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新たな局面を迎えるかーー厳格化が進む「電動キックボード」各国の規制状況は?

新たな局面を迎えるかーー厳格化が進む「電動キックボード」各国の規制状況は?

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2023年4月2日に実施された住民投票により、フランス・パリで電動キックボードのレンタルサービスの廃止が確実になった。2人乗りなどの違反が問題視され、投票で継続「反対」の声が9割にのぼったためだ。パリだけでなく、他国でも電動キックボードの規制強化が進んでいる。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第43弾では、利用のあり方が問われている「電動キックボード」の規制状況を取り上げる。

筆者は、2020年〜2022年3月までフィンランドに滞在しており、現地で電動キックボードのレンタルサービスを利用していた。そんな自身の経験も踏まえ、各国の規制状況を伝えたい。

【シンガポール】2019年から歩道も利用停止

世界的にも迅速に規制強化に動いたのがシンガポールだ。同国では年中暖かい気候や自家用車の所有制限などにより、早い段階で電動キックボードが浸透していたという。車道の走行は元より禁止されており、歩道と自転車道の乗車に限られていたが、使い勝手がよく一部の市民に愛用されていた。

ところが、違反行為や歩行者との接触事故が多発し、死亡につながる重大な事故も少なくなかった。そして、2019年11月4日に「翌5日から電動キックボードを全ての歩道で利用禁止にする」と突然の発表があったのだ。

違反者には、最大で罰金2,000シンガポール・ドル(約20万円)、または禁錮3ヵ月(もしくはその両方)が科される。規制導入の準備期間として、11月5日〜12月31日までは違反者への警告処分にとどめ、2020年1月から罰則が適用された。

▲北欧では道端で倒れている電動キックボードをよく見かけた。同様の問題が各国で起きていただろうと予想される

【カナダ・モントリオール】2020年から完全禁止

カナダ・モントリオールでは、2019年に電動キックボードの試験的プロジェクトが実施された後、2020年に全面禁止となっている。

試験的プロジェクトでは、モントリオールの一部の自治区で電動キックボードの利用が許可されていた。しかし市の報告書によると、その間、電動キックボードは20%の時間しか指定されたゾーンに駐車されていなかった。モントリオール警察は、違反者に対して300枚以上のチケットを発行し、2020年には禁止が実施された。

最新の報道では、モントリオール最大の島公園であるジャン・ドラポー公園の敷地内で、電動キックボードのレンタルサービスが復活する見込みだと言われている。

【イタリア・ローマ】2022年から規制強化

欧州では、シンガポールと同様、比較的早い段階から電動キックボードが浸透している。イタリア・ローマでは、規制以前は7つのレンタル企業が提供する14,500台のスクーターが利用可能な状況だった。

利便性が高まる一方で、違反行為となる歩道の走行や複数人乗りが横行していたという。市の消費者保護団体Codaconsによると、同国では2022年以前の2年間で17人が電動キックボードに関わる事件で死亡している。

▲フィンランド・ヘルシンキで見かけた2人乗りの利用者

2022年から開始された新ルールでは、電動キックボードのレンタル利用者を正式な身分証明書を持つ成人(18歳以上)に制限し、市内のレンタル企業数を3社に制限。これにより、レンタルされる電動キックボードの数は約9,000台に減少する。

駐車場も以前より制限され、制限速度も従来の時速25kmから、道路では20km、歩行者エリアでは6キロに引き下げられた。

【イギリス・ロンドン】トライアルを継続

イギリスは、その他の欧州と比較して当初から厳しい体制を維持してきた。基本的に運転免許を持たずに利用できる欧州の他国と異なり、イギリスでは18歳以上で仮免許、または本免許を持っている人しか、電動キックボードに乗車できない。

ロンドンの道路を合法的に走行できるのは、時速12.5マイルに制限されたレンタルサービスの電動キックボードのみとされている。イギリスでは全土に政府公認の電動キックボードのトライアルが30件あり、これが公道で乗車できる唯一の合法となるそうだ。

このような制限下にあっても、電動キックボードに起因する負傷者や死亡者の数は、右肩上がりで増加しているという。運輸省の統計では、2021年にイギリスで電動キックボードに関連する事故で負傷した歩行者は229人、うち重傷者は67人だった。

また、電動キックボードのバッテリーの爆発による火災も多数発生しており、2021年12月から個人所有の電動キックボードを公共交通機関で使用することを禁止している。

【デンマーク・コペンハーゲン】レンタル禁止を経て規制強化

▲北欧ではドイツの「TIER」、スウェーデンの「Voi」、米国の「Lime」などが大手といわれる

2018年に電動キックボードの利用が始まったデンマーク・コペンハーゲンでは、13のレンタル事業者がレンタルサービスを提供し、若者を中心に多くの人が愛用していた。ところが、他国同様に電動キックボード関連の事故は絶えなかったという。

結果的にコペンハーゲン市は2020年に首都圏の路上から電動キックボードを撤去した。その他の欧州よりも極端な政策といえる。

しかし、約1年後にコペンハーゲンでは再び電動キックボードの利用が許可されている。ただし、使用に関しては大きな制限がある。新ルールでは都心部からの貸し出しが禁止され、指定された240のゾーンのうち1つにしか停めることができない。また、利用者はヘルメットを着用する必要がある。

【トルコ・カドゥキョイ】歩道上の余分な車両を撤去

トルコ・イスタンブール市に所属する地区のひとつであるカドゥキョイでは、歩道上の余分な車両を強制撤去する施策を実施したという。報道によれば、カドゥキョイの自治体は、電動キックボードのレンタル会社に対し、1週間以内に地区内の余剰車両を撤去するよう警告を発した。

この警告の背景には、電動キックボードが歩道を占拠し、電柱や看板、建物の入り口に置かれ、歩道を歩くのが困難な状態があったという。

どうすれば安全に乗車できるのか

冒頭でお伝えした通り、筆者はフィンランド在住時に、電動キックボード大手の「Voi」や「Lime」のレンタルサービスを何度も利用していた。一利用者の視点で、どうすれば安全に電動キックボードを利用できるのか考察したい。

フィンランドをはじめとした北欧では、歩道と自転車道が分かれている道が多かった。都市部とはいえ、道は広々していて東京ほど人口密度が高くないため走りやすかった。

▲北欧では道路が整備されているだけでなく、旅行者も含め運用ルールも守られている印象だった

当時の最高時速は20kmで、最高速度で走ると周囲の景色をゆっくり見るほどの余裕はなかった。気をつけないと事故が起きそうだと警戒しながら走っていた。それでも、バス停から降りてくる歩行者と接触しそうになったことがある。よく知らない道だったため、時折電動キックボードを止めて、スマートフォンでマップを確認しながら走っていたせいもあるかもしれない。

▲スマートフォンを取り付けられるタイプもあるが、マップを見ながらの走行は危険度が高まる

日本では、首都圏を中心にLUUP(ループ)社の電動キックボードをよく見かけるようになった。同社の製品の最高時速は15km(2023年4月現在)で、乗り慣れた人には少々物足りない速さかもしれない。2023年7月1日からは、最高時速20km以下の電動キックボードは16歳以上なら免許不要で乗車できるようになる。

利用経験者の感覚でいえば、必ずしも自動車免許は必要ないかもしれないが、事前に乗車ルールをしっかり確認したうえで練習ができると良いかもしれない。また、慣れるまでは知っている道に限定し、ヘルメットを装着するのがおすすめだ。

理想をいえば、北欧のように道路が歩道と自動車道に分かれており、それなりの道幅がほしいところ。しかし、すぐの実現は難しいと予測する。運用ルールをしっかり定めて一人ひとりが、それを守って走行することが事故防止につながるはずだ。

写真撮影:小林 香織

編集後記

フィンランドでは、カップルや子どもが複数人で1台の電動キックボードに乗車するなど、多くのルール違反を目の当たりにした。アルコールを摂取した状態で乗車する人も多かったという。そうした状況を踏まえれば、各国で規制が強化されているのも納得できる。一方で、利便性が高く、移動の概念を変える乗り物であるとも感じる。ルールの厳格化は免れないかもしれないが、ベストな運用方法が見つかることを願う。

(取材・文:小林香織

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