2021年のスタートアップ資金調達は7801億円―「最新動向レポート」から見るVC市場のトレンドとは?
政府は2022年11月に開催された「新しい資本主義実現会議」の会合で、スタートアップ企業への投資拡大を目指す「スタートアップ育成5か年計画」を決定した。同計画では、スタートアップ企業への投資額を、今後5年間で、現在の8000億円規模の10倍以上となる10兆円規模に拡大する。
同会合で岸田総理は、「スタートアップは社会的課題を成長のエンジンへと転換して、持続可能な経済社会を実現する新しい資本主義の考え方を体現する」と述べたという。
今後の日本の成長を牽引する存在として期待が集まるスタートアップ企業。では、資金提供や経営支援を通してスタートアップ企業を下支えするベンチャーキャピタルの動向はどのような状況になっているのだろうか?
――そこで本記事では、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)が公開している「ベンチャーキャピタル最新動向レポート(2021年度)」(※)を引用しながら、ベンチャーキャピタル市場のトレンドについて紹介していく。
※一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会ホームページ「VC投資動向」より(2022年9月公開) https://jvca.jp/research/31511.html
スタートアップの資金調達の大型化が顕著
まずは「スタートアップ調達状況(資金調達額・調達社数推移)」について見ていきたい。以下図に示されているように、スタートアップ企業の資金調達額は、コロナの影響で2020年に前年を下回ったものの、2012年以来は右肩上がりで増加傾向にある。最新データである2021年は7081億円となっており、直近10年間で最も大きな調達額と言える。
調達社数は2018年をピークに減少傾向にあり、2021年は1919社となっている。しかしながら、以下図で示されているように、1社あたりの資金調達額は上昇傾向にあり、2021年は平均3億円を超えた。資金調達の大型化が顕著になっている。
「STARTUP DB」が公開している2021年度の資金調達ランキングを見ると、1位はSpiberで394.6億円、2位はスマートニュースの251億円、3位がTBMの188.2億円となっている。なお、現時点での2022年度資金調達ランキングは、1位の自然電力が744.4億円、2位のUPSIDERが621.3億円、3位のアルムが247.5億円と、昨年度を超える大型化の傾向が見られる。
次に、投資家タイプ別投資額の推移を見ていきたい。2021年はVCによる投資額が3899億円となっており、2020年の2150億円からほぼ倍増している。一方で、海外法人による投資額も大きく増加している点も特徴的だ。
IPOした約半分が、VC出資企業
VCファンドレイズについては以下図のようになっている。金額ベース、ファンド設立数ベースの双方において、独立系VCが約40%、金融系VCが約25%を占めている。その一方で、事業会社系のVCであるCVCや大学系VCの存在感も増してきていると言えるだろう。
大学系VCについては、「令和3年度大学発ベンチャー実態等調査」を解説した記事(※)でも紹介したが、東京大学では、2016年には「東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)」を設立し、スタートアップ投資を活発化させている。また、「2019年度からの大学発ベンチャー起業増加率ランキング」で1位となっている東京理科大学では、ベンチャー出資機能を担う東京理科大学イノベーション・キャピタルを2018年11月に設立している。
※参考記事:1年で401社増加し、地方での起業も活発に。最新調査から読み解く大学発ベンチャーの「現在地」
最後にEXIT環境であるIPOマーケットを見ていきたい。以下図のように、2021年のIPO社数は125社となっており、前年の93社を大きく上回った。その中でもVCが出資している社数が全体の約半分を占めている。VCによる出資が増加傾向にあり、スタートアップ企業の資金調達額が大型化している現状を鑑みると、今後IPO社数はさらに増えていくと考えられる。
編集後記
日本経済新聞は2022年9月に掲載した「国内ベンチャーキャピタル、ファンド作り「困難に」7割」という記事において、以下のように指摘している。
世界的なインフレやウクライナ問題、そしてコロナ禍など、先行きが見通しにくい社会情勢が続き、ビックテックによる大量解雇も始まっており、市場環境は明るいとは言えず、投資家が慎重な構えを見せる気配も感じる。その一方、冒頭で触れたように、政府によるスタートアップ企業への投資拡大を目指す計画などを決定しており、国内におけるスタートアップ企業の裾野がさらに広がっていくことも十分に考えられる。国内市場においてスタートアップ企業がさらに存在感を増した際、今後VCはどのような動向を見せていくのか。引き続き、注目していきたい。
(TOMORUBA編集部)