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「SIMの仮想化テクノロジー」はどんな価値を生み出すのか? IIJがスタートする共創プロジェクトの狙いとは?

「SIMの仮想化テクノロジー」はどんな価値を生み出すのか? IIJがスタートする共創プロジェクトの狙いとは?

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1992年に日本初の商用インターネットサービスプロバイダー(ISP)として設立された株式会社インターネットイニシアティブ(以下、IIJ)は、日本のインターネットの発展と共に成長し、現在では約13,000社の顧客に対して総合的なネットワークソリューションを提供している。

IIJは、2018年に独自のSIMカードの調達・発行が可能なフルMVNOとなり、SIMの仮想化に関する様々な技術開発に取り組んできた。そしてこの度、IIJはSIMの仮想化テクノロジーを用いた新たなIoTビジネス創出を目指すべく、「IIJ IoT BUSINESS DEVEROPMENT PROJECT」を立ち上げ共創パートナーの募集を開始した(下記事例のようなビジネス創出をイメージ)。

【事例①】 スマートホーム / 高齢者の見守りサービスによるビジネス創出

【事例②】 子供の見守りサービスによるビジネス創出

【事例③】 シェアリングを活用したビジネス創出

【事例④】 監視カメラ / ドライブレコーダーを活用したビジネス創出

【事例⑤】 自治体連携によるビジネス創出

そこでTOMORUBAでは、11月24日のエントリー受付開始に先立ち、同プロジェクトのカウンターパートとなるIIJ MVNO事業部の中村氏、三浦氏、杉野氏へのインタビューを実施。IIJが有するSIMの仮想化をベースとするテクノロジーやプロジェクトの目指すゴール、これまでに取り組んできた共創事例、共創パートナーのイメージなどについて詳しくお聞きした。

仮想化テクノロジーが用いられた、様々なSIMの形態

――まずは今回の共創プロジェクトのポイントとなる「SIMの仮想化テクノロジー」について教えてください。

三浦氏 : 最初にSIMの概念について説明します。今では「格安SIM」という言葉をよく耳にするようになりましたが、1990年代の携帯電話にSIMは入っていませんでした。その後、開発者たちが世界中でデバイスを売るために、デバイスから通信に必要な情報をSIMカードへ移動し挿替えて使えるように、デバイスとキャリアを分離できるSIMカードを作ったのです。

クレジットカードはスマートカードと呼ばれるICチップ入りカードに決済などに必要な金融プロファイルが書き込まれていますが、SIMにも同じように通信プロファイルと呼ばれる通信に必要な様々な情報が書き込まれています。また、SIMは単なるメモリーではなく、CPUやファイルシステムを内包し、情報のセキュリティを担保する耐ダンパー性も備えた小さなコンピューターとして機能しています。

そして、あらゆるコンピューターが仮想化できるようにSIMも仮想化することができます。こうしたSIMの仮想化テクノロジーをベースとしているのが、当社の「SoftSIM」や「マルチプロファイルSIM」という製品です。

機能や振る舞いはeSIMと言われるものに似ています。


▲株式会社インターネットイニシアティブ MVNO事業部 ビジネス開発部 シニアエンジニア 三浦 重好氏

――eSIM、「SoftSIM」「マルチプロファイルSIM」の概要についても教えていただけますか?

三浦氏 : eSIMは以前から存在しているSIMの拡張系です。複数のSIMのイメージをeSIMと呼ばれる箱(ICチップ)の中に入れおくことで、状況に応じて使用する通信キャリアを切り替えながらデバイスを使うことができます。現在でも一部のスマートフォンやスマートウォッチがeSIMに対応しています。

「SoftSIM」は、通信モジュール内のセキュアな領域に存在する仮想化されたSIMへ通信プロファイルを直接書き込むことで物理的なSIMカードなしでの通信を提供する製品です。物理的なSIMカードが不要になるため、製品開発のコストが下がり、SIMカードの装着に必要とされるスロットスペースの削減を期待できるほか、故障率も大幅に低減します。

「マルチプロファイルSIM」は1枚のSIMカードに複数の通信プロファイルを事前に書き込んでおき、必要に応じて通信に用いるキャリアを切り替えられる製品です。デュアルSIMのように複数のSIMスロットを必要としません。考え方はeSIMと似ていますが「マルチプロファイルSIM」は既存のデバイスでもソフトウェアにちょっと手を加えると、Dual SIM Socketのデバイスの様に利用できます。

IIJは、日本で7社しかない「SIMを製造・発行できる事業者」のうちの1社

――貴社がSIMの仮想化テクノロジーに取り組むことになったきっかけについて教えてください。

三浦氏 : IIJが2018年にフルMVNOとなったことが大きいですね。フルMVNOの最大の特徴は、MNOと呼ばれる大手通信キャリアと同じように自前でSIMを作って発行できる権利を有していることです。現在、日本でSIMを製造・発行できる会社はMNO4社と私たちIIJを含むフルMVNO3社、合計7社のみということになります。

中村氏 : ここ数年、日本ではライトMVNO(MNOから発行されたSIMをユーザーに提供する事業者)であっても、海外ではフルMVNOとしてSIMを作る事業者も増えきているなど、SIMを作るハードル自体は下がりつつあります。しかし、SIMの管理装置は非常に高額であり、取り扱いには技術的な知見・素養も必要となります。以前より垣根は下がったかもしれませんが、フルMVNOに参入する事業者が少ない最大の理由はそこにあります。


▲株式会社インターネットイニシアティブ 理事 MVNO事業部 副事業部長 中村 真一郎氏

――そのようなコスト面・技術面のハードルがある中、貴社がフルMVNOとなった理由・狙いはどこにあったのでしょうか?

中村氏 : IIJとして、お客様への価値提供力を高め、お客様のビジネスを成功に導けるような会社となるためにフルMVNOとなったのだと考えています。

当社も以前はライトMVNOでしたが、ライトMVNOはMNOから発行されたSIMをユーザーに提供する事業者です。ライトMVNOは様々な制限があり、痒いところに手が届くようなサービス要素を自由に付加することができませんでした。しかし、SIMを製造・発行できるフルMVNOになれば、デバイスに装着されたSIMを、いつアクティブにするか、どんな場合にサスペンドするか、どんなタイミングで課金するか、といったことに関して自分たちでコントロールできるようになります。

SIMの機能やサービス要素を自分たちで決められるようになれば、当然、お客様の多様なご要望にもお応えしやすくなり、お客様の実現したいビジネスモデルに寄り添うような提案もできるようになります。そのような様々なお客様のニーズを実現する最適解の一つとして生まれたのが「SoftSIM」や「マルチプロファイルSIM」という製品です。

お客様の事業成長・課題解決に貢献できる事例・サービスの創出を目指す

――今回、貴社がSIMの仮想化テクノロジーを用いた新たなIoTビジネス創出を目指す「IIJ IoT BUSINESS DEVEROPMENT PROJECT」を実施することになった背景や、目指したいゴールについて教えてください。

中村氏 : 「通信機能付きのデバイスを作りたい」というお客様に対して、SIMカードを提供することだけにとどまっていたのが、これまでの当社のIoT領域におけるビジネスでした。もちろん、当社はこのようなビジネスを生業としてきましたし、今後も重要な事業領域の一つであり続けると思います。

しかし、先ほども申し上げたように、世の中にIoTが浸透しつつある現在では、お客様のニーズも多様化しています。たとえばエンドユーザーにとってネットにつながる家電は非常に便利なものですが、「回線関連のビジネスまで自社で抱えたくない」という家電メーカー様も少なくありません。また、製品に通信機能を搭載したものの、通信機能の切り替えが必要になった場合、製品を分解してSIMを入れ替える手間がかかります。「IoTを推進したいものの、そこまで工数をかけずにもっと簡単にやりたい」と考えているメーカー様もいらっしゃいます。

お客様がこのような様々な課題・ペインポイントを抱えていたとしても、当社が単純にプラスチックSIM(従来のSIM)を売るだけのビジネスをしている会社だと見なされれば、抱えている課題について相談してもらうことすらできないでしょう。

――確かにその通りかもしれませんね。

中村氏 : プラスチックSIMの販売・提供は、当社にとって大事なビジネスの一つではありますが、少なくともコネクティビティのビジネスモデルに関しては、お客様の様々な課題を解決できるようなパートナーになりたいと考えています。もちろん、そのためにはお客様の課題に対して踏み込んでいく力が求められますし、メーカー様の製品企画段階・設計段階から私たちが積極的に関わっていく必要があります。

当然、お客様の企画・設計段階から参加させていただくためには「IIJさんは何ができるの?」という問いに答えなければなりません。そこで今回のようなプロジェクトを通じて「IIJはこんなこともできます」という事例を増やすとともに、社外の方々と一緒になってお客様の事業成長や課題解決に貢献できるようなサービスラインナップを作っていきたいと考えています。


▲従来からの支援内容に加え、「SIMの仮想化テクノロジー」を活用することで新たなビジネスを創出する。

「スマートフォンありき」のビジネスモデルを脱却し、新しいことに挑戦したい

――今回のプロジェクトではこれまで取り組まれた5つの事例を参考として記載しています。すでに他社との共創が進んでいるサービスもあるとお聞きしていますが、いくつか詳細を教えていただけますか?

【事例①】 スマートホーム / 高齢者の見守りサービスによるビジネス創出

【事例②】 子供の見守りサービスによるビジネス創出

【事例③】 シェアリングを活用したビジネス創出

【事例④】 監視カメラ / ドライブレコーダーを活用したビジネス創出

【事例⑤】 自治体連携によるビジネス創出

杉野氏 : コンシューマ向けの製品では、子どもを見守るGPS機能搭載端末に当社の「SoftSIM」が採用されています。例えば、カー用品メーカー様が開発した端末は、電子ペーパーの画面を搭載しているため、簡単なメッセージの送受信も可能です。このようなGPSトラッカーに関する案件は、ここ2、3年でかなり増えてきています。

少し業界の違うところでは、ヘルスケアソリューションを展開されている会社様が開発したスマートバンドがあります。病院や介護施設で取得した利用者の情報をアプリ等で確認でき、現場の方の負担を軽減するソリューションです。こうした見守り系のソリューションにはバッテリー搭載の端末が使われます。、そのため、低消費電力通信のLTE-Mを活用いただくことで、低消費電力で通信ができるとともに、通信モジュールのコストも抑えられているという特徴があります。

一方で、高速通信のユースケースでは防犯・監視カメラなどでの採用事例も増えています。


▲株式会社インターネットイニシアティブ MVNO事業部 ビジネス開発部 主任 杉野 弘明氏

三浦氏 : シェアサイクル会社のサービスにも、当社のeSIMが導入されています。一般的なシェアサイクルといえば決まった場所で借りて、決まった場所に返却する必要がありますが、当社のeSIMをスマートキーに搭載したシェアサイクルでは、もっと自由なスタイルで乗り降りができるほか、スロットイン型のSIMカードで発生していた故障などのトラブル数も減少しています。

――今挙げていただいた事例以外にも、「こんな使い方もできるのではないか」と考えていることはありますか?

三浦氏 : 今はスマートフォンが世の中にあふれており、様々なデバイスがスマートフォンをハブにしてクラウドにつながることで成立するサービスやビジネスモデルがたくさん存在しています。

しかし、私たちとしてはスマートフォンなしで、デバイスが独自にインターネットにつながることで、今以上に便利で快適な世界を作りたいと考えています。常識となりつつある「スマートフォンありき」のビジネスモデルを取っ払って、新しいサービスを生み出してみたいですね。

杉野氏 : 自治体や企業様の期待にお応えすることはもちろんですが、個人的には直近の社会課題に対応できるような活用方法にもチャレンジしていきたいです。

たとえば日本では少子高齢化による労働人口の減少が問題視されています。その解決策の一つとして外国人労働者の受け入れが検討されていますが、たとえ日本語によるコミュニケーションが覚束ない方が働いていたとしても、機械的に状況を判断して指示を出せるようなIoTシステムがあると便利ですよね。また、工場などでの事故・トラブルを未然に防ぐようなIoTシステムがあれば、高齢の方々が働き続けられるような環境作りにも役立つと思います。


▲IIJは様々な領域において連携実績がある。

IIJにはなかった視点・切り口・アイデアを持ったパートナーと出会いたい

――共創したい企業・スタートアップのイメージについて教えてください。

中村氏 : これまでの私たちは「インターネットにつながりますよ」「セキュアにつながりますよ」といった部分に注力してビジネスを展開していましたが、世の中のメジャーなビジネスフィールドは、コネクティビティでデータを取得した後の領域に移っています。取得したデータをいかに加工し、いかにビジネスに活かすか、という領域の方が遥かに大きなマーケットになっていくことは確実です。

これまで私たちが進めてきた「徹底的にコネクティビティを付けて、データを取得しましょう」というビジネスですが、さらに加速化させていきたいと思います。

ユーザの立場からは今より自由にコネクティビティを利用でき、メーカの立場からはモノ作りに集中できるようなサービスモデルもその1つです。

例えば、今回開発したeSIMLPABridgeは、IoT機器にコンシューマeSIMを利用できるようにするソリューションです。自社のデバイスでeSIMを自由に使えるようにしたい、そんなデバイスを開発したいとお考えのメーカ様やサービス提供事業者様と連携させて頂きたいと思っています。

また、せっかくそのようなデバイスを作るなら、国内のみならずグローバルを視野にチャレンジしたいと考えている人たちと共創したいと考えています。

――最後になりますが今回のプロジェクトに興味を持っている方々、IIJさんと共創したいと考えている方々へのメッセージをお願いします。

中村氏 : 5Gが始まった当時は、国内の通信キャリアも多くの企業と協業していました。5Gを利用できる環境を整えたものの、「どのように活用すべきか」という応用分野を広げたい思いがあったためです。

今の私たちも同じ状況です。SIMの仮想化をベースとするeSIM、「SoftSIM」、「マルチプロファイルSIM」をより良く活用できる分野について、まだまだ開拓しきれていないと考えていますので、私たちにない視点やアイデアを持った方々と出会うことで面白い取り組みができればいいなと思っています。

杉野氏 : 私も同じです。自分たちが気付いていないことを気付かせてくれるような方々と共創することでシナジーを生み出せれば最高ですね。

三浦氏 : 私たちIIJも30年前はベンチャーでした。それから時が経ち、最近では世間からベンチャーとして扱ってもらえないことも増えましたが、私たちの立ち位置自体は常にベンチャーであると考えています。今では少しだけ大きくなったのでベンチャーの皆さんをサポートできる体制も整っていますし、本音としては「やんちゃな人たちの意見をもっと聞きたい」と思っています(笑)。ぜひ企業規模の壁を感じることなくエントリーしてください。

また、企業フェーズとしてのベンチャーだけではなく、大企業の中のベンチャー集団や新規事業プロジェクト等に携っている方々も大歓迎です。「今の世の中の常識や慣例に疑問を感じている」「ここを少し変えるだけで新しいものを生み出せるのではないか」、そんなことを考えている方々と出会い、お互いに良い刺激を与え合えればいいなと考えています。


取材後記

インタビュー中に三浦氏が語っていたように、現在、国内でSIMを製造・発行できる権利を持つ会社はIIJを含めて7社しか存在しない。さらに同社はSIMの仮想化に関連する高度な技術力と独自製品を有している。今回のプロジェクトで共創するパートナー企業(スタートアップや大企業の新規事業セクション/社内ベンチャー)は、同社の貴重なアセット・リソースの提供を受けながら共創に取り組むことができるだろう。

SIMの仮想化テクノロジーをベースとするイノベーションの可能性は、プロジェクトの募集テーマとして設定されているIoT領域を中心に、様々な分野・領域に広がっていると言えそうだ。同社との共創を通じて自社のビジネスをスケールさせたいと考えている方や、SIMの仮想化テクノロジーを通じて社会課題の解決にチャレンジしたいという方は、ぜひエントリーを検討してほしい。

※「IIJ IoT BUSINESS DEVEROPMENT PROJECT」についての詳細は以下をご覧ください。

https://eiicon.net/about/iij-development-pj2022/

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)

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