“充電不要”プロダクトで世界をリード。スウェーデン発ユニコーン「Exeger」は何がすごいのか
近年、「充電不要」のプロダクトが次々に市場に登場している。スウェーデンのライフスタイルオーディオブランドUrbanistaは、2021年4月、充電不要のワイヤレスヘッドフォン「Urbanista Los Angeles」を発売。adidasもまた、2022年9月に充電不要のスポーツヘッドフォン「The adidas RPT-02 SOL」を発売した。
先進的な取り組みとして「Urbanista Los Angeles」は世界的に注目を浴び、「レッド・ドット・デザイン賞 2022」や米TIMEの「Best Inventions 2022」を受賞している。
▲「Urbanista Los Angeles」の国内代理店エム・エス・シーのプレスリリースより
2社の製品に使用されている太陽電池が、スウェーデン発ユニコーン「Exeger」(エクセジャー)が開発した「Powerfoyle」(パワーフォイル)だ。従来の太陽電池と比較して約1000倍も高い導電率と、どんなデザインにも溶け込むテクスチャを併せ持つ。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第37弾では、日本との共創にも取り組む「Exeger」に対面インタビュー。市場を牽引する独自性とはーー。
強みは「導電率の高さ」と「カスタマイズ性」
2009年にスウェーデンで創業したExegerは、現在、企業価値が10億ドル(約1400億円)を超えるユニコーンに成長している。BtoBで太陽電池を提供する同社は、数々のグローバル企業と提携し、充電不要のプロダクトを世に送り出している。2019年にはソフトバンクグループがExegerに出資しており、その子会社のSBエナジーとは戦略的パートナーシップを締結している。
筆者は、11月16日〜18日にパシフィコ横浜で行われた展示会「EdgeTech+ 2022」で、ExegerのCOO、兼Deputy CEO(副社長)のGeorgios Foufas氏と対面。インタビューを実施した。
▲来日したExegerのメンバー3名と戦略的パートナーシップを締結するSBエナジーの木村和哉氏(写真右)。Georgios Foufas氏は左から2番目
Exegerの次世代太陽電池「Powerfoyle」は、従来の太陽電池にはない2つの強みを備える。1つは、導電率が約1000倍も高いこと。同社のセルはまったく新しい太陽電池の技術を採用しており、200を超える特許を世界中で持っている。そのため、他社のように複数のセルを直列接続する必要性がなく、セルの一部が隠れていても発電する。
▲100種類以上のパターンがあるうえに、製品デザインに合わせてカスタマイズもできる
もう1つは、どんなテクスチャにも変化するカスタマイズ性だ。1ミリの薄いプラスチック状のPowerfoyleは、表面にテクスチャを施せるため、どんなデザインにもマッチする。同素材を使ったプロダクトは、いずれもシームレスに太陽電池が溶け込んでいて仕上がりが美しい。
adidasに日清紡マイクロデバイス、グローバル企業と共創
近年、Powerfoyleが採用された充電不要のプロダクトが、続々と誕生している。スウェーデンのライフスタイルオーディオブランドUrbanistaが、2021年4月に発売した「Urbanista Los Angeles」は、Powerfoyleを採用した世界初の充電不要ワイヤレスヘッドフォンとなった。
▲世界で高く評価されているワイヤレスヘッドフォン「Urbanista Los Angeles」
当時、小さなオーディオブランドだったUrbanistaとコラボした理由は、「オフィスが隣同士だったから」とFoufas氏。コロナ禍真っ只中で海外渡航ができず、近隣のご縁でコラボにいたったそうだ。
▲Urbanistaから、まもなく発売が予定されている充電不要のイヤフォン「Phoenix」(Exegerのプレスリリースより)
UrbanistaからはPowerfoyleを採用したイヤフォンも発売予定で、こちらも発売前から多くのメディアで紹介されている。
▲adidasの新製品「The adidas RPT-02 SOL」は、環境に配慮され長持ちする設計だ
この秋に発売されたadidasの新製品、充電不要のスポーツヘッドフォン「The adidas RPT-02 SOL」もまた話題性のあるプロダクト。環境への配慮が特徴的で、製品の51%がプラスチックで構成され、そのうち87%が使用済み再生PC-ABSと再生ナイロン (電子部品のプラスチックを除く)だ。
Foufas氏によれば、世界中のメディアがこれらの製品を紹介したため、「Urbanista Los Angeles」と「The adidas RPT-02 SOL」の関連記事の総リーチ数は30億以上だったとか。
▲adidasのアプリを使用すると、獲得・消費した電力や現在の充電量が把握できる
今回、1週間にわたり「The adidas RPT-02 SOL」を体験してみたところ、充電不要で使用できた。光が当たる窓際に置いておくと1日2%ほど光充電され、野外で使用すると、さらに充電効率がいい。毎日1〜2時間の使用なら通常の充電は必要なさそうだ。1日の使用時間が長い、曇りや雨の日が続くなどの場合、いずれケーブルでの充電が必要になるかもしれない。
▲Powerfoyleを採用したリモコンも。一体化したデザインはExegerの技術があってこそ
2022年9月には、シンガポールのリモコンメーカー「Omni Remotes」からPowerfoyleを採用したリモコン「Model P+」も登場。質感が統一されていて、デザインとしての完成度は非常に高い。リモコンは消費電力が少ないため、室内光で十分に充電できるそうだ。現在は企業中心に販売されているが、2023年には一般販売されるだろうとFoufas氏は話した。
▲日清紡マイクロデバイスが開発中のメンテナンス不要のIoTデバイス(Exegerのプレスリリースより)
日本企業との共創も加速している。日清紡マイクロデバイスでは、屋内環境向けに最適化された Powerfoyle Indoor太陽電池を採用した、メンテナンス フリーのIoTデバイスを開発している。温度、湿度、気圧、照度、3軸加速度などのデータを取得し、PCなどに送信できる。
▲展示会で披露された、複数の日本企業と共同開発したトラッカー(写真提供:Exeger)
今回の展示会では、セムテック、立花電子ソリューションズ、日本ガイシ、Exegerで共同開発したトラッカーも披露した。屋内ではWi-Fi、屋外ではGPSとつながり、常に追跡が可能だ。子どもの安全確保や社員の居場所把握などへの活用が想定されている。
社員は約220名。ストックホルム市街に第2工場を建設中
イノベーション大国スウェーデンで生まれたExegerは、ストックホルム中心部に拠点と第1工場を構え、第2工場もまたストックホルム中心部に建設中だ。社員数は約220名に拡大している。
通常、工場は郊外に建設されるのが一般的だが、Exegerの工場はそうではない。そのメリットをFoufas氏はこう説明した。
「市街に工場建設が許可されるのは、生産過程で有害な物質が排出されないことの証明です。中心地に工場があることは雇用に有利であり、世界中から優秀な人材を集めることが可能です。第1工場と第2工場と合わせて最大250万平米と大規模な生産能力で、完成後は多くの従業員を採用する予定です」(Foufas氏)
▲大規模な工場を都心に構え、そのメリットを最大限に活かす戦略だ(写真提供:Exeger)
現在までに、Exegerが正式に公表しているパートナーシップは7社。だが、水面下で動いている未公表のプロジェクトが多くあり、世界のビッグネームとのコラボも控えているとのこと。この工場が完成すれば、Powerfoyleを使用した充電不要のプロダクトが、より広く流通することになるだろう。
太陽電池の「インドア」と「ハイブリッド」を牽引
ヘッドフォンを中心にプロダクトが話題となり、知名度が急上昇しているExeger。特に引き合いが強いアメリカとヨーロッパはもちろんだが、日本もまた重要な市場と位置づけているという。
「日本は、近年サステナビリティが非常に重要視されています。エレクトロニクスの分野で世界的に成功している家電メーカーもあります。日本の品質の良さと革新性は世界的に認められており、私たちはそのような価値観をすばらしいと感じています」(Foufas氏)
展示会を含め1週間にわたって日本に滞在したFoufas氏は、多忙なスケジュールを縫って潜在顧客とミーティングを重ねたそうだ。「日本とのパートナーシップをさらに強化したい」と期待を寄せた。
▲筆者の取材が終了してすぐ、Foufas氏は展示会の参加者と商談していた
「私たちは、太陽光発電所やアウトドア用のソーラーパネルには注力していません。強みとするのは、インドア、あるいはインドアとアウトドアの両方で使えるハイブリッドであり、この2市場においては、すでに世界のマーケットリーダーであるといえます。2023年には、IPOの準備をすることが取締役会で決まりました。ラスベガスで開催されるCES 2023にも出展し、新たなパートナーシップを発表する予定です」(Foufas氏)
独自性を武器に世界展開を加速させるExeger。来年のCESでどんな発表があるのか、期待がふくらむ。
編集後記
プロダクトを手に取りながら、一つひとつ熱心に紹介してくれたFoufas氏。今回、Powerfoyleが採用されたadidasの製品を使用してみて、充電不要がいかにストレスフリーであるかを実感した。日清紡マイクロデバイスが開発しているIoTデバイスも、多くの活用シーンが想定される。現代人の充電の悩み解消と同時に、環境負荷の削減にも大いに貢献するはずだ。