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湘南・鎌倉エリアに「地域生活」と「観光」の共存する未来を!江ノ島電鉄とともに描く新しい観光地のカタチ【BAK NEWNORMAL PROJECT 2022】

湘南・鎌倉エリアに「地域生活」と「観光」の共存する未来を!江ノ島電鉄とともに描く新しい観光地のカタチ【BAK NEWNORMAL PROJECT 2022】

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コロナ禍による外出規制が一時期より緩和され、観光地は賑わいを取り戻しつつある昨今。多くの観光地にとっては嬉しいニュースである一方、一部の観光地では「オーバーツーリズム」が課題となっている。著しく多くの観光客が訪れることにより、交通渋滞、騒音やゴミのポイ捨てなどのトラブルが発生する現象だ。

湘南・鎌倉エリアもオーバーツーリズムに悩まされる観光地の一つ。長年同エリアの移動を支え、地域住民に愛されてきた江ノ電(えのでん)を運営する江ノ島電鉄株式会社は、その問題を無視することができない。

人が集まる時間や場所を分散させることで、来訪者の分散を図る施策を展開し、住民にも観光客にも優しい地域づくりに貢献している。しかし、それらの取り組みで問題を解決したとは言えないのが現状だ。

新たな解決策を講じるため、神奈川県主催の「ビジネスアクセラレーターかながわ(通称:BAK(バク))」にパートナー企業として参画し、共創相手を募集する。今回は同社の経営管理部に所属する3名にインタビューを実施し、同社の解決したい課題や背景にある想い、連携可能なアセットやリソース、協力体制などを聞いた。

【上画像/中央】江ノ島電鉄株式会社 経営管理部 課長 関口 純 氏

【上画像/右】江ノ島電鉄株式会社 経営管理部 チーフ 三田 諒子 氏

【上画像/左】江ノ島電鉄株式会社 経営管理部 チーフ 佐々木 卓 氏

加熱するオーバーツーリズム、混雑緩和とマネタイズポイントの増強が急務

――今回、「地域生活/観光の両立が求められる 湘南・鎌倉エリアで、賑わいや回遊を生み出す」という共創テーマを提示されました。背景にある、地域の課題や自社の課題についてお伺いしたいです。

関口氏: 江ノ島電鉄は、湘南・鎌倉エリアで鉄道・バス事業といった公共交通事業を中心に事業を展開しています。このエリアの地域課題からお話をすると、コロナ前から多くの観光客の皆さまにお越しいただいておりました。以前から観光客の数が多いことに加え、昨今ではテレワーク等の追い風もあり、居住地としての人気も高まったことから、地域内人口も増加しています。


交通網のキャパシティを超えて、観光客や住民の皆さまが自家用車で流入すると、どうしても交通渋滞が発生してしまいます。最近では、コロナ禍もあり密を回避するために、自家用車で来訪される方も増えたことで、交通渋滞が更に深刻な課題となってきました。

――交通渋滞の深刻化によって、どのような弊害が生じるのでしょうか。

関口氏: 交通渋滞の発生により、緊急車両の通行や市街地への物流に支障が出ます。また、私たちの事業でいうと、公共交通、特にバスの定時性を確保できないという問題も生じます。それに、バスの運転士の1日の労働時間は限られています。渋滞に巻き込まれることで時間を奪われ、本来であれば、交通不便地域にもバスの運行を広げたいのに、広げられないという課題もあります。渋滞のなかを走ると、排気ガスの排出量も増えるため、環境面から見てもよくありません。もちろん交通事故も増えますしね。

――何ひとついいことがありませんね…。

関口氏: また、オーバーツーリズムや観光公害に対する、地域住民の皆さまの生活環境悪化も懸念しています。湘南・鎌倉エリアでは2018年頃から、観光公害が問題視されるようになりました。ただ、オーバーツーリズムといっても、終日混雑しているわけではありません。特定日の特定時間、特定場所が混んでいる。局所的にオーバーツーリズムが発生しているのです。ですから、時間的な分散や面的な分散、曜日の分散など、何らかの施策で分散させる。そうすることで、局所的なオーバーツーリズムを解消させていきたいと思っています。

――なるほど。江ノ島電鉄さんの自社の課題については、どのようなものがあるのですか。

関口氏: コロナ禍で移動の需要は大幅に減りました。当社に関しても、コロナ禍のピーク時には、半分以上の需要が消失。現在も、コロナ前の8割程度にしか回復していません。当社を含めて公共交通は、これまで大量輸送を前提としてビジネスモデルをつくってきました。それに代わる収益は持ち合わせていません。なおかつ、密を回避する風潮は、アフターコロナにおいても続くでしょう。正直、従来のビジネスモデルに戻ることは、難しいと捉えています。

――大量輸送に依存しすぎない、新たな収益源を確保していく必要があると。

関口氏: はい。これまでも地域の各種団体の皆さまと連携をして、沿線全体の魅力を高めていくイベントなどを実施してきました。こうした施策は継続するのですが、コロナ禍で明らかになった課題がひとつあります。一過性のイベントを企画・運営しても、イベント自体に収益性や貢献内容の可視化ができないと、継続することはとても難しいということ。

湘南・鎌倉エリアは「風景や自然を楽しみたい」という来訪目的が多く、お金をかけなくても観光として成立するエリアで、消費金額が高めにくい側面があります。とはいえ、消費金額が地域に循環して地域経済が活性化するので、何らかの方法でマネタイズポイントを増やしていかねばなりません。それも、質・量ともにです。こうした課題を、共創パートナーの皆さんと一緒に解決していきたいというのが、BAKへの参画を決めた理由となります。

共創イメージ(1)「移動のコンテンツ化」

――大きな共創テーマがあるなかで、3つの共創アイデアイメージを挙げていただきました。それぞれの背景にある想いもお聞きしたいです。

三田氏: 1つ目の「移動のコンテンツ化」からお話しすると、公共交通機関は「乗るだけ」「移動するだけ」になりがちです。しかしこれからは、「大量輸送」だけではない移動の方法を、提供していかなければなりません。ですから、移動すること自体が目的化する、楽しくなるような取り組みを考えたいのです。ただ電車に乗って移動するだけではなく、付加価値を高められるようなご提案をいただければと思います。


――江ノ島電鉄の魅力や特色は、どんなところにあるのでしょうか。

三田氏: 観光客の皆さまからは「江ノ電に乗る」ことが観光目的のひとつとして定着しているのは嬉しい限りです。当社は古い電車が現役で活躍していてしていて、ひとつひとつの車両に特色があります。また、乗車体験として、途中で風景が変わったり、家と家の間といった狭い場所を走ったりと、乗客の皆さんからは「乗るだけで楽しい」と言っていただいています。鎌倉駅から藤沢駅まで10キロの旅路は、乗車時間がわずか34分と短いのですが、その前後の時間も楽しんでもらいたいです。例えば待っている時間や旅行を計画している時間も含めて、旅全体として楽しんでいただけるような体験をつくりたいですね。

――「移動のコンテンツ化」というテーマで、すでに実践された企画はありますか。

佐々木氏: 江の島が見える海岸線(国道134号線)を活用した、『R134BUS』というシャトルバスの実証実験を、今年の2月に実施しました。公共交通の利用促進と、移動自体を楽しんでいただく狙いをもった取り組みです。湘南にちなんだバックミュージックを聞きながら、夕日が海岸線に沈んでいく様子を、ゆったり座って眺められるバスツアーでした。

国道134号の海岸線は、非常に渋滞するエリアです。「自家用車で来させないためにはどうするか」を、念頭においた実験でもありました。また、渋滞だからこそゆっくりと時間を過ごせることを逆手にとって、移動中の車窓を楽しんでいただいたり、バスを降りて写真撮影をする時間をとるといった取り組みも行いました。実際、バスが渋滞に巻き込まれて、到着予定時間よりも20分ほど遅れたりもしましたが、遅延に対するクレームは1件もありませんでしたね。


▲江の島を眺める国道134号線は、休日になると数多くの観光客や地元住民で賑わい、長い渋滞が発生する。『R134BUS』は、この渋滞を逆手にとって、移動をコンテンツ化する企画として実験が行われた。

共創イメージ(2)「農漁業・食産業の付加価値向上」

――2つ目の「農漁業・食産業の付加価値向上」についても詳しく教えてください。

三田氏: 「農漁業・食産業の付加価値向上」についてですが、一次産業に着目した理由は、食も移動をともなわないと消費できないからです。食べるヒトが移動するか、食べるモノが移動するか、必ず移動がともなってきます。ですから、何か私たちにできることがあるのではないかと考え、設定しました。湘南・鎌倉エリアは、農漁業がさかんな場所でもあるので、地元の農作物や水産物を生産者さんと一緒に、盛り上げていけるような取り組みを想定しています。

――これまで、何らかの一次産業や食産業との連携施策を実施されたことはあるのですか。

三田氏: すでに当社で行っている取り組みとしては、藤沢駅の「湘南藤沢スーベニールズ」という販売拠点が挙げられます。地域商品の魅力発信拠点として藤沢を中心に、江ノ電沿線エリア及び湘南エリアの商品をPR・販売している店舗です。観光客の方だけでなく、は、地元の方が他のエリアに出かける際の手土産として、ご購入いただくことも多いですね。

関口氏: 今まで、当社で手がけてきた食産業に関しては、ショップやレストランなど三次産業がメインでした。川下の部分では取り組んでいますが、川上の生産者の皆さまや製造している方々との取り組みはあまり手がけてこなかったので、そういった部分でも事業をつくっていきたいと考えています。また地産地消を促進することは環境負荷低減にもつながるので、当社が目指す方向性にも合致すると考えています。


――湘南・鎌倉エリアといえば、どのような野菜や水産物が特徴なのですか。

三田氏: 野菜だと「鎌倉野菜」が統一ブランド化されていて、通常よりも高付加価値な野菜として販売されています。一般的なスーパーなどでは見かけない、個性的な野菜が多く育てられていることが特徴です。藤沢でも色んな種類の野菜が収穫されていますね。一方、水産物ではシラスやサザエなどが、地元でとれるものとして有名です。こうした特徴を踏まえつつ、販売の仕方だけではなく輸送の仕方も含めて、一緒に検討していければと思います。

共創イメージ(3)「賑わいを生み出す地域づくり」

――3つ目の「賑わいを生み出す地域づくり」についてはいかがですか。

三田氏: 「賑わいを生み出す地域づくり」は、冒頭に申しあげたとおり、特定の時間や場所に混雑が集中してしまうエリアなので、時間や場所をずらしながら、地域の賑わいを生んでいくような取り組みを、一緒に考えていけないかと思っています。当社としても、商店街を地域の皆さまと一緒に盛りあげたり、夜間イベントを行ったりと、さまざまな施策を行ってきました。今回のプログラムでは、今までとは違った取り組みに挑戦していきたいです。

――来訪者の属性に、特徴などはありますか。

三田氏: 若年層や高齢者も含め幅広い世代の方々にお越しいただいています。来訪意向として高いのは、自然や風景、歴史や神社仏閣、食、それにロケ地巡りなど。多様な目的が提供できる地域である事は当社にとっても大きな魅力でありビジネスチャンスです。東京の大都市圏から近いため、リピーターの方が多いことも特徴です。リピーターが多いという特徴を活かして、たとえば、定期的に接点を持つ、関係人口を増やすような取り組みもできると思っています。

――なるほど。今回、分散化も大きなポイントとなりますが、現状、混雑回避策として、どのような取り組みをされているのですか。

三田氏: 一例として、江の島の島内の混雑状況を「ENOMAP」で提供しています。「この時間のここが混んでいる」というのが可視化できるものです。それを見ていただいて、訪問時間や場所をずらすことが可能になっています。

また、回遊性を高めるという目的で、1日乗車券「のりおりくん」というチケットの電子化にも取り組んでいます。いわゆるデジタルチケットと呼ばれるもので、スマホ上でチケットを買ったり、スマホの画面で江ノ島電鉄線の全線を乗り降りできる仕組みです。1日乗車券を提示することで、50以上のスポットで優待特典を利用可能なので、提携スポットと組み合わせて、何か企画をつくることもできるのではないかと思っています。


鉄道、バス、灯台、シェアサイクル、デジタルチケット etc. 多彩なアセットと連携が可能

――オープンイノベーションを進めるうえでの、社内の実施体制についてもお聞きしたいです。

関口氏: 私たちが所属する経営管理部が主体となって、社内の各部署と連携をしながら、ワンストップで進めていく予定です。私たちは現在、「湘南MaaSプロジェクト」というプロジェクトを推進しており、公共交通の価値向上と新たなライフスタイル創造を通じた、市民生活と観光の持続可能な両立に向けて各種施策にチャレンジしています。社内各部門とも常に連携して進めているので、今回の「BAK」でもそのリソースが活用できます。


また、鉄道・バス・シェアサイクルといった交通事業のほか、江の島の灯台(江の島シーキャンドル)や江の島エスカーも当社で管理・運営しているため、これらのアセットも活用していただけます。

――江ノ電の車両を活用する場合、どの程度が許容範囲なのでしょうか。

三田氏: 「観音電車」という車両を運行したことがあります。車両の内装をすべて極楽浄土をイメージした様相に仕立て、車両の床面を枯山水風にし、壁面に金箔模様をほどこして話題を呼びました。以前より車両を活用した企画は行っており、アフターコロナの動向にも依りますが、可能性はあると思います。


――湘南・鎌倉エリアにある他の事業者さんとコラボレーションしたい場合、協力をあおぐこともできそうですか。

三田氏: 湘南、鎌倉地域には地域全体で地域活性化に向けて取り組む土壌があります。実際、今年の4月から5月にかけて、湘南藤沢ナイトツーリズム推進協議会という団体や藤沢市観光協会と一緒に「江の島を更に盛り上げていく」という趣旨のもと「江の島国際芸術祭」というアートフェスティバルを開催しています。「湘南の宝石」や長谷エリアでの「みずたまてん」など、それぞれのエリアで地元の皆さんと連携しやすい体制は整っていますし、当社と地域の事業者さんとのつながりも強いです。

インバウンド回復まで時間的な余裕がない、スピード感のある実行へ

――お話をお伺いするなかで、色々な共創ができそうだとワクワクしました。共創パートナーにとって、御社と組む価値はどのようなところにありそうですか。

関口氏: 私たちの運行する電車やバスは、観光地を走っていることから、観光のための移動手段という側面を持っています。一方で、住宅地としての人気も高まっていることから、通学や通勤のための移動手段としても使われています。

たとえば、観光地だと、早朝や夜間にはあまり乗られていません。逆に都市のベッドタウンだと、朝夕の利用者は多いものの、昼間にアイドルタイムが発生しています。この点、当社の場合は、通勤・通学や通院・買物の移動手段として地域の生活を守っている一方で、観光にも使われている。色々な側面を持つ日本では珍しい鉄道・バス会社です。ですから、共創パートナーの方々から見ると、ここで成功したものは、他の色んな場所に展開できるのではないでしょうか。

――最後に、応募を検討する企業の皆さまに向けて、メッセージをお願いします。

佐々木氏: 江ノ島電鉄は、今年で120周年を迎える鉄道をもつ、湘南・鎌倉エリアのいち企業です。よくも悪くも、このエリアからは逃げられません。神奈川県内に拠点を持つ企業として、このエリアの地域課題解決や活性化に、真剣に取り組んでいきたいと考えています。このビジョンに共感していただける皆さんと、ぜひ一緒に新しい事業を創出していきたいです。

関口氏: 局所的オーバーツーリズムや観光公害などは、すでに目の前で起こっている課題です。アフターコロナでインバウンドが回復すると、さらに課題は顕在化していくでしょう。実は、時間的な余裕があまりないのです。本来、私たちが企業として提供すべきものは、地域に集う人々のやすらぎの心。しかし、現状では観光客にも住民の皆さんにも、それを提供できていません。本来のあるべき姿に向け、スピード感を持って施策の実行まで進めていくつもりでいるので、ぜひ一緒に取り組みましょう。

三田氏: 色々なベンチャーの皆さんと議論をして、共創をしていけたらと思っています。たくさんのご応募をお待ちしています。


取材後記

湘南・鎌倉エリアは、日本のみならず海外からも高い注目を集める観光地だ。コロナ禍による一時的な減速はあったとはいえ、今年のゴールデンウィークには多くの観光客が訪れ、混雑している様子がメディアでも報じられた。インバウンド解禁が迫るなか、観光地としてのにぎわい創出はもちろん、オーバーツーリズムも回避していかねばならない。収益源の確保も必要だ。この難題に対する解決の糸口を、ともに探ってみたい企業は、ぜひBAKを通じて応募をしてほしい。解決を図ることができれば、同じ悩みを持つ国内・海外の観光地へも展開できるのではないだろうか。

●「BAK NEW NOMAL PROJECT 2022」の詳細についてはこちら(最終応募締切:7/11まで)


(編集・取材:鈴木光平、文:林和歌子、撮影:古林洋平)

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  • 田上 知美

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BAK_NEWNORMAL_PROJECT2022

ビジネスアクセラレーターかながわ、通称BAK(バク)。新型コロナウイルスの感染拡大により、顕在化した様々な課題を神奈川県の企業とベンチャー企業との共創で解決を目指すためのプロジェクトです。今年もパートナー企業大手6社が出揃い、オープンイノベーションに取り組む背景や課題、募集テーマや共創パートナーに伝えたい熱いメッセージをお聞きしました。