【インセンティブ・ポイント2.0/イベントレポート】 これからの“働き方”はどうなる?OKIの共創事例で考える、IoT×ブロックチェーンを活用した最新テクノロジーによる新しい働き方とは。
2018年4月にイノベーション推進部を発足させ、「Yume Pro」というイノベーション創出活動を”爆速”で進めている沖電気工業株式会社(OKI)。2018年5月31日には、ZEROBILLBANK JAPAN株式会社(ZBB)、株式会社ベネフィット・ワンとの3社共創による、「Yume Coin(ユメコイン)」のプレスリリースを行った。「Yume Coin」は、IoTとブロックチェーン技術を組み合わせて、利用者の行動変容を後押しするインセンティブ・ポイントプログラムであり、働き方改革や健康経営の促進が期待される。
そして3社は6月13日、インセンティブ・ポイントをテーマに、これからの時代に求められる新しい働き方について考察するセミナー「インセンティブ・ポイント2.0~ブロックチェーンを活用した最新テクノロジー」を開催した。
会場となったのは、大手町の「TRAVEL HUB MIX」。セミナーは3部構成で、第1部はZBB代表取締役CEO 堀口氏による最新技術活用についての講演、第2部ではOKIイノベーション推進部長 大武氏が具体事例として「Yume Coin」を紹介、そして第3部では3社によるパネルディスカッションが行われた。
セミナーのオープニングに登壇したのは、ベネフィット・ワン インセンティブ事業部長の野呂氏。同社では、起業の従業員等のモチベーションやロイヤリティ最大化を実現するポイントプログラム「インセンティブ・ポイント」を提供している。5月に発表した「Yume Coin」のように、最新テクノロジーにより働き方も変革していくこと、「インセンティブ・ポイント」も新たなステージに入っていくことに言及した。
※OKIのイノベーション活動「Yume Pro」についての詳細は、こちらからご覧ください。
企業と人の関係が分散化していく未来に向け、働き方にも変革が必要
【第1部】未来のワークスタイルを見据えた最新技術の活用について
登壇者/ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役社長 堀口純一氏
第1部は、スマートコントラクト技術を用いたブロックチェーン・プラットフォームを提供するZBB代表取締役CEO 堀口氏よる講演が行われた。同社はブロックチェーン技術を活用した企業内通貨プラットフォームを開発・提供し、複数の大企業と協業を進めている。堀口氏は未来のワークスタイルを見据えたソリューションとして「ZBB-Works」を紹介。残業の抑制だけではなく、社内のコミュニケーション活性化、健康経営、企業理念浸透の施策など、社員の様々な行動に対して企業独自のコイン(企業トークン)を発行する。
さらに堀口氏は、社会動向や外部環境の変化について言及。「人・モノ・コト、すべてがインターネットにつながるIoE(Internet of Everything)時代となるこれからの時代、経営そのものを変えていかねばならない」と提言した。テクノロジーの進化により、これまで取れなかったデータが取れるようになり、データの次元や量も大きく変化する。そうなると、デジタルデータは従来の中央集権型システムで管理するのは現実的ではなくなり、分散管理がトレンドになっていく。ITではERPからブロックチェーンへ、経済も現金から仮想通過へ、経営も企業単独から共創へ――集中から分散に、急速に変化をしていく。
そのような状況においては、企業と従業員の関係性も変化する。これまでは企業:従業員の関係は、決められた場所・決められた時間、つまり1(企業):N(従業員)の“集中型”の雇用関係だった。しかし雇用の流動化が進み、パラレルワークやフリーランスが増加する中で、企業と従業員の関係は分散化し、N(企業):N(従業員)の関係となる。「企業と人との関係が分散化する時代に差し掛かっている今、福利厚生の在り方も従来のままではなく大きく変えていかねばならない。ZBBの技術やサービスを活用し、時代に合った働き方の変革を支えていきたい」と結んだ。
「Yume Coin」導入により、従業員の行動変容を促進する
【第2部】「Yume Coin」の紹介・デモンストレーション
登壇者/OKI 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康 氏
第2部では、OKI イノベーション推進部長 大武氏が登壇した。入社以来、新規営業や特命プロジェクトなどOKIの新境地を切り開く事業に携わってきたことから、顧客に“OKIの坂本龍馬”と称される大武氏。OKIのイノベーション創出活動「Yume Pro」について、「Yume Coin」の紹介とデモンストレーション、今後の展開について語った。
―OKIのイノベーション創出活動「Yume Pro」
OKIは2018年4月にイノベーション推進部を発足させた。国連が2015年に定めたSDGs(持続可能な開発目標)の社会課題にフォーカスするイノベーション創出活動「Yume Pro」に取り組んでいる。その中でも特に「医療・介護」、「物流」、「生活・住宅」の3テーマに注力し、事業機会を発掘していくという。
また、5月にはイノベーション活性化の拠点として、虎ノ門本社にイノベーションルーム「Yume ST(ユメスタ)」を新設した。誰もが幼い頃に夢見た“ツリーハウス”をテーマに、ワクワク感を呼び起こす仕掛けや色づかいの空間は、まさに共創推進の「晴れ舞台」。共創パートナー候補との議論の場として、ワークショップやセミナー、イノベーション研修の場として活用していくという。
―「Yume Coin」について
このようにイノベーションにスピーディーかつアグレッシブに取り組むOKIが、ZBB、ベネフィット・ワンと共同開発したのが、「Yume Coin」だ。働き方改革が進む中ではあるが、例えば「定時帰り」など単に従業員に声高に呼びかけるだけでは、なかなか変化していかない。そこでインセンティブ・ポイントの付与により、行動変容を起こして働き方改革に繋げていこうとしている。OKIのIoT端末、ベネフィット・ワンの福利厚生プログラム、ZBBのブロックチェーン技術を掛け合わせて誕生した。利用者が健康促進・改善に向けた行動をとった際に、行動の対価として自動的にインセンティブ・ポイント「Yume Coin」が貯まっていく。このポイントで様々な商品・サービスと交換できる仕組みだ。
会場では、「Yume Coin」のデモンストレーションも行われた。朝活や定時退社など、位置情報により自動的にポイントが貯まっていく。会議中にいい意見が出た時などは、社員同士でポイントのやり取りもできる。ポイント交換できる商品・サービスは2万点以上。コンビニエンスストアの唐揚げから、数十万ポイントの家電製品など幅広い。
―目的と今後の展開について
利用者の行動を変え、働き方改革を加速させるためのインセンティブ・ポイント「Yume Coin」。現在は実証実験段階だが、今後事業化し、幅広い企業への展開を目指すという。具体的なステップとして、まずは3カ月でインセンティブ・ポイントがモチベーションに与える効果を検証、1年で健康活動の見える化と行動変容の仕組みを実証、3年で「医療・介護」、「物流」、「生活・住宅」の3分野へ、顧客が使いやすい仕組みを提供していく。
ブロックチェーンを切り口に、爆速で共創し生み出された「Yume Coin」
【第3部】パネルディスカッション
登壇者/OKI 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏、ZEROBILLBANK JAPAN株式会社 代表取締役社長 堀口純一氏、株式会社ベネフィット・ワン インセンティブ事業部長 野呂健作 氏
―3社が語る、共創の経緯とは
第3部では、3社でこれからの働き方についてパネルディスカッションが行われた。
まず投げかけられた問いは、「今回の協働を取り組もうとしたきっかけ、期待値、共創の感想」。大武氏は、「ブロックチェーン技術で何かできないかと思っていた時に、ZBB堀口さんを知り、イスラエルからリバースイノベーションを起こそうとしている姿に興味を持った。そして、初対面で何時間も未来を語り合って、ぜひ一緒にやろうとなった。その時、ポイント交換をどうするかという話になり、OKIの福利厚生でもお世話になっているベネフィット・ワンさんがすぐ頭に浮かんだ」と3社共創の背景を語った。そこから1カ月弱という驚くべきスピードでプレスリリースに至ったという。「今の時代、やると決めたら爆速で進めなければ通用しない」と大武氏が強調するように、大企業でありながらOKIはスピーディーな意思決定を行っている。
堀口氏はOKIについて「最初は伝統的な堅いイメージがあった」という。しかし、「いざ会ってみたら、社長直轄のイノベーション組織を立ち上げ、外部共創を積極的に進めようとする姿勢、そして高度なセンシング技術に驚いた」と印象を語った。さらに、大武氏をはじめとするOKIイノベーション推進部の社員について、「明確な夢やビジョンを持ち、イノベーションに邁進する姿勢に、人として興味を持った」と、人に惚れ込んで共創に至ったことを語った。
野呂氏も、「OKIさんのように歴史あるメーカーが、イノベーションをどのように進めていくのか」と強い興味を抱いたという。また、「副業やテレワークが進んでいく中、従業員をどう評価するのか、各社が課題として抱えている。ポイント付与はこれまでアナログな世界だったが、ブロックチェーンという新技術で可能性が広がる。ワクワクするような世界を作りたい」と、共創への決意を語った。
―『働きがい』を刺激できる仕組み・サービスを
「What’s Next?」というテーマに対して、堀口氏は「企業という枠組みや境界線がどんどん曖昧になっていく中、働き方もプロジェクトアサインというよりは『この人とこんなことをしたい』というビジョンドリブンになっていくだろう。人が自分らしく生きていけるよう、コンソーシアムやエコシステムを作っていきたい」と未来を見据えた。
大武氏は、「ポイントは『働きがい』だと思う。例えば介護業界など離職率の高い業界は、厳しい労働環境という理由もあるだろうが、自分がどれだけ世の中に役立ったのか実感がないのではないか。日本人は言葉に出して感謝の意を伝えることが少ないのではないか」と課題を提示し、「感謝の気持ちを伝える仕組みを作ることができたら、『働きがい』を刺激できるのではないだろうか。仕事だけではなく、引退した後も『生きがい』を持てるように、どこかで誰かに認められるような仕組みやサービスを考えていきたい」とした。
―OKIは『Yume Pro』を通じて、社会課題に取り組む
参加者からも「働きがいや生きがいというものは、会社だけではなく学校など教育の現場や自治体の活動にもあるのではないか」という声が上がった。それに対して大武氏は「教育も学校の中だけではなく、地域全体で行っていかねばならない。『Yume Pro』で重点的に取り組む3テーマの1つに『生活・住宅』があるが、例えば空き家問題に対する取り組みとして、空き家を利用してシニアが教室を開くなど、町全体で働きがい・生きがいを作っていけるような仕組みを考えている」と語った。
堀口氏も「すべてがインターネットにつながる時代では、VRやARなどのテクノロジーを活用して各人のノウハウを発信していけるような世界観を作っていけるはずだ」と最新技術を活用したイノベーションの可能性を示した。
セミナー終了後は懇親会が行われ、新しい価値を創造するための働き方について、活発な議論が続いた。
取材後記
「働き方改革というと、多くの企業が労働時間の削減をイメージする。しかし、企業が『早く帰れ』と声を掛けるだけでは何も変わらない。従業員は『仕事が減るわけでもないのに、どうすればいいのか』と不満を持ってしまう。これから量から質にシフトしていく時代、個人が自主的にパフォーマンスを上げる仕組みを考えなければ」と、大武氏が提示した課題が印象に残った。「Yume Coin」はまさに、個人をモチベートし行動変容を引き起こすことで、働き方改革にドライブをかけていく可能性を秘めている。
(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)