業をスケールさせたい」という意図もしっかり理解する必要があると感じました。私たちの課題を解決してもらうだけでなく、相手にとってもメリットがあり、事業の発展につながるようなコラボレーションには、今後も積極的に取り組んでいきたいと思っています。
――日景さんにも伺います。今回のプログラムに参加して、特に印象に残ったことは何でしょうか。
FUN SPIRITS・日景氏: 最初に福地組さんと「どんなコンセプトでコンテンツをつくるか」を話し合いましたが、東京に拠点を置く私たちにとって、沖縄や那覇は「インバウンドが多くて儲かっている」といった、正直かなり大まかなイメージしか持っていませんでした。
ところが福地組さんから、「同じ那覇市内でも東町・西町エリアにはあまり人が訪れていない」と聞き、その理由として平和通りから東町・西町へ向かう途中にビジネス街があり、観光地らしさが薄れて歩いていてもテンションが下がるからだと教わりました。実際に現地を歩いてみて、その感覚を強く実感しました。
そこで「どうやってこの区間をつなぎ、楽しく乗り越えてもらうか」をテーマにコンテンツを練り上げました。この過程で、地域ごとに特有の課題があり、それに挑戦している人たちがいることを改めて感じました。これは沖縄に限らず、全国どこでも共通する課題だと思います。そうした気づきを得られたこと自体が、この取り組みでの大きな学びでした。
――東京に拠点を持つ御社が、那覇市を舞台にした謎解きコンテンツを作るにあたり、どのように現地の理解を深めていかれたのですか。
FUN SPIRITS・日景氏: これまでに沖縄の現地へは合計4回足を運びました。その中で特に学びが大きかったのは、現地の方々と夜に飲みながら交わした会話です。例えば、「那覇にはお土産屋さんも多く、夜の飲み屋も充実している。でも、その間の時間帯に楽しめる体験コンテンツが少ないよね」といった声がありました。
そこからヒントを得て、「13時〜16時の時間帯を埋める体験を作ろう」という方向性が見え、具体的なペルソナ設定まで落とせました。現地の様子は、ネットで調べられますが、やはり現地に行き直接話を聞くことでしか得られない気づきがたくさんありましたね。

体験者のクチコミでロングランへ、“空き部屋の脱出ゲーム”など新企画も構想中
――今後、どのような展開を目指していらっしゃいますか。
福地組・福地氏: 当社は東町で『HAVE A GOOD DAY』というコワーキングスペースなどが入居するビルを運営しています。これは、認知度が低く商売が難しいエリアに視点を向け、このエリアの価値を高めていく取り組みです。ただ、やはり拠点を作るだけでは不十分で、そこに何かしら“プロダクト”を生み出す必要があると考えていました。そうした文脈の中で、今回の謎解きゲームを作れたことは、『HAVE A GOOD DAY』の活動としても、次につながる一歩になったと思います。
今後は『NAHA Mystery WORLD』の普及がメインテーマになりますが、同時に次のコンテンツも準備していきたいです。例えば、以前、日景さんと話した空きビルを使った脱出ゲームや、インバウンド向けコンテンツなどには、大きな可能性を感じています。
さらに、当社が運営する『HAVE A GOOD DAY』の活動と謎解きのシナジーも生み出していきたいです。具体的には、来訪する学生さんに謎解きを体験してもらったり、3日間程度のプログラムに組み込んだりすることで、ゲームの認知と参加者を拡大していきたいと思っています。これらの取り組みを連動させ、歯車の両輪で回していくことを考えています。
――日景さんは、いかがですか。
FUN SPIRITS・日景氏: こうした体験型コンテンツの成功のポイントは、クチコミがどれだけ広がり続けるかにあります。参加者が体験後に投稿するUGC(ユーザー生成コンテンツ)をいかに増やしていくかが、今後、ロングランさせていくための課題だと考えています。
また、私個人としては、福地組さんが手がける『HAVE A GOOD DAY』の空き部屋を活用して、「空き家脱出ゲーム」を開発したいと思っています。名古屋市ですでに空き家を活用したエンタメ店舗を運営していますが、その事例のように空き家をエンタメ化し、そこに人とお金が流れるようなモデルを確立したいです。
さらに、私たちは全国で年間20万人程の方に当社のコンテンツを体験してもらいたいという大きなビジョンを持っています。この体験をきっかけに県外から人が訪れ、街を知り、食事や買い物を通じて地域に消費が生まれるような流れを、日本中で作りたいですね。
――最後に、今年度の『OKINAWA Co-Creation Lab.』にパートナー企業として参加を検討されている方々に向けて、一言メッセージをお願いします。
FUN SPIRITS・日景氏: 私たちのようなスタートアップにとって、事例や実績をつくることは大きな目標のひとつだと思います。その点で、このプログラムは、事例や実績を得るための非常に良いきっかけになります。
また、プログラムに参加することで、ホスト企業・事務局・メンターの皆様の手厚いサポートが得られ、自社だけでは乗り越えられない課題も、解決に向けた流れが生まれます。この流れをないがしろにせず、期限までにサービスをリリースしたり、KPIとして数字を残したりと、実証実験に真剣に取り組む。そうすることで、結果的に「取り組んで良かった」と思える成果を残せると思います。
取材後記
地域に根差したストーリーへの理解が深く、那覇市内でまちづくりに取り組む福地組と、高い謎解きコンテンツ制作力で根強いファンを持つFUN SPIRITS。この両者が手を組むことで、那覇の隠れた魅力に迫る新たな体験が生まれた。リリースからわずか2カ月で200名以上が参加し、満足度も高いという評価を得ている。この共創は、地域の魅力を掘り起こしながら新しい体験を創造する可能性を感じさせるものだった。さらに次の構想も進んでおり、那覇のまちが“ソフト”の力で新たな魅力をまとい、輝きを増していく未来が想起される取材となった。
※『OKINAWA Co-Creation Lab.』の詳細についてはこちらをご覧ください。
(編集:眞田幸剛、文:林和歌子)