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【ICTスタートアップリーグ特集 #4:Zenmetry】増え続けるツール群が発する通知・メッセージに忙殺される人々を救うーーZenmetryが生み出す”チャットオプティマイザー”とは

【ICTスタートアップリーグ特集 #4:Zenmetry】増え続けるツール群が発する通知・メッセージに忙殺される人々を救うーーZenmetryが生み出す”チャットオプティマイザー”とは

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「共創の場」を提供するプログラムだ。

このプログラムでは総務省事業による研究開発費の支援や伴走支援に加え、メディアとも連携を行い、スタートアップを応援する人を増やすことで、事業の成長加速と地域活性にもつなげるエコシステムとしても展開していく。

そこでTOMORUBAでは、ICTスタートアップリーグの採択スタートアップにフォーカスした特集記事を掲載している。今回は、複数のSlackチャンネルやチャットツールから届く自分宛てのメッセージや通知を集約し、AIで重要度・緊急度を自動判定するプロダクトの開発を進める株式会社Zenmetryを取り上げる。同社の創業経緯、開発中のチャット最適化ツール「Zenmetry」の特徴、今後の事業の展望について、代表取締役/CEOの長友氏に話を聞いた。

▲株式会社Zenmetry 代表取締役/CEO 長友好江 氏

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<スタートアップ解説員の「ココに注目!」>

■眞田幸剛(株式会社eiicon TOMORUBA編集長)

・2022年4月に創業し、同年8月にはシードVC のMIRAISEやデジタルハリウッドからの支援を受け、プレシードラウンド資金調達を完了!

・「人と仕事をなめらかに進化させ続け、大切なことに集中できる社会の実現へ」というビジョンを掲げる同社では、多忙なホワイトワーカーの可処分時間を最大化するチャットオプティマイザー「Zenmetry」を開発中。ICT・SaaSツールから大量・高頻度で届くメッセージや通知を集約し、AIによる自動分析を行うことで、本当に今すぐ読むべきメッセージのみを即時通知するほか、通知そのものの頻度を減らすなど、知的生産性の飛躍的向上に貢献するツールです。

・同社は創業時からグローバル展開を視野に入れており、様々なアクセラレータープログラムの海外派遣企業にも採択されています。日本発のICTスタートアップとして、グローバルレベルでの活躍も期待できるポテンシャルの高い企業と言えそうです!

仕事と育児に追われてキャリアを諦めた原体験がプロダクト開発のきっかけに

ーーまずは起業の経緯について教えてください。

長友氏 : 総合商社を経てIT業界に転身し、ワークスアプリケーションズやコンカー、Anaplanで業務システムの導入や開発、CS(カスタマーサクセス)の立ち上げなどに携わってきました。ただ、コロナが流行り始めたことで在宅勤務と在宅育児を両立せざるを得ない状況となり、業務が追いつかずに退職を決意したことがありました。

コロナ禍以前から部長職であったため、ひっきりなしに飛んでくるSlackの通知やメールに対応しつつ、空いた時間で自分の業務をこなしていたものの、コロナが流行って保育園が閉鎖されてしまったことで「もう限界だな…」と感じてしまったんです。

ーーご自身の苦しい原体験や課題感がきっかけに?

長友氏 : それは間違いなく大きいですね。ただ、起業の背景はそれだけではありません。私は会社を辞めてからフリーランスでスタートアップのお手伝いをしていましたが、そのときに気づいたことがあります。日本のスタートアップの多くが海外展開を目指しているものの、日本のソフトウェアのほとんどがグローバル向けの仕様に対応していなかったのです。

せっかく苦労してソフトを作っても海外に出て行けないなんてもったいないな…という思いが募り、ついには「自分で作るしかない」と考えてエンジニアスクールのG’s ACADEMYに入り、半年間ほどプログラミングを学びました。

G’s ACADEMYでは、私自身がキャリアを諦める原因にもなった「膨大な通知やメッセージの対応」に悩んでいる人たちの課題を解決したいと思い、現在の「Zenmetry」の原型となるソフトのコンセプトとモックアップを作りました。これが卒業制作のデモデイである「Global Geek Audition」で優勝とオーディエンス賞をW受賞したこともあり、製品の事業化を目指す法人を設立しようと決めたのです。

ーー会社設立は2022年4月ですが、現在の状況について教えてください。

長友氏 : 自分で作ったモックアップだけしかない状況からスタートしましたが、2022年8月にはシードVCのMIRAISEやG’s ACADEMYの母体であるデジタルハリウッドからご支援をいただき、プレシード資金調達が完了しました。それからはエンジニアなどの仲間集めを行い、モックアップの検証とブラッシュアップを重ね、2023年11月頃からは何人かの方々にご協力いただきながらMVPの検証を進めています。

通知をまとめるだけでなく、確認すべき通知・メッセージ数の削減できる

ーーベータ版の配布もスタートされたようですが、ユーザーの反応はいかがですか?

長友氏 : ベータ版では、Slackの複数のワークスペースからのメッセージを一覧でまとめられる機能を利用できます。主にスタートアップの経営層の方々に使っていただいていますが、「以前よりもメッセージの見落としが減った」というお声をいただいています。今後はSlackだけではなくTeamsやメールソフトなど、様々なツールをカバーしていく方針です。

ーー「Zenmetry」の優位性や独自性について教えてください。

長友氏 : 現在では、ブラウザ上で様々なアプリを一括して管理するツールが普及し始めており、各アプリからの通知数はそれらのツールでも確認できます。

そのようなツールに対し、当社の「Zenmetry」は通知のメッセージレベルでの管理・統合を目指している点が最大の特長です。たとえばメッセージのテキストにフィルタを掛けることにより、確認すべき通知・メッセージの数自体を減らすことも可能です。

以前、片づけコンサルタントのこんまりさん(近藤麻理恵氏)が世界的な注目を集めましたが、「片付ける」「減らす」「断捨離する」といった手法は、日本人が得意とするところだと感じています。私たちの「Zenmetry」もビジネス版のこんまりさんではありませんが、「確認すべき通知やメッセージが減って嬉しい」と感じてもらえるようなツールにしていきたいです。

ーー単純にツールからの通知を切るのではなく、通知のメッセージ内容を選別した上で減らせるのですね。

長友氏 : 実はツールからの通知を完全にオフにできる人はほとんどいないんです。事前のヒアリングでも約9割の人たちは「(面倒くさいと感じるものの)オフにはできない」とおっしゃっていました。その理由は明確です。膨大な通知の中には緊急度の高いものや重要度の高いものも含まれているからです。「Zenmetry」は、そうした緊急度・重要度の高いメッセージやタスクを見逃すことなく、無駄なものだけを選別して減らすことを目指しています。

緊急度だけでなく、重要度も判定できるアルゴリズム構築を目指す

ーーMVP、ベータ版以降の「Zenmetry」がクリアしなければならない技術的なハードル、機能的な課題などはありますか?

長友氏 : 技術的なところで言えば、私たちは今、メッセージにおける緊急度の高低を判定すべくプロダクトを磨いています。しかし、世の中には「緊急ではないものの、重要な人から来るメッセージ」というものも存在します。そのような重要度を「どのように判定するか」「何で重みづけするか」という部分についてのアルゴリズム構築に関しては、これからクリアしていかなければならないハードルの一つになると認識しています。

ーー緊急度と重要度、似ているようで違いますよね。

長友氏 : 緊急度についてはプロジェクトのフェーズや時期、メッセージの文脈だけでもある程度判定できますが、重要度の判定にはこれらとは異なるデータが必要になります。先に挙げた重要人物からのメッセージ以外にも、「部下がお客様とマズいやり取りをしている」「メンバーが衝突している」など、緊急性は高くなくてもテンションを張っておくべき場面はたくさんあるはずですからね。AIに何を学ばせるかも含めて、今後はそのような事象の抽出方法・判定方法を確立していく必要があると考えています。

また、複数のツールの情報をシームレスに閲覧できるような方法も考えていくつもりです。Slack、Teams、メールソフトはそれぞれ異なる設計思想で作られていますが、「Zenmetry」では、それらのツールから得た情報を1画面で可能な限り滑らかに表示できるようにしたいです。

「人間が創造性を発揮しやすい世界」の基盤になっていきたい

ーー今後の「Zenmetry」に関する戦略について教えてください。

長友氏 : 「Zenmetry」は2024年夏頃の正式リリースを目指していますが、まずはスタートアップの経営層の皆さんを中心に使っていただき、個人レベルでどのくらい生産性が向上するかを検証していくつもりです。

そのような実証実験を通じて個人レベルでの業務効率化・生産性向上が確認できた後は、チームや組織単位で価値を提供できる製品に進化させていきたいと考えています。私が会社員時代に経験したCS部門など、お客様対応がメインとなる部署では、とくにメッセージが溜まりやすい傾向があります。そのような現場で働いている人たち全員のペインを解消できる製品にしていきたいですね。

ーー中長期的な事業の展望についてはいかがですか?

長友氏 : あと10年くらい経つと、人間とAIのアシスタントが一緒に働くことが当たり前の世界になると考えています。そのような環境では、様々なシステムに対して指示を出すための基盤が必要になるはずなので、それらの基盤の一つを担うような存在を目指していきたいです。

また、当社のツールを普及させることで、「誰もが本当に必要なことだけに注意を払える世界」、「本来取り組むべき業務に集中できる世界」、さらに言えば「人間が創造性を発揮しやすい世界」の基盤になっていきたいと考えています。

ーー創業のきっかけの一つになった、「日本のソフトウェアのほとんどがグローバル向けの仕様に対応していない」という課題に対してはどのようにアプローチされていく方針ですか?

長友氏 : 国や都のサポートを受け、今年度だけでも3回ほどシリコンバレーに行かせていただきました。今後もこのような機会を活用することで、海外でも「Zenmetry」にトライアルしてくださる方々を増やすなど、グローバルにネットワークを広げていくような取り組みを進めていくつもりです。

グローバル展開については創業前から常に意識していますし、今後は日本のエンジニアのプレゼンスを上げていくことで、海外のエンジニアと同等に評価されるような世界を作っていきたいと思っています。

▲シリコンバレーを訪れる機会も多いという長友氏。ゆくゆくは海外での事業展開も見据えている。

取材後記

近年では新しいチャットツールやSaaSが次々に登場し、私たちは以前よりも遥に効率的に仕事をこなしているように思える。しかし、それらのツールが広く普及したことで、今度はツールから発せられる通知やメッセージの多さに頭を悩ませることになった人も多いはずだ。

「Zenmetry」は、それらの通知・メッセージの中から緊急度・重要度の高いものを自動判定して管理するなど、通知そのものを減らす方向性で開発が進んでいるという。毎日頻繁に飛んでくる通知によって、本来創造的な仕事に向けるべき集中力を奪われている方々にとっては、大いに導入価値があるツールとなるだろう。今後も引き続き、同社と「Zenmetry」の展開に注目していきたい。

※ICTスタートアップリーグの特集ページはコチラをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己)

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2023年度から始動した、総務省によるスタートアップ支援事業を契機とした官民一体の取り組み『ICTスタートアップリーグ』。これは、総務省とスタートアップに知見のある有識者、企業、団体などの民間が一体となり、ICT分野におけるスタートアップの起業と成長に必要な「支援」と「競争の場」を提供するプログラムです。TOMORUBAではICTスタートアップリーグに参加しているスタートアップ各社の事業や取り組みを特集していきます。