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「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く(54)〜ビジネスモデル特許

「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く(54)〜ビジネスモデル特許

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新しい発明が認められると特許が取られることはよく知られていますが、実はビジネスモデルでも特許を取れることはご存知でしょうか。一般的な特許と比べて歴史は浅いですが、特許を取得することでビジネスを有利に進められるため、成功したスタートアップの多くもビジネスモデル特許を活用してきました。

TOMORUBAの【「勝つための学び直し」ビジネス戦略論を読み解く】第54弾では、この「ビジネスモデル特許」について紹介します。特許を取得するためにどんな要素が必要なのか、特許を取得することでどんなメリットがあるのか解説するので参考にしてください。

ビジネスモデル特許とは?

ビジネスモデル特許とは、新しいビジネスの仕組みや方法を特許として保護する制度です。具体的には、商品やサービスの販売方法、マーケティング戦略、顧客との関係構築方法など、従来の有形の発明とは異なる、無形の発明を保護するものです。

近年、インターネット技術の発展により、革新的なビジネスモデルが次々と誕生しています。従来の特許制度では、こうしたビジネスモデルを十分に保護することが難しかったため、ビジネスモデル特許が導入されました。

ビジネスモデル特許の歴史

ビジネスモデル特許の起源は、19世紀後半の米国に遡ります。当時は、新しいビジネス方法に関する特許を認めるかどうかについて、裁判所や特許庁で議論が行われていました。

1998年、米国連邦控訴裁判所は、State Street Bank事件において、電子商取引に関するシステムと方法を特許対象とする判決を下しました。この判決は、ビジネスモデル特許の有効性を明確に示したものであり、ビジネスモデル特許の普及に大きく貢献しました。

その後、欧州や日本などでも、ビジネスモデル特許を認める制度が導入されました。

日本では、2002年に特許法が改正され、ビジネス方法に関する発明を特許対象とするようになりました。しかし、当初は審査基準が厳しく、取得件数は少なかったため、ビジネスモデル特許制度はあまり注目されていませんでした。

しかし、2011年に特許法が改正され、審査基準が緩和されたことで、ビジネスモデル特許の取得件数が急増しました。近年では、年間1万件を超えるビジネスモデル特許が出願されています。

ビジネスモデル特許の取得要件

ビジネスモデル特許を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。

新規性

ビジネスモデル特許は、他の発明と比べて新しい必要があります。ビジネスモデル特許は、抽象的な発明であることが多いため、新規性を判断するのが難しい場合も少なくありません。特許庁では、以下の要素を総合的に見ながら新規性を判断していると言われています。

・発明の技術的範囲: 発明がどの程度の技術的範囲を持っているのか

・公知・公用の程度: 発明内容がどの程度公知・公用されているのか

・一般人の理解: 当時一般人が発明内容を理解できたかどうか

これらの要素に鑑みて、新規性を証明するには以下の点に注意しましょう。

・発明の具体化: ビジネスモデル特許の対象となる発明は、具体的な技術的手段を用いて実現する必要があります。抽象的なアイデアのみでは、特許対象となりません。

・公知・公用の調査: 特許出願前に、発明内容が公知・公用されていないかどうかを十分に調査する必要があります。

進歩性

進歩性とは、従来の発明と比べて著しく進歩している発明であることを意味します。従来の技術と比べて、どれほどレベルの高い効果を発揮するのか、これまで解決できなかった問題を解決できるのか明確にする必要があります。

産業上の利用可能性

産業上の利用可能性とは、発明が現実的な技術手段を用いて、工業上生産され、かつ、一定の需要が存在することを意味します。言い換えると、特許取得対象の発明が、単なるアイデアや理論ではなく、実際に製造・販売でき、かつ市場で一定の需要が見込まれることが必要です。

特許庁が産業上の利用可能性を判断するには、次のような項目を考慮すると言われています。

・技術的な実現可能性: 発明が、現時点の技術水準で実現可能かどうか

・経済的な実現可能性: 発明を製造・販売することが経済的に採算が取れるかどうか

・需要の存在: 発明に対して、一定の需要が存在するかどうか

・特許の趣旨への適合性: 発明が特許法上の発明の概念に該当するかどうか

ビジネスモデル特許のメリット

ビジネスモデル特許を取得することで、以下のようなメリットが得られます。

競合他社からの模倣を防ぐ

ビジネスモデル特許を取得することで、自社のビジネスモデルを独占権で保護ができます。これにより、競合他社が無断で自社のビジネスモデルを模倣することを防ぎ、競争優位性を確保できます。

収益源となる

ビジネスモデル特許をライセンスすることで、ライセンス料という新たな収益源を確保できます。これは、特に、革新的で収益性の高いビジネスモデルを開発した場合に有効です。

投資を呼び込める

ビジネスモデル特許を取得することで、自社の事業の将来性をアピールできます。これにより、投資家からの投資を呼び込みやすくなるでしょう。

企業価値を高められる

ビジネスモデル特許は、無形資産として企業価値を高められます。企業価値が高まれば、それだけM&Aでのニーズが高まりますし、売却額を高めることにも繋がるでしょう。

助成金・補助金を受けられる

ビジネスモデル特許を取得することで、政府からの助成金・補助金を受けられる場合があります。特に、資金に余裕のないスタートアップや中小企業にとって、補助金は大きな事業資金の助けとなるでしょう。

ビジネスモデル特許の注意点

ビジネスモデル特許は決して万能ではありません。以下の点に注意する必要があります。

権利範囲が限定的

ビジネスモデル特許の権利範囲は、請求項で明確に定義されます。請求項は、特許出願書に記載されている発明内容を簡潔にまとめたものです。

しかし、ビジネスモデル特許は抽象的な発明であることが多いため、権利範囲が限定的になる傾向があります。つまり、特許で保護される範囲が狭いため、権利行使が難しい場合がありため注意しましょう。

権利侵害の立証が難しい

ビジネスモデル特許の権利侵害を立証するには、侵害行為が特許請求項の範囲内に含まれていることを証明する必要があります。

しかし、ビジネスモデル特許は抽象的な発明であることが多いため、権利侵害の立証が難しい場合があります。専門的な知識や経験が必要となるため、弁護士などの専門家に相談しながら立証しましょう。

維持費がかかる

ビジネスモデル特許を維持するには、様々なコストがかかります。たとえば毎年発生する年金は年間数万円から数十万円程度。ほかにも特許を海外に拡張する際に発生する指定手数料は1カ国あたり数万円から数十万円。

特許出願後3年以内に、特許査定請求手数料が約13万円に、特許料納付手数料は年間数万円から数十万円が発生します。また、特許出願や年金の納付などの手続きを弁理士に依頼する場合には、弁理士費用がかかります。

権利行使のリスク

ビジネスモデル特許を権利行使する場合、相手方から訴訟を提起されるリスクがあります。特許侵害訴訟は、時間と費用がかかるため、経営に大きな負担となる可能性も高いです。権利行使する前に、弁護士などの専門家に相談しながら、十分な検証をするのをおすすめします。

ビジネスモデル特許の事例

ビジネスモデル特許は、様々な業界で取得されています。以下、いくつか事例をご紹介します。

Amazonの「1-クリック注文」特許

Amazonの「1-クリック注文」特許は、インターネット上で商品を購入する際、住所やクレジットカード情報などの顧客情報をあらかじめ登録しておき、商品購入時にワンクリックで注文を完了できるシステムに関する特許です。

この特許は、1997年にAmazon.comによって出願され、1999年に米国で特許登録されました。特許番号はUS5960411です。この特許は、Amazonのオンラインショッピングの利便性を大幅に向上させ、その後のEC業界全体に大きな影響を与えました。

freeeの「自動仕訳システム」特許

freeeの「自動仕訳システム」特許は、会計処理の対象である各取引を、適切な勘定科目に自動的に仕分けをすることで、企業の負担を軽くできるものです。ウェブサーバが、明細データを取引ごとに識別し、キーワードに対応づけられた勘定科目の出現頻度を参照して特定の勘定科目を自動的に仕訳していきます。

作成された仕訳データは、ユーザーがウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され、コンピュータのウェブブラウザに、仕訳処理画面として表示される仕組みになっています。

いきなり!ステーキの「ステーキ提供システム」特許

「いきなり!ステーキ」では、テーブルに案内された客が、テーブル備え付けの番号札を持参してカット場へ行き、希望のグラム数を注文します。カットは専用の計量機を用いて行われ、カットした肉がどの客が注文したのかが判別できるように、テーブル番号を印字したシールをつけた状態で調理し、提供されます。

2016年6月10日、「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービス株式会社は、この提供システムで特許を取得しました。

編集後記

多くの成功したビジネスが特許を有効に活用していますし、企業によっては複数の特許を取得しているケースも少なくありません。しかし、特許をとることにこだわりすぎると、余計に遠回りになることもあるので注意が必要です。自分たちのビジネスが特許に値するのか、それによってどれだけの効果が見込めるか十分に検証し、それでもメリットを感じるのであれば申請してみましょう。

(TOMORUBA編集部)

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