【インタビュー<後編>】 次の技術トレンドは何か。社員の半数以上が博士号を持つ研究者集団「リバネス」の西山氏が分析。
IoT、AI、ドローン、VR、ビッグデータなど、トレンドとなっている技術は多くある。最新技術の話題を耳にしない日はないと言っても過言ではないのだが、2018年以降は、どんな技術が注目されていくのだろうか。そして、その技術が、どのような社会を生みだしていくのか。――最先端の動きについて、学術系ベンチャー、株式会社リバネスで研究開発部部長を務める西山哲史氏にインタビューを実施。昨日公開した<前編>記事では、西山氏のプロフィールやリバネスの特徴的な取り組みである「リバネス研究費」(https://r.lne.st/grants/)を紹介。インタビューの<後編>では、「リバネス研究費」の話に続き、これから来るポストヘルスケア時代に必要となる「ヒューマノーム研究」について話を伺った。
▲株式会社リバネス 研究開発事業部 部長 西山哲史氏
筑波大学在学中から、インターンとしてリバネスの活動に参加。2011年、同社に正式に入社を果たす。自社での研究開発に加え、大手企業の研究所・研究開発部署のコンサルティングやオープンイノベーションの実装を行い、現在に至る。
【株式会社リバネスについて】
社員の半数以上が博士号を持つ研究者集団。研究者や技術ベンチャー等とのネットワークを活用し、科学・技術を基盤とした新たな価値の創造を推進する。2000名の教員、3000名の研究者、300社の技術ベンチャー、300社の大企業からなる「知識プラットフォーム」を基盤として、新たな研究開発・事業開発のプロジェクトを年間300以上走らせている。なお、2017年12月から、eiiconとリバネスが運営する研究開発のコンサルティングサービス「ResQue」の連携がスタート。企業が直面する高度な技術課題の解決に挑戦している。
型にはまらない研究者からの応募もある「リバネス研究費」
――リバネス研究費は毎年、募集していますね。どのような方が応募されていますか。
西山 : リバネス研究費は、当社が今よりもずっと無名のころに始めています。そうした企業の動きを敏感に察知し、果敢に応募してくるのですから、いわゆる“アーリーアダプター”と呼ばれる方が多かったと感じています。非常に熱意があり、また、面白い方も多いです。今はある程度、知名度があり、名のある企業のバックアップもありますが、型にはまらない方の応募は少なからずあります。新しい気付きを与えてくれることは多いですね。企業にとっても、熱意ある若手と出会えるいい機会と場所になっていると感じています。
――インタビュー<前編>で、「若手研究者が研究費をなかなか手にできないという状況」にあるとおっしゃられていましたが、研究費について何かお考えはありますか。
西山 : 研究費は実績のある方のもとに集まる傾向にあります。そのため、どうしても若手が予算を手にしにくいのは、ある意味で仕方のないことです。加えて、最近は、予算をつける条件として、研究のビジネス化を求めていることが少なからずあります。しかし、ビジネス化を目指すのは、本来は企業の役割のはずです。国の予算は基礎研究に、企業の研究費は応用研究に、というすみ分けはあっていいと思っていますね。
ヘルスケアテックの次に何が必要となるか
――西山さんはたくさんの最新技術に触れていますが、その中で、次に来ると思われるものは何ですか。
西山 : ヘルスケア領域は、これから日本を含む先進国の高齢化を背景に伸びていく市場と見られ、すでに多くの企業が新しい技術で参入し始めていますよね。次は、れらの動きを統合していくことが必要だと考えています。それを見据え、リバネスでは2016年に「ヒューマノーム研究所」を立ち上げました。健康のあり方について問われる未来を見据え、「人とは何か」というテーマを追求する研究所です。
――非常に大きなテーマですね。詳しく教えてください。
西山 : はい。生物を分析する研究は、2000年以降、急速に発展してきました。ヒトゲノムを解析するのに当初は13年かかりましたが、今ではほんの2~3日で完了してしまいます。遺伝情報を見ることで、どんな病気にかかりやすいか知ることができます。しかし、だからといって、自分がどう生きれば健康でありつづけられるのかは、分かりません。
――それはなぜでしょう?
西山 : 簡単に言えば、人は個体によって違うからです。遺伝子の統計的な傾向だけでは、個人のことまではわかりませんし、病気になる原因は遺伝子だけではありません。腸内細菌や生活習慣、性格などによって変化します。つまり、人というのをさまざまな側面からバラバラに研究しても、理解できないのです。
――なるほど。
西山 : こうした多方面の研究を、一つに統合する考えが「ヒューマノーム」です。今はヒトゲノムの解析も短期かつ安価にでき、また、ウェアラブルデバイスが発達しており、多様なデータを集めることもできます。ゲノムをはじめ、腸内細菌、睡眠、生活習慣、健康診断などの結果を統合的に分析して人を知る。これがヒューマノーム研究です。
――ヒューマノームの研究には、具体的にどのように取り組まれていらっしゃるのでしょうか。
西山 : 当社では「ヒューマノーム研究所」を立ち上げ、様々なベンチャーや研究者とともに研究に取り組む体制を整えています。さらには、当社が主催する「第7回超異分野学会」(※)内で、パネルディスカッション「ヒューマノーム研究、始まる」を開催するなど、研究を加速させていきたいと考えています。
※第7回超異分野学会(2018年3月2日、3日@TEPIA先端技術館)についての詳細は以下URLからご覧ください。
https://hic.lne.st/conference/kanto2018/
取材後記
次にどんな先端技術がトレンドになるとかという問いは、次の時代は何を求めているか、どんな時代になるか、という問いに他ならない。その意味で、現在注目が集まっているヘルスケアのつ義に「ヒューマノーム研究」が必要になるという話は興味深かった。少子高齢社会の中、医療分野は確かにさらなる進化が求められるのは間違いない。生まれてから一切の病気にかからず、健康のままに生きていく――そんな夢物語のような未来がもしかしたら実現するかもしれない。
(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)