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地域や団体をまたいだ、多種多様なプレイヤーが参加するワークショップや共創プログラムでスタートアップ・エコシステムが県全域に拡大―愛知県庁が描く次の戦略とは

地域や団体をまたいだ、多種多様なプレイヤーが参加するワークショップや共創プログラムでスタートアップ・エコシステムが県全域に拡大―愛知県庁が描く次の戦略とは

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県内産業の競争力維持・強化に向け、スタートアップ・エコシステムの形成を急ぐ愛知県。2018年10月には「Aichi-Startup戦略」を策定(2022年3月改定)し、それに基づいて多様な施策を着々と実行に移している。

戦略の中核にあるのは、名古屋市内に2024年10月開業予定のスタートアップ支援拠点「STATION Ai 」だが、この中心地から愛知県内全域へとエコシステムを広げていく活動も進めている。それが、STATION Ai パートナー拠点事業だ。昨年度からはじまった本事業は、今年度で2期目に入った。

TOMORUBAでは、愛知県庁で本事業をリードする3名にインタビューを実施。今年度の活動内容や成果、そこから見えてきたエコシステムの存在価値、そして来年度の方針について詳しく聞いた。

スタートアップ・エコシステムを愛知県全域に拡大、芽生えてきた「地域の横のつながり」

――あいち広域エコシステム※形成に向けて、さまざまな活動を実施されているそうですが、今年度は特にどういった活動に注力されたのでしょうか。

※あいち広域エコシステム=愛知県の広域スタートアップ・エコシステムの略称。STATION Ai パートナー拠点事業において形成を目指している。

林田氏: あいち広域エコシステム形成に向けた取り組みは昨年度、東三河地域で始まりました。今年度は愛知県全域へと広げて、2022年5月から始めたのがワークショップです。愛知県内の自治体(市町村)や支援機関、商工会議所で働く方を主な対象に、まずはスタートアップやエコシステムのことを知っていただこうという目的で開始しました。


▲愛知県経済産業局革新事業創造部スタートアップ推進課   主事 林田ゆり子氏

――具体的に、どのような内容でワークショップを行われたのですか。

林田氏: 「自分たちの地域の強みや弱みは何なのか」「地域の特徴を活かしてどのような共創ができるのか」「STATION Aiと地域が連携することで、どういった活動に取り組めるのか」などのテーマを設け、一緒に考えていくというものです。オンラインではなく、あえてオフライン(リアル)での開催とし、これまで、名古屋市、刈谷市、設楽町、西尾市、豊田市など、開催場所を都度変更し、開催を重ねてきました。

――ワークショップの開催地を変えている狙いは?

林田氏: あいち広域エコシステムを形成するためには、各地域で足りないリソースを補完しあう必要があります。「前提としてお互いの地域を知っておく必要があるだろう」との考えから、各地域へと足を運ぶようにしました。

このワークショップですが、初回は6地域のみの参加でしたが、回を重ねるにつれて増え、今年1月に開催した5回目のワークショップには、13もの地域にご参加いただきました。「隣の地域が頑張っているようだから、私たちもやってみよう」と波及していったのだと思います。それが、とても嬉しかったですね。

――ワークショップによって、どのように考え方やマインドが変化したのでしょうか。

沖氏: 当初、地域の人たちからは「自分たちのミッションは地域を盛り上げることであり、なぜ(外部の)スタートアップを支援しなければならないのか」という声も挙がっていました。しかし、ワークショップの回を重ねることで、「こういうスタートアップと一緒に、地域の課題を解決していこう」、そのために「ほかの地域と相互補完し、連携をとっていこう」というように変化してきたと感じています。これらが、明確に共通のビジョンとして現れてきました。


▲愛知県経済産業局革新事業創造部スタートアップ推進課(大府市より出向中) 研修生  沖 健人氏

――あいち広域エコシステムの目的の共有と目線あわせができたのですね。ワークショップのほかに、「CO-CREATION STARTUP (INCUBATION) PROGRAM」も開催されました。こちらについてもお聞きしたいです。

林田氏: 本プログラムは、スタートアップと課題を持つ地域が一緒にビジネスを共創していくプログラムです。スタートアップは、メンターの専門的なアドバイスを受けながら、ユーザーインタビュー先を自治体等から紹介してもらうなど、地域の人たちと一丸となってビジネスを構築します。

スタートアップと地域の人たちが一緒に何かに取り組む機会が持てていなかったので、接点づくりも意図して企画しました。このプログラムから複数の共創プロジェクトが立ち上がり、現在、実施に向けて内容やスケジュールの調整を行っているところです。


――本プログラムからは、どのような変化がありましたか。

林田氏: 12の地域(自治体・支援機関※)にご協力いただいたのですが、地域の横のつながりができたことが、大きな成果だったと思います。どういうことかというと、スタートアップから「こんな場所で実証を行いたい」という相談があった場合に、ある地域で実証の支援ができなくても、ほかの地域がサポートに入るというようにフォローする体制ができてきたのです。

ワークショップで「自分たちの地域で拾えない球を、他の地域で拾ってもらえると助かる」という声が出ていたのですが、本プログラムを開催したことで、自然な形で各地域の人たちが相互にフォローしあえるようになりました。

※12の地域:名古屋市、豊橋市、豊川市、刈谷市、豊田市、西尾市、大府市、東浦町、設楽町、一宮商工会議所、ウェルネスバレー推進協議会、東三河スタートアップ推進協議会

――愛知県全体にスタートアップを育むネットワークが広がってきたのですね。

沖氏: ワークショップやプログラム以外にも、ヘルスケア領域でスタートアップと自治体をつなぐプロジェクトも実施しています。というのも、起業家と自治体職員とではバックグラウンドがまったく異なり、お互いの意図するところが正しく伝わらないこともあるからです。相互理解を深めるために、双方の考え方の擦り合わせを行う必要があるだろうと考え、カジュアルな勉強会や交流会を8回開催しました。「スタートアップの考え方はこうです」「行政はこういう考え方で進めています」といったお互いの話をするとともに、行政に受け入れられやすい提案方法なども共有しています。

こうした積み重ねから起業家と自治体職員の目線あわせができ、双方で、「発信する側はどうすれば届くのか」「受け取る側はどうすれば受け止められるのか」が掴めるようになりました。今年の2月には、ようやくピッチイベントを開催できるところまで進めることができ、一定の成果を出せたと思っています。ヘルスケアの次はカーボンニュートラルの領域で、同じようにスタートアップと自治体をつないでいく予定です。

起業家・事業会社・金融機関・自治体、それぞれの視点から見た「スタートアップ・エコシステムの存在価値」

――続いて、今年度の活動から見えてきた、あいち広域エコシステムの可能性についてお伺いします。スタートアップ・エコシステムには、起業家・事業会社・金融機関・自治体・教育機関など多様な立場のプレイヤーが関与します。それぞれのプレイヤーにとって、エコシステムはどのような価値をもたらすものだとお考えですか。

林田氏: まず、起業家にとってのエコシステムの価値ですが、起業家の皆さんは地域のなかに入り込んで事業会社や市町村に接触していくのは、大きな労力がかかることだとおっしゃいます。たくさん電話をかけるなど、非常にエネルギーが必要なのだと。

それがもし地域にエコシステムがあって、横のつながりができていれば、エコシステムのハブとなっている人に相談するだけで、取り次いでもらえるようになるでしょう。新しい取り組みを検証する場が見つからない場合でも、一緒に探してもらえたりもします。そういった観点で、地域にエコシステムがあると、起業家は事業を育てやすくなるのではないでしょうか。

――たしかに起業家は、スタートアップ・エコシステムがあることで、相談先・提携先・導入先などを見つけやすくなりそうですね。すでに事業を営んでいる事業会社にとってはどうでしょうか。エコシステムが事業会社にもたらすメリットは?

沖氏: 愛知県の主要産業である自動車産業は今、100年に一度の大変革期を迎えており、現状のままでは厳しい部分もあると言われています。社内で新規事業を生みだしたり、新たなソリューションを組み合わせて何かをつくったり、そうしたことが求められていますが、自社が生き残っていくためにスタートアップの力を借りることもあるでしょう。

スタートアップとつながりをつくることは、1社の事業会社だけでは難しいですし、つながって新しい事業を始めたとしても、検証の場がなければ成長させることができない。ですから事業会社にとっても、エコシステムの中で他のプレイヤーと一体となって新規事業を生み育てていけることは、価値のあることだと思います。

――地方銀行や信用金庫といった金融機関にとっては、どのようなメリットがありますか。

沖氏: 顧客である事業会社がエコシステムのなかで新たな事業に取り組み、結果として経営が上向けば、地域に強い新規事業や産業が生まれることに繋がります。それは金融機関にとっても良いことだと思いますね。また、スタートアップに融資や出資を行い、それがリターンとして戻ってくるという直接的なメリットもあります。

――自治体にとってのスタートアップ・エコシステムの価値についてもお聞かせください。

沖氏: 自治体については、外部からスタートアップが来てくれたり、地域の事業会社の経営がよくなったりすると、新しい雇用が生まれますし税収という形でも戻ってきます。また、スタートアップが地域の課題に取り組んでくれることで、たとえば交通渋滞が緩和されるなど、インフラや生活面での改善が進みます。

一方でシティプロモーションという面でも効果があるでしょう。今まで取り組めなかった課題が、エコシステムのなかで次々と解決されていく。そうすれば地域は必ず潤っていくはずです。エコシステムが循環していくことは、自治体にとっても大きなメリットがあると思います。


2024年の開業に向け「Aichi-Startup 戦略」は次のステージへ

――今年度のあいち広域エコシステム形成事業についてお伺いしてきましたが、続いて来年度の方針についてお聞かせください。本事業は「Aichi-Startup 戦略」の一環として実施されていますが、戦略全体の今後の方向性をお話いただければと思います。

高木氏: 「Aichi-Startup 戦略」の策定背景からご説明すると、先ほど沖が申しあげたように、主要産業である自動車産業が100年に一度の大変革期を迎えています。デジタル技術の加速度的な進展にともなう産業構造転換への対応が急務なのです。

企業が新たなビジネスチャンスを獲得し、新規事業領域へ転換していくためには、イノベーションの創出が絶対的な条件だといえます。そこで、愛知県はスタートアップを起爆剤としてイノベーションの創出を目指そうと考え、2018年10月に「Aichi-Startup 戦略」を策定しました。

本戦略の中心にあるのが、スタートアップ支援拠点「STATION Ai」の整備です。今年の1月6日に起工式を行い、2024年10月の開業に向けて準備を進めています。また、開業までの間、切れ目のない支援を行う目的で、WeWork グローバルゲート名古屋内に「PRE-STATION Ai」を設け、統括マネージャーを配置して起業や協業支援を行っています。「PRE-STATION Ai」の入居者数は2月1日時点で168社ですが、この数をさらに増やしていく予定です。


▲愛知県経済産業局革新事業創造部スタートアップ推進課 担当課長  高木利典氏

――2024年10月の「STATION Ai」開業時には、1000社の入居を予定しているそうですが、今後さらに増やしていかれるのですね。

高木氏: そうですね。加えて、これまでの取り組みから課題も見えてきました。それらに対応するため、次の5つの事業に注力する方針です。まず1つ目ですが、すでに実施している「Aichi Startup Camp」を拡充します。「Aichi Startup Camp」は学生などを対象に起業家マインドを醸成する目的で行っていますが、起業家の数を増やしていくことが重要だと考え、この事業をさらに拡大することにしました。

2つ目が、革新的な科学技術を持つディープテックの支援です。かつての青色LEDのように、世界が大きく変貌するような技術を持つスタートアップを重点的に支援し、ユニコーン企業の創出を図ります。愛知県には大学をはじめ研究機関が数多くあるのですが、研究成果や技術をビジネスにつなげることが、うまくできていないのではないかと思っています。「学術的に素晴らしいね」で終わってしまっている研究成果を、今後はビジネスにしていく。この部分のサポートを愛知県が実施していく予定です。

――愛知発のディープテック企業が増えそうですね。

高木氏: 3つ目が、スタートアップの採用支援。スタートアップの皆さんからは、思うように人材を集めることができず、現状ではリファラル採用に頼ることが多いと聞いています。一方で、スタートアップが加速度的な成長をしていくためには、成長フェーズに合わせた人材採用が重要となります。そこで、来年度から新たにスタートアップに特化した人材採用支援を行い、特に創業初期の資金が潤沢になく、知名度もまだまだのフェーズのスタートアップに対して、人材採用の領域に専門性を有するメンターによる採用戦略策定のサポートや、採用イベント等による人材マッチングなどを行います。

4つ目が海外の支援機関との連携です。愛知県のエコシステムの特徴として、海外のスタートアップ支援機関と接点が多いことが挙げられます。これらの接点を活かし、グローバル展開を狙うスタートアップ支援や、海外の有望なスタートアップの誘致を図っていく。そうしたプログラムを実施します。

5つ目が今回のテーマでもある愛知広域スタートアップエコシステムへ参加するプレイヤーの拡大です。先ほどお話したように今年度は、愛知県全域へとスタートアップ・エコシステムを広げていく事業を実施してきましたが、このあいち広域エコシステムに新しく加わって共創をすすめてくれる仲間を増やすべく、来年度は体制を強化します。スタートアップ支援に前向きな市区町村・支援機関と徹底的におつきあいをし、一緒にスタートアップ・エコシステムの形成をやっていきたいと考えています。

地域との関わりをさらに広く深く、ネットワークを張りめぐらせる

――スタートアップ支援を強力に推し進めるとともに、あいち広域エコシステムも今以上に拡大していかれるのですね。最後に、これまでの取り組みを踏まえ、来年度、地域とどういった関わりをしていきたいのか。それぞれのお考えをお聞かせください。

沖氏: あいち広域エコシステム形成に向けた取り組みは、「STATION Ai」と地域がいかに連携できるかがポイントだと思っています。「STATION Ai」はスタートアップ支援、地域は地域課題の解決と、切り口は違うのですが、最終的に目指しているところは必ず同じになる。ですから、「STATION Ai」と地域をより密に繋いでいきたいと考えています。

先日、あるイベントで県外のスタートアップの方と話をする機会がありました。その際、「STATION Ai」が県内の自治体等と広域でつながっていることを説明すると、とても興味を持っていただけた。そのことからも、地域とのつながりが「STATION Ai」の大きな強みになると確信しています。

他県にはないネットワークを愛知県が持っていることで、県外からスタートアップが来てくれると思いますし、日本中の起業家が愛知に集まれば、地域の課題をたくさん解決してくれるでしょう。それは「STATION Ai」にとっても、地域にとっても素晴らしいことです。ですから、地域との距離感はもっと縮めていきたいです。

――たしかに、県全域にわたるエコシステムを形成している都道府県は、愛知県以外であまり聞かないので、愛知県の強みになりそうですね。

沖氏: はい。それとエコシステムには不可欠な金融機関の皆さんと、十分に連携できていないことが課題です。ですから来年度は、地域に幅広いネットワークを持ち、事業会社の課題も熟知されている金融機関ともつながっていきたいですね。

林田氏: また、商工会・商工会議所の皆さんとも連携を強化していこうと思っています。商工会・商工会議所も広いネットワークをお持ちで、地域に根ざした事業会社とのつながりも深い。スタートアップから「こんな人を紹介してほしい」と相談された際、自治体だけでは紹介しきれないこともありますが、商工会・商工会議所であれば紹介先をご存知かもしれません。今以上にネットワークを広げることで、地域でできることを増やしていきたいです。

それと今年度、本事業に参画してくださった自治体・支援機関の皆さんは、スタートアップに負けないくらい強い熱量をお持ちでした。そうした人たちから意見もいただきながら、あいち広域エコシステムの絵を描いていきたい。本事業は愛知県が実施していますが、地域の皆さんのための事業でもあるので、一緒につくっていければと思います。

――高木さんは、どのようにお考えですか。

高木氏: 本事業の目的はあいち広域エコシステム形成を目指したものではありますが、地域の皆さんにスタートアップに関わっていただくことが非常に重要です。今年度は、ワークショップや共創プログラムを通じて、スタートアップと接点を持っていただき、スタートアップへの理解度が高まったと思います。また、複数の市町村が一体となりスタートアップを支援するという体制や、地域とスタートアップと共創をすすめていく土台ができ、市町村同士の横のつながりもできました。この点は、とてもよかったと思います。

来年度は、このつながりを強化することと、先ほどお話に出た地域の金融機関・商工会・商工会議所・教育機関など新しいプレイヤーも巻き込んでいくことに注力していきたい。巻き込んでいくにあたって、まずはスタートアップに触れていただく機会を私たちの方でつくる。「スタートアップは自分たちの身近な課題を解決してくれるんだ。もっと関わっていこう」という意識が芽生える機会を増やしていきたいと思います。


取材後記

昨年度、東三河地域でスタートしたあいち広域エコシステム形成に向けた取り組みが、今年度は愛知県全域へと広がり、ネットワークが着実に拡大している様子が伝わってきた。来年度は、さらに多くのプレイヤーを巻き込み、スタートアップ・エコシステムを発展させていくという。事業会社・金融機関、それに自治体、多様なプレイヤーが関与する愛知県のスタートアップ・エコシステムは、起業家にとって心強いものになるのではないだろうか。起業を目指すのであれば、ぜひ愛知県に注目してほしい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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