【連載/4コマ漫画コラム(28)】オープンでイノベーションを生んだ小さな事例② ~インドのNPOとの素晴らしい活動~
前回に引き続き、私が関わった「オープンでイノベーションを生み出そうとした小さな事例」を紹介します。(ごちゃごちゃした言い訳は前回を読んで下さいね)
【事例2】BOP project
今回ご紹介する事例は「BOP project」です。BOPとは「Base of the Pyramid」の略で、世界の人類70億人をピラミッドに喩えて、その底辺にいる約40億人もの「貧困の人々」の層を指します。このBOPが、これからの人類にとっても会社にとっても、そして私個人にとっても大事な領域であることは間違いないと確信して、社内で組織を横断したプロジェクトを立ち上げました。
本当に色々なことがありました。参画した社内の若手メンバーにも、私にも、そしてprojectを行った現地(インド・ビハール州)の方々にも人生を変えるくらいの大きな影響がありました。このプロジェクトから生み出した「女性による女性のためのお店『Women’s Shop』」は、現在、60店舗を越えて拡大中です。
このBOP projectの話をちゃんとすると2時間あっても足らないくらいなので、今回はその中から特に「企業とは文化も活動も考え方も異なるNPOとの付き合い方」について話をしたいと思います。
当たり前で当たり前でない基本ポリシー
BOPという概念は本などで知っていましたが、行ったことも見たこともありませんでした。そのため、社内でprojectを作った当初から「現地主義」と「Whatは後で考える」をポリシーとしました。通常、日本の製造業がBOPでやろうとすることは「今の自社の製品のどこをどのように変えて(大抵は機能や性能を落として)、いくらまで値段を下げると売れそうか」というマーケティング活動になりがちです。でも、それではダメだと当初から思っていました。そこで「現地を知ること」と、「最初から何を売るかは決めないこと(これが『Whatは後で考える』です)」をprojectの基本ポリシーとしました。現地で現地のことや人を理解し、現地の人の事業を立ち上げてから、自社でそれに対して何ができるかを考え、その後、やっと自社のビジネス(商品やサービス)を考えよう、ということをステップとして決めました。
「知らない」のだから、こういうステップが必要となるのは当たり前だと思っていました。そして、ある時手にした本「未来をつくる資本主義」にも同様のことが書いてあるのを発見して、「ほら、本にも書いてあるくらい当たり前のことなんだよ」と、メンバーや周りを説得する材料に使いました。(ただ、だいぶ経ってから、「そんなまどろっこしいやり方をまともにやっている企業は世界中でも殆どないし、日本では皆無に近い」ということを知りましたが……)
パートナー(NPO)との土台作り
様々な検討を行い、projectはインドで行うことにしました。もちろん自分たち日本の企業だけで現地のprojectはできるはずはなく、これも奇跡のようなことが重なって、超素晴らしいインドのNPO、Drishteeと出会いました。
Drishteeとインドで実際に会う前に何度も電話で会議をしました。その際、前述のポリシー「Whatは後で考える」を説明したのですが、どうしても納得してくれない。彼らは既にアメリカなどの先進国の企業との付き合いの経験が沢山あり、全ての企業が「インドで試したい商品(つまり『What』)」があって、そのテストや調査の協力をDrishteeに頼んでいたからでした。「違う、違う、そんなやり方では本質的なところを理解しないままになってしまう」と、私は電話にむかって一生懸命説明しました。そうすると、「そのとおり。私たちもお前が言っているのが本当のやり方だと思う。実は私たちもそう思っているのだけれど、先進国の企業はなかなか理解してくれなかった」と同意してくれました。
ところが、日を開けて、電話会議をすると「でも、実は『試したい商品』があるのでしょ?」と何度も最初に戻ってしまいました。先進国の企業ってそういうものだという刷り込みがされてしまっていたのでしょう。
そうやって何度も何度も同じ話をして、やっと理解をしてもらい、それがしっかりとした土台となって、その後の長い付き合いが始まりました。この段階に長い時間をかけたのが本当によかったと思います。
無理なこともある
もちろん、全てのNPOがしっかり話さえすれば「共通の土台」が作れるわけではありません。私たちは「ビジネスこそが『持続性』を作り、世界を変える」という信念を持っていましたが、(言葉は悪いですが)「原理主義的なNPO」は「企業は悪者だ。ビジネスが金の亡者を作る」と思っているところも多く、そういうNPOとはいくら話をしても長期にわたる良いパートナーシップを構築することは困難です。ホームページで活動内容やメッセージなどを見て「ビジネス」に対する見解を事前にチェックしておくことが重要です。
個人的エピソード
やっぱりこのプロジェクトの話を書こうとすると、あっという間に文字数を使い果たしてしまいました。
最後に、完全に私個人のエピソードを。
3年前に会社を辞めて独立することを決めた時に、Drishteeのメンバーに直接そのことを伝えたくて、インドに行きました。プロジェクトを行っている村は、飛行場から数時間車で行った所にあるのですが、その道中で幅が約2kmもあるガンジス川を渡った時に「ガンジス川を渡ったから言う訳じゃないんだけど……実は会社を辞めるんだ」と伝えました。そしたら、横に座っていたDrishteeの女性が大きな声で「えー!!」と驚いた後、たった2秒後に、「じゃ、ウチ(Drishtee)に来る?」と言ってくれたのが、今もとても嬉しく誇りでもあります。
その話を帰国後に家族に伝えたら、「どうぞ、お一人で」と言われましたが(^o^;)。
▲インド・ビハール州の農村部にて
■漫画・コラム/瀬川 秀樹
32年半リコーで勤めた後、新規事業のコンサルティングや若手育成などを行うCreable(クリエイブル)を設立。新エネルギーや技術開発を推進する国立研究開発法人「NEDO」などでメンターやゲストスピーカーを務めるなど、オープンイノベーションの先駆的存在として知られる。