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ナイキも出資、米国発ハンズフリーシューズ専門ブランド「Kizik」が日本進出、履いてわかった革新性

ナイキも出資、米国発ハンズフリーシューズ専門ブランド「Kizik」が日本進出、履いてわかった革新性

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グローバルで「ハンズフリーシューズ」の市場が伸びている。立ったまま手を使わずに履ける実用性が支持され、多くのブランドが同市場に注力するように。その結果、幅広い世代に浸透しているようだ。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第60弾では、米国発の革新的なハンズフリーシューズ専門ブランド「Kizik(キジック)」を中心に、注目のフットウェアスタートアップの動きに着目。Kizikと国内における販売代理店契約を締結している丸紅コンシューマーブランズ 経営企画室 副室長の木下陽平氏に取材した。

ハンズフリーシューズは国内外でトレンドに

近年、ハンズフリーシューズが国内外でトレンドになりつつある。市場調査レポートを提供するVerified Market Reportsによれば、ハンズフリーシューズの世界市場規模は2023年に100億ドル(約1兆5,800億円)となり、2030年末までに約2倍の194億ドル(約3兆600億円)に達すると予想されている。

▲スケッチャーズのヒットシリーズ「ハンズフリー スリップ・インズ」。写真はSkechers Slip-ins: Glide-Step Pro(SKECHERS JAPAN G.K.のプレスリリースより)

▲NIKEが2021年2月に発売した「NIKE GO FLYEASE」は着脱時にかかとがガバっと開く構造で、Kizikの技術が活用されている(エービーシー・マートのプレスリリースより)

今やシューズブランドの多くがハンズフリーを展開しており、スケッチャーズの「ハンズフリー スリップ・インズ」、pumaの「EASE-IN(イーズイン)」、NIKEの「FlyEase(フライイーズ)シリーズ」なども認知度や人気が高い。

市場拡大の動きは国内でも顕著に見られる。例えば、2024年春から本格的にハンズフリーシューズを展開しているエービーシー・マートの業績が好調だ。同社の2025年2月期の第3四半期決算(累計)では、売上高が2770億7800万円(前年同期比9.8%増)、営業利益が480億100万円(同15.6%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益は341億5400万円(同14.4%増)と増収増益だった。客単価は前年同期比で約7%上昇。この実績を牽引したのがハンズフリーシューズだった。

▲「スパットシューズ」は5000円前後の手頃な価格帯が魅力だ。写真は女性用モデル(チヨダのプレスリリースより)

靴大手小売のチヨダも、自社のハンズフリーシューズブランド「スパットシューズ」の販売数が約150万足と大ヒット。3000円代〜7000円代の手頃な価格帯で、多くは5000円前後だ。2025年2月期の第3四半期決算では、売上高は726億2000万円(前年同期比2.2%増)、営業利益は23億8200万円(同39.1%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益は22億4300万円(同14.4%増)と増収増益に。貢献したのが、やはりハンズフリーシューズだった。

踏んだかかとが跳ね上がる。未体験の履き心地

日本ではまだ発売前であり認知度が低いが、米国ではハンズフリーシューズ専門ブランド・Kizikが人気急上昇中だという。2017年創業のHandsFree Labs(ハンズフリーラボ、米ユタ州)が立ち上げたブランドで、創業者はゴルフバッグメーカー・Ogio International(オジオインターナショナル)の元創業者、兼CEOのMichael Pratt(マイケル・プラット)氏だ。

プラット氏は、2017年にOgio Internationalを大手ゴルフメーカー・Callaway Golfに売却後、新事業としてKizikを創業したが、ハンズフリー技術の研究は2007年頃から開始している。技術開発チームにはデザイン工学専攻者や数学者などを採用、単に手を使わないだけでなく、機能性や見た目の美しさも追求して、F.A.S.T.® (Foot Activated Shoe Technology)としてブランド化された独自のハンズフリー技術「ステップインシューズテクノロジー」を完成させた。現在までに200を超えるハンズフリー関連の特許技術を保有、または申請中だ。

▲手を使わず1〜2秒で履くことが可能で、脱ぎ方は通常のスニーカー同様となる

「プラット氏は、より豊かな生活のために手を使う従来の靴の脱ぎ履きのわずらわしさを解消したい、常識を打破したいと考え、妥協のないハンズフリー技術を開発しました。世界で初めてハンズフリーシューズを作ったブランドではありませんが、機能美を追求したハンズフリーシューズ専門ブランドとして唯一無二の地位を確立しています」

木下氏は、「世の中にあるほとんどのハンズフリーシューズとKizikでは、構造がまるで違う」と説明する。

「現在、多くのブランドが販売しているハンズフリーシューズは、かかとを靴べらのような構造にして固く滑りやすくすることで履きやすくしています。一方、Kizikは弾力のあるTPU素材を使った独自デバイスをかかと部分に仕込み、かかとを踏みながら履くことで足を入れる面積を一時的に増やし、履きやすくしています」

▲かかとを踏んで1日2回脱ぎ履きしても、40年間履ける耐久性を持つ

実際に体験してみると、全く手を使うことなくスルッと履けた。ハンズフリーシューズを初めて履く筆者にとっては未体験の履き心地で、実際に驚きや感嘆の声は少なくないという。「かかとを踏んでいいのか」という懸念はあったが、3万回の耐久テストを実施済みで、1日2回脱ぎ履きする前提で40年間履けるとのこと。履いた後は、通常のスニーカーと変わらないフィット感だ。

▲かかと部分のデバイスは20以上の形状があるという

独自デバイスの形状は20以上あり、靴の形状やデザインによって使用するデバイスを変えている。スニーカーのみならず、ブーツやアウトドアシューズといった履くのに時間がかかるようなシューズにも適用できる。

▲スノーブーツなどスニーカー以外の靴もハンズフリー可能だ。ブーツも試し履きしたところ、同様の履き心地だった

2023年の新作として発売されたスノーブーツは、米国で発売後3時間で売り切れたほどの反響だったという。世界最大のテクノロジー見本市「CES2024」では、同製品がイノベーションアワードを受賞した。

Kizikのハンズフリー技術はNIKEの靴にも活用されている。2019年にNIKEはKizikの技術のライセンスを取得し、Kizikの少数株を取得するために非公開の金額を投資した。

2030年までに全世界10億人への販売を目指す

Kizikは2024年までほぼ米国のみの販売にとどめていたが、2025年春夏シーズンから日本を含むグローバルでの販売を一斉にスタートさせる。目標は2030年までに全世界10億人にハンズフリーシューズを届けることだ。

▲春夏・秋冬のシーズンごとに5〜10前後の新作が発売される

ラインアップは男性用、女性用、子供用のカテゴリがあり、大人向けは定番商品に加え、各シーズンごとに5〜10前後の新作が追加発売される。同社の公式ホームページを見ると、男性用で16、女性用で17のラインアップが販売されていた。

メインターゲットは、本国同様に20〜40代の活動的な層だ。米国では「ライフマキシマイザー(忙しい日々をアクティブに過ごす人)」をターゲットに据えており、ボリューム層は30〜40代の女性とのこと。顧客の男女比は6:4で、やや女性が多いという。

ベストセラーは、デバイスが表面に露出している「Athens(アテネ)」とデバイスが露出していないシンプルな「Lima(リマ)」。価格帯はモデルによって異なるが、2万円前後となる。日本での販売開始は2025年2月末を予定しており、まずは丸紅コンシューマーブランズのECサイトを中心に販売していく方針だ。

▲ベストセラーの「Athens」は、かかと部分のデバイスを露出させているのが特徴的。写真は後継品の「Athens 2」

▲人気商品の「Prague」。幅広い服装にマッチしそうなシンプルさが魅力だ

「日本では、人気の2モデルの最新版である『Athens 2』と『Prague 2』をメインで打ち出していきます。定番人気のモデルをバージョンアップした製品です。まずは自社ECサイトで販売しますが、2万円前後の製品となると試着をしたい要望が強いと思いますので、春にポップアップストアを展開できるよう動いています」

試着すると約80%の人が購入するといい、全米では7つの自社店舗を運営するほか、約1000店舗で卸売販売もおこなっている(2025年1月現在)。これを踏まえると、日本でも履き心地を試せる場は必須になりそうだ。若く活動的な層の中でも、特に先端テクノロジーに興味が強い層を狙い、そこから認知や人気を広げていきたいという。

マーケティングでは特許技術を使った革新性をアピールするより、「Kizikはより豊かな人生を送るためのツールである」という考えを伝えていく方針だ。広告などのクリエイティブも自由なライフスタイルを楽しむための靴であることが強調されている。

Kizikは靴を脱ぎ履きする回数が多く、タイパの良さを求める日本市場へ高い期待を抱いているという。スケッチャーズやチヨダ、pumaといった他社のハンズフリーシューズより高価格帯であることはハードルになり得るが、革新性やブランドの哲学に共感する層にアプローチできれば人気を獲得するかもしれない。

次世代シューズのスタートアップは活況

調べてみると、他にも次世代のシューズやシューズ関連ツールを開発しているスタートアップが多数見つかった。世界的にフットウェア業界は盛り上がっており、ハンズフリーシューズ以外にも革命的な変化が起きているようだ。先進的なスタートアップ4社を紹介したい。

FootSnap

▲足の間にA4用紙を置いてスマートフォンでスキャンする(FootSnapの公式ホームページより)

2019年にスイスで創業したFootSnapは、靴のサイズの不一致を減らすための3Dスキャン測定ツールを開発し、オンラインの靴小売業者に提供している。顧客は専用アプリを使い、両足の間にA4の紙を置き、30秒間足の周りをスマートフォンでスキャンすると足の解剖学的に正確な3D画像が完成。そのデータをもとに最もフィットする靴が推奨されるため、サイズの不一致による返品が起こりづらくなる。顧客満足度を上げ、事業者側の手間やコストを削減するサービスだ。

Freeaim

▲VRシューズを履いてゲームをする様子(FreeaimのYouTubeチャンネルより)

2021年にイギリスで創業したFreeaimは、産業トレーニングシミュレーター、医療リハビリテーション、フィットネス、エンターテイメント、小売業など、ビジネスや専門用途に特化したVRシューズ(自立型ロボットシューズ)を開発、提供している。ヘッドセットを装着した状態でVRシューズを履いて歩くことで、格段に没入感を引き上げるという。

Balena

▲ポルトガルのシューズブランドNew.vと共同開発した100%堆肥可能なスニーカー(Balenaのニュースリリースより)

2020年にイスラエルで創業したBalenaは、従来の化石由来の材料を削減するために100%生分解性の新素材を開発、販売する。同社が開発した素材「BioCir®」は、高分子量の生分解性ポリマー、天然の生物由来のバイオベースの成分、その他の生分解性改質剤の独自の組み合わせによって作られている。耐久性や柔軟性を損なわず、石油由来の材料に置き換えが可能で、主に靴底などに使用されている。寿命を迎えた靴は同社の堆肥施設に送られ、生分解されて土に戻るという。

Futures Factory

▲3Dプリンターなどを使ってクリエイティブなシューズの製造をサポートする(Futures Factoryの公式ホームページより)

2021年にフランスで創業したFutures Factoryは、靴やアクセサリー、サングラスなどをデザイン・製造するためのクリエイティブスタジオ(プラットフォーム)を展開する。3Dプリントの大手イノベーター、材料の専門家、最先端のテクノロジーと提携し、クリエイティブなビジョンを持つクリエイターに対し、製品をカタチにするためのリソースやツールを提供。クリエイターは少量のオリジナル製品を数週間で製造できるという。

写真提供:丸紅コンシューマーブランズ

編集後記

ハンズフリーシューズ初体験の筆者にとって履きやすさのインパクトは大きく、靴を履く際のわずらわしさが激減すると感じた。Kizikのみならず、ハンズフリーシューズは試着後の購入率が極めて高い傾向があるそうだ。Kizikの製品発売後、同市場にどんな変化が起こるのか引き続き注目したい。

(取材・文:小林香織

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